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63 帰還 3

「教会に行ってもまだ仕事中だろうし、三時間くらい時間を潰すには……」


 安物の増幅道具を買ってから、ルガーダさんのところに行こうか。

 一度宿に戻って、大銀貨七枚を財布に入れて武具店に向かう。ルガーダさんに見せるためサファイアも持っていくか。

 また来たのかという顔をしてくる店員にほしいものを告げると、指輪型のものを持ってきてくれた。その中から中指にはめられるサイズのものを購入し、お金を払う。

 指輪をポケットに入れて、ルガーダさんに会いに行く。

 今日もテラスでのんびりとしてたルガーダさんに挨拶し、勧められた椅子に座る。

 宝探しについての話をすると、驚いたような顔になった。


「宝は本当にあったのか」

「ええ、ジェフ・グロストって知ってますか。彼の宝に繋がるヒントをジケイルさんたちは持っていたそうですよ」

「初めて聞いた名だな」

「英雄が生きていた時代よりも前の人物ですから無理もないですね。大陸中を荒らした大盗賊です。手に入れた宝を世界のあちこちに隠して、その中で見つかってないものが今回発見されました」


 そんな話があったのだなと興味深そうにルガーダさんは頷いている。


「今回見つかった宝はどれくらいのものだった?」

「それがですね。洞窟が崩落してほんの一部しか持ち出せなかったんですよ。それでも金貨にして五十枚分くらいはあったんですが」

「それも大金ではあるが、持ち出せなかった分がもったいないな」

「まあ、命の方が大事ですからね」

「それはそうだな。いくら金がたくさんあっても死んでは意味がない。今はもう崩落も治まっているだろうし、掘り起こせば回収できるか? いや回収費用がいくらかかるかわからないし、手を出さない方がいいな」

「でしょうね。掘り返しているとまた崩落とか起きそうですし、危ないと思います」


 しっかりとした掘削技術や補強技術が確立されればやれるんだろうけどな。


「今回のように大盗賊や悪人が隠した宝はまだまだ世の中にはあると思うか?」

「ありそうですね。隠し場所のヒントはそう簡単に見つからないでしょうけど」

「それを見つけ出して、隠し場所にたどりつき、財宝を目にするというのは本当に胸が躍るだろうな」

「楽しかったですね」


 ファルマジスのせいでその感動もふっとんだけど。

 宝発見の達成感よりも生き残ったという安堵感の方が大きい。


「これまで歩んできた人生に悔いはないが、そういった浪漫を追う人生も楽しそうだ」

「空振りの方が多いでしょうけど、だからこそ見つかったときの感激は大きくて、それに魅せられたからジケイルさんたちは宝探しを続けているのでしょうね」


 俺もルガーダさんもそんな生き方はできないけど、一定の理解はできる。

 

「今回はどんなものがあった?」

「金貨銀貨といった硬貨がほとんで、ほかには宝石とか金細工。俺は硬貨と宝石をもらいました。これがその宝石ですね」


 布に包んだ指輪をテーブルに置く。布を開いて出てきたサファイアにルガーダさんは「ほう」と小さく溜息を漏らす。

 

