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9 ミストーレ

 小ダンジョンを踏破してから三日で、ミストーレ近くまで来ることができた。

 ここに来るまでに体の動かし方と魔法について教わった。

 四人が見たところ俺の適正は剣らしいが、適正がそれらしいというだけですぐに使えるわけではないので、木剣を使って練習が必要だろうということだった。

 時間があるなら道場に通った方が変な癖がつかないと言われたけど、その時間が惜しいので道場には行かないことにする。

 魔法に関しては、俺が火の魔属道具を持っているから基礎的な使い方が間違っていないかを確かめてもらい、俺が戦士タイプか魔法使いタイプか確認することになった。魔力活性が使えるから、戦士タイプで確定なんだけど、せっかくなんで適正判断のやり方を実体験することにしたのだ。

 ライターくらいの火を出すところを見てもらって、発動に問題ないことがわかる。次にその火を大きくしてくれと言われて、魔力を注ぎこめばいいのかなと実践した。レモンくらいの炎が生じてすぐ消える。

 その結果、戦士タイプだろうという結論が出る。魔法使いタイプならもっと早く火を大きくできるんだそうだ。もう少し持続もするらしい。

 

 この数日のことを思い返しているとミストーレの町らしき風景が遠くに見えてきた。外壁や堀のない町で、周辺には畑や牧場が見える。

 以前は外壁があったらしい。しかしそれは取り壊された。過去に大ダンジョンからモンスターが出てきて暴れ回り、当時の人々は外壁が邪魔で逃げるのに苦労したんだそうだ。

 また同じことがあったとき、すみやかに逃げられるように見張り塔として使う部分以外は壊したということらしい。

 そして二度ほど同じことがあって、人々は壁に邪魔されず逃げて人的被害は抑えられたということだった。

 そのまま歩いて町に入る。どこからでも町に入ることはできるが、いくつかの入口は用意されている。そこで荷物の点検など行う。入口でないところには兵や冒険者が見回っていて、職質されるそうだ。

 入口の一つを通って、五人でゴーアヘッドの建物へと向かう。

 村では獣人や草人は見なかったが、ここミストーレでは当たり前のように道を歩いている。店の数も段違いだ。活気もまったく違う。

 

「あまりあちこち見ているとはぐれるよ」


 微笑ましそうにセンドルさんが声をかけてくる。

 

「俺たちも最初来たときは規模の大きさとか珍しさで似たような感じになっていたよ。大きな町だけあって誘惑も多いから気を付けるんだぞ」

「気をつけるよ」


 鍛える時間が減るから誘惑に負けている時間はないと思う。

 四人の後ろをついていき、大通りから脇道にそれて少しするとカイトーイさんがあれだと指差す。

 体育館くらいはありそうな大きさの建物が見えた。


「大きな建物だろう。あそこでギルドメンバーが寝起きしたり、物資が保管されているそうだ」

「ほかの大ギルドもあれくらいの建物なのかな」

「だいたい似た感じだね」


 四人と一緒に入って思ったことは役所みたいだなというものだ。

 いくつものカウンターがあり、その奥で事務仕事をしている人たちがいる。

 壁にはギルドからの連絡事項や仲間募集が書かれた紙が貼られていて、文字を読める人が読めない人に説明していたりする。

 衝立に依頼書が張られていて、それを見ている冒険者もいる。

 文字を読めない冒険者はカウンターで、ちょうどよい依頼がないか相談しているらしい。

 センドルさんに声をかけられて、空いているカウンターに向かう。

 若い男の受付がいらっしゃいませと声をかけてくる。


「こんにちは。依頼の報告に来た」

「依頼番号をお願いします」


 センドルさんが番号を口にして、受付はその依頼書などを探すため席を外し、すぐに戻ってくる。


「村近くにできた小ダンジョンの踏破依頼で間違いありませんか?」

「それであっている。んでそれは失敗というか、俺たちが踏破する前に踏破された。この場合は失敗になるんだろうか」


 受付は少し考えて場合によると返す。


「どういった流れでそんなことに?」


 センドルさんは村であったことを話していく。俺がいちゃもんをつけられて放り込まれたことも話す。


「なるほど。こちらで確認もしますから、今すぐ失敗なのかどうか判断できません。また十日後くらいに来ていただけますか」

「ああ、わかった。それとは別に金庫からいくらか金を引き出したい」

 

