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61 帰還 1

 馬車の中や宿場などで体をゆっくりと休めて、ミストーレに帰ってくるまでに体調はほぼ戻っていた。

 あとは移動疲れをとれば、完全回復だろう。

 宿に帰り、荷物を置いて、洗濯を従業員に頼むといった用事をすませて、武具購入のために宿を出る。

 籠手を購入した武具店に入り、従業員に声をかける。


「金属製の片手剣を買いたいんだ」

「予算とどういった形状がいいのかという希望を聞かせていただけますか」


 前の剣は金貨一枚もしなかったし、今回は金貨二枚くらいか?


「予算は金貨二枚。両刃で頑丈さを重視したものがいい」

「少々お待ちください」


 希望を伝えると従業員は倉庫へと歩いていった。

 五分ほどで戻ってきた従業員の手に二本の剣がある。


「とりあえずすぐに見つかったこの二つを持ってきました。もう少し探してみるのでこれらの確認をお願いします」

「わかった」


 渡された二つは以前のものより少しだけ重く感じた。でも力が上がったおかげで、両方とも持つのになんの苦もない。

 鞘から抜くと片方は鉄の色で、もう片方はわずかに青いような気がする。鉄になにかを混ぜた合金なのかもな。

 構えたり、ゆっくりと振っていると従業員は三本の剣を持ってきた。

 それらも確認して、候補を二つに絞る。

 その二つは豪華な飾りとかはないんだけど、デザイン的に似通っていた。作り手が同じなのかもしれない。


「この二つの値段と特徴を教えてほしい」

「どちらも値段は金貨一枚と大銀貨九枚ですね。製作者は同じで、鋼製武器の練習として作られたものらしいです。両者に明確な違いはなく、重心がどこにあるかくらいですね」

「本気で振ってみたいんだけど、素振りできるところはある?」

「裏手に行きましょう。そこなら動き回ることはできませんが、素振りくらいならできます」


 倉庫を通って、小さな庭に出る。

 そこで二つの剣を振ってみて、振りやすいと思った方を購入することにした。

 お金を渡しながら、鉄製のレガースと質の良い特製服の値段について聞く。


「レガースは大銀貨九枚、特製服は高いものだと大銀貨五枚ですね」


 以前聞いたモンスターの素材で作った特製服の値段だろうか。


「レガースは購入決定で。その特製服は何階くらいに行っている冒険者が使っているものか教えてほしい」

「前衛が使う場合は三十階手前くらいまでですかね」


 レベル的にそれだとすぐに買い直すことになりそうだ。


「特製服のように鎧の下に着るものとして、特製服以外にどんなものがあるのか教えてほしい」

「モンスターの素材を使い、作成に魔法も用いられた服があります。魔製服と呼んでいます」

「それの一番安いものはいくらになる? 購入しようと思えばすぐ買えるのか?」

「金貨一枚と大銀貨二枚ですね。購入は可能ですよ。ちなみにそれは四十階辺りで活動している前衛が着ているものです」


 それも買うとして現状剣とレガースと服で金貨四枚。ついでに兜も買おうかな。予算は金貨一枚くらいでいいか。

 兜も頼むと、スモールジェットヘルメットに似たものを持ってきてくれる。音が聞き取りやすいように耳の辺りに小さな穴がいくつも開いている。フェイスガードはついていないけど、目はゴーグルで守れということか一緒についてきた。そのゴーグルはなにかの樹液を魔法で加工したものらしく、砕けにくいと説明された。

 兜と魔製服の試着をすませて、お金を払う。そして買ったものを持って一度宿に戻る。

 宿に置いてあったものも身に着けて、動きを確かめる。重さはまったく気にならない。鎧を金属製にしても大丈夫そうだ。

 身に着けたものを外し、また宿を出る。

 ガルビオのところに行って、マッサージを受ける。いつもより多めにお金を払って全体を念入りにやってもらう。ファルマジスなんて大物を相手したのだから、表に出てこない負担が残っていてもおかしくなかった。


