プロローグ
星が夜空に瞬いている。しかし、その光は世界を照らすには不十分だった。暗がりは範囲を広げ、見えない世界が増えていく。朝や昼は別だ。太陽という巨大な光源が世界に散らばる闇を照らしてくれている。しかし、太陽が世界を照らすのは日中のみ。夜の世界は闇に閉ざされてしまう。
そんな時それは現れた。新しく表れたそれは暗闇の世界を照らした。星のようなちっぽけな光などではない。影すらも飲み込むような巨大な光源だった。その光源の名は、『月』と言った。月は現れるなり光を放ち世界を照らしたのだった。
「って言うのが月が誕生した時のお話だよ。どう?面白い?」
女の子はそう聞いた。にっこりと笑い、楽しそうに持っている本んを抱き抱える。その大事そうに持っている本のタイトルには、『月光夜永伝』と書かれていた。
「ほんとにその話好きだよな」
「そうだよ!だって、この話聞くとすっごく胸がどきどきするんだよ!ねぇ!そう思うでしょ?」
女の子はそう言って目を輝かせた。その輝きはまるで月のようだった。この世界では太陽、星、そして月は神聖なものとして扱われている。それらは各々光を放っており、世界を照らすと言われている。これまで数々の学者や魔導士と呼ばれる人たちがそれらについて研究してきたが、月だけはまだ解明されてないという。謎が多い存在なのだ。
女の子はその月について書かれている小説をその手にもっていた。その小説は比較的文字が少なく、子供でも簡単に読めるものだった。
「月……か。少し怖いな。何があるかわからないから……」
「そこが楽しいんじゃない!ロマンを追い求めようよ!」
女の子の声が耳に響く。
「……そうだね。俺も大人になったら月を解明しようかな」
「それがいいよ!解明出来たら一緒に月に行こうね!」
そう言って女の子は笑った。その時彼は、その笑顔を一生守りたいと思った。そして、それは、唐突に訪れた。
━━……月の光が女の子を指す。そして、その光で女の子が血まみれなのがよく分かった。女の子の目の前には血溜まりができており、2人の人が倒れ込んでいた。
「月が……希望だとでも思ったのか?」
誰かの声が聞こえる。その声は普通の声とはちょっと違い、頭の中に直接送られてくるような感覚だ。
「我々はもとより世界を滅ぼす者。そのために月を作った。光があるところには必ず闇がある。覚えておけ」
声の主はそう言って彼の横をとおりすぎた。彼はその時その声の主を睨んだ。
人ではなかった。まるで化け物のような姿をしている。何匹かいたが、どれも神聖な力と邪悪な力を感じる。黒と白のオーラを纏っていた。
彼は女の子に目をやった。女の子は血まみれの手で顔を抑えて泣いている。彼は女の子に近寄った。
「なんで……なんで……!?」
女の子はそう言って泣き叫ぶ。彼はそんな女の子を見て胸が苦しくなった。そして、目の前にある倒れ込んだ人に目をやった。
「両親を……殺された……か」
そう呟いて倒れ込んでいる人に触れた。どこを触っても冷たく、死んでしまっていることがすぐに分かる。
「……!」
彼は手を強く握りしめると、女の子を優しく抱きしめた。そして、耳元で優しく囁く。
「大丈夫。俺がずっとついている。俺がずっと守る。俺がずっと……その苦しみを請け負う。それが俺に課された呪いなんだ。ゆっくり休むといい。全て俺が……仇も何もかもを俺が……」
彼はそう囁いて前を向いた。その目には復讐の光が宿っている。そして、その心の底に憎悪の念と、女の子への守りたいという思いが芽生えた。
そして……愛情という思いがより一層強くなった。
彼はそんな目で真っ直ぐ月を見つめる。その月は光をより一層強くしていた。神聖なものと邪悪なもの。その光が強くなっていた。
彼は目を下ろす。光に照らされているにもかかわらず、闇夜となっている空間に目を向けた。そこはよく見えない。暗がりのせいでハッキリとは見えない。
それでも一つだけ……たった一つだけはよく分かった。彼の目の前には、無数の死体が転がっている。それだけはよく分かった。
「……」
その日、この世界からある一つの村が消えた。たった2人を残して。これは、この世界での大事件となった。そして、二度と忘れてはいけない事件ともなった。
これは……彼らの物語。月という魅力に裏切られた、彼らの愛の物語。
読んでいただきありがとうございます。ハッピーエンドにするつもりです。