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第6話 真実の月

 ━━……それから1時間程経過した。あれからカゲツとリィラは別々に部屋へと向かう。そのどちらもかなり豪華な部屋だ。


 カゲツはその部屋にミレアとホタルと呼ばれた女忍を連れ込み言った。


「最悪だよ……クソアマ共が!貴様らのせいで全て終わりなんだよ!」


 カゲツはそう言ってミレアの腹を力強く殴る。


「うっ……!」


 ミレアは苦しそうな表情を浮かべ、嘔吐した。しかし、カゲツはそんなことを気にすることなく、ミレアの頭を踏みつけた。そのせいで嘔吐物の中にミレアの顔が突っ込まされる。


「ホタルと言ったな。こうなった原因はお前らにある。この意味分かるよな?」


「っ!?ま、まさか……か、体……を……!?」


「俺はお前なんか抱かん。ただ、そのむっちりとした肉は痛めつけがいがあるじゃないか。どうした?豚みたいに鳴かんのか?」


 カゲツはそう言ってホタルに全力でビンタする。すると、ホタルの頬がりんごのように真っ赤に腫れ上がった。


「お許しください!この体で許してもらえるのであれば、いくらでも差し上げます!」


「要らんと言っただろ。お前、おれの話聞いてなかったのか?」


 カゲツは怒りのオーラを纏わせながらホタルにそう言った。そして、ミレアの頭を踏みつける足をどけ、ホタルの近くに寄る。そして、首を鷲掴みにして言った。


「このままこらすことも容易いのだぞ?貴様は罪の意識を持つ必要がある。それがわからんのか?」


 カゲツはそう言って首を絞める。そのせいで、ホタルは苦しげな表情を浮かべた。


「もう……し……わけ……ありま……せん……!」


 ホタルは涙を流し泡を吹きながらそう言った。カゲツはそんなホタルを投げ捨てると、ベッドに座って言った。


「やりすぎた。悪かったな。今はもう1人にしてくれ。その嘔吐物を片付けて部屋から出ていってくれ」


 カゲツはそう言ってベッドに横たわった。


「分かりました。ホタル、あなたが片付けておきなさい」


 ミレアはそう言って部屋から出ていく。ホタルは嘔吐物を片付け始め、片付け終えると出て行った。


「これだから月は嫌いなんだ」


 カゲツの言葉が部屋に小さく響いた。


 ━━……一方その頃、リィラは……


「……」


 リィラはヒカリの膝の上に頭を乗せて寝転がっていた。俗に言う膝枕だ。リィラはヒカリに膝枕をしてもらいながら言った。


「……失敗。損失」


 ヒカリはその言葉を聞いて全部理解してるかのように頷き言った。


「そうなんですか?」


「んっ」


「でも、カゲツ様は優しそうでしたよ」


「失言。嫌悪」


「そんなことないですよ」


 ヒカリはそう言ってリィラの頭を撫でる。


 あの時、リィラは怒りながらヒカリの耳を引っ張って部屋まで入った。そして、部屋に入るなり直ぐにベッドに寝転がり、言ったことを後悔し始めたのだ。


 リィラはベッドの上で枕で顔を覆い隠し、両足ばジタバタさせて悶絶している。そんなところにヒカリは来て、リィラに言ったのだ。


「どうなさいましたか?」


 と。その言葉を聞いた瞬間リィラの動きが止まる。そして、無言でヒカリをベッドの上に座らせ膝枕をさせているのだ。そして、今の状況となっている。


「……」


 ヒカリはリィラの顔を見て悲しくなった。何故こんなにも可愛らしい女の子が困っているのに何も出来ないのかと、何故こんなことになったのかと。


 元はと言えば自分が悪い。ヒカリはそう思って心が苦しくなる。


「カゲツ様のところに行きましょう!行かなければ何も始まりませんよ!」


「……」


 ヒカリはそう言ってリィラをお姫様抱っこで抱き抱えて部屋を出た。そして、カゲツの部屋の前に行こうとした時、涙目のホタルが廊下に座っていることに気がついた。


「え?どうしたの!?」


「……敗北」


 リィラはそう言ってヒカリのほっぺをつねって伸ばす。そして、自分達の部屋を指さした。


「そうね。今は無理そうね」


 ヒカリはホタルを連れてリィラと共に部屋まで戻った。そして、すぐさま作戦会議を始める。


「何があったの?」


「カゲツ様がブチ切れました……」


「……」


 ホタルの言葉を聞いた2人は言葉を失う。


「何したの?」


「何もしてないですよ……なんだか思い悩んでて、部屋に入るなりブチ切れました」


「当然」


 リィラはそう言ってベッドに横になる。そして、布団を被って眠たげな目で言った。


「情緒……崩壊」


「そうですよね……今のカゲツ様は自分で自分を追い込んでいるというかなんと言うか……あの、これを聞くのは良くないとわかっているのですが、何故お2人はそこまで月に嫌悪感を抱いているのですか?」