「持ってみてもいいかね」

「どうぞ」


 手に取った指輪を見て、ルガーダさんは少し遠い目になる。その指輪が作られた時代を思い描いているのかもしれない。

 一分と少し眺めていたルガーダさんは指輪を布に戻す。


「これはどのように作られ、大盗賊はどうやって手に入れ、どれくらいの年月を洞窟で過ごしてきたのだろうな」

「もう誰にもわからないことでしょうね」

「それを考えるだけでも楽しいものだ。ジケイルたちが手に入れたという宝も見てみたいものだな」

「彼らは地元に戻ったので、この町にはいませんね」

「ここが地元ではなかったのだな」

「そうみたいです。向こうに家があると言ってましたよ」


 ジケイルさんたちが選んだものについて口頭で伝える。


「狼の金細工か、それは細かく見たのかね?」

「いえ、手に取ったりはしていません」

「もしかすると貴族の証だったのかもしれないな」

「貴族の証だったりすると、かの大盗賊はえらいものを盗んだということになりますね」

「その貴族の家は大騒ぎになっただろうな」


 遠い過去に起きた騒動を想像し、ルガーダさんは笑みを浮かべた。


「これは思い出にとっておくのかね」

「お金に困った場合は売るでしょうけど、当分困りそうにないので手元に置いておくでしょうね。これっていくらくらいになるんでしょうか」

「そうだな……質が良いものだし捨て値でも金貨三枚はいくだろう。しっかりと交渉すれば金貨七枚はいくはずだ」

「最高で七枚ですか、思ったより高いですね」


 交渉がうまくいかなくても金貨五枚くらいで売れそうだ。


「売るときになったらうちに持ってきてくれ。金貨七枚で買いとるぞ」

「交渉しなくてよくてその値段なら、ここに持ってきます」


 いつか武具の更新で大金が必要になるだろうし、そのために売ると思う。

 ヒントに示された場所の詳細なども話してルガーダさんとのお茶会を終えて、教会に向かうことにする。

 そろそろ夕方といった頃合いで、少し寄り道すればハスファも今日の業務を終えるだろう。

 ゴーアヘッドに行って、顔見知りでもいたら挨拶しようか。

 ゴーアヘッドで時間を潰し、夕暮れの中を歩いて教会に到着する。

 聖堂に入り、見かけた修道士にハスファを呼んでもらい、長椅子に座って待つ。

 聖堂に入ってきたハスファが小走りで近づいてくる。相変わらず胸が揺れてるなぁ。


「おかえりなさい」


 そう言いながら隣に座るハスファにただいまと返す。

 じーっと見てきていたハスファが眉をひそめ首を傾げる。


「うーん、疲れていないように見えますが、疲れたような跡が見える気も」


 鋭いな。何度も俺の体調を診ていたし、そこらへんに詳しくなったんだろうか。

 ここで隠してもシーミンが話すかもしれないから正直に言おう。


「すっごく疲れることはあったよ。強い奴がいてね、倒すのに苦労した」

「怪我とか大丈夫だったんですか」

「ハイポーションとかポーションをもったいぶらずに使ったからなんとか」

「ハイポーションを持っていったんですか!? あれって重傷専用の薬ですよね」

「念のために持っていったのが役立ったよ」

「無事に帰ってこれて本当によかったです」

「俺もそう思うよ。それで休みを取るんだけど。その休みの間にシーミンとピクニックに行こうかって話したんだ。ハスファの休暇に合わせるから一緒に行かないか」

「ピクニックですか? 行くのは問題ありませんよ。でもあなたがそういった休暇を過ごすのは初めて聞きましたね」


 不思議そうな表情を浮かべた。

 休暇を積極的に取ろうとしないし、町の外に遊びに行こうとするのも初めてだしな。そんな表情にもなるか。

 宝探しに行くときにシーミンが羨ましそうな顔をしていたからだと、ピクニックを選んだ理由を話す。


「シーミンのためですか。ああ、納得いきました。人の目がない外の方が落ち着くという話を聞いたことありますし、シーミンにとってもいい休暇になりそうですね」

「だろうね」

「少し待ってくださいね。明後日かその次くらいに休暇をとれるか聞いてきます」


 立ち上がったハスファは建物の奥へと歩いていく。

 十五分ほどして、お待たせしましたと言って戻ってくる。


「三日後に休暇をもらえました。出発時間はいつにしましょうか、お弁当もどうしましょう」


 ハスファ自身も楽しみといった雰囲気をまとわせて聞いてくる。


「時間とかはまだ決めてなかったし、今ここで決めていいんじゃないかな。弁当は屋台とかパン屋で買っていくといった感じかな」

「でしたら私が朝食後にそちらの宿に行きますから、その後タナトスの家に行きましょうか」

「俺はそれでいいよ。シーミンにも伝えておく」

「そういえばデッサさんと一緒にシーミンと会うのは初めてじゃないかしら」


 そういやそうだな。どちらとしか会ってなくて、同時に会うというのは初めて聖堂に来てすれ違ったときくらい?