 センドルさんは言いながら木製の札を見せる。

 札を確認した受付は手続きをすませて、センドルさんが欲した金額を用意する。

 

「じゃあ、これを渡す」

「はい、受け取りました」


 竜の石はすでに渡してあるので、これで取引成立だ。

 この様子を見ていた受付は少し首を傾げたが、聞いてくるようなことはなかった。もめていない冒険者同士の取引に首を突っ込まないようになっているのだろう。


「俺たちの用事はこれくらいだ。次はこいつの用事を頼む」

「お金を預かってほしい」


 今もらった金貨から二枚をカウンターに置く。大きなギルドは銀行のようなこともしているそうで、必要以上の金貨を持ち歩くのを避けたい俺にはありがたいサービスだった。


「わかりました。小銀貨三枚の手数料が必要ですが、この金貨から引きますか?」

「いや、別に出す」


 大銀貨一枚を出して、おつりとして小銀貨七枚をもらう。

 書類を受付に代筆してもらい、木製の札をもらう。お金を引き出したいときはさっきのセンドルさんと同じようにこれを見せればいいそうだ。

 そのまま受付からギルドでできることを教えてもらって、五人で外に出る。

 その後は町の案内もしてもらった。

 駆け出しに適した武具店や道具店、食堂、教会、町中央にあるダンジョンの入口。そのほかにはあまり近づかない方がいい危ないところも教えてもらって、最後に宿まで案内してもらった。

 その宿の前で四人とは別れることになる。四人は別の宿を借りているらしい。ここは駆け出しの頃に滞在していた宿で、荷物が増えたことで部屋が狭くなり、別の宿に変えたそうだ。


「今俺たちが使っている宿はパニシブルという宿だ。ここから西の方にある。なにか困ったことがあれば相談にくるといい」

「いろいろとありがとうございました。センドルさんたちも困ったことがあれば言ってください。できる範囲で力になります」


 本当にいろいろと助かった。

 リューミアイオールからあの村の流れで、センドルさんたちも本当は危ないのではと疑っていたところもあった。

 でもセンドルさんたちは本当に親切だった。報酬以上のことをしてくれたと思う。

 できる範囲で力になるというのは本心だ。それくらいに恩を感じた。


「そのときがきたら頼むよ」


 四人は笑顔で去っていく。

 今の俺では力になることはできないだろうし、四人も期待はしていないだろう。そのときが来たら力になれるようにしっかりと鍛えておこう。生き延びるだけじゃなく、恩返しも目的にして頑張ろう。

 四人の姿が見えなくなってから宿に入る。すぐにいらっしゃいと若い女の声で出迎えられる。受付から手招きしていた。

 年齢的には俺と同じくらいの少女がいた。エプロン姿で、黒髪をショートポニーテールにしている。

 

「泊まり客?」

「ああ。一人で一部屋空いているか?」

「空いているわ。どれくらい泊まるのかしら」

「とりあえず一ヶ月」

「お金払える? 前払いだよ?」


 ぼろいマントで巾着もぼろいからお金がないと思われたかな。まあ、仕方ないよね。


「だいたい金貨一枚くらいだろう? それなら大丈夫」


 金貨を渡すと少し目を丸くして、詫びるように頭を下げた。


「これだと一ヶ月と十日くらい宿泊できる。一ヶ月分としておつりを渡した方がいい?」

「いや、そのまま十日分もプラスしてくれ」


 頷いた少女は金貨を引き出しの中にしまって、宿帳を取り出す。

 名前を聞かれて名乗ったあと、宿で受けられるサービスを聞く。

 朝食と夕食を食べることができて、夕食後にはお湯の入ったタライをもらえる。洗濯をしたいのなら裏庭で、大壺に入った水を使ってよい。賃金を払うなら、従業員に洗濯を頼むことができる。

 そういったことを聞いたあと、部屋の鍵をもらう。

 部屋は六畳ほどで、ベッドとタンスと机と椅子という簡素なものだった。掃除はきちんと行われているようで、埃が落ちているようなことはなかった。

 机には魔晶の欠片を入れるランタンが置かれていて、明かりが消えたら従業員に言って魔晶の欠片を補充してもらうことになっている。自分で補充してもいいが、宿賃にこの分も入っているので、自分が持っているものを使うと損することになるそうだ。

