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57 トレジャークエスト 4

 道を進んで、目的地の「風吹きの林」に到着する。枝や葉が揺れていて、風が吹いているのが見てわかる。


「我らは強き風を探す。デッサは野犬などの警戒を頼む」

「わかった」


 強き風と言われてもよくわからないし、そっちの方が適任だろう。

 林に足を踏み入れて、俺は周辺を見渡す。特別見通しの悪い場所ではないから、野犬などが姿を見せればすぐにわかるだろう。

 三人は上を見ながら歩いていた。あれはどうだ、そっちはどうだと指差している。

 その指が示す方向を俺も見てみたけど、よくわからなかった。

 そうして二時間ほど林の中をうろちょろしていった。野生動物はこっちを警戒しているようで姿は見えず、モンスターもいないようで戦闘は起きなかった。


「よし、絞りこめたぞ」

「なにをどう調べていたんですか」

「主に葉と枝の動きを見ていた。一番大きく揺れているところを探し、どちらから吹いて動かしているのかを見ていたんだ。その結果、一番目二番目三番目まで順位をつけることができた。一番目が強き風ということじゃないかと我らは考える」

「時間によって風の強さが変わるかもしれないから、順位は変わる可能性あるけどね」

「そのときは二番目に強く吹いていた方向へと進むだけですね」


 説明を終えた三人に先導されて強き風の吹く方角へと歩き出す、林を抜けて平地を真っすぐ歩いていると村が見えてきた。

 そろそろ夕方になる時間なので、今日はあそこで宿泊しようということになる。

 普通の農村で、店などはないように思える。

 ケーシーさんが村人に声をかけると警戒した様子はあるものの、聞いたことには答えてくれた。

 ここには宿はないが、村長の許可さえ出れば空き家を借りられるということで、村長の家に向かう。

 村長にぼったくり価格ではないお金を払い、空き家を借りることができた。

 ついでにジケイルさんは鳥遊びの道について尋ねる。そのまま聞くのではなく、鳥が墜落死する場所や急に落下しかけるような場所があるかどうか聞いたのだ。

 よく知っているなと村長は少し驚いた様子で頷いた。その場所を聞いて俺たちは村長の家を出て、空き家に向かう。


「食事の準備前に汗をふかせてもらうわね」

「今日も暑かったですね」

「じゃあ俺たちで水を運んでくるのである。デッサ行こうか」

「りょーかい」


 料理は二人に頼むことになるので、それくらいの雑用はしっかりとやろう。

 井戸を何度か往復して甕に水を入れ、女性二人が汗を拭いている間は家の外に出ておく。その間に俺たちも水桶に入れた水を使って、上半身裸になって汗をふいていく。 

 ある程度さっぱりして、まだ家には入れそうにないのでジケイルさんと村の中をのんびりと歩くことにする。

 日が沈む頃合いで、東の空は暗くなり始めている。

 夕食はなんだろうかと話しながら歩いていると、四十歳くらいの男に話しかけられる。


「兄ちゃんたち、村の外でなにがあったか教えてくれないか」

「外で? どうしてだ?」

「特別な理由はないさ。ただ都市とかでなにが起きているのか知りたいってだけだ」

「知りたいのは大ダンジョンのある町の話でいいのかね」

「そうだな。俺が知っている一番大きな町はそこだからな」


 ジケイルさんは俺の肩に手を置く。


「我はあそこに長く滞在しているわけではないから、デッサ頼んだ」

「俺もまだ三ヶ月くらいですけどね。一番の事件と言ったらダンジョンからモンスターが出てきたことですか」

「行商人からそんな噂は聞いたな。被害は大きかったのか?」


 あの騒動の被害を伝えていくと、男は顔を顰めた。


「ダンジョンを抱えているとそんな危険なことが起きるんだな。活気があるのは羨ましいが、危ないこともあるから住みやすいとは言えないか」

「それのほかにも誘拐事件とか起きてますからね」

「ここら辺りではなにか事件とか起きているのかね」


 ジケイルさんが聞き、男は首を横に振る。


「大きなものはなにも。ここらで起きる厄介事と言ったら畑の野菜が動物に食べられるくらいだ。……あ、でも十年に一度くらいで冒険者の死体が川を流れてくることがあったか」

「ここらに強いモンスターでもいるのだろうか」

「そんな話は聞いたことがない。川に落ちるような危険な場所もなかったはずだ」

「死体の様子はどんなものなのだろう。溺死なのか怪我が原因なのか」

「おそらく怪我。それ以外にはわからんね」


 もしかするとジケイルさんたちは、そういった冒険者と同じことになる可能性があるのかな。

 そうだとすると死んだ冒険者たちも宝探しに来て、死んでいった?