「そう遠くなく三十階に行けそうだ。水筒サイズの入れ物でいいならダンジョンの水をお土産にできるけどいる?」

「それは助かりますね。お願いしていいですか」


 施術中なので丁寧に返してくる。


「わかった。水筒くらいならたいして荷物にならないからな。それ以上は報酬をもらうよ」

「ええ、当然ですね。こちらからもお知らせすることがあります」

「なに?」

「これ以上強くなると、施術の金額が上がります」

「それはまたどうして」

「肉体の頑丈さが上がるので、私の筋力ではマッサージをしても効果が出にくいのです。そのため護符を使って筋力を上げる必要があります」

「あー、そういうことか。わかったよ」


 納得できる理由だ。いくら上がるのか聞いても、ぼったくりという値段ではなかった。

 

「ついでに言っておきますが、しばらくは護符で対応できます。でも五十階に到着する頃には師匠の店とか経験豊富な人のいるところに行った方がいいですね。今の俺では技術不足です」

「わかったよ」


 店を出しているとはいえ、若手だしな。技術はまだまだ発展途上か。

 マッサージを受け終わり、次はどこに行こうか考える。


「頂点会に行って、進展を聞いてみようかな。そのあとは昼を食べて、シーミンに会いにいって、ハスファにもという感じでいいか。ルガーダさんにも土産話をするって言ったっけ。まあこっちは急がなくていいかな」


 頂点会に行き、ファードさんがいるかどうか尋ねる。いるのなら会えるかどうか、無理なら会う予定をお願いしたいと伝える。

 少しだけなら大丈夫ということで応接室に通された。

 すぐにファードさんがやってくる。俺を見て少し驚いた様子を見せる。

 俺と向かい合う椅子に座って、じっとこちらを見てくる。


「少し会わないうちに強くなったな」

「見ただけでわかるんですか」

「外見ではなく、魔力の質や大きさが違っている。普通に戦ってそうはならんだろう。なにがあったんだ?」

「魔物と遭遇して、ほかの人の力も借りて倒すことができたんですよ。それでいっきに強くなれました」

「魔物とはまたえらいものと遭遇したな。しかしそれなら納得いく」

「崩落に巻き込むという運頼みで倒せたんですよ。真正面からやりあったら勝てませんでした」

「どういった相手だったんだ」

「スケルトンという見た目、ぼろの武具、自身の技術を確立していた、こっちの攻撃は回避と受け流しで対処された。こんなところですね。弱体化していて、ぼろの武具であっても、良い防御用の護符を使ったこっちに明確なダメージを与えてきました」


 崩落という手段がなければ倒せなかったと思うし、あの場所で戦えたのは運がよかった。そもそも遭遇したことが不運なんだけどな。


「どうして魔物と遭遇したんだ? なにかまた魔物が悪さしようとしていたのだろうか」

「知り合いと宝探しに行っていたんです。それが当たりで、その宝と一緒にいたわけなんですが、宝を守っていたわけではないでしょうし、なぜあそこにいたのかはわかりません」

「隠れ家だったのかもしれないな」

「ああ、その可能性はあるかも」


 スケルトンは呼吸を必要としないだろうし、出入りは川を使えばいい。隠れるには絶好の場所だろう。でも隠れ家にしては私物らしきものが皆無だったな。


「まあ俺はそんな感じでした。そちらは魔力の受け流しや活性関連で進展はありましたか」

「受け流しの方はまだまだだな。活性の方は進展があった」

「どんな感じになりました?」

「活性化した魔力を道具に流し、魔力を増やして体内に戻すことは成功した。それを活性化することも成功して、道具に流し込んだところで道具が壊れてしまった。安物を使ったせいなのだろう。良いものを使えば、肉体と道具を行き来させることはできそうだ」

「おー、成功しましたか」

「今は安物を使って、一往復させた魔力を使って試行錯誤しているところだ。だがなんの問題もないというわけではない」


 なにが問題なんだろう。今聞いた話だと特に予想つかないな。


「ミナたちにもやらせてみたのだ。増やした魔力を体内に戻したところで、体調の悪さを訴えた。気持ち悪さで立っていられず倒れた者も出た」

「倒れる……ファードさんは大丈夫だったんですよね」

「うむ。体調の悪さを訴える程度の差というのが、魔力活性の練度に比例していると思っている。俺は長いこと魔力活性を鍛え続けてきた。対してミナたちはまだまだ五年も魔力活性を鍛えていない。練度の低いミナたちはその場に倒れこみ、わしほどではないが十年単位で鍛えている者は気分を悪くする程度ですんだ」

