98 お祭り開始 4
「勝ったね」
俺がそう言うと、二人は悔しげな表情で頷く。
「勝ったけど、相手もまだまだ余力を残しているわ。ここで勝ちを取るために戦っていたら爺ちゃんはもっと苦戦していたはず」
「俺たちが思っていた以上にフリクトが強かった」
「あそこまで動けるとは思ってなかったのか」
そう聞くと兄妹はフリクトの実力を見誤っていたと認める。
「まだまだ鍛錬が足りないか」
「まだまだ若いしこれからだろ」
「そうだけど、年下のお前に若いって言われるのも変な感じだな」
グルウさんの表情が緩む。
先の戦いの感想を話しているうちに、三戦目が始まった。
槍の使い手と剣の使い手の戦いだ。
剣の使い手は魔法も併用するようで、剣に炎がまとわりつく。
グルウさんたちが言うにはフッド炎剣流というそれなりに名の知られた流派だそうだ。
炎による追加ダメージのほかに、炎で武器を隠してリーチなどを誤魔化す効果もあるらしい。
魔法を組み合わせた流派はほかにもあるそうだ。風や土を利用した弓術、水を利用した剣術や槌術などなど。
リーチを生かして戦おうとする槍の使い手が攻めて、炎を飛ばしてリーチの違いに対抗しようとする剣の使い手が隙を見つけて攻撃していくという流れで進む。
俺から見ると技量も強さも上。でもすでに行われた二戦に比べるとおとなしめな感じだった。
グルウさんとミナも同じように感じているらしく、決勝はこの二人ではなくパルジームさんかカルシーンが出てくるだろうと話していた。
そして戦いは終わり、フッド炎剣流の使い手が勝った。
戦いが終わり、舞台上の二人は体力を多く消耗して疲れたような様子を見せている。
見ている側としては派手で見応えがあったけど、次の余裕がなさそうだ。負けた側は当然悔しいだろうけど、勝った側も失敗したとか思ってそうだ。次が始まるまでにある程度疲れを抜かないと、あっというまに負けかねないな。
「さて次はパルジームさんだ。勝ってくれるといいけど」
会場に来る前は勝てるとか言っていたけど、フリクトの戦いぶりを見て、自身の見る目に少し不安を抱いたみたいで断言はしなくなった。
パルジームさんたちの名が呼ばれて、二人が舞台に上がる。
そしてすぐに司会から開始宣言がされた。
パルジームさんが即座に動く。それに対してカルシーンは微動だにしない。ここまで勝ち上がっていて反応できていないということはないだろうし、様子見かな。
そんなことを考えているとあっという間にパルジームさんの双剣がカルシーンに迫る。ここまできてカルシーンは動く様子を見せない。そして剣が命中する。
観客席からはどよめきが聞こえてくる。そんな中パルジームさんは動揺することなく、果敢に攻めた。次々と剣がカルシーンに当たり、着ているものを切り裂いていく。
連撃を受けてもカルシーンは動かない。加えて剣に血が付着していない。
「普通の服なのか」
驚いたようにグルウさんが言う。
さすがに普通の服で参加はしないと思うんだけど。
「パルジームさんの技量が高くて武器もいいものだから切り裂いているんじゃないの?」
「それもある。だが戦闘用の服はあそこまで派手に斬れない」
「ということは今もこれまでも攻撃を耐えてきたのは自前の防御力なのか。すごいな」
「魔力活性の得意分野が頑丈さということもありそうだけど、異常ともいえる硬さだ」
自身の攻撃があまり効いていないと判断したパルジームさんが一度下がる。
それを追うでもなくカルシーンは見ていた。その表情に感情はない。興味を引く相手ではないということか。
見た目だけで判断すれば優勢なのはパルジームさんだが、参加者も観客もそうは思わないだろう。
離れたパルジームさんは魔力活性を行う。しかしすぐに動かない。魔力循環かな?
