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6 大ダンジョンのある町へ 1

 自己紹介や俺が村で見聞きしたことを話し終える頃に村に到着し、村長の家に向かう。

 ダンジョン入口にいた村人たちは村に帰ったらしく姿は見えなかった。

 

「村長の家に入る前に荷物の確保をしていいか?」

「聞いた話が本当なら荷物を奪われているかもしれないな」


 俺の頼みにセンドルさんは頷く。

 そばにある小屋に入ると、そこに置いていた荷物がなかった。


「なかった。村長が回収したんだろうな」

「一応ほかの誰かに持っていかれないように回収しておいたとも考えられるが」


 カイトーイさんがそう言うけど、俺に疑いをかけた時点でそんな気遣いは期待できない。

 そんな俺の考えを読み取ったのか、センドルさんたちは苦笑を浮かべる。

 センドルさんが扉をノックして、家に入る。それについていく。


「お戻りですか。ダンジョンが消えたと報告がありました」


 リビングにいた村長が椅子から立ち上がり、労わるようにセンドルさんたちに笑みを向けたが、俺を見て表情を強張らせた。


「その反応は見過ごせないな」


 センドルさんが村長に向けて言う。


「な、なんのことです?」

「こいつのことを知らないなら、誰だと知らない表情を浮かべるでしょうに」

「し、知りませんよ。そんな男のことは」


 取り繕うようにそう言った村長は顔を顰め、テーブルに手をつく。


「どうしました?」

「いえ、急に体が痛んで。とにかくそのような男は知りませんから外へと。うぐぅ」


 さらに痛みが増したようで、汗がにじむ。

 どうしたのかと一緒にいた奥さんらしき人が心配そうに村長の背中をさする。

 たぶん四神の誓いに関した痛みだと思うが、確かめてみよう。


「こっちはダンジョンを踏破して約束を果たした。荷物を返してもらおうか」

「な、なにを言っている。知らないと言っているだろう」


 そう答えた村長は立っていられなくなったようでその場に崩れ落ちた。痛みに耐えるように歯を食いしばり目を閉じている。

 急な体調の変化にセンドルさんたちは戸惑っていた。


「確定っぽいな」

「なにが確定なんだ、デッサ?」

「ダンジョンに運ばれるときに四神の誓いをやったんです。それを破った村長に罰が当たっている」

「四神の誓いでこんなことになるか?」


 四神の誓いの自体はセンドルさんたちも知っているんだろう。でもなにかしらの効果が発揮されるというのは聞いたことがないらしい。


「俺がやったのは略されたものじゃなく、わかる範囲で正式にやった誓いだ。完璧にやっていたら村長は今頃死んでいたと思う」

「正式な手順の誓いがあると聞いたことありますねー」


 プラーラさんは思い出したと両手を叩く。


「今すぐその誓いを解いてください! こんなに苦しんでいるのですよ!」


 奥さんが非難するように俺を見てくる。


「俺が魔法とかを使っているわけじゃない。荷物を返せば痛みはなくなるよ。そっちが約束を破ったから罰が当たっているだけだ」

「荷物ですねっ」


 奥さんは村長から離れて別の部屋へと向かっていった。


「やっぱり村長が持っていっていたんだな」


 センドルさんが呆れたように言う。

 すぐに戻ってきた奥さんが俺に巾着を押し付けてくる。


「これで誓いとやらは果たしたでしょ!」

「中身を確認して全部あったら、誓いは果たされたとみなされる」


 ナイフと竜の石と魔属道具はあったけど、お金がない。


「お金が全部ない。これではまだ解けない。全て返ってきていたら痛みはなくなっていたのに、まだ苦しんでいるのが誓いの果たされていない証拠」

「奥さん、ちゃんと返した方がいい」


 先ほどと同じくセンドルさんが呆れたように言う。

 苦々しい表情で奥さんは再度部屋から出ていくと、お金を持って戻ってきて、俺に押し付ける。

 それで誓いが果たされたとみなされて、村長のうめき声が止まる。


「全部返ってきて、誓いが果たされたのかな。センドルさんたちに依頼いいですか?」

「依頼?」

「護衛料を出すんで、北の大ダンジョンがあるという町まで連れていってください」

「帰るからいいが」

「いくらです?」

「道中モンスターと戦うことがなければ大銀貨一枚、戦闘があれば追加で一枚といったところか」


 どうぞと大きな銀貨を差し出す。

 

