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8 大ダンジョンのある町へ 3

 教会について聞いて次はモンスターについてだ。


「五階までに出てくるモンスターでいいか?」


 センドルさんにそれでいいと頷くと、説明が始まる。

 一階にはグリーンワームというモンスターだけがいるそうだ。ゲームでもいたやつだ。

 体長七十センチくらいで、動きは人間の歩きと同じ速さ。口から粘着液を吐き出して地面にばらまき動きを阻害してくる。体を丸めて体当たり。

 センドルさんたちが話すグリーンワームの動きはゲームに出てきたものと同じだ。弱点は頭部だったはずだから、戦うときはそこを狙うのがいいだろう。

 二階にはグリーンワームと噛みネズミが出てくる。

 噛みネズミもゲームに出てきた。噛む力が強く、皮膚を簡単に突き破ってくる。動きもそこそこ速いが、頑丈ではない。

 勧められた足の防具を買うなら、わざと足を噛ませて叩くのがいいらしい。

 大きさは猫よりも大きく、逆に猫を餌にしそうだ。

 三階は噛みネズミのみで、四階にはハードホッパー。五階にはハードホッパーと跳ね鳥。

 ハードホッパーは体長四十センチくらいのバッタで、勢いのある体当たりをしかけてくる。跳ね鳥は飛べない鳥だ。見た目は丸っとしたスズメで、鶏のような動きをするモンスター。大きさは鶏よりも大きい。

 センドルさんたちが話したモンスターはどれもゲームに出てきている。詳細を聞くと、動きはゲームとそう変わらないので、弱点も変わらないと思う。


「準備をしっかりとしたら三階までは簡単にいけるだろう。だが武具のおかげであって、上手く戦えるというわけじゃないから噛みネズミで戦いに慣れることを勧める。そのまま調子に乗って四階に進むと、ハードホッパーの体当たりで痛い目をみることになるからな」

「噛みネズミでどうやって戦いに慣れたらいいんだ?」

「さっき言ったわざと噛ませて叩く方法ではなく、動きを良く見て避けて攻撃を当てるという戦い方をするのよ」


 レミアさんがすぐに答えてくれた。


「噛みネズミの動きに慣れたら、ハードホッパーに後れを取ることはないはずよ。モンスターに関してはこれくらいかしらね。追加の注意点としては人間に警戒心を持つこと」

「人間に?」

「ええ、馬鹿はどこにもいるものでね。囮に使おうとしたり、武具を奪おうとしてくる人がいるのよ。ダンジョン内だと仲間以外は常に警戒するくらいでちょうどいいわ。ほかの冒険者を見かけたら近づくことを嫌って、別の通路を選んだり、来た道を引き返す冒険者もいるくらいよ」

「ピンチになって助けを求めてくる人もいそうですけど」

「いるわね。でもダンジョン内って自己責任なのよ。何が起きてもダンジョンに入った自分のせいなの。ピンチになるのは準備を怠ったか、調子に乗ったか、警戒が足りなかったかのどれか。見捨ててもその人たちが恨むくらいね。その人に親しい人も思うところはあっても仕方ないという反応だろうし、ほかの冒険者は責めるようなことはないわね」


 自己責任ということを利用し、ダンジョン内での暗殺も行われていると言う噂もあるらしいとレミアさんは締めくくる。


「まあ人助けは良いことではあるが、ダンジョン内では自分が死ぬことにも繋がる。それを覚えておいてくれ」

「だとするとピンチになったら逃げるか死ぬかで、助けは期待できない?」

「仲間がダンジョンの外か特別仲の良い冒険者に助けを呼びに行ってくれる可能性はある。助けがくるまで生き延びることを優先だな」

「一人で探索するのはやめておいた方がいいということ?」


 続けて疑問に思ったことを口に出す。


「やめておいた方がいいな。浅いところなら一人でもやれるだろうが、深いところは仲間の助けが必須だろう。といっても一人でダンジョンに向かう者は少ないがいる。だから無理ではないんだろう。お勧めはしないけどな」


 ギルドで仲間を募集するか、募集している者たちに声をかける方がいいとセンドルさんは言う。

 でも俺の目的だと、一人の方がいい。強くなるのが最優先だから、ほかの人と歩調を合わせて進むのは難しそうなんだよな。

 強くなるために無理する必要もあるだろう。それを反対されるのと困るのは俺だ。

 それとゲームだとモンスターを倒して得られる経験値はパーティ人数で割るという形だった。こっちもでもそれが同じだったら、一人で戦った方が得られる経験値は多いはず。

 