 あのときも同じ空間にいたってだけだしな。


「それぞれ仕事とかありましたから、一緒に会う機会はなかったということですね」

「やっていることがまったく違うからなぁ」


 合わせようと思わないと休暇とかずれまくるのも無理はない。

 

「特別楽しいというものじゃなくていいから、ゆったりとした落ち着くピクニックになるといいですね」

「人目がないなら、まあなんとかなるんじゃないかな」


 そうですねと言ったハスファは、宝探しがどうなったのか聞いてくる。

 出発したときから話していくうちに日が暮れて、腹が減ったので帰ることにした。

 教会の入口までハスファに見送られて、宿に帰る。

 夕食を食べて、銭湯でゆっくりとしたあと、寝る前に道具を使った魔力の循環を試してみる。

 気持ち悪さから倒れてもいいように、ベッドの上であぐらをかいて増幅の指輪を握る。吐く可能性も考えて、桶もそばに置いてある。


「まずは活性」


 使い慣れてきてスムーズに発動できるようになってきている。

 活性化した魔力を右手に握った指輪へと流し込む。すると指輪がわずかに震え、膨らんだような圧を感じる。

 

「これを体内に戻すってどうやるんだろう」


 そこらへん聞いてなかったな。


「とりあえず手のひらに掃除機のような吸い込み口があるような感じで」


 合っているらしい。指輪の圧が減っていっているし、手のひらから腕へ胴体へと流れ込むものがある。

 その流れ込むものは異質とまではいかないけど、若干の違和感を感じる。

 指輪の圧や震えがなくなって、流し込んだものを完全に体内に戻したと思う。

 

「なんだろうな。体の中に異物感はあるんだけど、倒れるような症状はない」


 これを活性化すると気分が悪くなんのかね? もう一回魔力活性だ。

 

「ん」


 これまでで一番の力強さを感じる。でもぶっ倒れるような気配はないな。むしろ取り込んだ魔力を使ったから異物感が減った。

 このまま維持していればそのうち増幅させた魔力はなくなって、異物感も減るだろう。

 維持しながら、気分が悪くならない原因を考える。

 最初に思いついたのは、危ない技術だからファードさんが大袈裟に伝えてきたということ。でもそれをする意味はない。危ないものだったりしたら、使用を控えるように言ってくるだろうし。

 次に思いついたのは俺に特別魔力活性の才があるということ。本来は時間がかかるものを短時間で習得したし、それはありえるかな。と思ったんだけど、それならニルたちが言っていた、得意分野もすぐにわかるはず。でも今のところなにが得意なのか判明する気配すらない。

 これは保留にするとして、次は体質的なもの。俺とファードさんが適応力が高くて、ほかの人は適応できなかった。これも違う気がする。ファードさんの話では練度の差っていう推測がでているからな。体質的なものなら練度に比例しないデータがでるだろうし。

 ほかは酔いに強いかどうか。これも体質的なものに関わってくる話だな。酔いに強い人が俺とファードさんだけってわけはないし、これは違うだろ。

 あとほかにはと考えて、自分とファードさんたちの違いについて思考し、思いついたことがある。

 浸食だ。シールなしでダンジョンに潜っていることが珍しいのは、シーミンたちの反応でわかっている。

 増幅させる道具から魔力を体内に取り込むのは浸食に近い現象だったりするのかもしれない。だから気分が悪くなる。魔力活性の練度が高い人は浸食への耐性も上がっている状態だから耐えられる。

 なんて仮定を考えたところで、とりあえず推測を止めておこう。

 