 詳しく聞きたいけど、わからんって言ってるからこれ以上は情報を得られそうにない。

 強いなにかがいるかもとわかっただけ、ましと思っておこうか。

 男に別れを告げて、俺たちは家に戻る。

 髪を湿らせた二人が調理を始めていて、俺たちは準備ができるまでにまだふいていない下半身をふいたり、ささっと髪を洗ったりしていった。

 翌朝、朝食後に空き家を軽く掃除してから村長に礼を言う。そのときに川を流れてくる死体について聞いた。


「たしかに何年かに一度そういったことはありますな」

「ここらに危険な場所はなく、強いモンスターもいないと聞いたのである」

「ええ、そうですね。私の知るかぎりでは足を滑らせるようなところはなく、モンスターや盗賊がいるわけでもない。川を流れてくるたびに、なぜ死んだのか私たちも首を傾げています」

「やはり謎なのか。領主が調べようとしたりはしないのだろうか」

「頻発すれば調べようと思う気も起きるのでしょうけど、何年かに一度なら、またかと思うだけのようです」


 その頻度ならモンスターに殺される人の方が多いだろうしね。調査しようとは思わないか。

 村長に礼を言い、俺たちは村を出て、鳥遊びの道を探すことになる。

 おおよそここらだと村長が言っていた場所に到着し、空に物を投げて風の動きをジケイルさんたちが観察する。

 場所としては特別なものはない。雑草がまばらに生えていて、整備されていない平地だ。野犬や狼といった野生の動物が、落ちてきた鳥を目当てに近寄ってくることがあると言っていたので、それらの警戒は俺がやる。

 ジケイルさんたちは拾った小石や枝を空へと何度も投げて、風の動きを把握したようで進む方向を決めたようだ。


「たぶんだけどあっちに見える山が目的地だろう。出発するぞ」


 近くや遠くにいくつか山があり、その中の一つをジケイルさんが指差した。その山から流れてきている川も見えた。

 距離としてはゆっくり歩いても二時間くらいで到着だろうとレイリッドさんが言い、ジケイルさんたちも同意だと頷く。

 どんどん宝に近づいていると楽しげな三人と違い、俺はどんどん危険が近づいていると緊張することになる。

 

「宝に近づいているというのに、楽しそうではないな」

「死体の話がどうも引っかかって」

「たしかに気になるな。だが数年に一度というものに、我らが関わることはないだろうさ」

「……実は出発前に、占い師に危険な目に合うって言われてたんですよ」


 これで少しは緊張感が出ればと思ってリューミアイオールの言葉をぼかして伝える。


「百発百中の占い師なんていないわ。不安を煽って、アドバイスのお金を取ろうとしていただけじゃないかしら」

「せっかく浪漫を追っているんだ。楽しくいこうではないか」

「……そうですね。楽しい旅に水を差すようなことを言ってごめん」


 まあ、信じられなくて当然だなー。


「死体のことが気になるのは私も一緒。狡猾なモンスターが出てくるかもしれないし、ある程度の警戒はしておきましょ」


 緩みすぎと思ったのかケーシーさんが警告してくる。

 それに二人は気分を害した様子はなく頷いた。

 ケーシーさんは浪漫に突っ走ろうとする二人のストッパーを毎回しているのかもしれないな。

 俺がわざわざ言う必要はなかったんだろう。

 周囲の警戒を怠らずに歩き続けて、目的の山の麓に到着する。そこまで高い山じゃない。二時間もかからずに山頂にいけるだろう。

 ザラノックのいたガダム村そばの森と違って、鳥の鳴き声とかが聞こえてくる。動物たちが逃げ出さないといけない危険なモンスターはいないみたいだ。

 川はこの山の山頂付近や中腹に源流があるわけではなかった。地下水が沸き上がっているのか麓から水が流れていた。

 ここに来るまでに川のそばを通ったけど、村長たちが言うように足を滑らせるようなところはなかった。なんで死体が流れてきていたのかわからん。


「さてここからは隠れ石を探すことになる」

「それのヒントはなにかもらえたんですか?」

「隠れ石そのものを示すヒントはもらえなかった。しかし『隠し』石ではなく『隠れ』石ということは人の手によって隠されたものではなさそうだと言っていたのである」

「なにかを隠しやすい場所ではなく、なにかが見つかりづらい場所を探そうと話したの。岩という大きなものが見つかりづらい場所を探せばいいのだから、そこまで苦労はしないでしょうね」

「そういうわけであるな。と言っても山を歩き回るのだ、すぐに見つかることもないだろう。今日明日は隠れ岩探しに時間を使い、時間があれば明日、夜が迫っていれば明後日宝探しの本番という予定だ」