「ずいぶん汚れているな。偽物かどうかちょっと調べさせてもらうぞ」


 少し申し訳なさそうにセンドルさんは言い、レミアさんに渡す。

 レミアさんは受け取ったそれの表面を爪でひっかいたり、自分の持っている銀貨と重さを比べたりしている。


「問題ないわ。汚れているだけ」

「確認がとれたし、依頼は引き受けた」

「待ってください」


 奥さんに支えられ立ち上がった村長が口を開く。


「それの言うことは嘘っぱちです。私が苦しんだのもそれの使った魔法のせいです。私どもで処罰するので護衛をするのはやめてもらいたい」

「それを信じるとでも?」


 センドルさんたちは厳しい視線で村長を見る。


「私は信じられず、その男の言うことは信じられるのですか!?」

「俺たちもデッサの言うことをすべて信じられるとは言わない。しかしあんたたちのことを疑う材料はある」


 俺のことを信じられないというのは納得いくかな。会って一時間も経過していない相手のことを無条件で信じるのは無理だろうし。

 村長側を疑う材料はなんだろうな?


「私たちがなにをしたと言うのですか!」

「ギルドからのいいつけを破ったじゃないか。俺たち依頼を受けた冒険者が到着するまで、ダンジョンに誰も入れるなと言われていただろう」

「そいつが勝手に入ったんだ」


 つばを飛ばす勢いで俺を指差してくる。

 だがセンドルさんの次の疑問で村長は黙ることになる。


「じゃあなんで荷物をあんたらが持っているんだ。デッサが勝手に入ったって言うなら荷物も一緒に持っていくはずだろう。見たところ重くはなさそうだ。あれなら身軽になるため置いていくなんてことはない」

「……」

「おそらくデッサの持つ金に目がくらんで、いい加減な理由でダンジョンに放り込んで村のものにしようと思ったんだろう? 旅人の荷物を奪う村は噂で何度も聞く」


 宿泊するときに値切らなかったのが問題だったのかもしれない。あれでぼったくりを問題にしないくらいの金を持っていると思われたか?


「このことはギルドに知らせておく。俺たちの仕事を潰されたこともあるし、ギルドのいいつけを破ったこともある。今後しばらく町中のギルドであんたらは要注意対象となることだろう」

「要注意対象になるとどうなるんです?」


 疑問に思ったので聞いてみる。


「ギルドに頼み事をしづらくなる。依頼の費用がより高くなる。冒険者たちにこういう村があったと知らせる。こんなところか」

「冒険者たちに知らせるのはなぜ?」

「また同じことをやるかもしれないだろう? だから警戒しておけと知らせるんだ。ほかに似たような村があるかもしれないし、教訓にもする」


 そうそうこんな村はないんだけどなとセンドルさんは付け加えた。

 

「ここに泊まることになっていたが、同じようなことになるかもしれないしさっさと帰ろう」


 同意だとカイトーイさんたちも頷いて、荷物を取りにいく。

 センドルさんは俺の護衛ということで一緒に村長の家を出る。


「災難だったな」


 言いながら肩をポンポンと叩いてくる。


「本当にですよ。こんなことなら泊まるときに値切っておけばよかったかもしれない」

「いくら取られたんだ?」

「大きな銀貨一枚」

「あの小屋でそれはぼったくりだな。大銀貨一枚あれば、三日は宿暮らしできるぞ」

「やっぱりぼったくりだったんだ。ずっと小さな村暮らしでお金に慣れてないからなぁ。雨風を防げてモンスターとかも近寄ってこないだろうから、少し高いのは仕方ないと思って払ったんだ」

「それでも大銀貨一枚はとりすぎだけどな」

「ああ、そうだ。護衛のほかに頼みがあるんだ。ちゃんと報酬を払うから、モンスターとの戦い方とかダンジョンの歩き方を教えてもらえないか。あとなにか食料を持っていたら買いたい。朝からなにも食ってないんだ」

「わかった。移動しながら教えよう。食べ物も村から離れたら渡す」


 大銀貨でいいかなと思って渡すと、十分すぎると言ってセンドルさんは受け取った。

 カイトーイさんたちが出てくるまで、戦闘経験の有無を聞かれて、正直に答えていく。

 そう時間をかけずに三人は出てきて、五人で村を離れる。


「家を出るとき村長たちが睨んできたわ。欲に負けたあっちが悪いのに」

「そのつけは今後払うことになるさ」


 レミアさんにセンドルさんがそう返すと、でしょうねと頷く。

 あの三体以外にもミニボアがダンジョンから出ていたら冒険者がすぐに必要になると説明してくれる。その討伐依頼をギルドに出すときに今回のペナルティがきいてくるということだ。


