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55 トレジャークエスト 2

「ちょっといいかね」


 静かな周囲の雰囲気を気にした様子でジケイルさんが声をかけてくる。


「はい?」

「ここらへんって来ても大丈夫なところだろうか。近寄りがたい雰囲気がしている気がするのだが」

「鋭いですね。近寄りがたいのは当たってますよ。この近くにここら一帯をまとめている家がありますからね。俺も知人がいなかったら来てませんし」

「チンピラに絡まれたりしそうなのだが」

「それは大丈夫です」

「言い切りましたね。なにか理由があるんですか」


 意外だといった表情でケーシーさんが聞いてくる。


「そういった人たちとは顔見知りなんで、いきなり襲いかかるなんてことをしなければ絡まれることはありません」

「あなたがいなければ絡まれるかもしれないってことですか?」

「どうなんでしょうね。むやみやたらに暴れるような人たちでもなさそうですし、用件を聞かれて追い返されるといった対応になるんじゃないですかね」


 クリーエの部下たちは、雰囲気的には荒っぽい人たちが多いけど、暴れ回るといった人たちでもない。

 ここらに出向いた回数はそう多くないけど、カツアゲとかしているところを見たことがない。

 まあ余所者が詐欺とかしていたら、暴力も使って捕獲したりするんだろうけど。治安維持も担っているから、暴力だけの人たちではないはずだ。


「ここに来る必要ってあったのか? 今からでもほかの知人のところに行けないか?」

「ほかの知人も帰りたくなるような場所にいるし、三人にとってはこっちの方がまだましだと思いますよ」

「こっちの方がましとは」


 頼る人を間違えたかとジケイルさんは呟いた。

 その感想は間違いではないな。三人が求める情報を得るために俺が適任かと言われると、そんなことはないだろう。もっとほかに安全なところにいる人を紹介してくれる人はいたはずだ。


「ああ、見えてきた。あそこに住んでいる人です」

「古いが立派な家だ。どんな人が住んでいるのであろうな」

 