 俺が納得した様子を見て、ジケイルさんは出発と言って山に踏み込む。

 登山道なんてない山道をあちこちへと視線を向けつつ歩く。なにかを探しながらなのでゆっくりとしたペースだ。

 たまに見つかる木の実や食べて問題ない野草を採取しながら昼まで探していく。獣や小型のモンスターの姿を見かけることはあったけど、近寄ってくることはなかった。

 食料以外に収穫はなかったけど、三人に焦りや不満はない。そう簡単に見つからないとわかっているんだろう。

 昼食を食べて木陰で少し休んで、隠れ岩探しを再開する。

 時間が流れていき、夕方が迫って山の中はどんどん暗くなっていく。今日のところは下山して続きは明日ということになり、川の近くを野営地にする。

 じゃんけんで夜の見張りを決めて、交代で眠る。

 夜は獣やモンスターが近寄ってきたが、そちらに石を投げて気付いていると示してやれば襲いかかってくることなく去っていった。

 朝が来て、身支度を整えて再度山に入る。

 そうして昼食まで一時間といった頃、へこんでいる部分をみつけ、その底に岩を発見した。

 場所は山の中腹くらい。山に入ったところからほとんど反対側にあった。


「あったな。あとは岩の近くに入口があるはず」


 言いながらジケイルさんがへこみに入る。岩周辺を探っていると、蔦に隠れるように人一人が通れるような裂け目があった。


「これだと思うが」

「情報と照らし合わせると間違ってないはずね」


 レイリッドさんが頷きながら言い、ケーシーさんも頷く。


「少しだけ入ってみて、確認してみる。明かりをくれるか」


 ジケイルさんが頼み、レイリッドさんが荷物から魔晶の欠片を使うランタンを取り出す。

 ランタンを受け取ったジケイルさんは中に入っていって、五分ほどで出てくる。


「獣の巣穴じゃないようだ。地下へと続いていた」

「誰か来たような形跡はあった?」

「それらしきものはなかったと思う。これは期待できるのではないか」

「だといいわね。うまくいけばまた美味しい酒が飲めそう。でもとりあえずお昼にしましょ。探索前の腹ごしらえよ」


 野営地に戻って、昼食をとって、荷物を持ってへこみまで移動する。

 荷物を入口に置いて、探索用に身軽になって一人ずつ裂け目に入る。先頭はジケイルさんで、レイリッドさん、ケーシーさん、俺という順番だ。ジケイルさんとケーシーさんがランタンを持っている。ジケイルさんは左手に持っていて、ケーシーさんは腰にひっかけている。

 風が奥の方から吹いてくる。土の匂いを運んでくる。風があるってことはどこかに別の入口がある?

 まったく整備されていない道とも言えない穴を、壁に手をつけながら移動する。こんな道だと走ることなんて無理だ。

 

(さてどんな危険がまっているのか。モンスター以外だと崩落の危険もあるのかな。モンスターだとしてもこんなに入口が狭いなら大型のものはいないはず)


 緩い下り坂をまっすぐではなく、少しずつ曲がりながら下りていく。

 壁や地面に視線を向けていたレイリッドが誰かここに来ていたと口に出す。


「そうなの?」


 ケーシーが聞くと、壁の一部を指差す。


「よく見てみたらわかると思うけど、削られたような跡がある。自然にできるものじゃないわね」


 一直線にへこみがある。それが削られた跡に見える気もする。俺には自然にできたものと判断つかないが、レイリッドさんたちから見れば不自然なんだろう。


「宝を運び出したのかしら」

「運び込んだときのものかもね」


 さすがにどちらなのかまではわからないそうだ。


「こんなところに宝を運び込むとか大変だったでしょうね」


 ゲームでも天然洞窟の中に隠されていたけど、もっと広くて移動は楽だったなー。


「そこは大金で解決したのではないかな。十分な報酬さえもらえればなんでもやるという人間はいるだろう」

「その報酬がなくなったら、金欲しさにここに忍び込むとかやらかしそうですね」

「そこらへんは呪いで縛ったら大丈夫だろうさ」

「ああ、呪いって手段がありましたね」


 自分にもかけられているものが意識から抜けていた。

 どんどん先に進み、いいかげん山の麓を少しすぎた深さまで歩いたんじゃないかと思える時間に、少しだけ広い場所に出る。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 今のところ順調に宝に近付けているようですがリューミアイオールの言葉と村で聞いた話が合わさって宝よりも危険のほうが期待値高そうですねえ
[一言] 英雄の時代よりも前の人が隠した宝だと推測しているのに『宝を運び込んだ時の痕跡かも?』って、そんな昔の痕跡が残っているものかね? 同業者が前にも来ているなら、ここの情報が複数出回っているという…
[一言] いよいよ本格的な宝探し! さてさて、これまで冒険者達を葬り続けてきた脅威の正体は!? 死体を食べずに川に流すあたり生きた魔物ではないかな? ゴミを掃除する程度の事は出来る。とするとアレかなー…
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