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弱くてニューゲーム  作者: きぃな
1/1

飛ぶ

私の実体験した虐待やいじめにフィクションをおりまぜ、誇張してタイムリープものの小説に仕上げました。

同じく、虐待、いじめで苦しんでる人、苦しんだ人の心が少しでも救われますように。

私のからだはゆっくりと前に傾く。


大丈夫。怖くない。


もう体の制御が効かない。重力に体を任せて私の体は屋上から地面に向かって落ちていく。


私の体はお母さんの胸の中。


上を向くと…

私の体は既に天地とは逆を向いているから下を向くと言った方が正しいだろうか。


とにかく顔を上げるとお母さんが優しく泣きながら抱きしめてくれた。


それだけで私は幸せだった。


私の体がぐちゃっと潰れる感覚が一瞬わかった。



_______


-1日前-


しんしんと積もる雪。


私の足はどんどん雪に埋もれてゆき、感覚をなくしていく。

家の中からは父の怒号とお母さんの叫び声。


せめて私の部屋じゃだめなのかなぁ…


自然とため息が出る。


「おい、入れ」


「はい。」


私は堂々と感覚の無い足を器用に使い、家の中に入る。


良かった、今日はとばっちりは無し!


父は私を家に入れるとリビングでタバコを吸う。


お母さんはキッチンでぐったりと項垂れている。


助けたい。

大丈夫?って声をかけたい。


でも、父の前でお母さんを助けるとまたさっきの繰り返し。


私もお母さんもそれをわかっているから助けないし、助けを求めない。


明日、あいつが仕事に行ったら謝ろう。


私はリビングに置いたままだった課題をまとめて2階にある自室に篭もる。


耳にはお母さんの悲鳴がこびりついている。


消えろ、消えろ、消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ


父の前で弱い私を見せないため張っていた糸が解け、目からたくさんの涙が溢れる。


なんで、こんな家に産まれちゃったんだろう。


毎日こうだ。


いつ、どこで地雷が爆発するか分からない。


地雷原をどんなに慎重に歩いても地雷が多すぎて、この家にいる限りは踏み抜かないことは不可能だ。


歯磨きもしてない。


お風呂も入ってない。


でも、下に行くと父と鉢合わせることは確実だろう。


地雷を踏む可能性があるなら汚いままでいい。


とりあえず寝よう。


歯は明日磨けばいい。


体は…適当に香水とかかければだいたい隠せる。


おやすみ。明日はいい日でありますように。

___________


スマホにあと10分で目覚ましがなると通知が出る。


いつの間にかもう準備しないといけない時間か。


私は鳴る前に目覚ましを止めた。


なんだかんだ今日も眠れなかった。


私が起きたのは朝の4時35分。


起きなくちゃいけない7時20分より3時間ぐらい早かった。


多分だけど、私は精神病だ。


診断して欲しい。眠れないのが辛い。


でも、父は世間体を気にする。


心療内科に行きたいなんて言った日には罵声と拳の嵐になるに決まってる。


早く大人になりたいなぁ…


私は重い体を起こしてリビングに向かった。


「おはよう、あかり」


「おはようお母さん」


お母さんは昨日のことはなかったかのように笑顔で声をかけてくれた。


リビングにはもう鬼はいない。


父は5時に出勤だから朝は唯一安心してお母さんと話せる大切な時間だ。


「大丈夫?外は雪も降ってたし辛かったでしょ?」


「ううん。感覚が無くなったぐらいに入れて貰えたからお布団で温めたら治ったよ。それより、お母さんのほうが…」


「お母さんは大丈夫よ!お父さんだって鬼じゃないんだから」


…あいつは鬼だよ


そう言いたかったけれど、お母さんはまだ父を愛しているから言葉を飲み込んだ。


「ごめんね、いつも守れなくて」


「あかりはまだ高校生なんだから。お母さんがあかりのこと守らないといけないのにいつも寒い外に出しちゃってごめんね」


私たちはお互いに謝る。


それも毎日の日課になっている。


あいつさえいなければ、私もお母さんもこんな思いしなくていいのに。


