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10 令嬢エミリア、ハンター(仮)になる。


 どうもカイルさんのところに私の侯爵家から根回しがあったらしい。私に旅を諦めさせて家に戻るように説得してほしい、と。過保護な父と姉の仕業に違いなかった。

 でも、判断としてはあちらが正しいのかもしれない。実際に私は二度も死にかけているわけだし……。


 だからって言う通り素直に帰りたくもない。ここまではたまたま運が悪かったり契約獣が死神だったりしただけだ。今後は気もつけるし!


 私はカイルさんに向かって頭を下げた。


「私の家がすみません……。ですが、今はまだ戻れません」

「安心してください、俺も無理に説得するつもりはありませんので。平民だろうが貴族だろうが、自分の道は自分で決めるべきだと思っています」


 カイルさんはそう話しながらカウンターの向こうから二本の木剣を取ってきた。そのうちの一本をセレーナに投げ渡す。


「あなたもそう思っているんでしょう、騎士団の剣姫さん。磨き上げた技と剣で生きていきたいと。俺もその腕前に興味があります」

「話が早くて助かります」


 二人はその場で剣を構えて向かい合った。

 え、こんな室内で打ち合いをするつもりなの? 外に行きなよ、絶対に色々と壊れるって。

 私の心の声を聞いたリーシェが、分かっていませんね、といった感じで笑う。


(こういう手合わせは互いに魔力を纏うだけで魔法は使用しないという暗黙のルールがありますし、彼らくらいになると想定外のものを斬ってしまうなんてこともまずありませんよ)


 ……ちょっとイラッとする。これも素直には聞けないな。

 巨大兎のもふもふに手を埋めて地肌を突っついている間に、セレーナとカイルさんの手合わせは始まっていた。


 私にはどちらが先に仕掛けたのか全く分からなかった。気付いたら木剣同士のぶつかり合う音が響いていて、二人の手の動きもほとんど見えない。

 は、速すぎる……。私のキャベツの千切りよりも速い……!


(エミリア、目に魔力を集めてください。視力を強化するんです)


 リーシェから言われるままに実行してみると、ようやく少しだけ残像のようなものが見えた。それでも、どちらが優勢なのかまでは分からない。

 目を凝らしているうちにセレーナとカイルさんはほぼ同時に剣を収めた。ここで初めてカイルさんがほのかに笑みを浮かべる。


「いいでしょう……。セレーナ嬢、あなたは私と同じランクAです」

「それはおまけですね、ありがとうございます。細かな技術はカイルさんの方が上でしたから」

「わずかな差ですし、年齢を考えれば驚くべきことですよ。それからマッドラビット、お前もランクAでいいな?」

(納得できません。魔法ありの実戦ならおそらく私は二人共難なく殺れますよ)

「お二人ほどの実力はないのにどうもすみません、と言っています」


 勝手な通訳をした私に、今度はリーシェが抗議するように肉球で押してきていた。ふ、プニプニ可愛い抗議だな。

 それで、私のランクはどうなるんだろう。

 と思っていると、カイルさんも腕組みをして私を見つめ、決めかねている様子だった。


「そうですね……、エミリア嬢はちぐはぐでなかなか難しいのです。魔力の力強さはありますが、量は少なく戦闘経験もない。しばらくお時間をいただいてもよろしいですか?」

「時間、ですか……?」

「ハンターの仕事はご紹介しますので、当分はこのコルテシアで体験してみてはどうです? もしやっていく決意が固まったなら、その時にハンター証を発行しましょう」


 住む家はあるから問題ないんだけど、実家が近いだけにプチ冒険感が否めない……。とはいえ、あまり死にそうな目にも遭いたくないから、慎重にいくべきなのかな……。

 私一人で決めていいことでもないよね。セレーナとリーシェはどう思ってるんだろう。

 私の視線を受けて一人と一頭は頷いた。


「まずこの町で戦いに慣れるのはありだと思うぞ」

(同じ国内でもずっと屋敷にいたエミリアには色々と新鮮に感じますよ、きっと)


 仲間達がそう言ってくれたのでカイルさんの提案を受け入れることにした。

 セレーナとリーシェにはクリスタルでコーティングされたランクAのハンター証が発行され、私にはカイルさんが仮ハンター証と手書きした紙が交付された。


 ……私の、手作り感が半端ない。……急にちゃんとしたハンターになりたくなってきたよ。

 ハンターギルド支部を出ながら私はおじさんの手作り仮ハンター証を眺めた。次いで、手に提げた紙袋に視線を移す。中には札束がぎっしりと詰まっていた。

 これは私の侯爵家がカイルさんに押しつけたものだった。どうかこの金で当家の娘をよしなに、という意図らしいんだけど、受け取ってしまうと色々と面倒でもあり、カイルさんは私が好きに使うのが一番いいと判断したようだ。彼は賄賂なんて関係なく、私をよしなに扱ってくれている。


 この札束、どうしてくれよう……。と頭を悩ませていると、セレーナが「そうだ」と何か大切なことを思い出したみたいだ。


「エミリア、戦闘装備がないじゃないか。その金を全額つぎこんですごいの揃えればいいんだよ」


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