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第7話 感情の嵐の告白

「「「っ!?」」」


 3人はその言葉を聞いて驚く。


 と、言っても、既にカゲツが月人だということは分かっているのだが、驚いた部分はそこでは無い。なんと、カゲツの体が光り始めたのだ。


「それって……」


「月の魔力だよ。この世界だと今は俺しか持ってない」


 カゲツはそんなことを言って光を集め始める。すると、その光は夜空にきらめく星のように輝き、蛍のように動き回った。


「これが……月……」


「そうだよ。本来は仮面をつけて力を抑えるんだけどね。別にもういいだろうと思ってさ。月の魔力って言うより月の光って感じだね。魔力が結晶化して可視化してる」


「結晶化……本来は見えないのですか?」


「当たり前だろ。お前らは自分の魔力を見たことがあるか?」


「……確かに無いです……」


「そういうことだ。これが月なんだよ。どうだ?忌々しいだろ?」


 カゲツはそう言って苦笑いを浮かべた。すると、ホタルとヒカリは首を横にブンブンと降って言う。


「かっこいいですよ!私達にとって月は希望ですから!」


「そうですよ!月と言えば、ロマンチックの塊!1度は足を踏み入れたいと願った場所です!」


 2人はそう言ってキラキラとしたオーラを放った。しかし、直ぐにリィラを見て気づく。そして、2人の前で土下座をした。


「「「申し訳ありません!」」」


「いい……。意見は……それぞれ」


「……大人だな。リィラは。でもさ、いつも思うんだよ。月に行きたい、月をまじかで見たい、月人に会いたい、そんなことを言う人達がこの世界にはわんさかいる。でも、月はそんな理想郷じゃねぇんだ。月人の全てが人を見下し、支配しようとしている。月人はみんなクソなんだよ。俺を含めてな」


 カゲツはそんなことを言って紅茶を飲み干した。そして、手元にあるクッキーを1つ掴みサクッと音を立てて食べる。


「クソ……違う。カゲツ……良い」


「そんなことないよ。俺はクズだ。月の光は人を誘惑する。そして魅了する。不思議なくらいにな。俺が意図しなくとも人はその光につられ、よってくる。そして、俺の事を好きになる。愛してると言う。やってることは、女たらしのナンパ師と全く同じだ。自分が意図せず女を引き付けておいて、話しかけ、仲良くなって振る。特別じゃないからと言って人の心を傷つけてるんだ。そして、それと同時に弄んでる」


「……」


 その言葉に反論する者はいなかった。実際のところカゲツの言っていることは正しい。これまでリィラは何人も見てきた。カゲツのことを好きだと言って告白する人を。そして、現に今ここに3人いる。カゲツの光に誘われた虫が。


「……光に……寄る虫」


「……虫……ね。まだ虫の方がマシだよ」


「なんでですか?」


「なんでって……お前は無視を殺す時罪悪感にかられるか?小バエやゴキブリ、ムカデやよく見かけるけど名前は知らないしでかくて気持ち悪い虫を殺す時に、『あぁ、この虫は可哀想だ』なんて同情をしながら殺すのか?人はそんなことをしない。小バエなんか無言で叩き潰すし、そういう無視を殺すために殺虫剤が生まれた。そんなものを作るヤツらに、虫に同情する心なんか持ち合わせちゃいない」


 カゲツはそう言ってリィラの頭をポンポンと叩き、そっと抱き寄せた。そして、もう片方の手でゆっくりと紅茶を飲む。


「人を傷つけるのは嫌なんだけどな。人は……特に女性はこの光に寄せ付けられる。恋のキューピットに射抜かれたように寄ってくる。現にお前ら2人もそうだった。いくら忍と言えど、男が相手とわかっているのに普通女2人をよこすか?男一人で十分だろ?」