「今は仲間の重要性をあまり理解できていないようだが、先に進むと考えが変わるかもしれない。そのときはギルドで仲間と出会えると覚えておいてくれ」

「わかった」

「あとギルドと一口に言ってもわからないかもしれないから、そこも説明しておこう。ギルドとは冒険者の集まりだ。冒険者の集まりってだけなら俺たち四人もそうだが、俺たちのような少人数はパーティと呼ばれる。ギルドは組織だったものになる。冒険者の集団がいて、拠点を持ち、依頼の受付をしているのがギルドだ」


 ミストーレには大きなギルドが三つあるとカイトーイさんが付け加えてきた。


「冒険者をするにはギルドに入る必要があったりする?」


 その必要はないとカイトーイさんは首を振って続ける。


「ギルドに入ればただ利用するだけより良い点がある。だが入らなくても冒険者としてやっていける。俺たち四人も利用するだけで入ってはいないしな」

「とりあえず四人が利用しているギルドの特色なんかを聞かせてほしい」

「わかった。俺たちが使っているギルドを立ち上げたのはゴーアヘッドという名のパーティだ。ダンジョン探索と冒険者の手助けをメインにしたギルドだ。冒険者たちの利用が一番多いところでもある。仲間を探すならここだな」

「そういった大ギルド以外にも中規模や小規模のギルドはある?」

「あるぞ。ただそういったところは積極的に依頼は受けず、寝泊まりしたり倉庫として使われていることが多いな。町の住民たちも依頼を頼みたい場合は大きいところに頼むし。そういうところに行く依頼は、大ギルドで断られた専門性の高い頼みだったり怪しい頼みだったりする」


 怪しい依頼か。依頼人が正体を見せないとか、危険物をどこかから集めてくれとかそういったものかな。さすがに暗殺といったものはないだろう。


「怪しいのは小規模なギルドも断ると思うけど」

「ギルドの名前を広げるため受けることもあるんだそうだ。ほとんどは失敗することになるという噂だ」


 普通の依頼はどのようなものがあるのか聞いてみる。

 多いのは小ダンジョン踏破、どこかで素材を取ってくる、町中と外のパトロール、道の整備。この四つだそうだ。

 商人護衛もそれなりの数があるそうだが、これはギルドからの信用が高い者でないと受けられないらしい。

 いい加減な人を送って護衛の失敗や中途半端な仕事をしたらギルドの評判が落ちるから、しっかりと仕事のできる人を送るんだろうな。


「ひとまず知識としてはこんなところだろう。あとは町に着くまでに疑問に思ったことを聞いてくれれば答える」

「そのときはよろしく」

「ほかには休憩中とか時間があるときに、武器を振ってみたり動きの確認とかしようか。少しはモンスターとの戦いが楽になるだろう」

「助かる。よろしくお願いします」


 歩きながら頭を下げる。戦闘は本当に素人だからそういった指導は助かる。

 話題は雑談に移っていき、その中でギルドの残り二つについて聞いたりもした。

 強くなることを第一とした頂点会、売買をメインとしたカンパニア。この二つがあるそうだ。

 頂点会は三つの大ギルドの中で一番規模が小さいもののギルドメンバーは実力者そろい。貴族から引き抜きの声がよくかかるらしい。ギルドの上から三人は国内トップ3でもあるらしい。

 カンパニアは商売に力を入れていて、冒険者を引退した後に商売をしたい者が商売のイロハを習いにいくそうだ。いろいろな品物を扱っていて、手に入らない品はないのではとも言われているらしい。

 そういったことを話していると、ダンジョンに向かうのになにか目的はあるのかと聞かれた。


「強くなるため。強くなる必要があって、あちこち放浪するより、大ダンジョンに行った方がいいかなと思ったんだ」


 呪いのことは話さなくていいだろう。命がかかっているとか軽い事情じゃないし、聞かされる方も嫌だろうしな。


「ミストーレは治療施設とか武具店とか道場とか必要なものはそろっているからな。強くなりたいならいい場所かもしれない」

「四人はなにか目的あるのか?」

「俺とカイトーイは故郷にギルドを作りたくて、金貯めとかギルド運営のあれこれを求めてミストーレに行った」

「俺たちの村や周辺の村は大きくなくてな。ギルドはないんだ。だからなにかあれば守ってくれる冒険者も少ない。ギルドができれば故郷が守れるとセンドルが言って、俺も付き合うことにした」

「故郷が好きなんだな」


 センドルさんとカイトーイさんは頷く。

 今の俺にとっては日本が故郷という意識が強いから、この世界の故郷に思い入れはない。日本の故郷にも強い思い入れはない。死んだ記憶があるのが大きいと思う。日本との繋がりが切れたと自分の中で思っているからなんだろうな。


「私は単純にお金のためね。父親が冒険者で、ちょっとした手ほどきを小さい頃からしてもらって冒険者としてやっていけそうだったから、ここに来たの。ほとんどの冒険者は私みたいにお金目的だと思うわよ」

