幼馴染みって、面倒くさい
幼馴染みってそんなに良いものだろうか。
アニメやライトノベル、ギャルゲーなんかでは重宝される存在である幼馴染み。
主人公が他のヒロインと結ばれなければ励まし、支え、果てには恋人から生涯の伴侶になってくれたり、はたまた、かねてから主人公とは相思相愛であったりなどなど、ご都合主義に柔軟に対応する幼馴染み。
我々読者たちの期待通りの働きをするのが幼馴染みの役目である。
しかし、これはあくまで空想上の幼馴染みである。
俵藤太が倒した大百足や平家物語に出てくる鵺と同様の存在なのだ。
実際に幼馴染みの女子が二人いる俺が言うのだから間違いない。
それも物心ついた頃から顔見知りで、家は両隣。
家族ぐるみの付き合いもそこそこあって、小中高も同じと、これぞまさしくといった幼馴染みである。
俺も彼女たちとよく遊んだが、それは小学校中学年頃までのことだ。
それ以降はいつも通り接するや否や。軽くあしらわれたり、意味もなくキツく当たってきたり、面倒事を押し付けられるなど、正直言って理想とはかけ離れたものである。
これが本来の幼馴染みの姿なのだ。
幼馴染み歴十二年のベテランが言うのだから間違いない。
そのうえ外面がお世辞抜きに良いため、男子からよくモテるし、その仲介役を担わされるハメになるしで本当に碌なことがない。
そんなこんなで時は過ぎ、俺は高校二年生になった。
幼馴染み二人も同じ高校に進学した。
いや、決して俺がついて行ったとかそんな邪な考えはない、あくまで偶然である。
幸い一年次はクラスが違った。
そのおかげか、デートや告白、連絡先交換などの仲介役を担わされる機会が中学時代より明らかに減った。
その点は非常にありがたかった。
てか、そういうのは他人を頼らず自分でやるのが道理だろ!
二年からは文系か理系かでクラス分けを行うことになった。
俺は理系に進んだが、幼馴染み二人は偏見から勝手に文系だろうと思っていた。
でも違った。
二人とも理系だった。
幼馴染み歴十二年の俺の推測はあっさり外れた。
しかも、同じクラスである。
勘弁願いたかった。
*
相変わらず仲介役を担わされる機会はかなりの頻度でやってくる。
ていうか、去年より明らかに増えている。
今日も昼休みに、初々しい高校一年生男子から依頼を受けたばかりだ。
クラスも同じなだけあって、頼みやすいとか思われているのだろう。
全く自分勝手な奴らだ。
彼は隣県の大都市でデートしたいらしく、その件で彼女と話したいことがあり、放課後に彼のもとへ行かせるよう手配してくれとの事だった。
自分でやれよ!と思いつつも、本人が言うのはアレだが気立ての良い俺は、この手のことは仕方なく手伝ってあげる性分なのである。
もちろんタダでこんな事をしている訳ではない。
昨年の秋あたりから良心的な価格の手間賃は頂いている。
断じてカツアゲではない。
ノベルゲーム研の会費の足しにしているだけだ。
*
五限目終わりの休み時間、俺は一人の幼馴染みのところへ向かう。
教室右端の列で前から二番目の席に佇んでいる彼女は氷室紗雪。
艶やかな長髪に整った顔、俺よりも身長が高くてスタイルは抜群。
清涼感のある声とその洗練された落ち着き具合、おまけに頭脳明晰であり、校内ではクール系美少女として名を馳せている、らしい。
たしかに昔から容姿端麗ではあるのだが……
「あの、氷室さん。いつものようにまた依頼が来てるんだけど」
少々怖気付きながら話しかける。
彼女とは数日前に会話したばかりなのだが、なぜか緊張する。
「また、告白か何かの呼び出し?」
「ええ、一年五組の鈴木俊樹くんという方が今週末の休日にデートに行きたいとかなんとかで、その計画を話したいから放課後教室に来てくれないかだそうです」
氷室はため息をつくと、冷酷な視線をこちらに突き付けて、
「毎回毎回辟易する。私は一ミリたりとも興味関心がないというのになぜこんな些事に付き合わなければならないんだ」
感情のこもっていない、冷淡な口調で不平不満を次々にぶつけてくる。