 部屋に荷物を置いて、買い物に出ることにする。

 すぐに部屋を出たため、少女はまだ受付にいた。


「おでかけ?」

「必要なものを買いに行こうと思ってな。まずは服が欲しいんだけど、ここらで売っている店はどこだろう」

「古着か新品かによるけど」


 服は古着でもいいな。インナーは新しいのを買おう。

 古着でいいと伝えると、どこにあるのか教えてくれる。

 礼を言って宿を出て、まずは古着屋を目指す。そのあとは武具店、教会って順でいいだろう。

 古着をいくらか買って、一度宿に戻る。買ったものは今着ているベストや襟紐シャツと同じものだ。それら買ったものをタンスに入れて、また宿を出た。

 センドルさんたちに教えてもらった武具店に足を運び、店員に声をかける。


「大銀貨三枚で、足の防具と厚手の服と帽子を買いたいんだ。ちょうどいいものを選んでもらえないか」

「わかりました。体のサイズを測りたいので、少しまってください」


 巻尺を取ってきた店員によって、体のサイズを測られていく。

 何度か頷いた店員は、厚手の服の上下と帽子を取ってくる。

 服は作業服みたいで、帽子はファーのない飛行帽だ。


「サイズがきちんとあっているか確かめたいので、試着をお願いします。その間に足の防具を探してきます」


 向こうでどうぞと店員は試着室を指差す。

 試着室に入って、選んでもらったものを着ていく。腕を回したり、屈伸しても特に問題ないように思える。

 着替え直して、試着室から出ると対応してくれた店員はおらず、そのまま少し待つと店の奥から出てきた。三つのブーツを持ってきていた。


「お待たせしました。試着して動きにくさなどありましたか?」

「いや大丈夫だった」

「それはよかった。では次にこちらをどうぞ」


 革のブーツを差し出してくる。

 脛の半分以上を覆うもので、ベルトでサイズの調整ができるようだ。

 今はいている靴を脱いで、ブーツをはくと少し小さいように思えた。

 それを店員に告げると、別のブーツを渡してくる。

 渡されたものに履き替える。少し余裕があるくらいで、これならベルトで調整もできるから問題はなさそうだった。


「これでいいと思う」

「一度確認させてもらいますね」


 店員は俺が履いている状態で、靴に触れていく。つま先などを指で押して、余裕を確認し大丈夫と思ったのだろう、小さく頷いた。


「以上で購入は終わりでしょうか」

「あとは木剣を選んで終わり」


 店員はあちらにありますよと指差す。籠に放り込まれた木剣が何本もある。

 軽く振っていいか許可をもらってから、籠の中の剣を一つ一つ確認していく。

 木剣を選ぶときの注意点もセンドルさんたちに聞いている。それを参考にして、疲れたときも振りやすいように少し軽めのものを選んで、防具と一緒にお金を払う。

 これらも持ち歩くのに邪魔なので、また宿に戻って部屋に置く。

 道具屋で手鏡といった小物とダンジョンに背負っていけるリュックを買い、教会に向かう。

 そろそろ日が傾き始めて、仕事を終えた人たちが多くなる。

 それらの間を抜けて、教会に到着した。

 ポーション売り場と聖堂は別々で、教会の敷地内の入口そばに売り場が置かれている。

 今も冒険者がポーションを求めていて、それらの後ろに回り順番を待つ。


「ようこそ、ポーションをお求めですか?」


 三十歳を過ぎた修道士がにこやかに聞いてくる。


「はい。一本お願いします」

「瓶はありますか?」


 お金を渡しながら、ないと首を振る。


「今回は瓶の費用もかかります。次回からはこの瓶を渡していただければ少しだけ安く買うことができますよ。あとポーションを使い終わったら、瓶は洗ってください。使用期限が切れたポーションが混ざると効果が弱まることがあります」