「ほら、少しだが空腹のままよりましだろう」


 センドルさんは自身の荷物から小袋を取り出し渡してくる。中身を見ると数種類の豆が入っていた。


「ありがとう」


 礼を言って口に入れる。塩がふりかけられたシンプルなあじつけだが、すきっ腹にはなによりのご馳走だった。

 俺が豆を熱心に食べている間にセンドルさんは、追加報酬をもらって知識を与えることになったと三人に話していた。

 

「ご馳走様」


 袋をセンドルさんに返す。


「村からある程度離れたらそこで野宿だ。見張りとかはやらなくていいから、すぐに寝るんだぞ」

「わかった、疲れているからすぐに寝ると思う」


 暗い中を進んで、小川の近くでセンドルさんたちは止まる。

 カイトーイさんとレミアさんが枯れ枝など燃料になるものを集めに行き、センドルさんとプラーラさんが護衛で残る。

 俺は座らせてもらう。

 その俺にプラーラさんが話しかけてくる。


「少し聞きたいことがあるのだけどいいかしらー」

「はい? なんでしょう」

「荷物から妙な気配が感じられるのー。言いたくないなら言わなくていいけど、なんなのか教えてくれるー?」


 妙な気配に該当しそうなのは竜の石だろうな。ナイフが呪われていたりしたらそれかもしれないけど。

 巾着に手を入れて、竜の石を取り出す。


「これ?」

「ええ、それねー」


 竜の石がなんなのか見定めようとしているのだろう。瞼を開き、琥珀色の目でじっと俺の手の中にある石を見る。


「これは竜の力を浴びた石」

「竜ですかー」


 目を丸くして、驚いた様子だ。センドルさんも驚きが表情に現れている。


「どうやってそんなものを」

「南に竜の住む山があるのは知っている?」


 こくこくと二人は頷く。


「あそこの近くでたまたま拾ったんだ。山頂に行けばもっと質の良い石を拾えたんだろうけど、さすがにそこに行くのは自殺行為だし」

「売って欲しいと言ったら売ってくれますー?」

「もともと売るつもりだったから問題ない。これでいくらくらいになるのかは俺にはさっぱりだけど」

「正確な値段は私もわかりませんがー、金貨が必要になるでしょうねー。金貨三枚くらいでしょうかー」


 持たせてもらいたいとプラーラさんが言うので渡す。


「強い力を秘めているわけではなさそうですー。ですがあの竜の力を浴びたのなら良い素材になりますねー」


 具体的にはとセンドルさんが聞く。


「死黒竜と呼ばれるくらいですからねー。モンスターの攻撃による浸食を減らしてくれる道具になりますねー。強いモンスターと遭遇したときの保険として持っておきたい一品でしょうー」

「思わぬ強敵からの浸食を減らしてくれるのは助かる。割合的にはどれくらい減らしてくれるだろうか」

「かなりのものかとー。そのかわりに量を準備できないため、私たちパーティー一回分しか作れないと思いますー」

「一回分でも持っていたら安心できる。パーティーの貯蓄からお金を出せないか相談してみよう」

「賛成ですー」


 二人の会話を聞きつつ、浸食について考える。

 ゲーム知識にはないけど、デッサの知識にはある。モンスターの攻撃を受けると肉体へのダメージだけではなく、魂にもダメージがいく。それが浸食だ。

 ダンジョンを踏破したときに、ミニボアから攻撃を受けて、芯に残る衝撃があった感じがした。あれが浸食なんだろうか。

 もしあれが浸食なら、そんなに問題にするようなものかわからない。

 聞いてみようと思ったけど、食べ物を腹に入れて、守られている安心感もあって急に眠たくなってきた。

 この眠気に抗うだけの気力はもうなくて、そのまま目を閉じた。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 強盗殺人未遂の罪が奪ったものを返してもらうだけですか?主人公自身に対する慰謝料に相当する対価がゼロですね。
[一言] さて、冒険者を信用して寝てしまったが……果たして?
[一言] 四神の誓いの効果が思ってた以上に強力ですねー しっかし、この期に及んでまだ金を奪えると思ってる辺り碌でもないなあ
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