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88 予選開始 5

 予選を見たあと、いつもよりこんでいる店で昼食をとり、タナトスの家に向かう。


「いらっしゃい」


 シーミンの部屋に通されて、椅子に座る。シーミンは見た目いつもと変わりない。

 互いにこの数日にあったことを話していく。といってもシーミンの方はダンジョン見回りといういつも通りの日々だったそうだ。

 俺が誘拐現場に遭遇したり、バフマンとの戦いで苦戦したあと怪しい道具を渡されそうになったという話には、いつもよりおとなしいわねとどこかずれた感想を言ってきた。


「魔物に比べるとおとなしい話なのは事実だけどさ」

「大会の裏で暗躍する他国の謀略に巻き込まれたとか言われたら驚くけど、あなた自身は何事もなく終わったし、無難な感想しかでないわ。なにかに遭遇するのはいつものことだし」


 驚く報告ばかりで慣れちゃったかー。


「まあ、そんな感じのことがあったわけだ。ここからはギルドで聞いた話になる。町で殺人があったそうだよ」

「起きてほしくないけど、たまに起こることじゃないかしら」

「人間の仕業か怪しんでいるとギルド職員から聞いた」


 少しだけシーミンの表情が鋭いものへとかわる。


「どういうこと?」


 殺され方が一般人には無理だと話す。


「町中でそんな殺され方をされるのは、モンスターがダンジョンから出てきたときくらいじゃないかしら」

「モンスターだとするとかなり隠密に長けたやつだって職員と話した」

「ダンジョンから出てきたわけじゃないでしょうね。この前にみたいな例外を除けば、予兆があるし。予兆なしで出てくることもあるとわかったから、この先数年はダンジョンの見張りが強化されていると聞いているから、見逃すことはないと思うのよね」

「職員の話だと、そもそも隠密に長けた強いモンスターはここのダンジョンにはいないみたいだ」


 といっても最奥まで攻略されたわけじゃないから深い階にはいるかもしれない。

 でもそんな階のモンスターが出てきたにしては被害が小さい。


「私も聞いたことないわ。となると外から入りこんだ?」

「そうかもしれないし、特別な魔法道具を使ったか。今はおかしな連中がいるし、実験している可能性もないかな」


 話しているうちに思いついたことを口に出す。


「すでに怪しまれているみたいだし、これ以上怪しまれるようなことはしないと思うけど」

「フェムが逃げたようにほかの人も逃げて暴走しているとか」

「そうなのかしらね? うーん、情報が少ないからなんともいえないのよね」

「まあそうだね。あ、話は少し変わるけど、ディフェリアたちに護衛がついているのは知ってる? 若者に怪しいものを配っている奴らとディフェリアに薬を与えた奴らが繋がっている可能性を疑って、あの二人のそばにも現れるかもって兵がついているみたいなんだよ」


 本人たちから聞いているかもしれないけど、一応伝えておこう。


「聞いてはないけど、ディフェリアたちを見ている人がいるのは気付いていた。もしかすると二人を追ってきた連中かと思って、注意するようには言っておいたのよね。見当違いな忠告だったみたいね」

「護衛に関しては兵から口止めされていたのかもしれない」


 シーミンはありえると頷いた。


「そういやローガスさんから、医者が見つかったとかそんな話は聞いた?」

「ギルドを頼って魔法薬専門の医者探しをしてみつけたそうよ。でも今は大会への協力で時間が取れないらしくて、ちゃんと診てもらうのは祭りが終わったあとになりそう。一度だけ診てもらって、必要な費用とかの見積りはしてもらったと聞いた」

