56 トレジャークエスト 3
シーミンの部屋で近況に関して話し、少しの間町を出ると伝える。
「どこに行くの? 小ダンジョンは行ったし、依頼でも受けた?」
「知り合った人と一緒に宝探しに」
「宝探し?」
シーミンが小首を傾げる。
「この地方に隠されている宝のヒントを持っているそうなんだよ」
「あ、本当に宝探しなのね。なにか骨董品でも探しにいくのかと」
少しばかり羨ましそうな表情だ。誰かとこういったイベントを行えるのが羨ましいのだろう。
その表情を見て、ついてきてもらえたらなーと思う。でも危ないことに巻き込むのはどうかと思うし、ジケイルさんたちも戸惑うだろう。連れていったことが死因に繋がる可能性あるし諦めよう。
無事に帰ってこられたら近場の採取依頼でも一緒にやってみようか。大変な宝探しになるんだろうし、それが終わって気分転換は必要だと思う。ハスファも誘ってピクニックがわりにするのもいいかもしれない。
なにが言いたげな雰囲気を察したのか、伝えたいことがあるのかとシーミンに聞かれる。それになんでもないと返して、野宿の注意点を聞いていく。
ピクニックについて今話すと死亡フラグが立ちそうな気がした。
「どれくらい外に出るの?」
「十日くらいの予定だって聞いているよ。片道三日と少し、向こうに三日くらい滞在らしい」
途中の村で補給したり道中採取できるから、三日分も保存食はいらないようだけど、念のためそれくらい準備しておいてくれということだった。
俺としても万が一があって補給できず腹減らしながら動きたくないので、念のためという提案に賛成だ。
「迷子になって帰ってくるのが遅れるかもしれない。すっごく遅かったら探してくれ」
冗談のように言うと、必ず探しにいくと真剣な表情で言ってくる。
帰ってくるのがすごく遅れたら、それはもう死んでいそうだし、冗談でも言わない方がよかったかもな。
無事に帰ってきてと懇願するように言われて頷く。
シーミンに別れを告げて、宿に帰る。
いつもの確認に来たハスファにも同じように宝探しに出ることを伝えた。
宝探しということにシーミンと似たような反応を見せたあと、好奇心や興味を優先した行動と思われて微笑ましそうにされた。
その反応のとおり、好奇心を満たすだけの宝探しで終わればすごく嬉しいんだけどねー。
朝になり、必要な荷物を持って宿を出る。十日間留守にするなら一度宿泊を解約してもいいかなと思ったけど、少しずつ増えてきた荷物の保管場所とか考えるのがめんどうだったんでそのままにしておいた。
待ち合わせ場所に行くとジケイルさんたちがそこにいた。
「おはよ」
「おはよう! 出発に相応しい清々しい朝だ」
元気に挨拶してくるジケイルの横でレイリッドさんが眠そうに欠伸をしている。ケーシーさんは普通に挨拶してくる。
「途中まで馬車でしたっけ?」
「うむ。探してあるから、移動しよう」
「レイリッド、行きますよ」
「ふぁい」
ケーシーさんがレイリッドの手を引いて、馬車のある方へ歩いていく。
これだとジケイルさんが指差す馬車の御者にお金を払い、さっさと中に入る。
ケーシーさんとレイリッドさんは並んで座り、レイリッドさんはケーシーさんにもたれかかってまた眠り出す。仕方ないなとケーシーさんは微笑み、眠りやすいように少し体勢を変えた。
俺はジケイルさんの隣に座る。
「レイリッドさん朝に弱いんですか?」
「酒場で遅くまで飲んでいたからな。単純に睡眠不足だ」
馬車の中で眠れるから今日出発ということを気にせず飲んでいたそうだ。
二日酔いといった様子はないし、少し眠れば活動に支障はないらしい。
出発の時間になり、ほかの客も入ってきて馬車が動き出してもレイリッドさんは気持ちよさそうに眠っていた。
「三人は同じ村出身とかそういった感じなんです?」
暇つぶしに聞くと、ジケイルさんは首を横に振る。
「いや違う。三人ともばらばらだ。俺とケーシーが冒険者になったとき、レイリッドはすでに冒険者で、一時的に組んでみたらどうかとギルドから紹介された」
「レイリッドさんは誰かと組んでなかったんですか」
「気の合う仲間を探して、一時的に組んで別れるということを繰り返していたらしいですよ。このパーティもそのつもりだったそうですが、一緒に活動するようになりました」
「気が合う仲間を見つけることができたんですね」
「デッサ君は仲間は募集しないの?」
「今のところそのつもりはないですね。一人の方が性に合ってるんでしょう」
「一緒にやろうって人はいなかったのか?」
「冒険者を始める時点ではいませんでした。冒険者を始めてからはいましたけどね。その人とは実力が違い過ぎて、一緒にやっていくのが難しかった。そういったわけで誰かと戦うという経験が皆無なんで連携には期待しないでください。特に魔法使いの射線を気にするとかできない」