「魔力循環を使うのか」
グルウさんが呟く。
「パルジームさんは使いこなせる方?」
「俺たちよりましだが、戦闘では使ってこなかった」
「大会というある程度安全が確保された場だから、戦闘中での使用を決めたのでしょうね」
魔力の増加に気付いたようでカルシーンの表情がわずかに変化した。
その増加した魔力が双剣に注がれたのかな。たぶんだけど剣に魔力が込められているように思えた。
表情を変えたのはカルシーンだけではない。パルジームさんも耐えるような力のこもった表情になっている。やはり小さくない負担があるようだ。
「いっきに決めるつもりだ」
「なんでそう断言できる?」
「技を使うつもりだからよ。双剣を左右同時に振ってハサミのように斬るのがパルジームさんの得意な技」
「魔力循環込みのあれは人間相手に使うものじゃないけど、あれを使っても大丈夫なくらい丈夫だって判断したみたいだ。そしてあれじゃなければ勝てないとも思ったんだろう」
パルジームさんが動く。両腕を広げながらまっすぐカルシーンに突撃し、双剣を振り上げた。
ここでカルシーンもようやく動きを見せた。
鉤爪のように右手を動かし、さらに右腕と右足を引いた。
その動きを見てもパルジームさんは止まらなかった。
交差しようとする剣と鉤爪状の右手がぶつかる。
剣が止まる。カルシーンが握って止めたのだ。その手からぽたりぽたりと少量だが血が流れて地面へと落ちている。
それを見てカルシーンの表情が歪む。痛みでの変化ではなく、怒りなんだと思う。頑丈さに誇りがあったんだろうか。
「馬鹿な」
「あれを止めた?」
威力を予想できていた兄妹は目を見開いている。頂点会のメンバーは皆似たような表情だった。
その視線の先で、パルジームさんが地面に叩きつけられた。剣ごと振り回されたのだ。
急いで立ち上がろうとするパルジームさんへと拳が振り下ろされる。それでパルジームさんは再度地面に叩きつけられた。
まだ戦意はあるようでパルジームさんは立ち上がろうとするが、カルシーンがその足を掴んで振り回す。ぬいぐるみでも扱うかのように、パルジームさんは軽々と振り回されて地面に叩きつけられる。
「これは俺にもわかる。技術なんてない純粋な力による暴力だ」
俺の感想をそうだなと言葉短くグルウさんが肯定した。
ぐったりとしたパルジームさんはジャイアントスイングのように振り回されて、飛ばされ地面を転がる。
そのままいけば舞台の範囲内から出て負けただろうが、その前にジャンプして追いついたカルシーンが踏みつけて止めた。苦悶の表情を浮かべるパルジームさんをさらに踏みつけていく。
パルジームさんはされるがままだ。意識があるのかどうかも怪しい。
(そろそろ止めないとやばいんじゃ)
審判も俺と同じ判断を下したのだろう。距離をとっていた審判が試合終了と言いながらカルシーンに近づいていく。
それを聞いてもカルシーンは止まらない。聞こえない距離じゃないし、よほど頭に血が上っているのか。
審判がカルシーンの肩に手を置くと、カルシーンはその審判を裏拳で殴りつける。その威力はすさまじいものだったようで、顔面を血だらけにして審判が倒れた。
客席がざわめく。大会で血が流れることは珍しくはないが、今の状況は明らかに普通ではないとわかるのだろう。
ファードさんたちが救出に動こうと舞台に上がる。
それを見てようやくカルシーンは踏みつけるのを止めて、パルジームさんを舞台の外へと蹴り飛ばした。
血を撒き散らし飛んでいったパルジームさんへと救護班がすぐに向かう。
「見るものは見た。さすがにもう我慢しなくていいだろう!」
カルシーンが空を見上げ、大きな声で誰かに問う。
それに対して返事はなかった。
「答えねえか。だったら好きにさせてもらうぜ!」
カルシーンは服の下から棒状のなにかを取り出すと折る。
