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74 いつもの日常へ 後

 整備に出した武具が出す前よりも綺麗になって戻ってきて、ダンジョンを進むことにする。

 三十一階のモンスターは蜂だ。名前はラージホーネット。

 蜂のモンスターとは二十階を過ぎたあたりで戦ったことがある。あちらはラージワスプという名前だった。

 ラージホーネットは人間の子供くらいならば余裕で抱えられるくらいの大きさで、腹部の先端から常に出ている針にはうっすらと毒液がまとわりついている。

 ゲームで毒を受けると移動するたびにわずかなダメージが入ってきた。こちらでは針での攻撃を受けたところを中心に常に痛みがある感じらしい。放置しても死ぬことはないそうだけど、かなりの痛みが一日中続くらしいから、痛みを抑える薬をあらかじめ飲んでいった方がいいと勧められた。

 朝食のときに薬を飲んで、武具を整えて宿を出る。

 インプと同じようにダンジョン内を飛び回るラージホーネットだけれども、こちらの攻撃が届かない位置から攻撃をしかけてくるといったことはなく、インプより戦いやすいモンスターだった。

 三十一階を楽に通り抜けて、三十二階へと進む。

 そこに出てくるモンスターはブラックスネークという大型の蛇だ。全長五メートル、胴回りは電柱の太さより小さめといったくらいか。

 噛みつきと締め付けと尾の振り回しといった攻撃をしてきた。

 それなりに頑丈だったけど、適正の階より下だからか苦戦らしい苦戦をすることはなかった。

 三十三階ではグレートインプ、三十四階ではレッドワームがでてきた。

 インプの二段階上がグレートインプで、強力な魔法を使ってきた。ファルマジスとの戦いに備えて買った魔法防御の護符を使ってさっさと走り抜けることにしたため、あまり戦っていない。

 レッドワームは熱い液体を吐き出してきた。吐き出す挙動がわりとわかりやすいので一対一ならまず液体を浴びることはない。

 複数でいっきに液体を吐かれると厄介なので、少数とだけ戦った。

 そして三十五階に進み、シーミンたちから以前話を聞いたニードルスネイルと相対する。

 背負う殻に攻撃すれば剣の刃が欠けるのはわかりきっているため、柔らかい胴や顔に攻撃することになる。それをニードルスネイルもわかっているので、殻で防御してきたり、接近戦でも針を飛ばしてきたりして攻撃の邪魔をしてくる。

 雷撃の護符を使えば、数秒動きを鈍らせることが可能と聞いているので、護符を使って戦っていった。

 ニードルスネイルは戦いにくい部類なので、長く滞在することはなく、三十六階に進む。

 三十六階に出てきたのは、クローバードという蹴爪の立派な大型のフクロウだ。蹴爪は力強いようで、壁や天井にぶら下がっている姿も見られた。

 攻撃にも蹴爪を使ってきて、金属製の籠手や兜に細かな傷を残してきた。防具に傷を残せるくらいだから、肉体に攻撃が当たるとあっさりと皮膚を切り裂いてくる。

 複数で攻撃してくるモンスターでもあるので、細かな傷が絶えない戦いが続いた。

 三十七階にはゴーレムの一種であるウッズドールがでてきた。頭部や胴や腕足は木製で、それらを繋ぐ節々は根のようなものが絡み合っていた。これも硬い敵ではあるのだが、ニードルスネイルの殻よりはましで、大きさも成人男性とそう変わらず、戦いやすい部類だった。

 燃えやすいというわけではないが、火属性で攻撃すると若干柔らかくなるため、安物の護符でも持っていけばわりと楽ができた。

 そろそろ適正階なので、戦いやすいここで鍛えて、護符と魔力活性なしで戦えるようになったら次に進もうとしばし滞在することにした。


 七階ほどいっきに進んで、滞在して鍛えるといったことをするうちに夏も盛りを過ぎて、夜には秋の気配を感じさせるようになった。

 祭りまで一ヶ月といった時期で、町のあちこちから祭りに関した話題が聞こえてくる。

 準備も進められているようで、広場などで役人が露店設営に関する調べものをしている姿を見たこともある。

 冒険者たちの腕試しに使われる会場も設営のため資材が町の外に置かれていて、各ギルドで手伝いが募集されているようだ。

 ローガスさんたちはまだミストーレに滞在していた。捕まえた野盗から情報を得られて、自分たちの居場所が正確に捕捉されているわけではないとわかり、医者探しとお金稼ぎをここでやっていくと決めたそうだ。