「だいたい、こういったことは私に面と向かって言うべきではないか。なぜ、他人の仲介を挟む必要があるんだ」
これに関しては完全に同意だ。
でも、彼らの行動も理解できないわけではない。
彼女はたしかに容姿端麗であるが、その端正な顔は感情の起伏が乏しいし、この冷ややかな口調も相まって、いきなり対面で会話するというのはいささかハードルが高い。
ワンクッション置きたいということで、知り合いの俺をつてにしてくるのだろう。
俺だって氷室と話すのにはかなりの体力と気力を消費する。
だから、それなりの対価を受け取っているのだ。
「英人、お前から断ってくれないか。こちらもその都度対応するのは億劫なんだ」
さすがにこれはできない。
契約違反をすれば、これまで集めた信用と会費を失いかねないからだ。
「それは、出来かねます。彼らの気持ちを無碍にすることはできないので」
氷室はまだ何か言いたげであったが、もう少しで休み時間が終わるところだったので、俺は足早に自分の席へと戻った。
これ以上減らず口に付き合わされるのもまっぴらごめんである。
昔はシャイで可愛げのある娘だったのに、どうしてこんなにも変わってしまったのだろうか。
いや、むしろ正当な成長を遂げたと言えるかもしれなかった。
*
放課後、長かった授業も終わり、学生たちは部活や塾、アルバイトなど自分の持ち場へと向かっていく。
俺もノベルゲーム研究会の活動があるのでこれから部室へと向かうつもりだ。
机の上で荷物をまとめていると、力強い足音とともに一人の少女が向かってきた。
俺の目の前に仁王立ちし、机を右手で強く叩きつけるやいなや、
「また、紗雪を困らせたんでしょ。ったく、いい加減にしなさいよね!」
激しい剣幕と強い口調で俺を咎めてきた。
彼女は、九鬼夏葉、もう一人の幼馴染みだ。
「俺だって別にやりたくてやってるわけじゃねえよ」
少し語気を強めて言い返してみるが、夏葉は呆れたと言わんばかりの表情を浮かべ、
「少しは紗雪のことを考えてあげなさいよ。あの子、もうすぐ弁論大会の県予選があってそんな些細な事に付き合ってあげるほど暇じゃないの」
そんなこと言われても、氷室の部活事情とかそんなの知ったこっちゃない。
なおも夏葉のマシンガントークは続く。
「だいたい、あんた幼馴染みなんだからそのへん上手く取り繕いなさいよ。私も時々そういうのあるけど本当に嫌になるのよね。好きでもない奴からデートの誘いだの告白だの受けてみなさい。本当にウンザリするんだから、こっちも相手も決して良い気分にならないし、マイナスしか生まれないのよ」
昭和の上司みたいに、説教じみた言葉を延々と浴びせてくる。
余談だが、こいつもムカつくぐらいモテる。仲介役を頼まれることも、氷室ほどではないが結構ある。
ポニーテールに二本の三つ編みを携えた髪型に端正かつ可憐な顔立ち。
スタイルも良くて、運動部ならではのはつらつとした声を持ち、その明朗快活な性格から、男女から受けの良い美少女として校内では通っている。
氷室と人気を二分しているようだ。
しかし、俺には異常にあたりが強い。
何が明朗快活だ、田夫野人の間違いじゃないのか。
その言葉遣いと人使いの粗さは、外面が美少女なだけでの「鬼」としか形容できない。
なぜ、モテるんだろうか。
いずれボロが出るだろうとか思っていたけど、今に至るまでそんな話を耳にしたことはない。
抜かりない計算高い小娘め……
「ちょっと!真面目に聞いてるの?」
半ば放心状態の俺を未だ執拗に咎めてくる夏葉。
なんだよ、自分たちは外面が良いから相手は選べるとでも言いたいのか。
この間の高身長イケメンでかつ東大模試A判定、野球部のエースで四番の先輩を振ったのはどうかと思うぞ。
とっとと付き合って不純異性交遊に勤しんでいればいいものを。
それとも、こんな田舎の男子高校生に興味はないとでも言いたいのか。
だったら放送室でもジャックして全校の男子生徒に言えば良い。
「田舎の芋くさい男子高校生には興味がございませんので、好意に応えることはできかねます」ってな!