「「「「確かに」」」」


 カゲツの言葉にホタルとヒカリは頷いた。


「俺はこの世界では生きづらい男なんだ。この力故にな」


 カゲツはそう言った。


「分かってくれたか?ま、とりあえずリィラと二人きりにさせてくれ」


 カゲツはそう言ってリィラを抱きしめながらベッドに寝転がる。その様子はまるで、子供と寝るお父さんだ。


「「「わ、分かりました……」」」


 2人は少し戸惑いながらも部屋を出ることにした。しかし、護衛という任務を放棄する訳には行かない。だから、部屋の外で待機するつもりだった。


「リィラ!」


「「「っ!?」」」


 2人が部屋から出るなり、カゲツの叫び声が聞こえた。そして、直ぐに中に入るとリィラが苦しげな表情で倒れているのがわかった。


「どうしました!?」


 2人は慌てて近寄る。リィラは顔を真っ赤にして息を荒らげらがら涙を流している。体からは湯気が出ていて、高熱を出しているのが目に見えてわかった。


「な、なんで!?」


 ヒカリはそう言いながら解熱魔法を使った。しかし、その様子から効果がないことがよく分かる。カゲツはそんな3人の姿を見ながら後ずさった。そして、罪悪感に包まれ胸を苦しくさせる。


「……俺のせいだ……!俺は……!ここにいちゃいけない存在なんだ!」


 カゲツはそう言って部屋から飛び出していく。


「待って!」


 ホタルは思わずそう叫んだ。しかし、カゲツが止まることは無かった。


「ミヤ!来なさい!」


 ヒカリがそう叫ぶ。すると、どこからともなく女忍が降りてきた。


「リィラ様を任せるわ!」


「かしこまりました」


「ホタル!行くわよ!」


「分かった!」


 そして、2人はカゲツを追いかけて行った。


 ━━カゲツの心は押しつぶされて行った。波の音が響き渡る砂浜で、1人暗闇を見つめながら心臓を推し潰そうとする。しかし、潰れることは無い。


「……俺は……死ぬしか……それしか……何も……出来ない……!」


 カゲツはそう言って地面に踞る。苦しそうなリィラを見て、自分の心が耐えきれなかった。


「リィラ……!」


「「「カゲツ様!」」」


 その時、唐突に声が聞こえた。どこから聞こえたかは分からない。だが、確実に近くにいることだけは分かる。


「……?」


 カゲツはゆっくりと顔を上げた。そして、辺りを見回す。しかし、カゲツ誰もいない。カゲツはそのことを不思議に思いながらもゆっくりと立ち上がり歩き出そうとした。


「っ!?」


 その時、唐突に前から人が飛んでくるのが分かった。しかも2人。2人は慌てながらカゲツに飛びつき、抱きしめながら押し倒し、そのまま海にダイブした。


「っ!?なんなんだ!?」


「カゲツ様!自殺なんて考えちゃダメですよ!」


「そうです!死ぬなんておかしいです!」


 2人はそう言ってカゲツを強く抱きしめる。カゲツはその2人の顔を見ようとした。しかし、髪が濡れていて目にかかっているから誰かわからない。ただ、少なくとも海に胸が浮くくらい大きいことだけはわかる。


「ひゃんっ!?♡」


 カゲツは思わず胸をつついた。すると、女の子がビクッと震わせて変な声を出す。


「ヒカリとホタルか。何しに来た?」


「自殺してるの見て止めに来たんです!」


「はぁ!?え?誰が自殺してたの!?今すぐ行かねーとやべぇじゃん!」


「カゲツ様のことですよ!」


「はぁ?」


 カゲツは2人の話を聞いてしかめっ面を浮かべる。今の話を聞いて何を言ってるのかさっぱり分からなかったのだ。カゲツははてなマークの嵐を巻き起こしながら今の状況を何とか理解しようとする。


