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67 中ダンジョン 1

 中ダンジョンへと出発する日がやってきた。

 この日までにやったことは体を慣らすこと以外に、ファルマジスに傷つけられた籠手の修理、バトルコングを狩りまくって護符などの購入費稼ぎといったことだ。

 お金を稼ぐだけなら、いまだガードタートルが効率よく稼げるのだけど、経験値は微々たるものだからバトルコングを選んだ。

 バトルコングも魔力活性を使えば短時間で倒せるし、魔力活性自体の鍛練にもなる。

 ついでにガルビオのお土産に三十階の水場で水を回収していった。おかげでマッサージ料金が毎回割引されている。

 出発前日のうちに持っていく道具や武具の点検はすませていて、準備を整えて宿を出る。

 タナトスの家に行ってからシーミンと合流し、馬車で目的地の近くまで移動することになっている。

 

「おはよう」


 家の前で待っていたシーミンに声をかける。

 おはようと返してくるシーミンの近くに小型の荷車がある。毛布や魔法道具などが入れられているのが見える。

 

「馬車はすでに待っているそうだし、行きましょ」

「そうだな」


 町の入口まで移動して、シーミンが周囲を見渡し、乗る馬車を見つけたようであれに乗ると指差す。

 小型の幌馬車があり、屋根に小さな白旗が風に揺れている。


「白い旗が目印?」

「わかりやすいでしょ」


 そうだなと返す。

 

「おはようございます」


 御者台に座っていた御者にシーミンが挨拶し、俺も隣で挨拶する。

 御者はびくっと反応したが、嫌な顔はせず頷く。


「荷物を載せるんで、そのあとに出発でよろしく願いします」


 御者はわかったというふうに頷き、書類を持って馬車から離れていく。出発を兵に知らせるんだそうだ。

 普通の馬車だとそういったことをしていた記憶はない。なぜだろうとシーミンに聞くと、今回の移動は補助金が出るかららしい。


「私たちタナトスの活動は国に認められているのは知っている?」

「聞いたことがあると思う」

「その活動に伴う費用の一部を国が出してくれるのよ。今回は今後もダンジョンで戦っていくために必要な行動だから移動費に補助金がでるの」

「国はそこまでしてくれるんだな」

「真面目にやらないと怒られるし、たまに国からお願いもされるけどね。この前のダンジョン点検みたいに。あれは町からの依頼だけど、国から人が送られてきたし、国の仕事ともいえる」


 タナトスの人たちは真面目に仕事するんだろうな。虚偽報告で利益を得ようとして、それがばれたら評判が下がる。ただでさえ避けられているのに、評判が下がったらどうなるか。

 

(町で暮らしづらくなるのは簡単に予想できるし、もしかするとよその町の一族にも迷惑がかかるかもしれない。そんな事態は避けたいだろうね)


 御者が仕事をすませている間に、俺たちも荷物を馬車に入れる。

 馬車は四人くらいが座れる広さで、荷台を入れて俺とシーミンが座れば、ほかに誰かが座る余裕はほぼない。つめて子供一人が精一杯か。

 戻ってきた御者が馬車の中を覗き込んできて、身振りでなにかを知らせてくる。


「出発するらしいわ」

「もしかしてあの人喋れない?」

「うん。コミュニケーションに難があって、普通の客には嫌がられることがあるんだって。技術はなにも問題ないのだけどね。仕事を増やすためだろうけど、私たちを運んでくれるし助かっているわ」


 話していると馬車が動き出す。

 これから三日間馬車で移動、一日半歩きで移動。そしてそこそこ大きな森に到着し、その森を三時間ほど歩いて中ダンジョンに到着という予定だそうだ。

 