魔法使いとか弓使いと共闘したことは一度もないしな。
兵たちと一緒に誘拐犯と戦ったときも、連携とかせずに個別で人形兵と戦ってたし。
「できないと最初に言ってもらえると助かりますね。それを踏まえてこっちも魔法を使うことができる」
「戦闘になったらこっちの指示に従ってくれたまえ。その方が互いにやりやすいだろうさ」
「了解です」
「ちなみに戦い方は前衛でいいんだよな?」
「ええ、護符や魔力活性を使って自己強化して戦う感じです」
「二十階辺りで、魔力活性は早いな」
「ほかの人にも言われましたね」
以前説明したように早く知って練習していたと話すと納得される。
「魔法使いにも魔力活性のような特殊技術ってあるんですか?」
魔法使いがいるし、これも暇つぶしになるだろうと聞く。
「魔力放出が魔力活性にあたるのかしら。魔力放出ができないと魔法使いにはなれないから、前提技術といえるのかもしれないけど。魔力放出は体外に出した魔力を操る。つまり魔力を魔法として使う技術。戦士タイプはこれができない」
「戦士タイプも魔力を放出するだけならできるんだ。ただし放出した魔力は遠くまでいかないし、体外に留まる時間も少ない」
ジケイルさんの説明で、センドルさんたちに戦士か魔法使いか見てもらったときのことを思い出した。
火を出したとき、大きくならなかったし、火を出していられる時間もそう長くはなかったんだよな。
魔力放出ができれば、あの時点で出した火を自分から離れさせることができたし、出ている時間ももっと長かったんだろう。
「魔法を主体にしているのはケーシーさんだけですか?」
「レイリッドが魔法を使っているわ。攻撃ではなく補助でね。気配を感知するのに聴覚や嗅覚を強化したり、壁に出っ張りを作って足場にしたり、強烈な光で目くらまししたり、冷気で物を冷やしたり」
「とても便利で、頼りになっているぞ」
「戦うためというより、三人の宝探しという方針に合った使い方ですねー」
「うむ。そういった意味でも気が合うということなのだろう」
「そういえば宝探しという方針は組んだ当初から?」
「最初の二ヶ月くらいは周りと同じようにダンジョンでモンスターを倒していましたよね?」
ケーシーさんが確認するようにジケイルさんに聞く。
「ああ、それくらいまでは周囲と同じようにやっていた。しかし我が地図を手に入れてから方針は変わったのだよ」
「その地図は空振りだったんですけどね。次こそはとやっていくうちに今に至るというわけです」
「外れがあるからこそ、当たったときの感激はひとしおなのだよ。今回はどうなるか、今からワクワクが止まらぬ」
今回はめっちゃやべーです、なんて言えたらな。リューミアイオールに行けと言われているから三人の案内がないと俺はたどりつけない。だからやばいと伝えて行くのをやめられると困る。でも死の気配がするって言ったところで信じてもらえるかどうかわからない。竜の予言です、なんて俺だったら信じないからなぁ。伝えても三人は行くのを止めないかもしれないな。
持ってきたハイポーションや護符で危険を回避できればいいなと思いつつ、二人と会話を続ける。
馬車での移動は夕方前に宿場についたことで終わる。
宿を探して、二人部屋を二部屋とって荷物と武具を置く。
「今日はここで宿泊だ。明日もまた馬車に乗って昼に到着した宿場で降りて歩きだ」
「歩き出してから手帳にあったヒントを探すことになるんですか?」
「うむ。その方針だ。明日からは体力を使うから、今日は夜更かしせずにゆっくり休むのだぞ」
「それはレイリッドさんに言った方がいいのでは?」
「大丈夫だ。一度宝探しを始めたら体調管理はしっかりとする奴だからな」
「そこはきちんとしているんですね」
「レイリッドも宝探しを楽しんでいる一人だからな」
話していると扉がノックされて、レイリッドさんとケーシーさんが夕食に誘ってくる。
素泊まりの宿なので、食事は外に出ることになる。
食事を終えて、宿場を観光気分で歩き回る。旅人や行商人目当てのちょっとした出し物を眺めていく。詩人が楽器を鳴らしていたり、物語を語っていたりしている。
ジケイルさんたちは物語を語る詩人の前で止まり、小銭を置かれた小箱に入れて耳を傾ける。
「興味のある話なんですか?」
レイリッドさんが頷く。
「お宝に繋がったりするから、こういった話は聞くようにしているのよ」
「へー」
「といっても詩人が語るものすべてがヒントになるわけじゃないけどね」
「私たちはしばらく聞き続けるから、ほかに気になるものがあるならそっちに行ってもいいのよ」
「一緒に聞いてます」
ほかに気になるものと言っても、そんなに見るものが多いところじゃないし。