お母さんはとても優しくて素敵な人だ。


頭も良くて優秀で、家事も育児も完璧な人間。


ちゃんと生きていればとても稼げる証券マンのお嫁さんも夢じゃなかったと思う。


けれど、お母さんは道を踏み外してしまった。


高校生の時、SNSで父と出会ったそうだ。


趣味もわかってくれるし、遠距離でも沢山愛してくれてガリ勉で恋をしたこと無かったお母さんは夢中になってしまったらしい。


お母さんは16歳、父は21歳の時のこと。


この時点で未成年に手を出すヤバいやつだと気づけなかったことがお母さんと私の敗因だと思ってる。


お母さんが決めた進路は結婚。


成績も良く、お母さん…私のおばあちゃんも先生も大反対をした。


けれど、無断で3時間かけて父の元へ向かってしまったりしたことから駆け落ちされるともう所在を分からなくなると恐れて婚約を容認してしまったらしい。


このすぐあと、DVの気質が垣間見えてきたが周りは受験に向けて動いているなか、何もしてきてないことが怖くなりそのまま結婚。


お母さん19歳、父24歳。


その1年後私を出産して今に至る。


よくもまぁ、20年近くもこんなやつを好きでいられるもんだ。


私は準備を終え、鞄を背負う。


「行ってきます!」


「行ってらっしゃい!気をつけてね!」


「はーい!」


私はお母さんに手を振り、庭に出た。


大きく吸って、吐いて。


楽しい時間は今だけ。


また違う地獄に向かうために、最寄り駅へ歩き始める。




古びた昔ながらの県立高校。


私はもう着いてしまったかと校舎に入る。


昇降口で既に、男子も女子も叫ぶように会話を弾ませている。


チンパンジーかよ


私は下駄箱でたむろする女子に一言、ごめんと言って間を割る。


くすくすくすくす。


私が笑われているのか、なにか秘密の話をしているのか定かでは無いがなんとなく悪意を感じる。


嫌な予感はよく的中するもんだ。


蓋を開けるとジャラジャラと画鋲が落ちる。


このたむろ女子がいたから気がつけた。


悪意があったんだろうけど警告になってくれたよ。ありがとう。


それにしても、こんな小学生でもしないマンガみたいないじめをよくやるよなぁ。逆に恥ずかしくないのだろうか。


傘立ての横でスカートをこれでもかというほど短く折っている女子4人がこっちを見て笑っている。


1番のチンパンはこの4人だ。


この横の女子たちも見て笑うなんて性格ブスすぎ。


主犯の4人の名前はよく覚えていない。


興味もないし、話したいとも思わない。


だからまとめてチンパンと呼んでいる。


チンパンに目をつけられたのは数ヶ月前、数週間かけて行うグループワークで一軍の彼女たちと一緒になってしまったがために目をつけられてしまった。


偶然、その同時期に駐車場に停めている自転車が強風で煽られて父の車に倒れてしまった。


父の大切な車に傷が付き大爆発。


しばらく学校に行けなくなるほど暴力を振るわれた。


チンパンには怪我をしてるから学校にいけないと伝えているのに同じ成績になりたくない。無理にでも来るよう言われ、体を引きずりながらグループ活動に向かった。


けれど、怪我をしている私は役たたず。


チンパンには仮病だと何故か判断されてそれからこんな子どもじみたいじめを受けるようになった。


良かったのは先生にバレたくないからかいじめは陰湿なものばかり。


父から受けている虐待に比べれば実害は基本ない。


私は画鋲を無視して教室へ向かう。


私の学校では朝の連絡まではスマホをいじってもいい。


私はイヤホンを繋いで音楽を聴きながらSNSを見る。


私と同じ、虐待を受けている子達と繋がっているアカウントだけが心の拠り所だ。


『朝から靴箱の中に画鋲wお前らいくつだよ、小学生でも思いつかねぇよwww』


わたしがそう投稿すると少しして通知がポンッとなる。


『それは子どもすぎ( ᐙ )』


私の大好きなお友達。ことはちゃんだ。


『マジでそれ!!ガキがまだ来るとこじゃねぇぞ〜(´^∀^`)』


ことはちゃんは精神障害を抱えて通信制の高校に通っている1個上のお姉ちゃん。


私と同じく親から虐待を受けて、いじめられて自殺を図って入院したことがあるらしい。


そこの病院で診断されたのが妄想性パーソナリティ障害、躁鬱。