ああ、本当に幼馴染みって面倒な存在だ。
もう俺には夏葉の言葉は耳に全く入っていなかった。
まだなんか言っているなぐらいにしか思わない。
鬼の話を聞いていたところでウンザリするだけだ、俺は彼女を無視しその場を後にした。
「このぼk$%&?!!」
最後に何か言っていたようだが、馬耳東風とばかり聞き流す。
これまでの出来事はぜんぶなかったことにして、意気揚々と部室へと向かった。
*
面倒事が悉く襲い掛かってきたあの日から二週間が経った。
その間に仲介役を頼まれることはなく、久々に平穏な日々を送ることができていた。
ところが今日、俺は重大なことを思い出した。
明日は妹の朱里の誕生日だったのだが、未だにプレゼント用意していなかったのである。
一か月前に何をプレゼントすべきかで大いに頭を悩ませていたというのに。
我ながら、ダメな兄である。
そんなわけで俺は今、通学路にあるこじゃれた雑貨屋で商品を物色している。
普段こんな店には入らないので、ドアを押す際には少々勇気を振り絞った。
店内は洋風モダンな感じで、ボサノバ風の曲がかかっており、居心地はかなり良かった。
客は俺だけのようだった。
女子って何をプレゼントしたら喜ぶのか、未だに理解できていない。
朱里へは毎年プレゼントを贈ってはいるものの、基本的にはあたりさわりのない文房具や生活用品で済ませていた。
今年もその方向で行くつもりだったが、いかんせん捻りに欠けるし、いつも通り感が否めない。
そこで、趣向を思い切って変えてみようと思い、雑貨屋に入ったというわけだ。
けれども、小物に関する知識がなさ過ぎて、何にしたら良いのかわからない。
ここは店員さんに質問してみるのもアリだと思ったが、それだと自分で選んだとは言えないような気がして、どうも気が進まなかった。
スマホで調べた情報も当てにならず、正直途方に暮れている。
妹へのプレゼントとはいえ、下手なものは選べない。
再び商品と対峙し、慎重に吟味する。
しばらくして、ドアが開きドアベルの小気味良い音が店内に鳴り響いた。
「いらっしゃいませ。」
店員さんがありきたりの挨拶をしている。
視線を移すとそこには見慣れた二人が入店してくる様子が目に入った。
よりによって氷室と夏葉だった。
すぐさま視線を逸らそうと思ったのも束の間、二人とばっちり目が合ってしまった。
嫌な汗が頬をつたっていく。
店内をあとにしようと思ったが、二人はそれぞれ俺の両隣に阿形と吽形のように立ちふさがっている。
逃げ道はどこもない。
さあ、どうやってこの状況を切り抜けようか。
俺は脳内の思考をフル回転させるのだった。
*
思考をフル回転させた結果、俺は「彼女たちにアドバイスを貰おう」という、あまりにも安直すぎる結論に至った。
「朱里ちゃんの誕生日って明日よね?それで今頃プレゼント選びとは、呆れたもんだ」
夏葉はやれやれというポーズとともにため息をつく。
それは重々承知していると言いたいが、彼女のマシンガントークが止まらなくなる。
新たな火種を生むのはナンセンスだ。
寸前のところで言うのをやめる。
「そういえば、お前らはもうプレゼント用意してるのか?」
「あたりまえじゃない。この間の週末、紗雪と一緒に川台に探しに行ったんだから」
得意げな顔をする二人。
「私たちは化粧用品にしたんだ。最近になって朱里もそういうのに興味が出てきてみたいでな。その辺、私は少し疎いから、夏葉と一緒に選ぶことにしたんだ」
二人は今でも朱里とは仲が良い。
かなりの頻度で遊びに行ったり、女子会を開いたりしている。
とはいえ、しっかり彼女の情報を把握し、品ぞろえの良い店が多いところまで足を運ぶとは、三人の仲はそれほどまでに深いものなのだと感心しつつ、羨望も湧いてくる。
そんな二人なら、朱里の好みを理解しているに違いない。
他人を頼るのは少し癪だが、ここはおとなしく意見を貰っておこう。
「文房具とか以外で、プレゼントとしてなにか良さげなものってないか?」
二人は思慮深い面持ちで、店内を物色し始める。
昔、同じような場面があった気がした。
記憶を呼び起こそうとするが、はっきりとしたものは浮かんでこない。
たしか、プレゼントに関することだった気がする。
そして、妙な悪寒を体中に感じた。
おそらくあまり良い思い出ではなかったのだろう。
確証はないが、すごく嫌な予感がした。
*
氷室と夏葉が商品探しを始めてから三十分ほど経過した。
彼女たちは未だに陳列棚を真剣な眼差しで見つめている。
