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第3話 プリズマムの村

 ━━次の日……


「もう行っちゃうの?」


「うん」


「そう……。気をつけてね」


「うん。ありがとう」


 カゲツはミシュリアとそう話して振り返った。そして、ミシュリアの泣く顔を見ないように別れた。


 少し歩いた先にはリィラがいた。リィラは少しだけ怒ったような表情を見せる。カゲツはニコニコしながらリィラに近づき言った。


「待たせたな」


「んっ」


 そして、2人は次の町に向かって歩き出した。


 ━━それから何日間か歩き続けた。何時間かに1度休憩を取りながら、国境をまたぐ。そして、フェアライトの国へと到着した。


「再来」


「そうだな。ここも10年目だな」


「んっ」


 カゲツ達はそんな会話をして看板を見る。そこには、『プリズマムの村』と書かれていた。カゲツ達はその看板を一瞥して近くの喫茶店に入った。


「あれ?もう来てたんですね」


 喫茶店に入り席に着くと、到達にそう声をかけられた。声が来た方向を見ると、眼鏡をかけたツインテールの女の子がバインダーを持っていた。女の子はとても驚いた表情をしている。


「んっ。早着」


「道中襲われることが少なくてさ、結構早く着いちゃったんだよ」


「そうだったんですね!とりあえずいつもの持ってきますね」


 女の子はそう言って1度厨房の奥に入ると、中からミルクとストレートティーとドーナツを持ってきた。


「ありがとう。よく覚えてたな」


「当たり前ですよ。10年も同じの頼んでたら覚えますよ」


 女の子は自信満々にそう言った。カゲツはその言葉を聞いて感心する。そして、ストレートティーを一口飲んだ。


「あ、そう言えばなんですけど、今ちょうど奉月際ほうげつさいの準備してるんですよね。手伝ってくれませんか?」


「良いよ」


「ありがとうございます!じゃあ、この折り紙を折るのを手伝ってください」


 そう言って女の子は折り紙を取りだした。そして、見本となるように完成したものを取り出す。


「ヒトガタか?」


「はい。このヒトガタを沢山作って沢山紐で繋げて、最終的にこの村の中心の塔に括り付けるんです」


「なるほどね。そう言えばいつも括りつけてあったな」


 カゲツはそう言って折り紙を受け取った。


「あ、フィロウちゃん!接客頼むよ!」


 唐突に店の奥からそんな声が聞こえてくる。


「はーい!では行きますね。よろしくお願いします」


 そう言って女の子は客のとへと向かった。


 女の子の名前は、先程呼ばれた通りフィロウ・ニィベルと言い、ここの『ミルミル』と言う喫茶店で働いている。カゲツがフィロウと出会ったのは、ちょうど10年前の話だ。カゲツとリィラがたまたまこの村の近くを通りかかった時、正体不明のモンスターに襲われる女の子を見つけた。カゲツは颯爽とその女の子の前に立ち、女の子を助けた。その時助けた女の子がフィロウなのだ。


「拒否」


 フィロウが居なくなった時、唐突にリィラがそんなことを言う。そして、リィラはカゲツに向かって折り紙を渡した。


「やりたくないってか?」


 その言葉にリィラは首を縦に振る。カゲツは呆れたような顔を見せると、折り紙を返して言った。


「下手くそでもいいからせめて3つは折ってくれ」


「……」


 カゲツの言葉を聞いたリィラは俯いて顔を暗くする。しかし、カゲツは全く食い下がることなく言った。


「恥ずかしくないからさ」


 カゲツがそういうと、リィラは俯いたままいやいやそうにその折り紙を受け取った。そして、2人はゆっくりと折り紙をおり始める。


「そう言えばさ、リィラはこの10年間で苦しくなかったの?」


「……」


「俺は1人で旅をするつもりだった。リィラは安全な場所に居て、俺が帰ってくるのを待てばよかった。なんで着いてきたの?この旅は、リィラを苦しめる旅になったんだよ」


「……」


「……」


 二人の間に沈黙が流れる。まるで、一言もしゃべらせないような雰囲気が二人の間にあった。


「……愚問」


 リィラはそう答えた。沈黙の後に出された言葉にカゲツは疑問の念を抱く。


「……なんで?」


 カゲツはそう聞いた。


「……」


 リィラは答えない。しかし、カゲツも深く聞くことは無かった。リィラはそんなカゲツを見て、少し下を向いた。そして、手元にある折り紙を見てあの時を思い出す。


 ━━……たくさんの人の悲鳴が聞こえた。そして、ぐちゃぐちゃという音も聞こえる。しかし、振り返ることは出来なかった。真後ろに恐怖が存在するせいで、首は固まり下を向くことしか出来ない。


