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90 予選開始 7

 今日もバフマンと戦い、宿に戻ると従業員に伝言があると呼び止められる。

 町長に呼ばれているらしい。以前も呼び出されたよな、あのときは誘拐事件の礼に関してだったか。

 今回はなんだろう。すぐに来てほしいということなので、武具を外して、汗を拭いたりして身支度を手早く整えて、財布と剣を持って宿を出る。

 歩いていると、予選に勝ったことを喜ぶ声や敗退決定を悔しがる声がちらほらと聞こえてきた。あと六日くらいで予選終了だから、そういった声はもう少しの間聞こえてくるんだろう。

 町長の屋敷に到着し、見たことのある門番に用件を告げる。

 すぐに使用人を呼んできてくれて、敷地内に通された。そのまま応接室へと案内される。

 待つこと十分と少し。町長がやってきた。以前見た魔法使いの人も一緒だ。


「やあ、しばらく。呼び出してすまないね」

「こんばんは。祭りがそろそろ始まるから忙しいんじゃありませんか? そんな時期に俺になんの用でしょう」

「忙しいが、毎年のことだよ。用事というのは聞きたいことがあったんだ。詳しくは彼女から聞いてほしい」


 魔法使いさんも俺に久しぶりと前置きして、事情を話してくれる。


「昨日酔って暴れた冒険者がいるのだけど知っている?」

「噂で聞きました。予選に負けて悔しくて酔って暴れたとか」

「そういう噂が流れているのね。どうして暴れたのかは本人たちが眠ったままだからわからないの」

「まだ眠っているんですか? よほど痛飲したんですね」

「それなんだけど酒を飲んでいないらしいの」


 飲んでない? じゃあ素面で暴れたのか。


「素面で暴れるくらいには鬱憤が溜まっていたんですかね」

「そこらへんは本人たちが起きないことにはわからない。わかっているのは彼らになにかしらの魔法が使われているということ」

「魔法……あのときの子供みたいにですか」


 魔法使いさんは首を横に振る。


「あのときは催眠とわかったけど、今回はわからないのよ。ヒントを求めて、あなたに心当たりがないかと町長が呼んだの」

「呼び出された理由はそれですか。うーん……もう少し症状とかそういった情報がないとなんとも言えないんですが」


 そう答えると魔法使いさんはわかっていることを話してくれた。

 催眠解除の魔法を使ったり、ポーションで治る傷を作ってその刺激で反応を求めたりしたそうだけど、目を覚ますことはなかったそうだ。家族の呼びかけにも無反応。


「取り押さえられるまでは起きていたんですよね?」


 町長が頷く。


「人を自由に動かすものみたいなので、やはり催眠くらいしか思いつきませんね。強力な催眠を使われたことで、解除をはねのけた可能性はないんですか?」

「そうだとしたら解除の魔法に少しは反応するはずなのよ」


 ゲームに催眠解除が無効化される話があったような。あのイベントはどんな話だっけ。

 たしか呪いの指輪を身に着けた冒険者が暴れたんだったか。

 封印された指輪を高性能な魔法の道具と思った冒険者がはめて、町中で暴れ回ったんだ。

 指輪の効果は、身体能力強化と痛覚軽減と疲労軽減に加えて、常時怒るというもの。バーサーカーを生み出す迷惑な指輪で、その指輪に関する伝承が捻じ曲がっていた。

 恐れを知らぬ勇猛果敢な戦士を生み出す指輪が隠されているという伝承を信じて、その冒険者は見つけた指輪をはめてしまった。

 イベントに出てきた魔法使いが操られていると判断して催眠解除の魔法を使ったけど、解除の効果が出ても指輪がすぐに精神に影響を与えて解除の魔法が効かないと思われた。

 最後は指輪をはめている指ごと斬り落として止めた。

 ちょうど若者を狙った怪しい人物がうろついていることだし、怪しい品に操られたとかありそうじゃないか?