「馬車での移動中って警戒は必要になるのか?」


 これまでの移動では客だったから気にしなかったけど、今回は俺たち三人だけだ。警戒は必要なのかなと思ったのだ。


「街道を移動するから、基本的にモンスターも盗賊もうろついていない。だから気を抜いても大丈夫」

「基本的に?」

「まれに街道にもモンスターが出てくる話は聞くから。でもそういったモンスターは大きかったり、雄叫びを上げたりで気付きやすいそうよ」

「寝てたりしていなければ大丈夫みたいだな」

「そうね」


 馬車はたまに休憩を入れて、今日宿泊する宿場へと向かう。

 雑談したり、口笛を吹いてみたりして暇を潰し、夕方前に宿場へと到着した。

 馬車を置いて、御者は馬の世話をする。御者はこのまま馬車を置いている建物に泊まるそうだ。

 俺たちは荷物を持って宿場に入る。

 同じく宿場に到着した人たちやここで暮らしている人たちから注目が集まるが、それをシーミンが気にした様子はない。


「私たちは決まった宿があるからそこに向かいましょ。国が運営に関わる宿でね、私たちタナトスの一族も使えるの」


 これも補助金のようにフォローなのかな。いつぞや国がタナトスの一族をあまりフォローしていないとか思った気がするけど、色々とやっていたな。

 宿に入り、部屋を取るため従業員に声をかける。

 その従業員は表情がやや硬かったものの、拒絶感などは表に出さなかった。


「個室二つでよろしいでしょうか」

「二人部屋一つでお願い」

「「え?」」


 俺と従業員の声が重なる。

 

「よろしいので?」

「はい」

「ではこちらの鍵をどうぞ。夕食は部屋にお持ちします」


 男女が一緒の部屋でいいのかとか節約のためか、なんて考えているうちにシーミンは鍵を受け取った。

 行こうと声をかけて歩き出すシーミンの隣へと移動する。


「なんで二人部屋にしたんだ? 個室があるようだし、それでもよかったと思うけど」

「お泊り会というのをしてみかったの。友達はそういうのするんでしょ?」

「たしかにやるけど。特別なことはないぞ?」


 馬車の中で一緒にいたし、その延長でしかない。


「それでもいいの。嫌なら今からでも個室にかえてもらうけど」


 表情を暗くして肩を落としながら聞いてくる。どれだけ楽しみにしているんだ。


「一緒に泊まる程度なら問題はないよ」

「よかった」


 ぱあっと輝くような笑顔にかわる。


「もう一回言うけど、特別なことはなにもないからな? ただ一緒の部屋で寝泊まりするだけ」

「私にとっては友達と寝泊まりするだけで特別」


 男女がどうとかじゃなく、友達と一緒ということに浮かれているな?

 ここまで楽しみにしているなら、もうなにも言うまい。楽しめたら気分が上昇して好調になって、ダンジョンで楽ができるかもしれないな。

 部屋に入り、荷物を置いて、武具を外していく。


「夕食までまだ時間ありそうだな。先に体をふいてこよう。シーミンも今のうちに汗をふいたらどうだ」

「そうしようかしら。一緒にふきあいましょ?」

「……なんて?」


 互いの体をふくとか聞こえたけど、聞き間違いだよな?


「互いの汗をふかないかって言ったのだけど」

「服を脱いで?」

「うん」

「なんでそんな提案を?」

「友達だから」


 同性ならまだわかるけど、異性にする提案じゃないぞ。シーミンの中の友達ってどんなイメージなんだ。


「さすがに異性の友人にはそういう提案はしないぞ」

「そうなの? 友達って一緒にいろんなことして、たくさんの思い出を共有して、辛いとき励ましてくれて、ときには喧嘩して、楽しさ喜び嬉しさを共にするというものだって聞いた。だから汗をふくくらい普通なんだって思った」

「そこまでいくと親友の域じゃないか? 友達はもっと気軽なものだろ。どこで聞いたんだ?」

「転送屋で待っているとき、周囲から聞こえてくる会話」


 なんとなくだけど、いろいろな話が混ざって友達というもののイメージがおかしくなっていそうだ。

 一緒に遊んだ話とか二日酔いの看病とか喧嘩話とかいろんなことを聞いたんじゃないかな。

 それを全部やるのが友達とか思ってそうだ。

 

「肌をさらすようなことは同性のハスファとやってくれ」

「なるほど、あなたがそう言うならそうなんでしょうね」


 素直に引いてくれて助かる。

 二人で部屋から出て、それぞれ小型の桶をかりて、宿の外にある井戸までいく。

 桶に水を入れると宿に戻り、俺は宿の裏手で、シーミンは部屋に戻って汗をふく。

 一緒の部屋で寝るのは大丈夫でも、さすがに裸になってふくのは遠慮する。いや俺としては役得なんだけど、下心をもって接するのは100パーセント善意で言ってきているシーミンに申し訳ない。

