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6 令嬢エミリア、用心深くなる。


 二度目の旅立ちの前に、私は兎車の扉に鍵を取り付けてもらった。少し時間は要したけど、これで勝手に扉が開いてウルギトスが侵入してくることは防げる。

 さらに、車の天井にも出入り可能な扉を取り付けてもらった。かなり時間は要したけど、これでウルギトスが侵入してきてももう一つの扉から逃げられる。身体能力的に私があの魔獣から逃げられるかどうかはまあ別問題として。


「上から外を眺められるし、ナイスアイデアでしょ」


 と私は備え付けの梯子を上がって天井の扉を開けた。

 現在、この兎車が高速で走行中であることを思い出したのは頭を出した後だった。猛烈な風が容赦なく私の顔面に吹きつける。


 あわわわわ! まるでジェットコースターに乗ってるみたいだ!

 リーシェ! いくら何でも飛ばしすぎだよ!


(そうは言っても、あの森を迂回するとなると数倍の時間が掛かるので急がないと)


 実は、時間が戻ってから、セレーナとリーシェには私達が森でどんな目に遭うか話した。最終的には無数のウルギトスに囲まれること。そして、その戦闘の中で私が命を落とすこと。

 もちろん、これに先立って私には説明しなければならないことがあった。それは私が異世界からの転生者であり、時間を巻き戻す能力を持っているという秘密だ。

 話を聞いたセレーナとリーシェは最初は戸惑ったものの、やがて理解して信じてくれた。


「エミリアの性格が急に変わった理由が分かったよ……」


 兎車の中でセレーナがしみじみと呟いていた。外からはリーシェの嬉しそうな思念が届く。


(私との契約で得た能力がなければ時間は戻せませんでしたね。契約してよかったでしょ、ね?)


 ……本当に嬉しそうだな。はいはい、リーシェと契約したおかげで命拾いしたよ。

 やがて例の狼で溢れる森が見えてくるとリーシェはぽつりと。


(……私、セレーナの腕前が見たいのですが。ちょっとだけ中に入ってみませんか?)


 それなら前回しっかりと確認したから。貴族にしておくには惜しい腕前って言ってたでしょ。


(それ、言ったのは私じゃない私ですよ……。この私がそんな賛辞を贈るなんて相当じゃないですか。ちょっとだけ行きましょうよ)


 嫌だ、私はもう絶対にこの森には入らない。


 不吉な森への入場は断固として拒否し、その手前で一旦休憩をとることになった。

 セレーナがパンにハムを挟んだだけの食べ物を作ろうとしていたので、没収して私がきちんとしたサンドを作る。それから、肉食の契約獣にはハムを丸ごと投げ渡した。


「すごいなエミリア、まるで予知能力者だ……」

(一人だけ二度目ってちょっとずるいですね……)


 仲間達は羨ましそうな目で見てくるけど、はっきり言って私はあんな巻き戻りはごめんだった。実際には死ぬところまでは行かないにしても、それに等しい恐怖を味わうことになる。

 だったら、どうするべきか。答は単純だ。私も戦える力を身につければいい。


 とりあえず、どうやったら強くなれるか熟練の戦士である一人と一頭に尋ねてみた。

 お茶を飲みつつセレーナは微笑みを湛える。


「まずは魔力を鍛えることだな。馬車、じゃなくて、兎車の中ででもできるから今すぐ始めるといいぞ」

「なるほど、魔力か。ところで、魔力ってどんなの? 私にも備わっているの?」

「もちろんだ。これが魔力だから、エミリアの中にある同じものを探してみろ」


 こう言ってセレーナは私の体に手を当ててきた。

 彼女の掌から、何だか温かい、力強いオーラが伝わってくる。

 おお、これが魔力か……。えーと、私の中のどこにあるのかな。…………。……あ、これかも、見つけた!

 私は内に潜んでいた魔力を引っ張り出し、セレーナと同じように手に纏わせた。


「そうそれだ! なかなか筋がいいぞ、エミリア」

「それで、どうやってこの魔力を鍛えるの?」

「体の中でひたすらこねる感じだな。徐々にだけど大きくなってくる」

「ほうほう、確かにそれなら兎車の中ででもできそう」


 魔力というのは、体を覆うことで攻撃力や防御力を上げることができるらしい。また、魔法の源にもなるのでとにかく多いに越したことはないんだとか。

 じゃあ、ひたすら魔力をこねて増やせばいいんだね。


 出発した兎車は森に沿ってその外縁を走りはじめた。その車内で、私は魔力をこねてこねてひたすらこね続ける。

 いや、これ結構疲れるな……。……だけど、やれば強くなれるんだから頑張らないと。あんな恐ろしい目に遭うのは二度とごめんだから。せめて自力で逃げられるくらいには強くなりたい!


 かなり集中していたのか、いつの間にか窓の外には夕日が浮かんでいる。

 セレーナが私の体をじっと見つめながら。


「……あれ、たった半日でずいぶんと魔力増えてないか?」

「ほんとに? けど言われてみれば、最初より結構多くなった気がする」


 すると、車を引いているリーシェが思い出したように思念を送ってきた。


(そういえば、私達魔獣でもそうなんですけど、死線を乗り越えた者は魔力が強くなって大きくなりやすいと言いますね。きっと精神的な成長が影響しているのでしょう)


 ……うーん、恐ろしい目に遭いたくないから強くなるんだけど。

 しかし、私はまだ知らなかった。この願いとは裏腹に、これから私は何度も死線を乗り越えなければならないことを。


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