「大昔の話で呪いの持ち物に操られていたというものがありますけど。それと似たようなことになっていませんか」

「あの三人の持ち物で危なそうなものはなかったと思う」

「普通のネックレスとかが魔法の品だったりしません?」

「なかったと思う」

「外れでしたか。あとはモンスター化した幽霊に憑依されたくらいしか思いつきませんね」


 これもゲームでの知識だ。滅多にないことだけど、幽霊に憑依されていつもとは違った行動をとるということがあるらしい。


「本で読んだことはありますが、そうそう起きないことだそうね」

「俺もそう聞いています。滅多に起きないことが複数人に起きている可能性は低いと思いますから、これは違うと思いますね」

「うーん、進展なしか」


 町長が残念そうに呟く。


「力になれずすみません」

「謝ることはない。仕方ないことさ、地道に調査していこう」


 調査といえば、少し前に俺に誘いをかけた人の追跡はどうなったんだろ。


「聞きたいことがあるんですが」

「なんだね」

「若者に声をかけて道具を渡そうとしてくる人がいるという話は聞いていますか」

「ああ、聞いている」

「それらしき人に俺も声をかけられたんです。断ったら素直に引いて去っていったんですが、兵がその男を追跡していたんですよ。その追跡でアジトがわかったりしていないのか気になりまして」

「君にも声をかけたのか。浅い階で声をかけられたと聞いている。しかし君はそこそこ深いところで戦っているはずだろう」


 俺のダンジョン事情は、ニルにでも聞いたのかな?


「そのときは多めのモンスターを相手することになって疲れていまして、ダンジョンから出て帰る前にベンチで休んでいたんです。年齢のこともあって浅い階で苦労していると思われたんだと思います」

「そうか。怪しい人物の拠点が見つかったと報告は入っていない。だから追跡途中でまかれたのだろう。ちなみに声をかけてきたのはどういった人物だった?」

「三十歳後半、性格は穏やかそうでした。こちらに同調するような話し方でしたね。理解を示して、話しやすいようにしていたとかそんな感じでした」

「報告に入ってきている人物の一人だな。ほかには五十歳くらいの男、二十歳半ばの女、十代の女がいるそうだ。ある程度変装して話しかけているのか、兵が聞き回っても多くの情報が入ってくることはなかった」