 そんなことを考えつつささっと汗をふいて、髪も洗ってさっぱりする。汗を吸った衣類もさくっと洗い部屋に戻る。

 夕食も終えて、あとは寝るまでなにをして過ごそうかという話になる。


「お泊り会ってなにをするの?」

「おもにお喋りかな。ほかはお気に入りの品物なんか持ち寄って見せあったり、テーブルゲームで遊んだりかな」


 地球なら映画を見たり、スマホで撮影したものとか見たりもするんだろう。


「話す内容ってどんなことがいいんだろう」

「これといったものはないと思うよ。馬車の中で話したみたいに気ままな雑談でいい」

「気ままって言われても」

「じゃあこっちから話題を提供しようか……そうだなーハスファとはいつどうやって知り合ったんだ?」


 共通の友人であるハスファについてなら話しやすいだろう。

 いつだったかと思い出す様子を見せたシーミンが口を開く。


「あれは七ヶ月くらい前だったかな。見回りで冒険者の死体を見つけて、手順通りに死体を動かして教会に連れていったの。そのときに初めて会った。それから付き合いが始まった」

「最初から友好的だったのか?」

「最初は互いに緊張していたわね。死体の身元調査や埋葬とかのため二度三度と顔を合わせて普通に話すようになった。ハスファは最初からほかの人より対応が柔らかったから助かった」

「そうなんだ」


 以前ハスファは緊張というかまだ距離があるとか言っていたよな。それでもほかの人よりは対応が柔らかかったんだな。


「シーミンがダンジョンに行き始めたのはいつ頃なんだ?」

「一年と少し前よ。うちで見ているでしょうけど、鍛錬自体はそれよりも前からしているし、武具も家が準備してくれる、家族が同行もしてくれる。だからどんどん先に進めたわね」


 話はダンジョンのことや、ハスファのことについて戻ったりして続いていく。

 そうして夜が更けていき、シーミンは満足そうに眠りについた。

 俺もベッドに入って、ダンジョンに着く前に魔力活性の先を一度見せようと思っていたことを思い出す。今からやるかと思ったけど、いい気分で寝ているだろうからやめておいた。

 朝起きてからやればいいかとそのまま眠る。

 馬車移動の期間はこんな感じで平穏だった。小雨が降ったりしたくらいで、モンスターや獣との遭遇もなかった。

 魔力活性の先も忘れずに実演しておいた。シーミンが使うときの参考になればと思っていたけど、特に参考になる部分はなかったらしい。

 馬車を置ける大きな村に到着し、御者のおっちゃんと別れる。おっちゃんはここで荷物運びのバイトをしながら俺たちの帰りを待つそうだ。

 宿に荷物を置いたあと、村のギルドで目的の森までの道筋を確認する。道中補給のできる村があるなら、ここでの買い物は少なくするのだ。少しでも荷物は軽い方が助かる。

 ギルドの情報によると、一ヶ所補給できる村があるそうで、行き帰りの食料すべてをここで購入しなくてよいとわかる。

 必要な情報は得たので、調味料など保存のきくものを買ってから宿に戻る。

 翌朝、食料を買い、森へと向かう。

 あまり整備されていない道を荷車を引いて徒歩で進み、一泊野宿をして、農村に寄って食料を買い込み、目的の森が遠目に見えるところまできた。

 補給場所にした農村にタナトスの一族が来るのは初めてのようで、足を踏み入れた途端じろじろと無遠慮な視線を向けられた。居心地の悪そうなシーミンは村の外で待つことにして、俺が購入することになった。

 村人から良い感情を向けられていないと俺でもわかるくらいだったので、勘の良いシーミンにはストレスだっただろう。食料に余裕があるなら帰りは寄らない方がいいだろうなと思いつつ買い物を手早くすませ、村を離れた。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] シーミンさん!? 一般常識がだいぶ欠けているようですね…… 母親とかハスファにこの事言ったらどんな顔されるかw
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