 野盗たちはディフェリアに薬を使った商人と繋がりがあることは判明したが、彼らがどういった集団なのか詳しいことはまだわかっていないらしい。その部分に関しては口が堅く、厳しい尋問に耐え続けているそうだ。

 そんな話をローガスさんたちは兵から聞き、シーミンに会いに家まで行って話すのだそうだ。そして俺は二人から聞いたことをシーミンから聞く。

 ちなみにシーミンと友達になったのではなく、下につこうとするディフェリアにタナトスの人たちは困惑したらしい。

 俺みたいに反応しないのも珍しいが、部下になろうとする者も珍しいそうだ。

 俺とディフェリアという二人を引き寄せたシーミンもまた変わっているのかと、タナトスの人たちは不思議がっていた。

 それにシーミンは「私は変人じゃない」と頬を膨らませていた。


 今日もウッズドールとの戦いを終えて、魔晶の欠片を売るためギルドに入る。

 何度も戦っているので慣れと経験値が溜まったことで、最初より楽に戦えるようになっている。

 そろそろ次に進む時期かなーと思っている。


「よお、久しぶりだな」


 声のした方を見るとゲーヘンさんがいた。


「お久しぶりです。ここしばらく顔を合わせていませんでしたね」

「俺はちらっと見たりしたんだが、互いに声をかけるほど時間はなかったな。ここ最近はどんなふうに過ごしていたんだ?」

「俺は相変わらず一人でダンジョンに行ってましたね。今はウッズドールを相手に鍛えているところです」

「進む速度が速いな。無理をしてないか」

「大丈夫ですよ。ゲーヘンさんはどうしていたんですか?」

「俺は依頼を受けてあちこちの町に行っていた。祭り関連の手紙を届けていたんだ」


 ミストーレから出ていたなら顔を見なくて当然だ。


「わざわざ冒険者に運ばせるってことはそれなりに重要な手紙だったんですかね」

「だろうな。そういった手紙をなくしたりすると責任を問われるが、しっかり仕事をすれば報酬も評価もうまいんだ」


 引退を考えるならやっておきたい仕事なのかな。今の俺には関係ない話だけど。


「町が祭りの話題で染まり出しましてますけど、よその町でも似たようなものですか」

「鎮魂とか祈りとか考えず、大きく騒げる祭りだから、どこも楽しみだって似たような感じだ」

「地の神に感謝してあとは大騒ぎって感じですか」

「そうだな。俺たちにとって大騒ぎといえば力試しの大会だが、デッサはでるのかい」

「ほかの人にも聞かれましたけど、でませんね」

「そうなのか。若い連中は出る奴が多いんだけどな。力を試したいとか騒ぎたいとかで」


 優勝を狙うとかじゃなくてただお祭り騒ぎに便乗して参加って人がいるんだろう。


「俺は余裕ができたらですかねー。気合が入っているのは若い人たちだけ?」

「中小ギルドは本選に残って活躍すれば名が売れるから気合を入れているぜ」


 優勝すればいっきに大ギルドの仲間入りも夢じゃないだろうけど、ファードさんたちが大きな壁だろうな。


「参加といえば予選はいつからなんでしょ」

「祭りの前十日から始まるな。会場そばに受付ができてな。そこに登録して、五戦のうち三勝すれば本選に出場できるんだ」

「戦う相手は参加者が自由に選ぶんですか、それとも大会を運営する人たちが選ぶんですか」

「大会運営だな。参加者が自由に選べると確実に勝てる相手を連れてくるなんて不正ができる」


 そりゃそうか。不正を気にするってことは、しっかりとルールとか制定されてそうだ。


「会場は町の外に準備されるんでしたっけ」

「ああ、そうだ」


 会場は昔から使われているところがあり、カルデラのように土が盛られているそうだ。そこを毎年土を補充したりして使い続けているらしい。一般人用の座席には長い木板が置かれてベンチ代わりになって、金持ちや貴族用の見物席は本職の大工たちがしっかりと作る。