 ルガーダさんは、今日は屋内にいるようでテラスに姿は見えない。

 玄関の横の小さな鐘を鳴らして、少し待つと人が出てきた。名前は知らないけど、顔を見たことはある。


「お前さんか、なにか用事か?」

「ルガーダさんに聞きたいことがありまして、いますか?」

「いるが、なにを聞きたいんだ?」

「ここらの顔役の関係者であるルガーダさんではなく、この町に古くから住んでいる住民としてのルガーダさんに周辺の地形について聞いてみたいことがあるんですよ」

「そういったことならわざわざここに来なくてもよかったんじゃないのか」

「俺の知り合いに古くから町に住んでいる人となると、ここかタナトスの一族くらいしかいなくて」

「そうか。少し待っててくれ、ルガーダ様に会うかどうか聞いてくる」

「はい」


 扉が閉められて、肩に手を置かれる。その力は強かった。

 肩を掴んでくるジケイルさんを見ると表情は硬い。ほか二人も似たようなものだ。


「顔役ってどういうことだ?」

「そのままの意味だよ。ここら一帯をまとめている裏の顔役が住んでいる家だ」

「危ない奴らじゃないか!? また危ない奴らと追いかけっこなんてやりたくないぞ」


 口調が崩れているな。余裕がなくっている証拠かな。


「俺たちが暴れたら相応の対応はしてくるだろうけど、話を聞くだけなら大丈夫ですよ」

「なんでそんなに落ち着いていられるんだっ。普通はそういった奴らとは関わらないようにするものだろうっ」

「縁がありまして。ここが駄目ならタナトスの一族だったんですけど、そっちの方がよかったですかね」


 三人はドン引きといった表情になる。


「そっちもなしだろう!? なんで選択肢がここかそこの二つだけなんだ!?」

「俺の交友関係の狭さのせいですね」

「交友関係がおかしすぎる! なんで俺はピンポイントでこいつに尋ねてしまったのかっ」

「その妙な運が宝探しには必要になるかもしれないから?」

「たしかに普通の運だとどんな宝探しも空振りに終わりそうだがっ」


 俺たちの運勢のせいなのかと三人が悩む様子を見せているうちに、玄関が開く。

 ルガーダさんが会ってくれるということで、応接室に案内される。

 三人は緊張した様子で静かにソファに座る。

 すぐにルガーダさんが応接室に入ってくる。


「おはよう」

「おはようございます。約束もしてないのに今日はありがとうございます」

「いやいやかまわんよ。ここ最近は落ち着いていて時間もある。それで俺に聞きたいことがあるとか」

「はい。俺じゃなくてこっちの三人がなんですけどね」


 ルガーダさんは俺からジケイルさん達に視線を移す。

 見られた三人は背筋を伸ばす。


「なにを聞きたいのかね」

「ほ、本日はお時間をとっていただきありがとうございます。俺たちはあちこちで宝探しをしている冒険者でして。この町にも宝探しにやってきました」


 演技がかった話し方じゃなくて、真面目なものになってる。取り繕う余裕はあるけど、怖くて丁寧になったんだなー。

 

「ほう、宝探しか」

「は、はい。細かい話をした方がよろしいでしょうか」

「いやいや、お前さんたちにとって大事な情報だろう。話さなくてよい」

「ありがとうございますっ」


 きびきびとした動きでジケイルさんは頭を下げた。


「それでなにを聞きにきたんだね」

「ええと、ここら一帯の古い言い回しというのですかね、呼び名を尋ねたいのです。自分たちで調べてはみましたが、わかりませんでした。聞きたいのは風吹きの林、鳥遊びの道、隠れ石の三つです」


 ルガーダさんは思い出すから少し待ってくれと言って考え出す。

 当然ながら俺には聞き覚えのない単語ばかりだ。

 どんな返答があるのかと思っていると突然脳内に声が響く。


(聞こえているか?)

「え?」

「どうした?」


 いきなり声を漏らした俺にジケイルさんたちから注目が集まる。


「いや、しゃっくりが出たんだ。気にしないでくれ」

「そうか」


 誤魔化すと素直に納得してジケイルさんたちはルガーダさんに視線を戻す。


(聞こえているようだな。返事は心の中だけでするといい)

(この声はリューミアイオール?)

(そうだ。知らせることがあって話しかけている)


 そんなことできたのか。


(その者たちについていけ。それが次の試練だ)


 ジケイルさんたちのことかと聞くと肯定の返事があった。声を届けるだけじゃなくて、俺の現状もしっかりと把握できているんだな。


(なんでですか? というか最初に求められた強さには無事到達していたんですね?)

(強さは到達している。しかもこちらが求める以上の早さでな)

(そうなのか?)


 ひょっとするとガードタートル狩りが俺の想定以上に稼げたということだろうか。


(そのせいで今後に余裕が生まれてしまっている。それでは鍛錬に緊張感がなくだれてしまう)

(余裕があるのはいいことでしょ! ギリギリでやっていきたくないんですけど!?)

(死にたくないからと強くなって美味くなると言い出したのはそちら。こっちはそれを受け入れて条件を出せる立場だ。つべこべ言わずに従え)

(わかりましたよ! やりますよ! でもなんで三人について行く必要があるんですか。時間調整をすればいいだけでしょうに)


 余裕があるなら、設定を仕切り直して新たな期限を設定すればいいだけだと思う。


(その三人からは死の気配が感じ取れる。このまま三人だけで行けば死ぬだろう。それに同行すれば貴重な経験が積めて、強さの質が高まると考えた)

(……三人は死ぬのか)


 確認するように聞く。死黒竜と呼ばれ名前に死の文字が入っている存在だ。死の気配を感じ取れても不思議ではない。


(死ぬ。どうして死ぬのかまではわからないが)


 考えられるのは宝探し関連だよな。仕掛けられた罠にかかるのか、ほかに同じ宝を狙っている人がいるのか、それとも偶然モンスターに襲われるのか。

 死因が気になるけど、その前にどうやってついてこうか悩む。

 あとをつけるのは論外。尾行の技術なんてないしな。ここで得た情報をもとに先回り。それも無理だな。こうやって考え込んだことで聞き逃した部分がすでにあるし。


(今後の予定を伝えておくぞ。その三人と別れてミストーレに戻ってきてからまた三ヶ月で期限だ。求める強さは一人前以上といったところか)


 えっと最初の目標が4レベルで、リューミアイオールの想定以上ということは今の俺は5レベルくらいにはなっていそうだ。んでもって求められる強さが一人前以上ということは8レベル辺りを想定すればいいのだろう。

 目標階は三十二階。今は二十階だからあと十二階潜れば達成といった感じかな?