次の瞬間、体が膨らみ、猫の顔を持つ魔物が現れた。体は短い体毛で覆われ、手には鋭い爪。人の体に猫の頭ではなく、猫が人型に近い形態になっている。
カルシーンは空へと吠える。それはライオンのような咆哮だった。しかもただの咆哮ではない。肌を刺すような威圧感があり、聞く者を恐怖させ脅かす。動物では放てないものだ。誰もがあれは魔物だと確信を抱くには十分で、客席では我先に逃げようと混乱が起きていた。
舞台上ではファードさんたちがカルシーンに挑んでいる。ファードさんのほかにはロッデス、フリクト、フッド炎剣流の使い手という今日見た者のほかにも強者がいる。
彼らがそろえば安心かというとそうでもない。強烈な一撃を受けて吹っ飛ばされ倒れる者が続出している。カルシーンと戦うには力不足な者たちがどんどん脱落していっている。
「まともに戦えるのはファードさんとフリクトとロッデスくらいか?」
カルシーンの速度に対応できている三人を見ながら言う。対応はできているが、無傷ではない。
「ああ、俺たちが挑んでも邪魔にしかならない」
「見てることだけしかできないの!?」
ミナがもどかしさと不安を混ぜた表情で舞台を見て言う。
「俺たちにできるとしたら倒れた人たちの救助だろう。近づくだけでも危ないがやるか?」
「やるわ。倒れたままだと爺ちゃんたちも気になるでしょうし」
「俺はポーションもらってくる」
戦っているファードさんたちの邪魔にならないように、タイミングを見計らっての救助はできそうにない。二人が助けた人たちに使えるようにと提案すると、二人は頷いて舞台に近づいていった。それに続くように頂点会の人たちも救助に動く。
ポーションをたくさん持っているのは救護班だろうとそちらに行き、わけてもらえるように言うと、こちらでも使うからと物資を置いているところまで取りに行ってくれと言われる。
「ついでだからここに包帯とかも持ってきてほしい」
「了解です」
物資置き場の場所を教えてもらって走る。
物資置き場は会場すぐそばのテントだ。
会場周辺は逃げた人たちが遠巻きにしていた。
それから視線を外して物資置き場に走る。
そこでは会場から出るときに怪我をしたらしい人たちが治療を受けていた。
「すみません! ここにある物資を会場内に運びたいんで、荷車とか貸してください!」
「え、あ、はい! すぐに準備します」
戸惑い顔の大会関係者が頷いて動く。
「あ、あの、中はどうなっているんですか? モンスターが出たとか魔物が出たとかいろいろと聞こえてきたんですが」
手を動かしながら大会関係者が聞いてくる。同じように物資を運んでいる人たちも関心があるのか顔をこちらに向けている。
「出現したのは魔物ですね。どうやったのかわかりませんが、参加者に化けていました。現状大会参加者が挑んでいますが、正直戦力になるのは準決勝出場者たちくらいじゃないかと。それ以下だとどんどん蹴散らされてしまってます」
「倒せそうですか?」
「わかりませんね。魔物と一言で言っても強さは人やモンスターと同じく差がありますから。人でなんとかなる範疇の魔物はいるでしょうけど、物語に出てくるような魔王の側近とかだとかなり厳しいことになるでしょうね」
ゲームにはカルシーンという名の魔物はでなかったからファルマジスのような古の魔物ではないはずだ。
あの時代の魔物ではなく少し年代が過ぎたときに生まれた可能性もあるから、若いとは断言できない。
そもそも魔物がなんの目的で大会に潜り込んでいたのか。
「遠巻きにしている人たちを避難させた方がいいかもしれませんね。避難させたくらいで魔物の暴走から逃れられるかはわかりませんが」
そう言いながら大会関係者は人々を近づけさせないようにしている兵たちに避難指示を頼みに行った。
こちらも物資を積み終わり、荷車を引いて会場へと向かう。
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