2 夢
穏やかな自然の風と緑の匂いがしたような気がして、私はいつもの夢をみていることに気づいた。
もう何度目になるだろうか。場所は、水鳥たちが集う川の近くにある木々に囲まれた穏やかな公園。結婚後、度々龍矢と二人きりで過ごした場所だった。
公園から人目を避けるように下りた川岸が、小さい頃から龍矢の秘密のお気に入りの場所だった。龍矢は、小さい頃から必ず一人でここに来ると、川の近くに立ったまま時折何かを川に投げるという行為を繰り返していたという。
その話を打ち明けられた時、私は川上家の男でも川遊びするんだと意外に思っていた。けど、龍矢が投げていたものの正体がわかった瞬間、それが遊びでないことに気づいて身震いすることになった。
龍矢が投げていたのは、捕まえたセミだった。しかも、飛べないように羽をむしり取り、水鳥たちに嬉しそうに与えていたのだ。
それが、龍矢の隠し持った毒牙を初めて見た瞬間だった。龍矢は、幼い頃から誰にも秘密にしてこんなことをしていたのだった。
「このセミは羽をむしり取られているから、その生殺与奪権は俺にあるんだ。このセミ、まるで俺に仕える者達と同じだと思わない? 逆らえば水鳥たちの餌となって死ぬんだから」
まるで壮大な冒険ドラマを語るかのように、龍矢は血の気が引いた私に興奮を隠すことなく語っていた。
今にして思えば、きっとこの時の龍矢こそが、彼の正体だろう。自分に仕える者を選別し、圧倒的権力をもって生殺与奪権を手にしていく。それこそが、龍矢のやり方であり、その胸に隠すどす黒い欲望だった。
その毒牙に、私は気づくのが遅かった。
そう気づいたときから、私は初めて優しかった龍矢を怖いと思うようになっていた。