 しかし、何故か襲われることは無い。まるで不思議な力が守ってくれているかのように、自分にだけは被害が及ばなかった。


 だが、その答えも直ぐに分かった。少しした後に、黒い剣がリィラの目の前に来る。その剣には人の血ではない蒼い血が着いていた。


 リィラは顔を上げた。すると、そこには血まみれのカゲツがいる。どうやらこの数時間ずっとカゲツが守ってくれていたらしい。カゲツは休憩を摂ることもせずに何百、何千という月の魔物を殺し続けていた。


「大丈夫か?」


 カゲツはにっこりと笑って手を差し出してきた。しかし、その手にすら血が着いている。しかも、紅い血が。その血の出処を見ると、カゲツの腕に穴が空いているのが見えた。


「う、腕……が……」


「大した事ねぇよ。お前を守るためなら、腕の1本や2本、犠牲にしても構わないさ」


 カゲツはそう言ってにっこりと笑った。リィラを怖がらせないように。だが、リィラはカゲツの手に流れる紅と蒼の血を見て怖がってしまった。


「どうした?」


 カゲツは無邪気に聞いてくる。リィラは全身を襲う恐怖に負けてしまい、カゲツの手を振り払った。


「いやぁ!来ないで!その血はバケモノの血よ!その蒼い血が流れてるのはみんなバケモノ!だからあなたもバケモノなの!」


 そうしてしまった時気づいた。自分がとんでもないことを言ってしまったのだと。そして、直ぐに顔を上げる。カゲツは少し悲しそうな顔をしていた。


「そっか……」


 カゲツはそう言って手を引っこめる。そして、振り返ってどこかに向かって歩き出した。その先には月の魔物がいる。


 リィラは思わず手を伸ばした。そして、カゲツを引き止めようとする。しかし、その手は届かない。小さく短いてはカゲツの背中をかすることさえなかった。


 リィラはそのことをこの上なく後悔した。先程まで全身を襲っていた恐怖よりも恐ろしく感じた。そして、その日からリィラはカゲツのことを離さないと……離れないと誓った。たとえ何があっても、決してカゲツに手を伸ばし続けると、そう誓ったのだ。そしてそれが、リィラの誓約アイトとなった。


 ━━……そして、リィラはそれに従って行動している。自分自身にかけたものを破らぬように、カゲツと共に旅をしている。


 しかし、カゲツはそれを知らない。教える気もなければ、気づかれないようにもしている。


「……」


「ま、何でもいいよ。一緒に旅できるんなら理由なんか無くたっていいさ」


 カゲツは優しくそう言った。リィラは少しだけほっとしたような顔をして再び折り紙を降り始める。


「……ん。完成」


「お、完成したか」


 リィラはカゲツに完成したヒトガタを渡した。カゲツはそれを受け取って笑う。


「ふっ、ぐちゃぐちゃ過ぎだろ。下手くそだな」


「殺す!」


 カゲツが笑うとリィラは手元にあったフォークを手に取りカゲツの首元に突きつけた。カゲツは完全に体を硬直させて手を挙げ降伏した。


「悪ぃ悪ぃ、この折り紙は俺が貰うよ」


「不作」


「分かったよ。俺があとは全部作って置くよ。あ、でも残り2つは作ってね。全部俺が貰うから」


「……」


 リィラはカゲツのその言葉を聞いて少し怒ったような表情を見せながらも、無言で作り始めた。カゲツはそんなリィラを見ながら折り紙をテキパキと作った。


 ━━……それから30分程で折り紙は全て完成した。あれだけ大量にあった紙も、今では全部ヒトガタに変えられてしまっている。カゲツはヒトガタを持ってフィロウの元まで向かった。


