3話 ルージュの試験
「試験、試験ですか。いったい何を?」
「質問に答えんだよ。一切の嘘偽りなく。それでアタシの魔道具を使うに値するか判断する」
「はぁ......それくらいならいくらでも答えますけど......」
ルージュ女史から吹っ掛けられた試験、それは『質問に答えることだった。嘘偽りなくという条件を付けてきたあたり、十中八九こちらに後ろ暗いことがあるのはバレているだろう。
ならば嘘はつかずにごまかすか、それで駄目そうなら全部話してお眼鏡に適うよう祈るとしよう。それでもだめなら仕方あるまい。そういう星の巡りだったというだけだ。
「それで、質問というのは」
「簡単だよ。アンタ、何をするつもりだ。久々に見たよ。アンタみたいにギラついた目をしてるやつぁ」
「復讐、ですよ。でも、正面からやりあっても勝ち目がないので不意打ちを仕掛けようかと」
初っ端から回避不能な質問が飛んできた。この間の件といい俺は前世で何かやらかしでもしたのか。まぁ俺は今世でもやらかそうとしているわけだが。
「そうかい。じゃあ復讐相手についてよく教えておくれ」
もはや誤魔化しなんてものはあてにならない。聞かれたからには洗いざらい全部吐き出してしまってあとはもう運を天に任せてしまうのが吉だろう。
「それでは、これは1週間ほど前に遡るのですが―――」
「あんたぁ悪かねぇ!!!!!!!!!!」
「だよなぁ?!ルージュさんもそう思うよなぁ!!!」
語り始めて早二時間ほど。魔法店ルージュは酔っ払い二人が咽び泣きながら声を荒げる地獄と化していた。きっかけとしては、『人の不幸ほど美味い肴はない』と言って酒を飲み始めたルージュさんが悪酔い、俺にも勧めてきてあとはなんやかんやで今に至る。
「わがっだ!!!アタジがアンダの復讐を助てやる!!」
そう宣言して、ルージュさんは店奥に向う。かなり大きく、バタバタという音が響いてきて、いくつかのものと領収書らしきものをわしづかみにして再び現れた。
「これだ。アンタこれが欲しいんだろ?ほら、やるやる。持ってきな!」
「こいつぁありがてぇ......値段は......高ッけェ!!馬車が二台は買えるじゃねぇか!」
「値段分アタシの店で働きな。アンタの情熱を見込んでと飯の美味い話をしてくれた礼みたいなもんさ!!!」
かくして俺はルージュ魔法店のお墨付き装備を、彼女のもとでの無償労働と引き換えに手に入れられたわけだ。
「しっかし、気前がいいやら性格悪ィやらよくわかんねぇ婆さんだったな......」
拠点の宿屋へと戻る道すがら、誰に聞かせるでもなくそうつぶやいた。まあ、今は素直に第一目標を達成できたことを喜ぶべきか。
次にやるべきは、魔法の会得と暗器の用意。あとは具体的な方法を考えてェ......先がなげぇな。完璧を求めるからにゃあこれくらいは覚悟してたつもりだったが、もしかすると真っ先に魔法店に向かったのはかなりの悪手だったんじゃないか。
そこまで思い至った時点で、ブンブンと頭を振って思考をリセットしようと思ったが、まだまだ酔いの残る頭はひどく揺れが思った以上に大きく、そのままの勢いでそこらを歩いていた誰かにぶつかった。
「あ!テメェ朝の!!」
俺はこの後同様のことを繰り返し、三人のチンピラに殴られることになった。