 最初に十六階を目標にしていたときより少ない階を移動すればいいけど、モンスターの強さは比にならない。余裕があるとか思っていたらあっという間に時間切れになりかねない。引き続き気合を入れて頑張らないと。

 まあその前に宝探しで死にかねないんだけどさ。


「デッサ? なにを考えているんだ?」


 ルガーダさんから説明を聞き終えたらしいジケイルさんが声をかけてくる。


「んー」


 ここは素直に言ってみるか。最初に誘われていたし案外大丈夫かもしれない。


「宝探しに興味がでてきてね。でもついていくのは迷惑というか、分け前が減るとかそんな感じで嫌がられるんじゃないかなと」

「俺は歓迎するが、レイリッドとケーシーはどうだ」

「デッサのおかげで情報を得られたし構わないわよ」

「私もですね」

「というわけで一緒に探しに行こうじゃないか」

「あっさりと認めましたね。俺は特に宝探しに必要な技術を持ってませんよ」

「それももちろん大事だが、浪漫も大事だ。宝を求め、その行程を楽しむ心こそが一番だ」

「ありがとう。同行させてもらいます」


 死の気配とやらがなければ素直に楽しめるんだけどなぁ。


「ルガーダさん、少しの間町を留守にするので食事はなしということで」

「うむ、わかった。楽しんでくるといい。宝探しでどんなことがあったのか土産話にしてくれると嬉しい」

「良い土産話になることを俺も願ってますよ」


 ルガーダさんに別れを告げて、家から出る。

 ジケイルさんたちは家から離れていくとほっとしたような雰囲気を放つ。


「考え込んでいて、ルガーダさんとの話を聞いていなかったんですけど、ほしかった情報は得られたんですか?」

「うむ。あとで確認する必要はあるが、ほしかった情報でほぼ間違いないだろう」


 ジケイルさんは芝居がかった所作に戻り、本当に緊張から解き放たれたとわかる。


「確認とか準備とかあるでしょうし、明日出発というわけにはいきませんよね? いつ出発になりますか」

「明後日の朝に町の北入口で待ち合わせでどうだね」

「わかりました。なにか必須の道具とかありますかね」

「野宿準備だけで十分。あとは保存食を三日分」


 続いて小鍋といった料理器具は必要なのかと聞いてみると、それは三人が持っているから大丈夫ということだった。

 行き帰りにかかる日数といったことについても確認をしているうちに大通りに出て、そこで三人と別れる。


(準備が必要だし、宿に一度帰るか)


 宿に戻り、ずっととってあった竜の石を持ち出す。

 今回が売ってしまうときだろうと思ったのだ。リューミアイオールの予言みたいなものがあるんだから、売ったお金でしっかりと準備を整える必要があるはずだ。

 ゴーアヘッドで売ることにして、受付にいる職員に渡す。石ころを見て首を傾げた職員にどんなものか説明すると、いまいち信じてもらえない様子だった。力を感じ取れないと薄い緑色の石だしな、無理もない。

 鑑定してくれと頼んで、三十分ほど待つと呼ばれる。

 疑ったことを詫びてきた職員にいくらで売れるか尋ねると、センドルさんたちと同じく金貨三枚でどうかと提案されて頷く。

 金貨三枚を受け取り、それを持ってベルネー本店に向かう。そこで金貨一枚分の護符を購入する。

 買ったものは大銀貨一枚の値段がする護符を八枚だ。一時間物理防御を上げる護符を四枚。同じく一時間魔法防御を上げる護符を四枚。それに加えて、小銀貨五枚の護符を四枚。二十分間動きを速くする護符だ。

 耐えて逃げるということを目的にした買い物だ。

 ついでに足止めや吹っ飛ばすことを目的に、もともと持っていたお金も使って爆発の護符を一枚買う。

 買い物を終えてベルネー本店から出て、次は教会に向かう。大怪我が予想されるのでハイポーションを購入するのだ。

 ハイポーションの効果について修道士に再確認してから、二本購入し教会を出る。

 次は昼食を食べてタナトスの家だ。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] ゴールドトレジャー「親切な奴だと思ったらヤバ目のやつだった」 デッサ「普通普通。はっ、電波来た!」 ゴールドトレジャー「めちゃくちゃヤバいじゃねーか!!」 ちゃんちゃん♪
[一言] おや、これまで特になにもなかったのに突然の試練とは 気楽な宝探しでは終われなさそうですねえ
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