穏やか日常
彼女の名は聖。隊員たちの間では「白い悪夢」と恐れられていた。しかし、その神秘的な素顔に対する興味は尽きることがなかった。白く美しい彼女の容姿は奇異で、この世のものとは思えないほどだった。そのため、彼女が妖怪なのではないかという噂も立ち上った。
だが、聖はそんな噂をまるで気に留めない様子で、いつも凛とした姿勢を保っていた。彼女は耳が聞こえないため、悪口や陰口、罵倒や煽りの言葉も決して耳に入ってこなかった。むしろ、彼女はそれらに心を揺さぶられることなく、自分の世界に浸り、何も気にせずに存在していた。
聖の姿は勇ましく、静謐な美しさを湛えていた。しかし、その内面にはどんな思いが秘められているのか、誰も知ることはできなかった。彼女の真実を明かすのは、果たして誰なのだろうか。
剣術の訓練が終わり、進次郎は聖に近づいた。彼女に自身の口元が見えるようにしながら、屈んで話し始める。聖は隊長の話では聴力が無いと言われていた。進次郎は、彼女との会話が読唇によって成立していることに気づいた。
訓練後、彼女と進んで話す中で、聖も自分との会話を楽しみにしている様子が伝わってきた。言葉がわかりにくい時、聖は高い識字能力を活かし、進次郎も文を交えて応じた。聖の声はまるで鈴の音のように可愛らしく、いつまでも聴いていたいと思わせる魅力を持っていた。
進次郎の前での聖は、ニコニコとした柔らかな表情を浮かべ、清十郎の前では見せないような安心感を漂わせていた。彼女のその表情には、二人の距離感が生み出した特別な空気があった。彼らの会話は、静かでありながら心温まるひとときを紡いでいくのであった。