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64 ピクニック 1

 朝になり、朝食をすませて財布と水筒とタオルをトートバッグに入れる。ほかに剣を持ち出して、宿の玄関ホールに置かれている椅子に座りハスファを待つ。

 出かける宿泊客と挨拶したりしているとハスファが入ってきた。

 青の半袖ワンピース、麦わら帽子という私服姿だ。サンダルとか似合いそうだけど、歩くことを考慮してブーツだ。

 手にはバスケットがある。なにか作ってきたのだろうか。


「おはようございます」

「おはよ。涼しげでいいね」

「ありがとうございます。行きましょう、シーミンが待ってます」

「早く来ないかって、そわそわしてそうだ」


 立ち上がりながら言うと、ハスファは首を傾げる


「そうなんでしょうか。いつも冷静だから落ち着いているのでは?」

「ハスファの前だとそんな感じなんだ。俺と話すときは感情的なんだけど」


 まあ想定外のことを話すことが多いからという理由もあるんだろう。


「感情的なシーミン?」

「俺が冒険者として外れた行動ばかりしているから、どうしても疑問や戸惑いを感じて忠告を入れないといけないんだろうさ」

「私は冒険者じゃないので話を聞いても違いがわからない部分もありますけど、同職なら疑問を抱くようなことをしているんですか」

「一人でやっていること自体珍しいのだそうだよ」


 話しながらタナトスの家へと向かう。

 バスケットの中身を気にしていると蓋を開けて中身を見せてくれた。甘い香りを漂わせるマドレーヌだ。たしかシーミンの好物だったな。

 喜ぶだろうなと言うと、そうだったら嬉しいと笑みを浮かべる。

 タナトスの家に到着すると玄関前でシーミンが待っていた。

 家の中だと待ちきれず、そこにいたんだろうか。

 白のノースリーブシャツ、黒のアンクルパンツ、白のキャスケットというシンプルな服装だ。腰にはショートソードを帯びている。

 俺たちを見ると家の中に戻って、荷物を持って出てくる。ハスファの持つバスケットより大きなもので、カチャカチャと音がしている。それに加えてゴザも持っている。

 おはようと挨拶すると、シーミンもおはようと返してくる。


「いつから玄関前で待っていたんだ?」

「そんなに待ってない」

「待っていたことは否定しないんですね。本当に楽しみでそわそわしていたのね」


 微笑ましそうな視線を向けられたシーミンは気まずそうに顔をそらす。

 そこに笑いをこらえたような顔で母親が出てくる。

 

「昨日雨が降ったでしょ? そのときあわあわした感じでやむよねって繰り返してたくらいには楽しみにしていたのよ」

「もうっそんなこと言わないでいいのっ。ほら出発するわよ」


 先に歩き出したシーミンを追って、俺たちも歩き出す。

 そんな俺たちに母親がいってらっしゃいと言ってくる。

 行ってきますと俺とハスファが返し、それが聞こえたシーミンも一度振り返って、母親に手を振った。


「二人とも武器を持ってきたんですね」


 歩き出してすぐにハスファが聞いてくる。


「必要ないと思うけど、念のために持ってきた」

「私はデッサがいるとなにか予定外のことが起きるかもと思って」

「否定したいけどできないな。でもさすがにない、といいなー」

「町の近くですし危険はないと思うんですけどね」


 誘拐犯が潜んでいた場所が町の近辺にあったし、危険がないとは言い切れないよな。


「シーミンはショートソードも扱えるのか?」

「メインは大鎌だけど、簡単な手ほどきは受けているわよ。大鎌を振り回せない場所に行っても大丈夫なようにって」

「冒険者の身体能力があれば、あまり使わない武器でもそれなりに振るえるものなんですかね」

「格下相手ならこれで十分。デッサも十階辺りのモンスターなら蹴りでなんとでもなるでしょ?」

「十階周辺っていうとガードタートルにテイルモンキーか……たしかになんとかなりそうだ」


 この町に来たばかりの俺にそのことを言っても信じてくれないだろうな。

 そんなことを話しつつ三人で町を歩くと、驚かれたような視線を人々から向けられる。視線の動きからシーミンを見ているだけではないとわかる。シーミンとその両側にいる俺たちを交互に見ているのだ。


「嫌がる様子なく一緒に歩いていると、それだけで驚かれるなぁ」

「以前からこんな感じですね」

「俺は基本的に家でしか会わないからな。こんなふうに見られるってのは初めて知った」


 そういや転送屋の前で待ち合わせしたときも驚かれたんだったな。

 交流を知られて驚かれるのは何度もあったから予想できたことだったな。


「まあ、どうでもいいか。人が避けてくれて歩きやすいと思っておこう」

「ポジティブですねぇ」

「危害を加えてくるわけじゃないし、ちょっと見られるくらいなら問題ないよ」


 リューミアイオールのように呪いをかけてくるわけでもない。モンスターのように襲いかかってくるわけでもない。目立って見られるくらいなら命の危機はないんだ、どうでもよいと流した方がストレスも溜まらない。