「使用期限なんてあったんですね」


 瓶のお金も渡して聞く。


「はい。十日ほどですね。使用期限を過ぎると効果が弱ります。使用期限を五日過ぎると、体に悪い効果が出てきますから注意してください」

「ハイポーションも同じなんですか?」

「ハイポーションにも使用期限はありますが、こちらは二ヶ月と長くなっていますね」


 後ろに客はいないし、ついでに文字をどこで教われるのかも聞いてみる。


「文字ですか。聖堂の方に行ってください。そこに人がいますから、話を聞けるでしょう」

「ありがとうございます」


 礼を言い、その場を離れる。

 聖堂に入ると、いくつもの長椅子が並び、奥に四体の神像が並ぶ。

 村に神像はなく見たのは初めてだ。でもゲームでは見たことがある。ここにあるものはゲームで見たものより小さいけど、それでも二メートルを超す大きさがある。

 左から天の女神キスパー、地の神ゴルトーク、朝の神エンテ、夜の女神ミレインだったはず。 

 キスパーが新年を祝うことに関係して、ゴルトークが収穫を祝い、エンテが誕生を祝い、ミレインは安らかな死を願う。

 神像を見ながら知識の確認をしていると、声をかけられた。


「なにか用事ですか?」


 そちらを見ると同じ年か少し上くらいのシスターがいた。胸辺りまでの長さの藍色の髪をルーズサイドテールにしている。

 胸にはミレインを信仰していると示す聖印が揺れている。

 胸が大きく、そちらに思わず目が固定される。注意を促すようにシスターが小さく咳払いする。

 見すぎたかとシスターの顔に視線を戻すと、照れたようにほんのりと顔が赤かった。

 申し訳ないと一言詫びて、ここに来た目的を話す。


「文字を習いたくてそれに関した話を聞きにきたんだ」

「なるほど、私でよければお話します。同じ神を信仰している者から聞きたいのでしたら、連れてきますので遠慮なく言ってください」


 言われてみると俺はどの神を信仰しているんだろう? デッサは収穫に関わるゴルトークを信仰していたけど、今の俺は特に誰を信仰しているとかないな。大雑把に四神を信仰している感じかな。


「君で問題ないから話を聞かせてほしい」


 そう答えると少しだけ驚いた表情になったが、すぐにわかりましたと頷いた。


「なんで驚いた?」

「顔に出ていましたか。私たちミレインに仕える者は死に近いということで、別の人がいいと言われることがたまにありまして」

「あー」


 この世界の住人は、死を嫌うというか遠ざける気質なんだったか。

 ゲームでもそんなセリフを聞いたのを思い出した。


「気にしないから説明を頼む」

「はい、そちらの椅子に座って話しましょう」


 ハスファと名乗った少女から文字教室について話を聞く。

 週三回、昼過ぎに教室が開かれている。好きなときに参加して、ある程度習得できたと判断したら終わる。

 使う部屋は聖堂そばの空き部屋で、教わる文字はバンデアナ共通語。

 この大陸はバンデアナという名の大陸で、もう一つフィルニカという大陸がある。向こうの大陸ではフィルニカ共通語を使っている。

 会話自体はどちらの大陸も問題なくつうじるが、文字はしっかり違う。

 フィルニカ大陸に行く予定はないし、習うのはバンデアナ共通語だけでいいだろう。

 習おうと思えば、各国固有の文字も習えるみたいだけど必要ない。


「寄付は一回大銅貨五枚だって聞いているけど間違いない?」

「はい。それであっています」

「この説明も寄付って必要なんだろうか」

「いえ、こういった説明には必要ありません。感謝する気持ちがあるのでしたら、神像へと祈りを捧げてください」


 そういうことならと神像に感謝と世話になったことを心の中で告げる。

 これで今日の用事は終わりだ。

 

「世話になった。帰るとするよ」

「お役に立てたのならなによりです」


 椅子から立つと入口の方から足音が聞こえてきた。

 そちらを見ると白い長髪の少女がいた。年齢は一歳か二歳上だろう。青い瞳が俺たちに向けられている。鋭い目つきで、表情もそれに伴い引き締められている。

 ハスファになにか用事なんだろうか。待たせている形だから不機嫌なのかもしれない。さっさと帰ろう。

 少女とすれ違うときに小さく頭を下げて、聖堂から出る。

 背後からシーミンというハスファの声が聞こえてきた。たぶんあの少女の名前かな。

 茜色から藍色に変わり始めた空を見ながら宿に帰る。食堂から客の話し声が聞こえてきて、夕食を食べているんだろうとわかる。

 俺も食べようと、早足で部屋に戻って荷物を置く。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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[一言] お金があったから準備がトントン拍子に進みましたねー ちゃんと巣穴で拾っておいたお陰ですねえ
[一言] 着々と冒険の準備を整えてますね! 命がかかってるけど、ちょっと高揚感もあったりするのかな?
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