60 トレジャークエスト 7
目が覚めて最初に感じたのは体の怠さと筋肉痛のような痛み。アーマータイガーに殺されかけたときの疲れに筋肉痛がプラスされた感じだ。
過剰活性の反動+ファルマジスから受けた攻撃のダメージのせいだとすぐに思い至る。
目を開けると空は暗く、近くからなにかが燃えている音が聞こえてきた。
外に運び出してくれたんだなと思いつつ体を起こすと、ジケイルさんたちが食事をとっているのが見える。
「あ、起きたか。こっちに来るといい。お前の分もあるからな」
すぐに気づいたジケイルさんが手招きする。
どっこいしょと体を動かしそちらに行くと、擦り傷だらけのケーシーさんがスープの入った器を差し出してくる。擦り傷は俺にもついていて、ほかの二人も同じだった。
ケーシーさんはそんな怪我をしてなかったはずだけどな。
「ありがとうございます。あと運んでくれたことも」
「こちらこそ礼を言わねば。お前が準備してくれたもののおかげで助かった」
「互いにお礼はあとでいいでしょ。先に食事をすませなさいな。話はそのあと」
そうしよう。腹になにか入れて少しでも体力を取り戻したい。
スープと保存食を食べて、人心地つく。
食器などを洗って、皆で焚火を囲む。
「気になっていたんですけど、俺が気絶したあとなにかあったんですか? 戦闘後もケーシーさんはそんな擦り傷なかったですよね」
「うむ、あのあとも大変だった。あの空間が崩落したんだ」
「ファルマジスを倒すためとはいえ天井の一部を壊したりなんかしたから、それが原因になっちゃったのね。そのせいでお宝が」
もしかして回収しそこねたのか、それはへこむのも無理はない。
「その顔は勘違いしてそうね。全部じゃないけどお宝は回収しているわよ。レイリッドはたくさんのお宝を置いてくることになったことを残念がっているだけ」
「少しだけでも回収してたんですか。それはよかった。さすがに魔物なんかと戦って報酬なしだとやってられるかと思いますし」
命という一番の宝を守りきれたことがなによりの報酬かもしれないけどな。
「お宝以外にも我らの武器なんかも置いてきてしまったよ。君の剣も回収する余裕はなかった」
「それだけ余裕がなかったのか」
「まあ、武器は持って帰ってきたお宝で買い直せばいい。手に入ったのは一掴みだけとはいえ、買い直せるだけの額は得ている」
「食事も終わったことだし、まずは山分けしましょ」
レイリッドさんはそばに置いてあった、布の結び目を解く。
金貨銀貨銅貨に宝石付きのアクセサリーに小さな金の像といったものが広がった。サファイアの指輪、ルビーとエメラルドのネックレス、天に遠吠えしている狼の像だ。
「これらを四等分でいいと思うけど、デッサはどう?」
「不満ないですよ」
俺の返事を聞いて、最初は硬貨を数えていこうということになる。
硬貨はおよそ金貨三十枚分あった。
「一人金貨七枚分でわけて、余りはデッサに渡すということでいいと思うが、レイリッドとケーシーはどうだ」
「賛成」「賛成です」
二人とも即答だった。
「きちんと四等分した方がいいと思いますけど」
「いや余った分はハイポーションや護符の分だ。あれらには助けられたから、そこはしっかりと支払う必要があると話し合っていたのだよ。だから遠慮せず受け取ってくれ」
「そういうことならいただきます」
受け取った金貨などを財布に入れる。
残るのは指輪とネックレス二つと小さな金の像だ。指輪はサファイア、ネックレスはルビーとエメラルドだと思う。
「残ったこれはどうするか。このまま四人が一つずつ受け取るか、全部売ってしまってそれを四等分するか」
「価値に差が出るから売ってから四等分でいいんじゃないかと思います。でも好きなものを選ぶってのでも俺はいいですよ」
ジケイルさんたちが気に入ったものがあれば、それが欲しいといっても俺は別に文句はない。
「こういったアクセサリーを好むのはレイリッドだ。レイリッドが気に入ったものがあるなら、それを選んで残りは三人で好きに選ぶということでいいのではないかな。気になるものがなければ売って四等分だ」