 

「そんなことよりも昼に食べるものを買う方が大切だ」


 シーミンとハスファは顔を見合わせて苦笑した。

 

「私たちもできるだけ気にしないことにしますか」

「そうね」

「それがいいよ。気にすると楽しい気分に水を差されることになるだろうし」


 屋台を覗いていき、冷めても美味しいものを買おう思っていたら、シーミンが温めるための手段を持ってきているというので串焼きとか選んでいく。買い物の邪魔になるだろうとシーミンからゴザを受け取る。

 パン屋でバゲットなんかも買って、町を出る。

 俺たちのほかにもこれからどこかに向かう冒険者や旅人などが思い思いの方向へと歩いていく。

 俺たちも出発だとシーミンに案内を頼む。 


「任せて。こっちよ」


 急ぐわけでもないのでハスファの歩幅に合わせて歩いて行く。


「これから三ヶ所を見ていくつもり。三番目のヒマワリの咲いているところで昼食をとって、そこでのんびりして帰るという予定。それでいい?」

「いいぞ」「うん、いいよ」


 目的はのんびりすることなんだから、よさげなところで昼食といういい加減な予定でも十分だ。

 三十分ほど雑談しながら歩き、小さな青い花が広がる平地に到着する。

 ネモフィラかなと思ったけど、あれは春頃に咲く花だったはず。


「ロモリムですね」

「ええ、青い絨毯が広がっているみたいで壮観よね」


 聞いたことのない花だ。地球にはないこちら独自のものなんだろう。

 シーミンの言うように見応えがある。

 そんなロモリムの中に、若い子らが入ってなにかを探している。


「あの子たちはなにをしているんだ?」

「デッサの住んでいたところにはロモリムは咲いていなかったのね」

「だったらわからないもの無理はないですね。あの子たちは虫を探しているんですよ」

「虫?」


 昆虫採集でもしているんだろうか。


「ロモリムの根を食べる昆虫がいてね。それを乾燥させて砕いたものが薬の材料になるの。解熱の薬ができるのよ」

「ロモリムが咲いている時期はギルドからその虫の採取依頼が出てまして、お小遣い稼ぎに若い子らが受けるんですよ。私も小さい頃に兄と一緒に集めました」

「なるほどな」


 虫が薬の材料になる話は地球でも聞いた話だ。町の近くでモンスターはいないだろうし、野犬も見当たらない。子供たちでもできるお金稼ぎなんだな。

 ロモリムだけではなく、この子供たちが頑張っている風景も夏の風物詩ってことか。


「デッサの故郷だとこういったことはなかったの?」


 日本ではなかったな。デッサの小さい頃だと……季節に関係なく食べられそうなものを集めていたみたいだ。ほかの子たちは薬になるようなものも探していたらしい。


「俺の家は貧乏で常に食べられそうなものを探していたよ。ほかの子たちは薬の材料とか探していたかな」

「ああ、そうなんだ」

「今は十分すぎるほどに食べることができていて、冒険者をやってよかったと思えることの一つだな」


 三十階までくれば稼ぎが安定してきて、食うに困ることがなくなった。

 バトルコングを二体倒せば、宿賃一泊分プラス食事を大盛にできる。一ヶ月で百体倒せば、武具の維持を含めても生活に困ることがない。

 といっても生活していくだけならガードタートルを狩っていればいいんだけど。

 話しながら二十分ほど景色を眺めて、次の場所へと向かう。

 そこはピンクと白の百合が咲いている場所で、ここにもさっきの場所より少ないながら人がいた。彼らも薬の材料として百合を求めてきたんだろう。

 人が少ないのでもっと近くで見ても大丈夫だろうと百合に近づく。

 三人で眺めていると、離れたところにいた冒険者たちが近づいてくる。女ばかりだ、

 

「離れてくれないかしら」


 なにを言っているんだろうと三人で顔を見合わせる。


「この距離だし聞こえないということはないと思うのだけど?」

「いや聞こえたが、その意味を測りかねた。なんで離れないといけないんだ」

「タナトスが近づくと百合が汚れて採取の邪魔になるからよ」


 タナトスの一族が植物や動物に近づいてなんからの影響を及ぼすとか聞いたことがなんだけど。

 俺が知らないだけだったりするんだろうか? いやでも影響を及ぼすなら、魔晶の欠片にも影響が出て売り物にならないとかそんな話があるはず。でもそんなこと聞いたことないぞ。


「汚れるってどういうことなんだ? 俺はそんな話を聞いたことないが。二人は知っていたか?」


 シーミンは楽しい雰囲気を邪魔されて落ち込んだ様子で、ハスファは聞いたことがないと首を振る。


「汚れるなんてなにかの間違いじゃないのか」

「嫌われ者のタナトスが近づくだけで悪影響がでるに違いないわ。だからさっさとどこかに行ってよ」


 そうなるってデータはなく、そうなるんだろうって思い込みか!?

