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真夏の特訓

真夏の炎天下。妖討伐隊の隊員たちは、この厳しい暑さにすっかりだれていた。そんな中、隊員の一人が竹製の水鉄砲をたくさん用意して現れた。


「諸君!この暑い中、我々は日々訓練を行わなければならない!そこで、我が考えた!水鉄砲で訓練だ!」その声は、まるで子供が提案する遊びのようだったが、大人が本気で取り組むその姿勢には、どこか懐かしい面影があった。


水鉄砲の他にも、竹の桶や柄杓ひしゃくが用意され、みんなで盛り上がりながら、水遊び大会が決行されることになった。進次郎は仲間の泉と共に、聖の近くへとそっと近づいた。当然、日頃の訓練で彼女にぜひともお礼を言いたかったのだ。それを水の洗礼という形で表現するつもりだった。


気配を消しながら聖に近づいていった二人は、いざ水をかけようとした瞬間、思わぬ戸惑いに襲われた。聖は、うとうとと船を漕ぎ、まるで夢の中にいるかのようだった。長い睫毛が時折揺れ、起きてしまうのではないかとドキドキした。


それ以上に、普段は無表情で厳しい修行に励む彼女が、今はあどけない表情で眠っている姿に心を掴まれた。人形のように美しいその造形に、水をかけて起こしてしまうのは、とても心苦しい気がした。


進次郎は、水をかけるのをためらい、思わずその瞬間を楽しんでしまっていた。彼女の無防備な寝顔を見つめながら、心の中で葛藤が渦巻いていた。果たして、この小さな水の洗礼は、彼女にとって嬉しいものとなるのだろうか。それとも、ただの迷惑行為になってしまうのだろうか。


ゆっくりと近づく心の距離。進次郎は、聖の笑顔が見られることを願いながら、次の一手を考えた。



心に隙ができ、気配がバレてしまった。その瞬間、紫色の美しい瞳が、進次郎と泉の姿を捉えた。2人は思わず動きを止めた。両手には水鉄砲と桶を握りしめているが、状況を一瞬で把握したのは聖だった。


彼女は素早く背後に回り、2人の意表を突いて武器を奪い取った。そして、冷たく澄んだ水を2人の上にかけ始めた。聖のケラケラと響く笑い声が、夏の青空の下で響き渡る。その楽しげな音色に、進次郎と泉もつられて思わず笑ってしまった。


「隙あり!」聖はそう叫びながら、再び水を浴びせかける。水遊び大会はこの瞬間、白熱した戦いに突入した。進次郎と泉はじっとしていられず、互いに顔を見合わせ、即座に反撃の策を練った。


「逃げろ、泉!」進次郎が叫ぶと、2人は一斉に聖の方に向かって走り出す。聖はその勢いを見て、さらに笑いながら水鉄砲を構える。進次郎が桶を持ち上げ、泉が水鉄砲を向ける――まるで戦場のような緊迫感の中で、3人はそれぞれの武器を駆使し、思い思いのアプローチで攻撃を繰り出した。


聖は意外にも素早い動きで進次郎をかわして、彼の背後から再び襲い掛かる。しかし、誰もが思い描いているように、彼女の表情には楽しげな余裕が漂う。水しぶきが飛び散る度に、さらにその場の雰囲気は盛り上がりを見せた。


楽しさ全開で続く水遊び。笑い声や叫び声が響く中、彼らは友情を深め、それぞれの心に刻まれる特別な夏の思い出を作っていった。これぞ、まさに夏の魔法であった。



水遊びを楽しんだ後、聖と進次郎は、他の隊員たちと共に宿舎で西瓜を分け合い、涼しいひとときを過ごしていた。その時、天城隊員が少し手元をかざして言った。「聖ちゃん、これどうぞ。美味しいよ。」彼は瑞々しい桃を聖に差し出した。


聖の目が輝き、彼女は嬉しそうに桃を受け取った。慎重に包丁を使って、桃の皮を綺麗に剥いていく。白くて柔らかな果肉が姿を現すと、彼女は細心の注意を払って皿に桃を切り分け、一口サイズに整えた。「天城さん、剥けました。どうぞ。」聖は微笑みながら、切り分けた桃を手渡した。


天城の目尻が下がり、満面の笑みを浮かべながら「優しいね。じゃ、一つ頂くね。」と受け取る。その表情は、まるで子供のように無邪気で、桃を口に運ぶとその甘さに彼の心も満たされた。「可愛い子に剥いてもらうと、こんなに上手いものか」と、桃を味わいながら、新たな発見に思わず驚くのだった。


その瞬間、日常の喧騒を忘れ、仲間たちとの温かな絆が、まさにこのささやかな果物を通じて深まっていくのを感じた。宿舎の中には、和やかな笑い声とともに、甘い桃の香りが漂っていた。



清十郎は宿舎の部屋の扉を開け、目に飛び込んできた光景にほっと息をついた。隊員たちと和やかに楽しんでいる聖の姿があったのだ。彼女の笑顔は、清十郎の心に温かな感情をもたらした。仲間たちとの交流を通じて、聖の心もまた健やかに育っているのではないかと思うと、彼は嬉しさを感じずにはいられなかった。


ふと時計に目をやると、すでに夕方の5時を指している。日が長いこの季節、外はまだ昼のごとく明るい。しかし、時間の流れが早いことに気づかなかったのは、きっと心地よい時間が過ぎていたからだろう。「もう、帰る時間ですか?」聖そう言うと、少し驚きを感じる。


「今日はどうやら、俺が指示した訓練の時間ではなかった様だが、部隊の意思疎通においてこうした交流は大切だと思う。」清十郎は隊員たちを見回しながら言った。彼の声には、少しの温かみと共に指導者としての厳しさも滲んでいる。「明日からはいつもの訓練に戻り、練習に励むように。いいな。」


その言葉に、隊員たちは一斉に頷いた。彼らの表情には、清十郎の思いを受け止める決意が浮かんでいた。どこか俊敏に、また新たな目標に向かって進むためのエネルギーが感情となって感じられる。教官と隊員たちが、このように一緒に過ごす時間は、明日への確かな架け橋となるはずだと、清十郎は静かに思った。

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