「じゃあ、このエメラルドが気になっていたからもらってもいいかしら」
レイリッドさんが選んだのはネックレスだ。
俺たちが頷くと、手に取って間近で眺め出す。
「我らもどれがいいか決めよう」
「俺はどれがいいという希望はないんで残りものでいいですよ」
「でしたら私はルビーのネックレスを」
「我は狼の像だ」
俺はサファイアの指輪だな。
宝石の価値はわからないけど、透き通って綺麗だしそれなりに高いかな。
ハンカチに包んで、荷物の中に入れる。
ジケイルさんとケーシーさんもそれぞれ得たものを荷物の中入れる。
「最後にこの魔晶の欠片だな。魔物が残した魔晶の欠片の値段なんて聞いたことないから、どれくらいの値がつくかわからん」
「砕いて四等分にするのはもったいないですよね」
三人は頷きを返してくる。
「さすがにそれはね。価値が落ちるでしょうし。売って得たお金を四等分でいいと思うけど、このあとの予定がね」
「なにか別件があるんです? 忙しいですね」
売る暇もないんだろうか。
俺が言えたことじゃないけど、少しくらい休んだらどうなんだ。
「別件というわけじゃないんだが。こっちの予定を伝えておこう。我らはしばらく休養するつもりだ。さすがに今回は心底疲れた」
「でしょうね。でも休むだけなら予定に何か問題があるって言い方をしませんよね」
「家はミストーレではなく、別の町なんだ。デッサも疲れているだろうし、そこまでついてきてくれとはいえない」
「ああ、そういうことですか。お金をミストーレに送ってもらうことはできないんですかね」
「できるが、そのための費用で少なくなるし、事故での紛失や盗難という可能性もある」
「家のある町が近場ならついていきますけど」
「一ヶ月とはいわないが、二日三日という距離でもないな」
さすがに遠くて、その距離をついていくのはちょっと。
「ミストーレに送る費用はいくらかかると思います?」
「金貨一枚とかはないはず。大銀貨三枚くらいだと思う」
レイリッドさんがおおよその値段を教えてくれる。
「魔晶の塊を売ってわけたお金がそれ以下ということはないですよね」
「かなり低く見積もっても一人金貨三枚はいくと思うわ」
「でしたら送ってください」
「俺たちが売却金で嘘を吐くとは思わないのか?」
「それをすると宝探しにケチがつくと思いますから、しないんじゃないですかね」
お金を得ることだけじゃなくて、過程も大切している三人だしそんなことをして思い出を汚すというのはやらないと思う。
「まあやらないけどな。これで山分けは終わりだ。休暇を楽しむとしよう。次の宝探しのヒント探しもするつもりだがな」
「あそこに確実に宝はありますけど、それの回収は考えないんです?」
「土を掘り起こそうとしてまた崩落に巻き込まれたらまったものではない。大丈夫なように工事をしようとすると費用が多くかかって、手に入る宝とつりあいがとれるかわからん。というわけであそこの宝は諦める」
「安全を求めると費用が高くなりそうですもんね」
言いながらふと気付く。
「町に帰るとなると朝になったらここで解散といった感じになりますかね」
「いや、近隣の大きな村まで一緒に行動だ。馬車に乗って移動するつもりなのでな」
それを聞いてほっとした。まだ不調だし武器もない。安全な場所まで一人で行動しないですむのは助かる。
「次の宝探しの前に中ダンジョンの攻略が先かもしれないわね」
「ファルマジスを倒して限界まで強くなったんですか?」
「ええ、私たち三人とも小ダンジョンでいける限界まできているわ」
「あんなものを倒せば当然の結果だろうさ。デッサもかなり強くなっているはずだ」
俺はまだ限界とは感じないし、体調が回復して動いてみないことにはおおよその見当もつかないだろうな。
自身の体をぺたぺたと触れてみてもやっぱりわからん。
「まだまだ宝探しは続けるつもりだが、今回の宝探しはきっと一生記憶に残り続けるな」
「全員死にかけましたけど、ジケイルは一番危ないところまでいったしね。斬られて倒れたときは本当に心が凍り付くかと。レイリッドも同じなはずよ」
「心配をかけたようだな」
「ええ、とても。二度とあんな光景は見たくないわ。気を付けてよ?」