「かなりお高いのかな」

「そうらしいわ。使われた薬があれば手間をなくせるから費用を抑えられると言っていたけど、ないからね。ローガスさんはダンジョンでお金集めを頑張っているわ」

「一人で?」

「あの年で一人はきついだろうから、うちと一緒に行っている」

「大丈夫なの? いやタナトスの人たちが無理を強いるとか意地悪するとは思わないけど、ローガスさん普段通りに戦えているのかな」

「正直、調子は落としているみたい。でもうちが親切心で同行しているとわかっているから、不平不満なんか感じていられないと言っていたわね」


 多少調子を落としても、同行者がいればフォローしてもらえるし、そのありがたさを思えば不平不満なんてでないわな。

 タナトスの一族はローガスさんたちをフォローする必要はないんだし、親切心でやってくれているってわかりやすいのだろう。


「ローガスさんがダンジョンに行っている間、ディフェリアはどうしているんだ?」

「うちの子たちと一緒にいたり、私のそばで静かにしているわね」


 今日はローガスさんと一緒にダンジョンに行って、鍛えるついでに戦闘意欲の発散をしているそうだ。


「相変わらずシーミンに従う感じなのか」

「そうね。離れていく感じはしない」

「薬の効果がなくなっても、その影響が残ってタナトスの一族と接するのが平気になるかも?」

「どうなのかしら。気配に反応してはいるんだし、あなたみたいにはならなさそう。私たちの暮らしぶりを見て、一般人と変わらない感性とはわかってくれるだろうけどね」


 それをわかってくれるだけでもありがたいとシーミンは言う。

 ディフェリアやローガスさんがほかの人にタナトスの一族について話してくれれば、少しは印象が良くなるだろう。

 それで劇的に対応が変わることはないだろうけど、少しずつでも変われば馬鹿なことを言ってくる人も減るかな。

 扉がノックされて、シーミンの母親がお茶のおかわりを持って入ってくる。


「こんにちは」

「こんにちは。最近は無茶していない?」

「判断ミスはしましたけど、無茶は控えていますよ」


 即座にないないとシーミンが手を振る。


「あなたと私たちの無茶の基準が違うからね。話を聞いて相変わらず、無茶していると思ったわよ」

「ある意味いつも通りなのね」


 仕方ない子ねと手のかかる子供を見るような目で見られた。

 今はどこでなにを戦っているのか聞かれて、バフマンと戦っていると返す。


「ああ、たしかに無茶しているわね。一人であれと戦おうとはしないものよ。数が集まると厄介だからねぇ」

「昨日九体と戦うことになって体験するはめになりましたよ。魔力循環でどうにかしましたけど、同じことをやりたくはないですね。すっごく疲れましたし」

「一人で九体を相手してよく切り抜けられたと思うわ。魔力循環は使いこなせれば役立つのね」

「タナトスの人たちは魔力循環に関して進展ありました?」

「劇的なものはないわ。少しは気分悪くても動けるようにはなったけど、戦いに使えるようにはなっていない。結果を出せるようになるには、まだ時間がかかるでしょうね。頂点会でも似たようなものだと思う」

「向こうはうちより魔力活性を鍛えている人が多いから、結果を出せるようになるのは早いはず。それでも負担に耐えながらになるだろうから日常的に使えず、いざというときの切り札的な使い方になると思う」


 シーミンも魔力循環について考えを述べる。

 俺やファードさんみたいに使えるのはまだまだか。


「シールが浸食を軽減してくれるんだし、そこらへんを応用すればなんとかなるのかな」


 かなり難しいだろうとシーミンは言う。


「あれは外部からの干渉に対して防ぐもの。魔力循環は体内で起こる現象だから、ちょっとした応用程度だと意味はないと思う」

「私も同感ね。シールを使える人たちが浸食治療に関して研究を進めていれば、ありえるのかもしれない。でもシールの魔法を使えるだけで生きていくのに困らないから、研究をしている人はいないかもしれない」

