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エピソード2 加速する My plan

朝のホームルームが終わった瞬間、俺は逃げるように教室を出た。

 陰キャ主人公は人の流れに巻き込まれず静かに移動、これが基本だ。


 廊下の端を歩き、階段の影になった踊り場で立ち止まる。

 誰もいない──完璧な隠密ルート。


 ───のはずだった。


「一ノ瀬くん」


 柔らかい声が、上から降ってきた。


 階段の最上段、手すりに手を添えた姿勢で、

 西園寺三奈美が静かに俺を見ていた。


「おはようございます。……その、さっきは失礼しました」


「え? 別に」


 俺は陰キャムーブの教科書通り、目を合わせず短文で返す。

 説明しない、深入りしない、余計な気遣いもしない──それが陰キャ主人公。


 ところが三奈美は、それを肯定の間だと受け取ったらしい。


「……よかった。私、迷惑をかけてしまったかと」


 綺麗に揃えられたまつ毛が、伏せられる。

 頬はほんのり桜色。


 ──(いやいやいや。

 ただ視線が合っただけで何を気にしているんだ。)


「一ノ瀬くんは、本を読むのが好きなんですよね」


「まあ……嫌いじゃないけど」


「やっぱり。教室で読んでいる姿、とても落ち着いていて……素敵でした」



 陰キャムーブの“本を読む”はモブ化のための行動だ。

 褒められるための行動ではない。断じて。


「それで、もしよかったら──」


 三奈美が言いかけた瞬間、


「ゆーとー!どこ行ったのかと思った!」


 階段下から、勢いよく飛び出す声。

 清宮結希だ。全力テンションの。


「うお、結希」


「うお、じゃないよ!ホームルーム終わった瞬間消えるとか忍者?」


 そこですぐ気づく。

 結希の視線が俺ではなく、階段上の彼女へ向く。


「……西園寺さん?」


「おはようございます、清宮さん」


 空気が、ほんのわずかに張る。


 ——なぜだ。俺は何もしていない。


 三奈美が言葉を続ける。


「一ノ瀬くんが読んでいた本、図書室にも置いてあります。

 もしよければ……おすすめの作家を、少しお話しできればと思って」


 俺が返事をする前に、結希の目がぐるぐる回る


―――(あ、それホントになるんだ)


「は?ゆ、ゆーとにおすすめ?ほん?」


「はい。素敵な選書をされていたので」


「あ、あはは。ゆーとの趣味……わかる人、珍しいね」


 声のトーンが半分笑ってるのに、半分警戒してるのがわかる

 幼馴染補正ってやつだろうか。


 三奈美はほんの微笑みだけ浮かべて、手すりから離れた。


「では、放課後に。図書室で」


 それだけ言い残し、上階へ静かに去っていった。


 階段に残された沈黙は、なかなか重い。


「……ゆーと。最近のあんた、やっぱ変だよ」


「変ってなんだよ」


「なんか……モテてない?」


「いや、どういうことだよ」


 「じゃあなんで西園寺さんと仲良さそうに話してたんだよ!」


「いや、今日話したのがほぼ初めてだから!」


「……案外やんじゃん」


「うるせぇ」


 結希がからかったように言う

 俺は困惑する。なにもしていないし変えてない

 どこがおかしいのかわからない。


 陰キャ主人公ムーブは完璧なはずだ。

 人と距離を取り、会話も控えめ、余計な主張はしない。ラブコメイベントも起きていないはずだ

 それなのに——


 なぜか周囲はからの評価がいつもと違う


 陰キャムーブの“静寂”はどこへ行ったのか。

 俺の計画は、早くも謎の方向へ加速していた。

2話投稿しました!いやー、こうやって自分で考えて小説を書くのは楽しいですね。小説投稿の沼にはまってしまいました笑笑目標として週に一回は絶対に投稿できるようにするのでぜひこれからも見てください!

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