「……俺は自殺なんかしてねぇよ」


「してました!」


「今にも飛び込んで死にそうでした!」


 2人はそう言いながらカゲツに抱きつく。カゲツはため息をひとつ着いてゆっくりと立ち上がると、呆れながら言った。


「こんな浅瀬で死ねるか!」


 そう言ってカゲツは2人にゲンコツを食らわせる。2人は涙目になりながら頭を摩った。そして、カゲツは2人に抱きつかれながら浜辺に向かって歩き出す。


「全く……やれやれだよ」


 カゲツはそう言って浜辺に座り込んだ。


「すみません……。てっきり自殺してるのかと……」


「……できねぇよ」


「え?」


「何でもねぇよ。てか、早く服を脱がねぇと風邪ひくぞ」


 カゲツはそう言いながら上着とズボンを脱ぎ始める。


「「「ふぇ!?」」」


 2人は顔を真っ赤にして目を隠した。


「……はぁ、火でもつけるか」


 カゲツはそう言って近くに落ちていた木の枝や木くずを集めて来て、よくある火の付け方で火をつけた。


「……カゲツ様……」


「み、見ないで……くらひゃい」


 2人がモゾモゾとなにかしていたので、カゲツがそちらに目をやると、2人はそんなことを言ってくる。どうやら何とか体を隠しながら服を脱いでいたらしい。


「……」


 カゲツはそんな二人を見ながら痛くなってくる腕を心の中で褒めた。そんなことをしていると、ついに火がついた。3人はその火の周りに近寄り温まる。


「……はぁ、何でなんだろうな……」


「何がですか?」


「生きなきないけないのに、死のうとしている自分がいる。でも、それを呪い(ギアス)が許さない」


「……?」


「俺は生きるしかないんだ。でも、もう限界らしい」


 カゲツはそう言って火の中に手を突っ込む。しかし、全く火傷をしない。それどころか、光の粒子が手の周りに纏わりついてくる。


「月の光を俺は抑えきれなくなってきてる。このままいけば、俺はここにはいられない。月の光の魔力は普通の人にはかなりキツイものだ。月からこの星まで距離があるからこそあの魔力の影響を受けずに済む。でも、今の俺が月の光を解放すれば、月下星の人は死ぬ」


「「「っ!?」」」


「もう俺はここにはいられないんだ」


 カゲツが放ったその言葉はより一層の深いものとなった。まるで、カゲツという存在そのものが月下星では排除すべきもの。そうとも取れるその言葉は2人の言葉をかっさらう。


 それでも、2人は何とか言葉を見つけ出そうとした。今のカゲツに、かけられる言葉を探した。しかし、そんなものは無かった。


「……あの……何でカゲツ様はこの星に来たのですか……?」


 ヒカリが聞いた。


「……まぁ、色々あってな」


「色々……」


「少なくとも、俺は月に未来はないと思っている。あれはただのゴミだ。月人は全員……死んだ方がマシだ。当然俺を含めてな」


 カゲツはそう言って月を睨んだ。そんなカゲツを見ていた2人は少しだけ顔を伏せる。そして、ポタポタと涙とも取れる水滴を数滴落とすと、カゲツに向かって飛びついた。


「死んだ方がマシなことなんてないです!実際月にいる月人がクソかもしれません!でも、カゲツ様は違います!」


「カゲツ様はクソでもクズでもないです!私達にとって、かけがえのない存在です!」


 2人はそう言って泣きながらカゲツの体を抱きしめる。顔を見ると、目に泣いた跡が残っていた。しかも、鼻が赤い。


「……だが、そうは言ってられない。本当の月を見れば、人は皆幻滅する。俺もそれと同じだ。月の光を失った本当の俺を見た時お前達は俺の事をクズとしか見ない」


「そんなことないです!」


「他もえ月の光を失ってもカゲツ様はクズにはなりません!」


 2人はそう言って強く抱きしめる。


「……俺は……怖いんだよ。出会った人に嘘をついて、死んでしまった人にも嘘をついて、好いてくれてた人にも嘘をついて、最後に……リィラに嘘をついた。仮面を外した自分を見られた時、仮面を失った自分を見られた時、嫌われるのが嫌なんだ……!嫌われてしまいそうで怖いんだ……!」


 カゲツの言葉は2人の心に深く突き刺さる。


 確かに、今の2人がこうしてカゲツに引き寄せられるのも、全て月の光の魔力のせいかもしれない。だから、月の光の魔力が無くなった時、カゲツのことをどう思うかは分からない。


「……でも……そんなの……そんなの分かんないじゃないですか!」


「そうだね」


「なら……」


「怖がる必要は無いと?」


 ホタルはカゲツの言葉に何も言えなくなる。ヒカリはそんな2人を見て少しだけ落ち着いた声で言った。


「そう……ね。正直なところカゲツの言ってることは分かります。仮面を外した姿がどう思われるか、分かったものじゃないですから。でも、人はその恐怖を超えて強くなるもの。だから、恐れて動けなくなるのはおかしいですよ」


「……そうかもしれないな」


「……」


「……」


「……」


 3人の間に沈黙が流れる。波の音だけが聞こえる。3人の心はその波で少しずつ安らいでいった。


「なんだか波の音を聞いてたら馬鹿らしくなってきましたよ。怖いからなんだって話じゃないですか。激辛料理が怖いから食べなかったけど食べたら美味しかったみたいなことあるじゃないですか。だから、勇気をだして何事も挑戦しないと始まらないのですよ」