「頂点会から支援の話があれば、研究を始めるかもね」


 もしそれが実現すれば、どんな効果になるのだろうかと三人で話す。

 シールのように継続するような代物にはならず、ポーションで怪我を治すように負担が生じるたびに魔法を使う必要がありそうだと結論が出た。


「シールを使える魔法使いがダンジョンとかに同行してくれるかどうか怪しいわね」

「わざわざ危ない目に合わなくても暮らしていけるしね」


 ある程度魔力を増やすためにダンジョンに通う必要はあるものの、必要量の魔力が手に入ればその後は地上でシールを使うだけだ。

 そう言って親子が頷き合う。


「実現の可能性は低そうだ」

「頂点会ならどうにかするかも。今度会ったら伝えてみてもいいんじゃない?」

「そうしてみよう」


 話題に一区切りついたと母親は去っていく。

 次はなにを話そうかとシーミンは話題を探しつつお茶を飲む。そしてすぐに思いついたようで口を開く。


「予選を見てきたそうだけど強い人とかいた?」

「一人いたよ。狐の獣人で、しかも変わった武器を使っていた。ツインブレードって知ってる?」


 首を横に振って知らないと示したので、形状とかを説明する。


「扱いづらそう。私たちが使う大鎌も珍しいけど、それは大鎌以上よね。この町で暮らしていて見かけたこともないわ」

「かなり練習していたようでぎこちなさなんてなかったよ。舞い踊るようにとまではいかないけど、軽やかだった」

「本選出場しそう?」

「でるんじゃないかな。美人で、強くて、珍しい武器っていう注目を集める要素がそろっているから、かなり目立つだろうね」

「そんな人がねぇ。ほかに出場しそうな人はいた?」


 俺が見たところ、飛び抜けて強かった人はいなかったな

 ギルドで聞いたやりすぎな人がいるということを話して、その後雑談を少ししてシーミンに別れを告げる。

 タナトスの家を出て、まだ帰るには少しばかり早いと思い、教会に行ってみる。ここしばらくハスファと会ってないし、元気にしているか顔を見ることにした。忙しそうだったら会えなくても仕方ないと思いつつ、教会の敷地内に入る。

 ポーションを求める人たちの横を通り過ぎて、聖堂に入る。

 そこにいるシスターか修道士に、客の対応をできる時間があるかどうか聞いて、あるならハスファを呼んでもらおう。

 シスターがいたので聞いてみると大丈夫ということなので、ハスファを呼んでもらう。

 十五分ほど待つと、ハスファがやってきた。


「こんにちは、デッサさん」

「こんにちは。忙しい時期にすまんね」

「いえ、こっちも無茶していないか少し気になっていましたので。それでなにかご用事ですか?」

「昼にシーミンに会ってきたんで、ハスファも元気か確かめてみようと思ったんだよ」

「そうでしたか。色々とやることはありましたが、疲れすぎることもなく生活していましたよ。シーミンは元気でした?」

「特に変わらず、いつも通りだった」

「あなたはどんな無茶をしてきました?」


 うーん、この変な方向の信頼よ。


「俺としては無茶はしてないつもりなんだけどね。シーミンたちに言わせれば無茶らしいけど」

「やはり無茶をしていたんですね」

「そこはシーミンたちを信じるんだ」

「これに関してはシーミンたちの方が信じられますし」


 苦笑してここ数日なにをしていたのか話す。

 バフマンとの戦いで警戒を怠ったせいで苦戦したことを聞いたハスファは、もっと余裕をもって戦わないと駄目ですよと言ってくる。そのあとにめっと人差し指を俺に向けてきた。

 俺は子供かとつっこむと、昼に小さい子たちの相手をしていたからついやってしまったと照れた様子を見せる。


「ハスファはずっと教会の中で仕事をしていたのか?」

「はい。幹部たちは外に出て祭りの会議に参加していたりしますが、私たち普通のシスターたちはいつもの仕事や念入りな掃除や祭りの手順を覚えたりしていました」


 いつもの仕事か、葬儀もしたのかな。


「ちょいと暗い話になるけど、町で人が殺された。その葬儀もここでやった?」


 ハスファは少しばかり顔を顰めて頷いた。


「遺体の状態が見慣れないことになっていた件ですね」

「ギルドの職員から聞いたんだけど、あれは人間がやったことなのか、モンスターがやったことなのかわからなくてね」

「こちらとしてもなんとも言えません。一般人の力では無理、一人前の冒険者でも難しい、モンスターだとしても浅い階層にいるものでは無理。また魔物が入り込んでいるのではという意見もあるそうです」

 

 以前この町に魔物が現れた実例があるから、またと考えてもおかしくないわな。


「魔物だとしても、そんなちまちまとやるものかな。狙いがわからん」

「魔物の考えなんてわかる人はいないと思いますよ」

「そりゃそうだ」


 でも魔物か。策を巡らせるだけの知能はあるんだ。なにか狙いがあったとしてもおかしくない。

 以前来た奴がなにか仕込みをして、今回それをもとに動いている可能性は……考えてもわからん。以前来た奴がなにをしたかったのかもわからないのに、考えてわかるはずがない。

 それに今こうして話題に出てきたということは、町長にも話がいっていると思う。考えるのは向こうに任せて、俺は鍛えることに集中しとこう。


「俺は今回の祭りが初めてなんだけどさ。毎年殺人とか起きるもんなのか?」

「諍いの末に殺してしまうということはあります。お酒が入ってやりすぎたり、スリや詐欺にあってストレスが溜まったりですね。ですが今回のような遺体は初めて見るという話です」

「なにが起きているんだか。大事にならないといいけど」

「はい、無事に賑やかな祭りで終わってほしいです」


 話していると聖堂の入口から人を呼ぶ声が聞こえてきた。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] タナトスの一族、いい人達ばかりなのにその存在が周囲に与える影響が強すぎますよねえ
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