詩人が語るのは前世の記憶を取り戻す前にデッサも聞いたことがあるようなもの。細部が違っているのはアレンジか、各地で違っているのだろう。英雄と魔王の時代から数十年後に活躍した者たちの物語で、魔物と戦い打ち勝ったという内容だ。
最後はどこかの国の貴族になったはず。その家はまだ続いているんだろうか。
聞き終わって拍手が送られる。詩人は手を挙げて応え、少し休憩してまた別の物語を語るようだ。
荒っぽいものを語ったので次は恋の物語だと前置きして、簡単な伴奏とともにとある町に冒険者がいたという始まりで語り始める。
それを最後まで聞いて、宿に戻る。
ジケイルさんたちは感想ではなく、物語のどこかに宝探しのヒントになりそうな部分があったか話していた。あとで気になった部分はメモに残すらしい。
部屋に戻り、ジケイルさんは早速荷物から手帳を取り出して、書き込んでいく。
「それだけきちんと書き残していると語り部としてもやっていけそうじゃない?」
「語り部か、宝探しに満足したらやってみるのもいいな。俺たちがやった冒険も物語として仕立てて、多くの人に聞かせるのも楽しそうだ」
「ジケイルさんたちが宝をどこかに隠して、物語にヒントを隠して探してもらうのもありかもしれませんね」
「宝探しの楽しさを知ってもらう活動をやるということか。今後大きな宝を見つけたらその一部を隠してみるのもありだな」
そんなことを話しながら夜の時間を過ごしていった。
朝になり、再び馬車に乗り、目的地に向かう。
今日はレイリッドさんもしっかりと目を覚ましていた。ジケイルさんが言ったようにしっかりと体調を整えているようだった。
馬車に乗り込んで、雑談をしながら昼に大きな村に到着して降りる。
「ここで昼食をとって、食料を買ってから出発である」
道中にまだ村があるので宿泊は大丈夫だが、食料を買えるかどうかわからないのでここで買っていくらしい。
見つけた食堂に入って昼食を食べたあとは、肉や野菜を買っていく。
買ったそれらをレイリッドさんが魔法で冷やして、薄い布で包んで、さらに別の布で包んでリュックに入れていた。その布は特別製で熱を遮断してくれるものだそうだ。
出発の準備を整えて、最初の目的地である風吹きの林に向かう。
村を出て、風吹きの林について聞く。
「風吹きの林というのはその名の通り、風が吹いている林。地形の影響で常に風が吹いて止まないそうだ。そんな特徴があるから地元住民に聞けばあそこだなとわかるそうだ。そこで我々は強き風を探す」
「強き風?」
「うむ。手に入れた資料によると、その強い風が次の鳥遊びの道に繋がるようだ」
「ルガーダさんから鳥遊びの道については話を聞けたんですか?」
「あの方が話しているとき一緒にいたじゃないか」
「考えごとをしていて頭に入ってこなかったんです」
いきなりリューミアイオールに話しかけられたものだから、ルガーダさんの声は通り抜けていったよ。
「そうだったのか。あの方も具体的なことはわからなかったが、鳥が遊んでいるように見える道なのではと語っていた。実際には遊んでいるわけではなく、風に振り回されて遊んでいるように見える場所を示していると考えている」
なるほどなぁ。俺だったら鳥が多く見かけられるところで、地面に降りてきている場所を探していたかもな。
「そういや今回の宝って誰が隠したものとかそういったことはわかっているんですか」
「かなり昔の人ですね。ジェフ・グロストという人なのではと私たちは考えています」
「大物じゃないか!」
聞き覚えのある名前に思わず反応した。
「知っていましたか」
ゲームに名前が出てきたし、彼の宝を探すイベントもあったから覚えている。
この時代まで宝が残っていたのか。ゲームでも同行したキャラがまだまだどこかにあるとか言っていたもんな。
「英雄の時代よりも前に大きく名を広めた大盗賊ですよね。最終的に彼の資産は国の数年分の予算にまで膨れ上がったとかなんとか」
その三分の一をなにかあったときのため各地に隠したらしい。ジェフの死亡後、場所がわからなくなって宝を求める人たちがあちこちを探し回った。
ゲームの主人公も宝の地図を持つキャラの護衛として宝探しに参加し発見する。それがジェフの隠し財宝というイベントだった。
「その通りである。手に入れた資料に彼の偽名や特徴のある文体があったのだよ」
「正直なところ誰かに見つかっているかもとは思っているんだけどね。でも資料を手に入れたからには探さずにはいられなかったのよ」
「宝があるかもしれないなら、探すのが我ら夢追い人の性だ」
口調からうきうきとした感情が伝わってくる。
本当に楽しそうな人たちだ。
宝はなくても安全に終わってくれたらいいんだけどね。予言が外れてくれたらなぁ。
感想ありがとうございます