「っ!?」


 ホタルの質問にリィラは目を見開き言葉を詰まらせる。そして、一瞬だけホタルを睨みつけてから言った。


「……なぜ……聞く……?」


「っ!?そ、それは……」


 リィラのその反応はとても恐ろしいものだった。まるで、その言葉を聞けば殺される。そう思えても仕方ないくらい恐ろしいものだった。


「いい……覚悟……決める……」


 リィラはそう言って体を起こした。そして、ゆっくりと話し始める。


「昔……村が、月人に壊された……。親も……両親も……村の人たちも全員……殺された。魔物も……大量……。でも、カゲツが……守ってくれた。血まみれになりながら、傷つきながら、くたびれながら、必死で必死で……必死で必死で必死で……!必死で守ってくれた……!だから、こうして今生きてる」


 リィラが話したことを聞いた2人は言葉を詰まらせた。そして、リィラは変えようのない事実を口にして少しだけスッキリした気持ちになる。


「っ!?も、もしかして、月命村げつめいむらの悲劇のことですか!?」


「っ!?ま、まさか、あの事件の生き残りだって言うのです!?あの時全員死んだと思ってたのに……」


 ホタルとヒカリはそう言って目を丸くさせる。そして、直ぐに失礼なことを言ったと思い、2人は土下座をした。


「「「申し訳ありません!お気持ちを考えずにこのようなことを言ってしまいました!」」」


「いい……。お仕置き……受刑」


「「「ふぇっ!?」」」


 リィラが言ったことに2人は変な声を出してしまった。しかし、今は村の長であるミレアのお仕置によってリィラの世話係をしている。よって、リィラがお仕置と言えばお仕置をされなければならないのだ。


 そんなことを考えながら2人はリィラに近づいた。リィラがベッドに座っていることから、2人はおしりペンペンか細長く鉄より硬い棒で叩かれるのを想像した。しかし、リィラは訳が分からない道具を用意し出す。