「考えているうちに異物感なくなったな。今は武器を一つ得たと喜んでおこうか。詳しいことはまた後日わかるかもしれないし」


 今日はもう寝るかとタライを元の場所に戻し、部屋の明かりを消してベッドに寝転ぶ。

 翌朝は魔力を循環させた後遺症などなく、すっきりとした朝を迎えることができた。

 身支度を整えて、朝食をとり、新品の武具を身に着けて宿を出る。

 シーミンたちにモンスターについて聞いたとき、ついでに各階の下層へ繋がる坂道のありかを聞いているので、体を慣らすついでに先に進むつもりだ。

 転送屋を使って二十階に到着し、まずはブレードバニーと戦ってみる。

 適正の階がずっと先なんで、楽な戦いになるだろうなと思っていたけど、弱点を突くことなく一撃で倒せたのは思わず笑った。新調した剣のおかげでもあるんだろうけど、実力が上がったことを実感できた。


(ブレードバニーを相手に魔力活性の先を試してみるつもりだったのに。これだと意味ないな)


 どんどん先に進もうと下り坂を目指す。

 二十一階に出てきたモンスターもそれ以降も一撃で倒せるということが続いていく。

 二十五階まで来たところで、昼食の時間かなと腹をさすりつつ思う。

 バゲットサンドを出して、それを齧りつつ昼の予定について考える。

 

(このあと急げば三十階まで行けそうだ。バトルコングはさすがに一撃とはいかないだろうし、魔力活性の先を試せるな。それを試してみたら今日は終わりにしよう)


 バゲットサンドを食べ終わり、水も飲んで、先に進む。

 二十七階のモンスターまでは一撃で倒すことができ、二十八階のモンスターは俺の攻撃に耐えた。


(ギリギリだけど耐えたか。バトルコングはしっかり耐えてくれそうだ)


 落ちている魔晶の欠片を拾って、先に進む。

 三十階に到着し、一体でいるバトルコングを探す。ほかの冒険者たちが戦っているのを見かけたりして、ようやく一体でいる個体を見つけることができた。

 

「早速、試してみるか」


 ポケットに入れていた指輪を握りしめて、魔力活性を行う。その魔力を指輪に移してから戻すと、昨日のように向上した力と体内の異物感が感じられた。

 

「よし」


 いっきに近づきバトルコングが攻撃してくる前に、脳天に剣を振り下ろす。

 骨などの抵抗は感じたが、そのまま力任せに押し切ると唐竹割りのように斬ることができた。

 そんな攻撃を受けてバトルコングが無事なわけはなく、一撃で倒れて魔晶の欠片へとその身を変えた。


「わーお……威力高いな。この階でも過剰だってのはわかった」


 バトルコング相手にこの結果には思わず引いた。魔力活性でも十分なところだったんだろう。弱点をつけることを考えたら魔力活性もなくてよかったかもしれない。

 

「明日は体を慣らしながら弱点をつく方向で戦ってみようか」


 今日の目的は果たしたんで、転送区画へと向かう。

 迎えを待っている冒険者たちに混ざって、転送屋を待つ。そう時間をかけずにやってきた転送屋に地上に連れ帰ってもらい、タナトスの家に寄ってシーミンに明後日出発だと話してから宿に帰る。

 様子を見にきたハスファにもシーミンに連絡したことを話して予定を確定させる。

 次の日もバトルコングと戦って、弱点をついたりといった立ち回りの練習をして、体を慣らしていく。

 護符なし魔力活性なしでも、こちらの攻撃は十分なダメージを与えることができて、もう少し深く潜ってもよさそうだとわかる。

 明日のピクニックで三十一階以降のモンスターについて聞こうと思いつつダンジョンから出る。

 外では雨が降り出していた。このまま明日まで続くと中止かなと思っていると、寝る頃には上がっていた。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 成長が一足飛び過ぎて逆に怖いかも? 色々と感覚がおかしくなってそうだ。
[一言] 武器とするにはまだ早いと思ってた技術でしたが思いの外あっさりと習得できたのは中ダンジョンに挑む前にかなり余裕できましたねえ
[一言] デッサの侵食や魔力活性に対する適応は強すぎず弱すぎず、丁度いい主人公っぽさw 雨上がりの綺麗な空気の中を美少女2人とピクニックか、羨ましいっす(´∀`)
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