「……だな」


「恐怖に打ち勝ってこそ初めて強くなれるものですよ。だから、逃げないで前に進みましょうよ。それに、リィラ様がカゲツ様を嫌いになっても、カゲツ様のことを好きでいらっしゃる方はいますよ」


 ヒカリはそう言った。その言葉を聞いてカゲツはミシュリアとフィロウのことを思い出す。


「……申し訳ないことしたな」


「別にいいんですよ。女の子の恋や愛は消えませんから」


 2人はそんなことを言いながらカゲツに近寄る。そして、カゲツの前に礼儀良く座り、優しくゆっくりとした口調で言った。


「私達もカゲツ様のことが好きです」


「会って間もない中ではありますが、一目惚れと言うものになりました」


「私はこの気持ちを素直に伝えようと思います。なんて言われるか怖いですし、振られれば辛いです」


「それでも、勇気をだして告白します。カゲツ様、お答えをお聞かせください」


 ヒカリとホタルの言葉を聞いたカゲツは驚き言葉を失った。そして、答えを言おうとするが、傷つけてしまうのではと思ってしまい、言葉が出てこない。


「……あ、えと……あ……」


 カゲツは言葉を何とかひねり出そうとした。しかし、やっぱり出てこない。まるで自分だけが2人から離れているような、暗闇にいるような、不思議な感覚になる。手を伸ばしても先には何も無く、掴めるものもない。そんな気分になる。


 カゲツがそう思っていると、唐突に手を掴む人が現れた。暗闇を切り裂いて光を灯す人達が現れた。カゲツは必死にその手を掴む。二度とこんなチャンスは無い。その手を離さないようにがっしりと握る。


「「「カゲツ様!答えをお聞かせください!」」」


「っ!?」


 その言葉でハッとした。気がつけば、カゲツは2人の手を握りしめている。


「……ハハッ……」


 カゲツは小さく笑った。そして、ゆっくりと2人の手を触る。


「1人じゃなかったんだよな……」


 カゲツはそう言って優しく微笑むと言った。


「気分が晴れたよ。全てが、俺の中で完結した。答えも決まった。俺は……っ!?」


 その時、唐突に爆発音が鳴り響く。そして、宿があった場所に黒煙が上がっていた。


「何っ!?」


「……この感じ……帰るぞ!」


 カゲツは急いで宿に向かって走った。暗闇が続く中3人は木々の間をすり抜け高速で移動する。そして、直ぐに宿に戻ることが出来た。カゲツは宿に着くなり急いでリィラの元に向かう。


「「「っ!?」」」


 3人はリィラの部屋の前に着くと、そこにいたものに驚く。そこに居たのは男で、全身から溢れんばかりの神々しいオーラを放っている。来ている服装は月下星ではかなり珍しく、装飾もかなり豪華だ。


「……あぁ、お前か」


 カゲツはそう呟いた。そして、とてつもない強さの殺気を放つ。


「何だか怖いなぁ。そんなに殺気立ってどうしたの?」


 男がそう言う。


「俺がお前のこと嫌いなの分かって言ってんのか?」


「へぇ、俺の事嫌いなんだ」


 男はカゲツの言葉を聞いてそう言う。その目はどこか恐怖を覚えるものだった。ヒカリとホタルはそんな2人の会話を聞いて動けなくなる。なんせ、2人の殺気がとてつもないから。


「で?なぜリィラを奪う?」


「カゲツが怒るから」


「へぇ……で、本当は?」


「この女の心臓を奪うから」


 男はそう言って笑う。


「ま、何でもいいけど俺は帰るよ。返して欲しかったら月まで来るといいさ。カゲツにその覚悟があるか分からないけどね」


 男はそう言ってまた笑う。そして、ヒカリのホタルを見て言った。


「その女共を奴隷にして犯したらどれだけ面白いか……っ!?」


 その時、男の右肩にナイフが刺さる。


「怒ったか?まぁいい。この娘は貰っていく」


 男はそう言って月に向かって上がって行った。カゲツはその男を見ながら憎悪に包まれた。

読んでいただきありがとうございます。もう少しで完結です。

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