「立っていられないほどだと使い物にならないですね」

「使いたいなら魔力活性を鍛える必要があるということだな。もしくは気持ち悪さに慣れるように鍛錬するか」


 ミナたち若いメンバーは気持ち悪さに慣れる方向で挑戦しているらしい。

 気分が悪い程度で済むメンバーは現状でどれだけ動けるのか確認を進め、ファードさんはさっき本人が言ったように試行錯誤の最中。

 俺は気持ち悪くなる側だろうけど、一度くらいは確かめてみるものありかな。増幅の道具はいくらするんだろ。


「俺も試してみたいんですが、増幅の道具はいくらするんですか?」

「一度試したいだけならここでやっていけばいい」

「このあと行きたいところがあるんで、体調崩すのはちょっと。宿で試してみようと思います」


 道具を使った技術が即戦力になるなら予定をずらして練習していったんだけどなぁ。


「俺が使った安物なら大銀貨五枚で買える。一人前の冒険者が通う店ならどこでも置いてあると思うぞ」

「ありがとうございます。あ、これってほかの人に教えても大丈夫なものですか?」

「考えたのは君だろう。許可を取る必要はないと思うが」

「妄想を実現させたのはファードさんですし」


 そう返すとファードさんは少し考え込む。


「……今後誰かに教えたい場合は両者の了解をとるようにしようか。すでに教えたメンバーにも伝えておく」

「そうですね。ちなみに俺が教えようと思ったのはタナトスの一族ですよ」

「あそこと交友があるのか」


 ファードさんは目を丸くした。ここらで一番強い人でもそんな反応なんだな。


「助けてもらったことがきっかけで交流を続けています。ファードさんくらいなら、タナトスの一族より深い階層のモンスターの方が脅威になると思うんですけど。それでもほかの人にみたいに拒絶感があるんですね」

「受ける感覚が別物だからな。モンスターの方は手強いだけだ。彼らはどうも苦手なのだよ」

「そんなものなんですね」


 ほかに聞きたいことはあるかな……受け流しの進展はまだまだってことだけど、成功しそうかどうかはわかっているのかな?

 そこについて聞いてみると、活性の方を優先していたので、確認できるところまでいっていないそうだ。

 活性の方がまだ簡単というか、やり方がわかりやすいからとっつきやすかったらしい。

 やりやすい方から手をつけて、ある程度技術を確立させて、皆に教えておこうと思ったそうだ。

 受け流しはファードさんでも難しいという感想を持ったみたいだな。

 ファードさんと話し終えて、また進展を聞きに来ると再会を約束して頂点会の建物から出る。

 みかけた食堂に入って、昼食をとってタナトスの家に向かう。ドーナツが売られているのを見たので、お土産に買っていくことにする。

 庭で子供たちが遊んでいたので、挨拶してからシーミンがいるか聞く。

 

「帰ってきてるよ」

「そうか、ありがとう」

「兄ちゃんが元気にしているか何度も話してた」

「またトラブルに巻き込まれてないかって言ってたよ」


 思わず苦笑が浮かぶ。

 出会ってからこれまでいくつかトラブルがあったからなぁ。またと思われても仕方ない。実際トラブルあったし。

 玄関そばにある鐘を鳴らして、出てきた大人に入る許可をもらい、お土産を渡してからシーミンの部屋に向かう。


「はーい。あ、デッサ。おかえり」

「ただいま。入ってもいい?」

「どうぞ」


 俺が部屋に入り、シーミンは飲み物を取りに一階へと下りていった。

 戻ってきたシーミンに飲み物を渡される。


「宝探しはどうだった?」


 ベッドに腰掛けつつ聞いてくる。


「宝はあったよ」

「あったの? すごいじゃない」

「一部しか手に入らなかったけどね」

「またトラブル?」

「うん、まあそうだけど、子供たちにもトラブルに巻き込まれてそうだって言ってたそうだね」

「だってこれまでいろいろとあったじゃない。だからどうしてもまたなにかあるわよねって思うわよ。それでなにがあったの」

「とりあえずミストーレを出たところから話していこうか」


 町を出てからヒントをもとに順調に進んでいった話は、落ち着いた様子で聞いていた。

 そして話は宝を見つけたところまで進む。

感想ありがとうございます

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[一言] ファードさんだったら1人でも弱体化したファルマジス倒せてそうだなあ
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