 そこが使われるのは本選からで、予選は会場の周辺で行われる。それの見物は無料だそうだ。


「前の方の席やしっかりとした作りの席は有料だが、後ろの方は無料で誰でも見物可能なんだ」

「へー、間違えて有料の方に行かないようしないと」

「不注意で入ったら、一声かけられて移動するだけだ。そのまま居座ろうとすると罰金もかねて多めに見物料を払うことになるけどな」


 ほかにも貴賓席の近くには護衛がいるから怪しまれると厄介といったことや、大会に参加する外の冒険者はすでに来訪してきているといった話を聞いて、ゲーヘンさんと別れる。

 魔晶の欠片を売り、どれくらいお金が貯まったか受付に尋ねる。

 以前の稼ぎで稼がずとも生活していけていたので、ここ最近の収入はすべて貯金に回していたのだ。

 貯まっていた金額は金貨四枚ほど。これくらいあれば金属の鎧を買うことができそうだ。先に進むことを考えたら、鎧購入はありだろう。

 まだ店は開いているだろうし、金額を確かめに行ってみようと小走りで武具店に向かう。宿に帰るのが遅れるとその分ハスファを待たせてしまう。

 店に入ると、まだ閉めるつもりはないようで店員はカウンターでのんびりとしていた。


「鎧に関して聞きたいんですけど大丈夫ですか」

「ええ、どのような鎧が必要でしょうか」

「そうですね……」


 金属製だけどフルプレートはいらない。以前着せてもらった肩当てなしの胴体を守れる、キュライスだっけ? あれがほしいな。

 要望を伝えてると店員は一瞬キョトンとして「あ」と言って手をぽんと叩く。


「キュイラスですね」

「名前が間違ってたか。そのキュイラスの値段はいくらですかね」

「青銅、鉄、鋼鉄で値段が違ってきますよ。順に金貨一枚と大銀貨五枚、金貨三枚、金貨六枚といったところですね」


 青銅のやつは魔製服と同額か。青銅製が安いのか、魔製服が高いのか。


「ちなみに鉄といいましたけど、さびにくくするためと衝撃を逃がしやすくするための柔軟性を得るため、少しばかり別の金属も入っているので正確には合金ですね」

「それで防御面は大丈夫なんですか?」

「ええ、問題ありませんよ」

「では鉄のキュイラスを買います。今日はお金ないので明日か明後日に持ってきます」

「合うサイズがなければ、取り寄せることになるのでまずはサイズを測りますね」


 店員は巻尺でささっとサイズを測り、倉庫に入っていく。

 少しして台車に二つの鎧を載せて戻ってきた。


「この二つが合わなければ取り寄せになりますね」


 店員に手伝ってもらい試着する。

 最初に着た方は少し大きめだったが、動くと特に問題なかった。もう片方はサイズ的には合っていたが動くと窮屈さがあった。

 年齢を聞かれて応えると、これから体が大きくなることが考えられるので大きい方がいいだろうということだった。


「最初に着た方が駄目なら、サイズをしっかりと測って取り寄せになります」


 さすがに金属鎧はこれまでのペースで買い替えるってことはないだろうし、しばらくこれを使うはずだ。ぴったりのものを買って成長して着られなくなるのは困るな。

 最初に着た方を買うということにして、取り置きしてもらう。

 そろそろ日が落ちるという夕焼けの中を早足で宿に帰る。

 待っていたハスファと今日もなにがあったのか話して、帰るハスファを見送り、夕食にする。

感想ありがとうございます

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[一言] タナトスの一族から変わってると言われるとはシーミンが謎の苦労してるなあw
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