「私は里の外を見るためですねー。成人になるための試練とかそういったもので、世の中を見てみようとあちこちに行くことを選びましたー。冒険者はあちこちに行くのに都合が良いからやっていますー」

「なるほど。なり上がって一発逆転とか夢見る人はそんな多くない?」

「いるわよ。酒場とかで酔った勢いでそんなことを言っている人はいる。でも大成する人はほぼいない。世の中、そんなにチャンスが転がっているわけじゃないし」

「ある程度のお金を稼いで故郷に帰っていく冒険者がほとんどだと聞きますねー」

「冒険者を無事やり遂げて、お金を持って帰れたら、わりと成功の部類な気がする」


 俺がそう言うと、四人は同意する。


「モンスターと戦うことがメインの稼業だから死ぬ人もそれなりにいる。そんな仕事で無事引退できたら成功したと言えるだろうな。無駄遣いしなければ貯蓄もそれなりになっているだろうし」

「俺たちも無事引退できるように気をつけないとな」


 センドルさんとカイトーイさんが頷き合う。

 ほかにはミストーレの美味い店などを話していき、夕方頃に大きな村に到着する。

 昨日の村と違って宿屋があり、そこで部屋を取る。

 雑貨屋があるということなので、買い物に行くことを四人に告げて宿を出る。

 ほしいのは着替えやマントや手ぬぐいや財布や水筒などだ。でも服はさすがにないだろうから、水筒と財布になる小さな巾着があればと思いつつ店に入る。

 店に入ってすぐわかったけど、俺は文字が読めない。壁に貼られた文字が読めなかったのだ。どうやらデッサは勉強をしてなかったらしい。あとでセンドルさんたちにどこかで文字を教われるのか聞いておこう。

 店主に声をかけて、欲しいものを告げる。やっぱり服はなく、マントもない。竹っぽいものを加工した水筒と手ぬぐいと巾着と木製のカップと皿を買って店を出る。

 ほしいものはまだまだあるが、ミストーレについて買った方がいいだろう。ひとまずはミストーレに着くまでに不自由しないものを買えばいいはず。

 宿に戻り、とった個室で巾着の中に買ったものを入れる。

 やることがなくてベッドに寝転ぶ。記憶が戻って初めてまともな寝床を得られた。存分に堪能しようとゴロゴロしていたら、扉がノックされた。

 センドルさんたちが夕食をとろうと呼びにきてくれたらしい。

 財布を持って部屋を出る。

 夕食はチーズとジャガイモのガレット、ベーコンの入った根菜スープ、焼いたパプリカ、パンだった。

 

「俺たちはワインを飲むけど、デッサはどうする?」

「いやいらない。飲んだことないから強くないかもしれないし。今のところ特に興味ない」

「そうか」


 センドルさんたちも少し飲むだけのようで、一本を四人でわけあうみたいだ。

 食事をしながら、文字をどこかで習えるのか聞いてみる。


「文字を教わりたいんですかー。勉強熱心ですねー」

「熱心? 覚えた方が便利だと思っただけなんだけど」

「冒険者の半分以上は自分の名前と数字くらいしか覚えていませんよー」


 そうなのか。日本生まれとしては文字の読み書き習得は当たり前という感じなんだよな。


「文字は教会に行けば教えてくれるぞ。計算もな。いくらか寄付を求められるが、それは当然だな」


 センドルさんとカイトーイさんも教わりに行ったようで、いくら寄付をしたのか教えてくれる。


「習うのは文字の読み書きだけだなー。計算は基本を教わったことがあるので」


 数字の扱いが二進法とかだと困るけど、この世界も十進法みたいだから問題はない。

 基礎ができていれば普通に暮らしていけるだろうし、それ以上は必要ないだろうね。

 食事を終えて、部屋に戻る。ここは風呂はないけど、タライを部屋まで持ってきてくれるので、それで体をふくことができる。

 丁寧に体をふいて、髪を洗い、使い終わった水でパンツも洗って部屋の中に干しておく。

 タライを廊下に出して、ベッドに寝転ぶ。

 こうして落ち着いてだらだらできるのは幸せなことだったんだな。

 日本で暮らしていたときはマンガやテレビやネットで暇を潰せた。今はすることはないけど、平和な時間が過ぎていることにありがたさを感じる。

 いきなり起こされてダンジョンに放り込まれるなんてことを経験すれば、平穏をありがたく感じて当然だな。

 ミストーレについたらすぐにダンジョンに入って忙しくなるだろうし、このゆったりとした時間を満喫しよう。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 良心的な冒険者と交流して学び、必要な物を買い、少しづつ冒険の準備を整えていく。 デッサの冒険はこれからだ!
[一言] 美味しい肉になるためなんて言ったら正気を疑われますもんねえ 冒険の準備を整えるまでも一苦労ですね〜
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