「作ったよ」


「ありがとうございます!こっちも準備終わりました!あとは飾るだけですね」


 フィロウはそう言って両手に魔力を溜める。そして、ヒトガタと紐を魔力でくっつけ始めた。


 ヒトガタが宙を走るように動いていく。そして、踊る様にヒトガタにくっついていった。


「すげぇな」


「こんなの誰でもできますよ。カゲツさんだって魔法使えますよね?」


「使えないよ。というより、使わないよ」


「そうなんですか?」


「うん。ちょっとさ……」


 カゲツはそう言った。その言葉でフィロウは何となく察する。そして、それ以上聞くことは無かった。


「あ、そう言えばなんですど、今日は月火つきび送りがあるんですよ。一緒にしませんか?」


「へぇ、そうなんだな。良いよ。やろうぜ」


 カゲツは楽しそうに笑みを浮かべてそう言った。フィロウもその言葉を聞いて嬉しそうにする。すると、隣からリィラが言ってきた。


「嫉妬」


「ごめんごめん。リィラも一緒やるか?」


「んっ!」


 リィラはそう言って喜ぶ。その時、フィロウが少しだけ嬉しくなさそうな顔をしているのに気がついた。


「……」


 カゲツはそんなフィロウを見て少しだけ何か考える様子を見せる。そして、誰にも気づかれないようにこっそり笑った。


「とりあえず月火を送る場所を探そうぜ。空に飛ばすんだろ?広い方がいい」


「そうですね。あと、なるべく風が弱いところがいいです。飛ばされすぎても良くないので。とりあえず私がこの近くを案内します」


 3人はそう言って歩き出した。そして、良さそうな場所を探し始める。


「まずはここですね。普通に草原です。火の取り扱いを間違えると大火事ですが、風は弱いです」


「悪くないな。ただ、水場が近くにないのが怖いな」


「そうですね。飛んでいく場所によっては山火事になりますよね」


 フィロウがそういうと、カゲツは少し悩む様子を見せて一旦キープした。そして、次の場所へと向かった。


「ここは川辺ですね。小川が真横にあるので大惨事にはなりそうにないですね。ただ、山に囲まれてるから月が見えるかと言われると……」


 そう言って空を見上げる。確かに、山に囲まれているせいで月が見えそうにない。それに、この時点で太陽が見えなければ月も見えない。


「次」


 リィラがそう言うと、3人は歩き出した。そして、最後の場所へと向かった。


「ここですね。ここが最後の場所です。ここは小川が近くにあるし風もそこまで強くない。それに、月もよく見えます。ですが……」


 フィロウはそう言って口ごもる。カゲツもそのことに関しては何も言わなかった。なんせ、ここがどんな場所なのか知っているからだ。


「……月の戦場……かつて、月聖戦争げっせいせんそうがあった場所だろ。星人ほしびとや星の魔物が暴れたとか何とか。まぁ、リィラにとっては少し厳しい場所だな」


 カゲツはそう言った。リィラはそれを聞いて少しだけ顔を暗くする。


「ご、ごめんなさい!やっぱりここじゃダメですよね……」


 フィロウはそう言って泣きそうな顔をする。しかし、そんなフィロウに向かってリィラが言った。


「大丈夫……」


 その言葉を聞いたカゲツとフィロウは驚き言葉を失う。


「ほ、本当に……?」


 フィロウは聞いた。すると、リィラはこくりと頷いた。


「じゃ、ここで決まりだな。夜になったら月火を持ってこようぜ」


 カゲツがそういうと、2人は嬉しそうに笑顔になる。


「いやー、にしても凄い驚いたな」


「……」


「リィラさんもいつの間にか強くなられたのですね」


「ほんとそうだよな。まさか3文字喋るなんて10年ぶりだよ」


 カゲツがそういうと、リィラとフィロウはズコッとコケる。


「そっちに驚いてたんですか!?」


 フィロウはツッコミを入れるようにそう叫んだ。カゲツは納得するように頷く。


「……恥辱」


 リィラはカゲツにそう言い放った。カゲツはその言葉を聞いてとても落ち込む。そして、気分を暗くしてため息も着いた。


「ま、まぁ、とりあえず月火送りは大丈夫そうですね。では、早速街に戻って取りに行きましょう」


 フィロウはそう言って歩き出した。カゲツとリィラもフィロウについて行くように歩みを始めた。

読んでいただきありがとうございます。今のところバッドエンドに傾いてます。

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