 持っているゴザではったおしたくなった。

 穏やかな時間を邪魔されたし、シーミンを馬鹿にされるのもむかつく。少しくらい言い返してもいいだろ。


「さすがに馬鹿な発言過ぎて呆れるしかないぞ」

「馬鹿ってなによ」

「汚れるとかそんな事実はないのに馬鹿言っているんだから呆れて当然だ」

「嫌われているのは本当のことでしょ。そんなのが近くにいるだけで不快でしかない」

「言いすぎじゃないですか」


 むっとした様子でハスファも加わってくる。


「不快ってならそちらがどこかへ行ってください。ここはあなたがたの土地ではありません。あなた方に命令される筋合いなどありません」

「私たちの方が先にいたのだけど?」

「もう一度言います。ここはあなた方の土地ではありません。ここに誰が来るのも自由です。言いがかりを受けて去る必要なんてありません」

「いいがかりというわけではないでしょ。町ではタナトスの一族は避けられることが多い。それをここでも適用するだけじゃない」

「町の中でそうだからと、外にまで持ちだすとか自分勝手だな。そんなにお前らは偉いのか」

「私が偉いのではなく、タナトスの一族が嫌われ者というだけでしょ。正直、同じ町で暮らすのだって嫌なのよ。出て行ってくれないかしら」


 嘲るように言う女に、彼女の仲間たちはそうだそうだと同調する。


「馬鹿だ馬鹿だと言ってきたが、そこまで救いようがない屑だとは思いもしなかった。人間性が腐っていて臭い匂いが移るからどこかへ行ってくれ」

「臭いですって!?」


 怒っているが、こっちだってシーミンたちを好き放題言われて怒っているんだぞ?


「そもそもの話、タナトスの一族が町にとって迷惑なら町長や国のお偉いさんが排除に動くだろうさ。それが行われていない。すなわち町長たちはタナトスの一族を苦手としていても、排除対象と見ていないということだろ。おかしいのはお前らってことだ」

「……」


 女たちは睨みつけるだけで反論をしてこない。タナトスの一族を町から追い出すような動きがないのは事実だから、言い返せないのだろう。


「あなた、冒険者でしょう? さっきの失礼な物言いはゴーアヘッドに報告させてもらうわ」

「好きにしたらいい。呆れられるのがわかりきっているけどな」


 彼女らもゴーアヘッドを利用しているんだろう。

 あのギルドが冒険者のためにあると言っても、こんな言い争いまで真面目に対処してこようとはしないだろ。彼女たちが嘘を報告したら、呼び出されるくらいはするかもしれないが。

 彼女たちは言いたいことを言って離れていく。まだ採取が残ってるようで完全にどこかに行くことはなかった。

 こちらとしてはあれと近くにいたい気分ではないから、さっさと次のところに向かうとしよう。


「二人ともここはもういいだろう? 行こうぜ」

「そうですね。さっさと離れたいです」


 まだ怒りが収まっていないようで目つきが険しいハスファが頷く。

 

「……」


 シーミンは落ち込み、視線は下に向いたままだが頷く。

 このままだと二人とも楽しめないだろうし、茶化して気分を切り替えてもらうか。


「ほらほら二人とも綺麗な顔と可愛い顔がだいなしだぞ。笑って嫌な気分をふっとばせ。笑顔の方がそばにいる俺としても目の保養になる」


 苦笑したハスファは大きく深呼吸して、気分を落ち着かせたのか険しさが消えた。


「まったく、以前も同じようなことを言ってましたね」

「あー、たしかルザンさんを助けたことで悩んでいたときだっけ」

「ええ、そのときですね」

「まあ、二人の顔がいいのは事実だしな」


 茶化してはいるが、嘘は言っていない。

 ハスファは大丈夫だろう。シーミンはというと沈んだ雰囲気のままだ。


「ほら次に行こうぜ。ヒマワリだろう?」

「いきましょ。明るい花ですから、見たら気分が上向きになりますよ」


 俺とハスファでシーミンの背を押して歩かせる。 

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 勘違いもここまで来ると凄いよな。
[一言] 後に自分達で低階層の死体の回収をしなければならなくなる罰則の始まりであった
[一言] 遠足前の小学生みたいなシーミンかわいいなあw そしてわざわざ嫌味を言いに来るやつの性根がまともであることはないでしょうねー
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