俺も再び店内を探しまわっているのだが、それ以上に二人は商品を探すことに没頭しているようだった。
そして、また三十分が経過した。
俺はある程度の目星をつけたのだが、二人はまだ店内を物色している。
女子はプレゼントを考えるだけでこんなにも悩むのだろうか。
店員さんも苦笑いしている。
閉店時間も差し迫っていたので、二人に声を掛けようとする。
その時、目を疑うような光景が俺の目に入ってきた。
今や溢れると言わんばかりに大量の商品が、カゴに詰め込まれていたのだ。
にもかかわらず、一向に商品をカゴに入れていく二人。
すかさず制止の手を入れて、
「こんなに買えるかぁ!」
思わず語気を強めて言い放つ。
大量の商品で埋め尽くされたカゴが二つ。
(店内の商品を手あたり次第全て突っ込んだわけじゃないだろうな。)
選んだというからにはそれ相応の理由があるのだろう。
一応、交互に商品説明をしてもらうことにした。
先攻:九鬼夏葉
夏葉が最初に持ち出したのは猫型の箸置きだった。
三毛猫のデザインで、癒される。
俺も欲しいくらいだ。
「朱里ちゃん無類の猫好きだし、箸置きだったら普段使いもできるからいいと思ったわけ」
朱里の好きなものと実用性の高い製品。
価格も良心的で個人的に高評価だった。
「選択肢として採用」
夏葉はなぜか小さくガッツポーズを決めた。
後攻:氷室紗雪
「……」
俺は言葉を失った。
「パキラだ。この店で一番大きいものだそうだ」
そういって紗雪が持ってきたのは、彼女と同じ背丈ぐらいの観葉植物だった。
見た目のインパクトは圧倒的で、無論お値段もプレミアムである。
紗雪のセンスはやや常人離れしているのだが、ここでもその本領を遺憾なく発揮している。
「癒しとしては最適だろう。朱里は今年受験生だからな、勉強疲れのストレス軽減にはもってこいだと思うぞ」
たしかに、観葉植物には癒し効果がある。
しかし、これはあまりにも大きすぎる。
癒しというより圧迫感の方が勝っている。
ていうか、たぶん部屋に置けないんじゃないか、これ。
「癒しとかおもしろさという点ではアリだけど、サイズがちょっと大きすぎるから不採用かな」
紗雪は虚を突かれたような表情を浮かべると、慌ててかごを漁りだす。
こんなに取り乱す彼女を見るのは初めてだ。
「ちょっと待ってくれ!ほかにもいろいろあってだな」
「ちょっと紗雪!次は私の番でしょ。順番は守ってよね」
夏葉が横槍を入れるも、紗雪は無視。
「あったあった、これなんてどうだ」
取り出したのは歪んだアートウォールクロックだった。
美術館とかにありそうなやつだが、実用性は皆無だろう。
てか、これ針が動かないタイプだから完全な置物じゃないか。
「これなんてどう?」
今度は夏葉がティーカップを持ってきた。
白を基調としつつ、植物のイラストが描かれていて、シンプルながらも洗練されたデザインの代物だった。
夏葉の選ぶ製品からは、彼女のセンスの良さが如実に表れていた。
でも、朱里がこんな洒落たカップを使うとは思えなかった。
続けざまに紗雪がまた個性的な商品を見せてくる。
「マンドラゴラの置物だ!観葉植物がダメでもこれなら大丈夫だろう」
独特なセンスは留まることを知らない。
「また、変なもの持ってきて。朱里ちゃんにそんな趣味はないでしょ。それで、これは小物入れなんだけど……」
ふむふむ。
「焼き鮭しおりだ。これで勉強中に空腹も和らぐはずだ」
うんうん。
「ポーチなんてどう?革製で丈夫そうだし、デザインもレトロでいかしてるでしょ」
そうだね。
「大仏マグカップだ。デザインが良いのは勿論、螺髪の部分が蓋になっていて、温かい物を飲むときなんかに最適だと思うぞ」
はい。
「この付箋なんてどうかな。テディベアのイラスト入りでラブリーな感じが……」
あの……
「招き猫貯金箱」
だから……
「寄木細工のコースター!」
ちょっと……
「モアイ像のティッシュケース」
……
「卓上ミニほうき!」
……
「さんまのペンケース」
「フレグランスディフューザー!」
「阪神のペナント」
「フェルトベレー帽!」
「冬虫夏草」
「桜のポニーフック!」
……
……
……
「だあああああああああああ」
もう我慢の限界だった。
仏の顔も三度までというが俺はそれ以上耐えたので、その反動から思わず大きな声を出してしまった。
長時間、こいつらは商品プレゼン対決を続けていたのだ。
「それ、朱里へのプレゼントとしてじゃなくて、単純に自分たちが欲しいものを選んだだけだろ!」