 目撃情報は得られるそうだけど、どこの誰かまではわからないらしい。


「そうでしたか、よほどうまく変装しているんでしょうね」

「そうだろうな。なにかほかに聞きたいことがなければもう終わりにしようと思うが」

「なにもないので終わりでかまいません」

「うむ。今日はありがとう。これで夕食を食べてくれ」


 小銀貨を渡される。

 大銅貨五枚もあれば、そこらの食堂で腹いっぱい食べられるので小銀貨は十分すぎる。

 期待に応えられたわけじゃないから、もらいすぎかなと思ったけど、大金でもないしありがたく受け取っておこう。

 三人で部屋を出て、町長と魔法使いさんはそれぞれの部屋へと去っていった。

 俺も玄関に向かうため歩いていると、ニルと見慣れない老人が廊下を歩いていた。ニルの顔が少し赤い、うっすらと汗もにじんでいる。


「おや、デッサ。どうしてここに?」

「こんばんは。町長に聞きたいことがあると呼ばれたんですよ」

「なにを聞かれたんだい」

「話していいのかな。若い冒険者が酔っぱらった話なんだけど」


 噂になっている部分ならば大丈夫だろうと軽く話題に触れる。


「その話か。いまだ眠っている原因がわからないと聞いているよ。その解決方法を聞かれたのかな」

「そうです。でも有効な情報は出せなかったんだ」

「君でもわからなかったのか」

「俺はなんでも知っているわけじゃないですからね。得意分野はモンスターだし。そういった理由でここにいて、もう帰るところだけど、ニルは体を動かしていたのか?」


 聞くとニルは頷く。


「こちらは俺の剣の先生なんだ。最近仕事ばかりで体を動かせていなかったから、動きを見てもらったんだよ」

「オルドさんにも教えているって聞いたけど、その先生で合っている?」

「合っておるよ、初めましてナルスだ」

「初めましてデッサと申します」

「先生はヴァーデン剣術という流派の道場を王都で開いているんだ」

「初めて聞いた名前だ。というか剣術に関して詳しくないからなに聞いても初めてだったわ」


 ナルスさんは知らないという言葉に気を悪くした様子を見せない。


「もともと別の大陸を本拠地とした剣術だからのう。こちらでの知名度はそう高くはないのだよ」

「なるほど。ニルの先生ということは曲剣をメインに? いやでもオルドさんは大剣を使っていたか」

「片手剣をメインにした剣術だよ。教えてもらったのは剣の扱いという基礎の基礎と戦い方。技術的な部分は、同じ武器を使う騎士に基礎を教わってあとは独学だね」

「片手剣ということは俺と方向性は同じかー。いや我流の俺と比べちゃダメだね」


 相手は何人もの人間が研鑽を積み重ねて作り上げたものだから、比べること自体おこがましいな。


「ナルスさんはどうしてミストーレに? 大会に参加するんですか?」

「いや、この年で参加は厳しいものがある。見学じゃよ」

「頂点会のファードさんが参加しますし、参加してもおかしくないなと思いました」

「あやつも元気だな。しかし今回はどこまでいけるか。本選のいいところまではいくだろうが、準優勝までいければ最高の結果といえそうな気がするわい」

「優勝は今年もロッデスだと考えています?」

「もしくはほかの有力株じゃな。若さのあるロッデスたちの成長にはおいつけまい。対抗するには技術を磨くしかないが、一年で急激に伸びることもないからのう。これまで鍛え続けてきたことには敬意を持つ。だが引退して、後進育成に集中した方がいいと思う」

「そうですか」


 今回の大会を見てナルスさんは驚くかもなー。


「デッサ? なにか楽しげな雰囲気が漏れ出しているよ、どうしたんだい」


 わくわくが漏れたか。人差し指を口に持っていき、秘密だと示す。


「秘密です。ファードさんはきっと楽しめることをしてくれますよ」

「頂点会に関して、なにか情報を持っているようだね」

「大会でわかることだから、お楽しみにとしか言えないよ。では俺はここらで失礼します」


 追及される前にさっさとこの場を離れよう。

 ちょっとした悪戯をしかけた気分だ。魔力循環が披露されてナルスさんが驚くところを見てみたいけど、それは無理だろうし残念だ。

 早足で廊下を歩いて、玄関から出る。

 小銀貨を報酬にもらったし、これで少しばかり豪勢な夕食にしようか。

 帰り道で美味しい店はどこかにあったかなと考えつつ日暮れの道を歩く。

 一般人が贅沢をするときに入るようなレストランを見つけてそこに入り、小銀貨一枚を少しオーバーする料理を食べる。

 肉料理も魚料理も野菜料理も、どれでも美味くて満足できた夕食だった。

 レストランから出て、歩いているとざわめいた雰囲気が周囲に漂っていた。

 なにがあったんだろうと耳をすまして人々の会話に集中する。

 どうやら冒険者が暴れたらしい。昨日の騒動のように酔っぱらった若者だったそうだ。高級レストランに入ろうとして止められ、不満を抱いた感じで暴れたという流れだそうだ。

 酔いつぶれたように見えた若者たちは、つい先ほど兵に捕まり運ばれていったと聞こえてきた。

 

(昨日と同じなら酔ってはいなかったんだろう。高級宿の次は高級レストラン。金持ちとかを狙い撃ち?)


 それをやってなにになるのかと思いつつ、その場を離れる。

 宿に戻って、武器の手入れなどをやったあと眠る。俺は朝まで安眠だったが、また殺人が起きたと起きてから知ることになる。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] バーサーカーを生み出す迷惑な指輪かあ 今回の実験で使われている武具なり道具なりもそういった物を参考にして作られてそうな感じはしますが別口なのかなあ
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