現実では周りに嫌われているんじゃないかと強く思い込んで人間関係を構築できないらしい。


飛び降りで少し麻痺もして苦しい生活をしてるんだって。


ことはちゃんは私よりも酷い生活をしている。


だったら、私だってまだ頑張れる。


私は他の似た境遇の人の投稿を見ていると目の前の扉がガラガラと開いた。


「朝の会始めるぞ〜。席に着け〜」


担任の林先生が気だるそうに声をかける。


チンパンはそう言われてもボトルフリップで遊ぶ。


うるっさいなぁ…


「おーい、響妃(ひびき)(かえで)智花(ともか)椿(つばき)!静かにしろ〜!」


「は〜い!」


チンパンはキャハキャハ笑いながら自分の席につく。


林先生今日の連絡をし始め、副担任がスマホを回収する。


もうこれで私は一人ぼっちだ。


幸い、いじめはあくまで暇つぶしの一貫。


たった10分しかない授業と授業の間の休み時間に被害を受けることは無い。


私は、何事もなく時計は12時40分を指した。


お昼休みのチャイムを鳴らす鐘がなる。


今日のお弁当は何かな〜


私はルンルンでお弁当箱を取り出すために鞄に手を伸ばす。


「ねぇあっかり〜」


声の方向に振り返るとチンパン達がニコニコとこちらを見ている。


いつもならお昼食べたあとの暇つぶしなのに…


私はため息をつきながら立ち上がる。


「なに?」


「私たちあかりと仲直りしたいんだよ〜」


ツインテの子がにやにやしながら言う。


「ね?ご飯食べる前に少しお話しに行こ?」


ボブの子とふわふわロングの子が私の腕を掴む。


教室からはやばw、おーい響妃、楓〜離してやれよwなどと思ってもいない助けの声が聞こえた。


連れていかれたのは特別棟のトイレ。


これまた典型的。幼年マンガ雑誌今でも読んでるタイプ?


私は恐らく、響妃と楓と呼ばれていた2人から勢いよく壁に叩きつけられた。


これでチンパンに恐怖を抱くとか本気で思ってるの?


私は毎日鬼と対面しているからなんにも怖くない。


半ば自分に言い聞かせ、4人をキッと睨んだ。


その目を見てポニーテールの女の子が私の前へ屈んで膝に肘を着いた。


「何その目?怒ってる???

ずるしていい評価もらおうとして態度はないんじゃない?

もう少し立場わきまえたほうがいいよ?

智花」


ポニテの子が名前を呼ぶと後ろからツインテ…智花がスマホを構える。


回収なのに持っとくとかガキが


智花が持っているスマホからはポンッと音が鳴る。


「はーい!今からスプリットショーの始まりで〜す!」


私の心臓はドクンとおおきく脈を打った。


「仲直りの印!いつまでも喧嘩している訳にはいかないでしょ?」


カメラを向けている人の横で誰かがそう言うが、もう私の視覚も聴覚も過去の映像に囚われていた。


流れる映像は小学校低学年の時の家の中。


まだ、私が性についてよく知らない時。


私の鼓動はどんどん早くなっていく。


『あかり、お父さんにマッサージしてくれよ』


『あー気持ちよかった!次はあかりにやってあげる』


『ここは女の子はとても気持ちよくなる場所なんだぞ』


性について学んでから、あの出来事は異常だと気がついた。


父も小学校高学年になると手を出さなくなった。


それが、悪い事だとわかっているから知識持つ前の子どもに手を出したという事実が気持ち悪さを増幅させる。


鼓動が早くなっていくと、だんだん息も荒くなっていく。


「あれぇ?もしかして興奮してるの〜?早く脱げよ〜」


いつの間にか流れていた洋楽EDMと父の声が混ざり、頭がぐちゃぐちゃになる。


どうしよう、どうしよう、考えないと、お父さんから、今すぐお父さんから逃げないと


「はぁ…おっそい。やっちゃお」


その声と同時に四本の腕が私に向けて伸びる。


「いや!!!!」


私は咄嗟に叫び、走り出した。


「クソッ!あいつ!」


後ろからは追いかけろ!という怒鳴り声が聞こえた。


やだ、怖い、助けてお母さん…!!


私は特別棟の玄関から靴も履かずに学校を飛び出した。


怖い。


それだけしか考えることが出来ず、ただひたすら街を走る。


「あかり!!」


声と同時に手を掴まれ、体は後ろに引っ張られる。


追いつかれた!