言いながらケーシーさんはジケイルさんの頬に手を当てる。
「う、うむ」
なんだか少しいい雰囲気だ。邪魔しないように静かにしていよう。
ゆっくりと仰向けになって、二人を視界から外す。
そのままぼーっとしていたら眠ってしまった。
朝起きて、三人に夜の番をしなかったことを詫びたけど、気にするなと言ってもらえた。
そのときに三人の首筋にキスの跡が見えた気がしたけど、もしかして夜中に三人でいちゃついていた? そんな関係だったんだなぁ。
俺は十分休んで体調がましになったし、三人は存分に楽しめた。ウィンウィンと思っておこう。
ファルマジスのいた山から近隣の大きな村に移動し、そこでジケイルさんたちと別れる。
また会おうと再会を願ったあと、三人は馬車に乗って去っていった。
俺もそのあとのミストーレ行きの馬車に乗る。馬車に揺られながら今後について考える。
(帰ったらすぐに剣を確保しないと。強くなっているからなくしたものよりいいものを買おう。お金はあるから大丈夫だ。金属製のレガースも買えるな。ついでに質の良い特製服も買えたりしないか)
今回手に入れたお金を使えば、色々と武具更新ができるかもしれないと考えていると、リューミアイオールの声が届く。
(終わったようだな)
(終わりましたよ。まさか魔物と戦うはめになるとは思ってもいませんでした)
(私も正直あれと遭遇することになるとは思っていなかった)
予想外だったか。
リューミアイオールもジケイルさんたちがなぜ死ぬのかはわからないと言っていたしな。
(魔王がいた頃よりも弱体化していたようだが、それでもあれを倒して得られた力はかなりのものだ)
(だいたいどれくらい強くなったのかわかりますか)
(出発前の倍とはいわないが、それに近いところまで高まっている)
出発前が5レベルを想定していて、それの倍近いということは9レベルか? いっきに上がったな。一人前を飛び越えてるじゃないか。
(さすが大物だ。弱くなっていたとはいえ得られるものは莫大なんだな)
ボーナスキャラといえるほど弱くはなかったけど。
(得られるものが多かったということはあるが、ほかの三人が余らせた力を吸収できたおかげでもある)
(どういうことです?)
リューミアイオールが言うには、ジケイルさんたちはもともと一人前を超えた強さがあり、ファルマジスを倒して得た経験値を全て吸収する前に限界に到達していたそうだ。その余って行き場のない経験値が余裕のある俺に流れ込んだおかげで、9レベルに到達したとか。
あの三人からもらいすぎな気がする。ハイポーションと護符と剣のお金をもらって、残りはすべて三人に渡してもよかったな。それくらい経験値はありがたい。
(強くなったのは喜ばしいが、想定を超えた速度のせいで調整が少々手間取る。呪いの再調整をしなければ誤作動しかねないな)
(それは困りますよ!?)
目標達成を頑張ったせいで死ぬとか冗談じゃない!
(こちらとしても順調にいっているのに、ミスで死なれては興ざめだ。十五日ほど呪いを止めるから、その間体を休めたり、強くなった肉体に慣れておけ)
呪いが止まるのか。その隙に逃げる、とかはできそうにないな。
呪いがなくなるんじゃなくて止まるだけなら、俺がどこでなにをしているのかといったことは把握してそうだ。おとなしく言われたように休暇と鍛錬に時間を使おう。
報告は終わったようでリューミアイオールの声はしなくなった。
(中ダンジョンに行って、限界を上げることも考えておいた方がいいだろうし、今の階だとレベルアップに経験値が足りてないだろうからどんどん進む必要がある。やることがなくならないな)
シーミンに中ダンジョンに行くと話したら、なんでいっきに強くなったのか確実に聞かれる。魔物と戦ったと話したら、また驚かれるんだろうなぁ。ハスファの確認作業もまだ必要だって言って続きそうだ。
町に帰るまでに上手い言い訳を思いついて、誤魔化せないかな。
馬車の振動を感じつつ考えてみたけれども、特にこれといった言い訳を思いつかないまま馬車はミストーレへと進んでいった。
感想ありがとうございます