友人に温泉へ連れて行ってもらい、びっくりしたこと。
第五回 小説家になろうラジオ大賞参加作品。
私は二十代の前半から半ば頃、仕事の都合で北関東の方に住んでいました。
当時まだ若く好奇心も旺盛、生まれ育った近畿から飛び出した私は、コミュ障だった十代やすっかり大人しくなった(のか? 本当?)三十代以降と違い、別人のようにアグレッシブ(当人比)に過ごしていたものです。
ある日、職場で仲良くなった当時大学生だったアルバイトの女の子が、車の免許を取ったのでちょっと遠くまでドライブしたい、ついては日帰りで温泉へ行きませんかと誘ってくれたことがあります。
人生最大級にパリピ(しつこいがあくまで当人比)だった私は二つ返事でOK。
休日に彼女と連れ立ち、新しく出来たという温泉施設へ向かうことに。
元々仲の良かった女の子、道中気を遣うことなどありません。彼女が若葉マークのドライバーという点だけが若干心配だったものの、運転に不安を感じる部分もなかったです。
目的地は、とある駅の中に出来たという新しい施設。
温泉を目的に鉄道を利用してもらおうという、昨今よくある駅ナカの観光スポットの先駆けなのでしょう。
(我々は車で訪れてますから施設の主目的からずれているけど、それはご愛敬)
結論から言って、いい温泉施設でした。
源泉かけ流しの綺麗なお湯はやわらかく、高い位置に設えられた露天風呂では遠くに雪化粧(季節はちょうど冬)した山々が臨め、大変気持ちのいい施設でした。
鼻歌を歌いたい気分でお湯から出ると我々は、髪と身体を洗うべくシャワーの前に座ります。
そ・こ・で。
私はびっくりしたのです。
私がシャンプーを手に取ったタイミングで、友人はおもむろに持参した洗面器に忍ばせた?歯磨きセットを取り出し、歯を磨き始めたのです。
(……え?)
話に聞いたことはありました、お風呂で歯磨きする人。
でも私の身近には今までいませんでしたし、公共のお風呂場で歯を磨く人に会ったのは初めてです。
一瞬、固まりました。
そっと周りを見回します。
他に歯を磨いている人はいませんでしたが、『それって普通』という感じの雰囲気。
パリピ化していても本来はコミュ障の私、気楽に彼女へ問うなど出来ません。
黙って洗髪し、歯磨きのことには触れませんでした。
その後も私は、数は少ないながら温泉等の入浴施設へ行く機会はありましたが。
公共のお風呂場で歯を磨く人に出会うことはなかったです。
だからマイノリティだと思うのですけど……どうなのでしょうか?
まあ、別にどちらでもいいのですが(笑)。