「ヤダ!やめて!助けてお母さん!!!!」


「落ち着いて!よく見て、お母さんだよ」


半狂乱の私の頭をつかみ、私を呼ぶ声は目と目を無理やり合わさせる。


「…おかぁ…さん…?」


「そう、お母さん。落ち着いた?」


わたしはゆっくり息を整える。


吸って、吐いて。吸って、吐いて。


「うん、ごめんね、お母さん」


「ううん。学校から連絡があったの。あかりが学校を飛び出してどこかへ行ってしまったって」


「そっか、ごめんね」


きっと職員室から誰か先生が私が学校を脱走するのを見たんだろう。


「お母さんはすごいね、こんなに早く私を見つけちゃうなんて」


「あんたがいきそうなとこはお見通しよ!」


お母さんはウィンクをした。


お母さんと私は20しか違わないから対応が若い。


そんなお母さんがおもしろくて思わず少し笑ってしまう。


「ねぇ、あかり。このままどっか行っちゃおっか?」


「どっかって?」


「どっかはどっか!」


私はお母さんに促されるまま後に着いてった。


朝以外、お母さんと2人で穏やかに過ごせるのは久しぶりだ。


父の愚痴、学校であったことなど沢山笑いながら話した。


ずっと、こんな生活ならいいのに。


「あかりはさ…正直死にたいとか思わないの?」


私はなにかに打たれたかのように固まってしまう。


「そ、そんなこと思わないよ〜!」


「嘘でしょ。学校でも、家でもたくさん苦しい思いして実は何回か未遂してるでしょ」


「知ってたの…?」


さっきまでの楽しさが嘘のように私の額からは冷や汗が溢れ出る。


「あかりのことはお見通しだって。

…実は、お母さんもそう思ってる」


お母さんは振り向き、真剣に私の目を見て言った。


「お父さんからの支配はもうこりごり。このまま終わりにしない?」


「で、でもさ!離婚すればいいんじゃないかな!?死ぬ前に考えようよ!」


「お父さんからは逃げられない。例え別の人と結婚したとしてもあかりはきっと不幸な目にあう」


「そ、そんなこと…」


なんて説得すればいいの。どうしたの?お母さん。


また私の頭はパニックでぐちゃぐちゃになるとお母さんが覆いかぶさった。


お母さんは優しく、子どもの頃のように頭を撫でる。


「つらかったよね、苦しかったよね。ごめんね、ずっと無理させて。もう何も感じずに楽になろ?」


お母さんの鼓動はとても穏やかで心地がいい。


そっか。確かに、この後の人生もいいものか分からない。


ならいっそ、今、お母さんと…


私は泣きながらたくさん首を縦に振る。


「じゃ、行こっか」


お母さんに連れられ、廃ビルのような人気のない建物の屋上へ連れられる。


空は清々しいほどに青い。


「あかり、私はもう疲れちゃった」


「うん、お母さんお疲れ様」


私たちは再びハグを交わす。


「つぎは頑張ってね」


「お母さんも来世では男選び慎重にね」


お母さんは少し笑い、体重を外に傾ける。


私のからだはゆっくりと前に傾く。


大丈夫。怖くない。


もう体の制御が効かない。重力に体を任せて私の体は屋上から地面に向かって落ちていく。


私の体はお母さんの胸の中。


上を向くと…

私の体は既に天地とは逆を向いているから下を向くと言った方が正しいだろうか。


とにかく顔を上げるとお母さんが優しく泣きながら抱きしめてくれた。


それだけで私は幸せだった。


私の体がぐちゃっと潰れる感覚が一瞬わかった。



_______


頭がズキズキと痛む。


あれ?…確かお母さんと飛び降りたはずじゃ…


ゆっくり目を開くとさっきまでいたところとは違う、公園…?のベンチに座っていた。


どういうこと…?


私が頭を整理していると声が聞こえた。


「顔色が悪い…大丈夫ですか?」


「あ、大丈夫で…す…」


私が通っている学校の制服。


声をかけてくれた人の顔を見上げて私は息を飲んだ。


「えっと、ほんとに?」


少し困惑する同じ学校の生徒の顔は良く見覚えがあった。


「お母さん…」


「え?」


目の前にいる同年代の女の子は、紛れもなく私のお母さん。


小野 紬希(おの つむぎ)だった。

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