「なんですか。それ?」


「超強力鼻うがい。これ、一気に、ドンッ」


 リィラはヒカリとホタルを前に立たせると、最初にヒカリの両方の鼻の穴にホースのようなものを突っ込んだ。そして、そこから水を爆発的に出す。


「ふぐふぅっ!」


 ヒカリは突然鼻の中に水が入ってきて変な声を出した。そして、口から大量の水を吐き出す。


「ゲホッ……!ゲホッ……!」


「次」


 リィラの言葉を聞いたホタルが怯えた様子でリィラから離れた。しかし、ホタルの頭に、ここで逃げるともっと酷いことが起こるという考えが浮かぶ。


 ホタルは直ぐにリィラに近づき両膝を着いた。そして、顔をリィラに向ける。リィラはそんなホタルの両鼻にホースを突っ込み、爆発的に水を流した。


「ふごぉ!」


 ホタルはあまりの苦しさに水を吹き出してしまった。口から水を吐き出すだけでなく、ホースが詰まった両鼻の隙間からも水が溢れだしてくる。


「ゲホッ……!ゲホッ……!」


 ホタルは苦しげな表情を浮かべた。そして、涙目でリィラを見る。


「お仕置完了。それより、月命村……知らない」


「「「っ!?」」」


「どういうことですか?お2人がいた場所って月命村では無いのですか?」


「……名前、違う。月影村つきのかげむら


「「「っ!?」」」


 2人はリィラの言葉を聞いて2人は言葉を失う。そして、両手を震わせながらリィラの前に土下座をして、ホタルが震えた声で言った。


「ご、ご無礼を承知で……申し上げます。つ、月影村つきのかげむらは……月面世界にある、『月の都』にある村でございます……」


「っ!?」


 その言葉を聞いたリィラは目を丸くし言葉を失う。そして、震える声で言った。


「月……影村……は……、カゲツが……言った」


「「「っ!?」」」


 その言葉はその場に静寂と驚きを与えた。そして、3人はその話の中でカゲツが本当に月人なのだと理解した。


「でも、なんでカゲツ様はあえて本当の村の名前を言わないで月の都の名前を言ったんでしょうか?それじゃあまるで、自分が月人だと言っているようなものですよ」


「そうよね……。リィラ様は何か思い当たる節はありますか?」


 ヒカリはそう聞いた。すると、リィラは少しだけ悩むような素振りを見せてハッとしたような顔をして話し始める。


「……昔……カゲツが言った。『もしかしたら、俺達がこの世界で最も月に近い存在かもしれない』って。……あの時……は、意味……不明。でも、今なら……理解」


 リィラはそう言って少しだけ暗い顔をする。


「……やっぱり……やっぱり私カゲツ様のところに行ってきます!」


 唐突にホタルがそう言って立ち上がった。その足や手はかなり震えている。


「何故……?」


「……このまま……このままじっとしていられないからです!やっぱり、本人から話を聞くべきです!」


「……」


 ホタルの言葉にリィラは言葉を詰まらせた。そして、少し暗い顔をして目を背ける。


「……私も行くべきだと思うわ。リィラ様には申し訳ありませんが、やっぱり本人から話を聞くべきです」


 ヒカリもそう言った。しかし、ヒカリもかなり震えている。


「……きまづい……」


 リィラは目を背けながらそう言った。ヒカリとホタルは少しだけ呆れながらもリィラの手を掴んで言った。


「ここでモヤモヤするよりマシですよ!」


 2人はそう言ってリィラの体を引き上げ、抱き抱えながらカゲツがいる部屋まで直行した。そして、3人はカゲツの部屋の前に立つ。


「やっぱり、いざ入るとなると緊張しますね」


「そうね。もう1分後にお尻が真っ赤になるまで叩かてる未来が見えてるわ」


「……」


 3人はそんなことを想像した。ホタルが1番泣いてそうだとか、ヒカリは顔を真っ赤にして耐えてそうだとかそんなことを考える。


 しかし、考えたところで無駄である。どうせ怒るかどうかは分からないのだから。このドアを開けてみない限りカゲツがどうなっているのか知る術は無い。


「行く」


 リィラはそう言ってなんの躊躇いもなくドアを開けた。そして、何事もないかのように部屋に入る。


「っ!?」


 リィラは部屋に入るなり目を丸くした。なんと、カゲツが部屋でティーブレイクしていたのだ。


「「「え?」」」


「おぉ、お前らか。何しに来たんだ?」


「何って……カゲツ様が落ち込んでいらっしゃると思って話に来たんですよ」


「落ち込む?あ〜、いやさ、今更考えたって無駄だからもう諦めたんだよね。どうせ謝っても俺が月人だっていう事実は変わらないし、それに……いや、これは言わなくていいや。とにかく、俺はもう全てを認めることにしたんだよ」


 カゲツはそう言ってリィラ達の分まで皿とカップを出した。そして、皿の中に紅茶を注ぎ始める。リィラは少しだけ黙っていたが、テケテケとカゲツの元まで近寄り、膝の上に乗った。


「平常。許す」


 リィラはそう言ってカゲツが飲んでいた紅茶を飲み始める。そして、カゲツの食べかけのクッキーを食べた。


「あ、それストレートだから苦いぞ」


「大丈夫。好意的」


「大人になったな」


 2人はそんなことを話している。そして、和ましい雰囲気が流れた。しかし、その空気もすぐに壊れる。


「……なんで……隠してた……の?」


「「「っ!?」」」


 その質問を聞いたホタルとヒカリは目を丸くした。


「も、もう聞かなくても良かったんじゃ……」


「良くねぇよ」


 ホタルはカゲツの一言に黙り込んでしまう。そして、涙目で引き下がった。


「何故俺が隠していたのか。そりゃ簡単な話だろ。お前が月人のことが嫌いだから。憎んでるから。それだけだ」


「違う。カゲツ……事件より前から……月人隠してた」


「……その証拠は?」


「私が知らなかった」


「確かにな。1番はっきりとした証拠だ。だけど、ただ自分が無知だっただけの可能性がある。そうだろ?」


「月影村……言った。証拠……それ」


「……なんでだ?」


「月影……村、そんなの……無い。この世界……に。あの村、月命村……っていう。月影村は……月の都に存在する」


「っ!?」


 カゲツはその言葉を聞いて何も言えなくなった。そして、少しだけ笑って言った。


「なるほどね。そこの2人が何か言ったのか」


 その言葉を聞いたヒカリとホタルはお尻を抑えて顔を青ざめさせる。


「別に何もしねぇよ。ただ、いつの間にかリィラが大人になったなって思ってさ。ちょっと前まで無口な女の子だったのにな」


 カゲツはそう言って上を見る。そして、全て吹っ切れたみたいな声で言った。


「そうだよ。俺は月人さ」

読んでいただきありがとうございます。

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