文房具以外って注文を付けたはずなのに、何度も文房具が出てきたからすぐわかった。
図星だったのだろう、二人とも身をぎくりとさせたあと、視線をあからさまに逸らした。
俺はため息をついて、右手で顔を覆う。
完全に思い出した。
あれは小学校低学年の頃だ。
誕生日プレゼントを二人が選んでくれると言っておもちゃ屋に行った時のことだった。
最初は俺が好きそうなものを勧めてくるのだが、次第に自分たちの趣味嗜好のものをゴリ押ししてくるようになり、収拾がつかなくなって思わず逆上してしまったことがあった。
それまで俺がキレ散らかしたことなんてなかったからか、二人は人目を憚らずに大泣きした。
その様子を店長に見られていて、おかげさまでこっぴどく叱られた。
今日の二人はあの日と全く同じだった。
今度は肩をすくめ、再びため息をもらす。
当の幼馴染みさんたちは、相変わらず目を合わせようとしないので、別のアプローチを取ることにした。
「さて、今は何時でしょうか?」
二人は各々の腕時計に目をやると、驚愕の事実を目にし、見る見るうちに顔から血の気が引いていった。
現在、十九時三〇分。
この店の閉店時間は十八時三〇分である。
俺たちは、閉店後に一時間も店に滞在していたことになる。
下手すると業務妨害や不退去罪に問われるような事案である。
一応、バカみたいに商品の紹介対決に没頭している二人を尻目に、俺は閉店時間直後に店長さんへ謝罪をしていた。
店長さんは、「店内の商品をあれだけ熱心に語ってくれる人はそうそういないですから、むしろありがたいですよ」とフォローしてくれた。
まさに聖人だった。
俺はへたっている氷室と夏葉を立ち上がらせ、改めて三人で店長さんに深々と頭を下げるとともに謝罪の弁を述べたのだった。
*
カゴに詰められた商品を、みんなで元の場所へと戻していく。
流石は優等生、氷室と夏葉の記憶力は凄まじく、陳列されていた箇所、配置を完全に記憶しており、スムーズに作業は進んだ。
店長さんもさすがに驚いたらしく、二人はアルバイトに誘われていた。
全ての商品を元に戻すやいなや、俺は朱里への誕生日プレゼントを購入してすぐさま退店し、駐車スペースへと出た。
結局、氷室と夏葉の意見は全く参考にならなかったので、自分の直感で選んだ。
プレゼントは物の価値ではなく気持ちが大事だという持論を尊重した。
ラッピングされた商品をカバンに入れた後、手元に残った二つの小包をそれぞれ氷室と夏葉に手渡した。
実は、他にも商品を購入していたのだ。
「はいこれ、今日のお礼ってことで」
二人とも驚いたのか、目を大きく見開いて面食らった表情を浮かべている。
それは普段の整った顔からは想像できないほど、みっともない顔だった。
そして、二人は示し合わせのように顔を見合わせると、
「「ありがとう!」」
感謝の弁とともに屈託のない笑顔を見せてくれた。
それは幼い頃に見た時のものと全く変わっていなかった。
懐かしさと、照れくささ、そして罪悪感の混ざった名状しがたい感情が襲ってくる。
なんだかこそばゆくなり、この場に居るのも耐え難くなってきたので、
「俺、この後寄る予定の場所があったから先に帰るわ」
二人を置き去りにして、小走りしながらその場を後にした。
何て格好の悪い男なんだ俺は。
*
街灯の少ない通りを一人小走りしながら家路を駆ける。
さっきの雑貨屋では大変な目にあわされた。
でも、あの頃の関係に少しだけ戻れた気がした。
氷室、いや紗雪と夏葉。
成長するにつれて、自分とはかけ離れた存在になったと思っていた。
だから、幼馴染みを嫌悪の対象として見ていたのかもしれない。
でもそれは間違いだった。
今回の件でそんな気がした。
でも、やっぱりこれだけは言わせてほしい。
「幼馴染みって、やっぱり面倒くせえええ!」
夜空に向かって大きな声で叫ぶ。
多少曇りがかった星空は、鬱憤を晴らし切れていない自分の心みたいだった。
来週からまたいつもの日常が戻ってくるのかと思うと、憂鬱になりそうだ。
でも同時に、以前よりは幾分マシに感じるようになるんじゃないかという、謎の期待も膨らんでいた。
ちなみに、さっきの件を俺は完全に許したわけではなかった。
小包の商品は、二人がそれぞれ選んだ商品の中で最も安かったものだし、その代金もこの間仲介役をして得た手間賃で払ったのだ。
そして俺は、この事実を墓場まで持っていくことを決意した。




