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5 令嬢エミリア、ほぼ不死身になる。


 難関の森を進み続けた兎車だったが、その日のうちに森を抜けることは叶わず、魔獣溢れるこの地で野営することになった。

 周囲もすっかり暗くなり、二人と一頭でたき火を囲む。

 私はずっと疑問に思っていたことを聞いてみることにした。


「ねえ、この森の魔獣ってウルギトスしかいないの?」


 実は、森に入ってからあの大狼としか遭遇してないんだよね。もっと色々と出て来てもいいようなものだけど、もしかしたら魔獣はエリアごとに分けられているとか?


「いや、そんなことはない。普通はもっと色々と出て来るものだよ。私もおかしいと思っていたんだ」


 セレーナがそう言って首を傾げると、丸くなって寝ていたリーシェが頭を起こした。なお、セレーナの発言は私が逐一この契約獣に伝えていた。


(……もしや、生態系が崩れているのかもしれません。たまにあるんですよ。特定の種族が大発生して他の種を駆逐してしまうことが)


 魔獣は同じ種族間でしか言葉が通じないらしくて、他は基本的には敵なんだって。

 リーシェは再び自分のもふもふの中に顔をうずめる。


(よりにもよってウルギトスとは……。あの魔獣の肉は美味しくないんですよねー……)


 そっか、肉食獣はあまり美味しくないって聞くもんね。……ん? 美味しかったら食べるの?

 一度閉じた目をうっすらと開くリーシェ。


(……これはちょっと面倒なことになる気がしますね)


 その言葉の意味はよく分からなかったけど、とりあえず契約獣から聞いた話をセレーナにも伝えた。


「何にしても、今はもう森の真ん中辺りだ。進むのも引き返すのも変わらないぞ」

「そうだね、じゃあ進むしかない。明日は頑張ってこの森を抜けよう」


 翌日、私達はこの決断を後悔することになる。進むのと引き返すのでは全く違ったんだから。



 ――――。


 明るくなりはじめた頃、私達は野営地から出発した。

 ところが、すぐに昨日までと何か違う感じが。遭遇するウルギトスの数が増えているし、遭遇率自体も明らかに高くなっている。

 セレーナとリーシェは途端に撃退するのに追われるようになった。私も何か手伝いたいけど、一番は足手まといにならないために車の中から出ないこと、だった……。


 何度目かの撃退を終え、戻ってきたセレーナは息荒く話し出す。


「……このまま進むのは、まずくないか? 今からでも引き返した方がいいかも」

(どうやら、決断するのが遅かったようです……)


 リーシェの思念に促されて窓の外に目をやると、兎車は無数のウルギトスに完全包囲されていた。どこを見てもあの獰猛な大狼しかいない。

 再び剣を手にセレーナは慌てて外へ。


「エミリアは絶対に出るなよ!」

(絶対に出て来てはなりませんよ!)


 言われなくても出ないって! 私どんだけ信用ないんだ!


 兎車は、引き手のリーシェだけじゃなく、車の方もアンジェリカお姉様の肝いりだった。銃で撃たれようが爆弾で爆破されようが、頑丈な装甲でびくともしない。また、窓にはめられているのもガラスじゃなくて特殊な水晶らしくてこちらも同様。(ちなみに、魔獣という恐ろしい生物がいるので、武器や兵器に関してはある程度は科学が進んでいるみたい)

 この車の中にいる限り私は絶対に安全だ。

 と思っていると、突然の衝撃音と共に車全体が大きく揺れた。


 なななな何が起こったの!

 窓から外を窺うとウルギトス達が次々に体当たりをしてきている。


 これはやばい! いくら装甲が頑丈でもあのサイズの獣に何度も体当たりされたら……!

 私の嫌な予感はすぐに現実のものとなった。車内の部屋が斜めに傾いた次の瞬間、ズズーン! という低い音をたてて車は横倒しにされてしまった。

 車の壁面に寝転ぶ形になった私の正面には、当然ながら反対側の壁面が。なぜかそこにある扉が開いており、一頭のウルギトスが中を覗きこんでいた。


 外からはセレーナの叫ぶ声が、心の中にはリーシェの焦る思念が聞こえていて、こっちに駆けつけようとしてくれているのが伝わってくる。

 しかし、それより早く大狼が私に飛びかかってきた。


 ひぃやぁぁ――――――――っ! 殺される――――っ!


 まさにその時、全てのものが停止した。

 時間が止まってしまったように、私の体も、向かってくるウルギトスも、何もかもが途中で停止してしまっている。ただ、私の思考だけが動いていた。


 こ、これって……、そうか、リーシェとの契約で発現した、死の間際の体感時間が百倍になるっていう能力が発動したんだ……。

 ……よく見ると、完全に止まってるわけじゃない。大狼もすごくゆっくりだけどこっちに向かって動いているね。よし、今のうちに逃げよう。


 …………、……あれ? 私の動きもすごくゆっくりだ。

 いや、そりゃそうか。体感時間が伸びるだけだもんね。


 ……待って、まずいまずい! 私が動くより速くウルギトスが動いてる! このままじゃ避けられずに、ガブッ! といかれちゃうよ!

 も、もしかして……、……この体感時間が伸びる能力が発動した時点で、私が死ぬのは確定してる?

 じょじょじょじょ冗談じゃない! やっぱりこれはろくでもない力だ!

 ただゆっくり死の時間を味わえるだけの恐怖の能力だった!


 なんて考えている間に狼の顔が目の前まで! 二度目の人生もかなり短かった!

 もうダメだ! ガブッ! といかれる!


 キィ――――――――……ン。



 ガバッ!


 …………、……え、ガブッ! じゃなくて、ガバッ?

 ……しかも全く痛くなくて、何だか柔らかい感触。


「やっぱりエミリアと離れるなんて耐えられないわ! 行っちゃダメ!」


 私は自宅屋敷の前でアンジェリカお姉様から思いっきり抱き締められていた。

 これって確か……、昨日の、旅に出発する時のお別れの挨拶だ……。

 ……そうか、時間が戻る能力が発動したのか。た、助かった……。

 あれはエネルギーが必要だからすぐには使えないんだね。死の間際の体感時間が伸びる能力がなきゃ、確実に死んでいたよ……。


 ……この二つの能力って、もしかして相性がめちゃくちゃいい?


令嬢エミリア、病気と老衰以外では(頑張れば)死ななくなりました。

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