54 トレジャークエスト 1
今日もダンジョン探索頑張るぞ。今回から二十階に挑戦だ。
武具の手入れをして、籠手も新調した。手の甲から前腕の半ばまでが鉄で保護されたもので、少しだけ重さが気になるけど大きな負担にはならないはずだ。外見は侍とか忍者の籠手に似た作りだ。
お値段はこれ一組で大銀貨七枚、一ヶ月の生活費半分をもっていった。今後それだけの価値はあると示してくれるだろうか。
十九階では一体でいるインプと戦って、魔法の攻撃とはどんなものか体験した。
護符のおかげで一回で致命傷とはならなかった。インプの使う魔法がそこまで強くもなかったんだろう。それでも複数のインプから集中攻撃されるとあっというまに大ダメージになっていたのは簡単に予想できる。
魔法による攻撃を体験してわかったことは、魔法には掛け声が必要らしいということ。インプは魔法を使うたびに何語がわからない声を発していた。プラーラさんも同じように魔法を使う際には詠唱のようなものを唱えていたから必須のものなんだろう。
ゲームでは味方が魔法を使うとわずかにタイムラグがあった。こっちでは詠唱という形で表現されているみたいだ。
ほかにわかったことはダメージを受けるだけではなく、視界を遮られることもある。炎の玉を受けたときそれが弾けて視界が朱色にそまった。一秒くらいだったけど、隙が生じる。今後この隙を理解したモンスターが出てくるかもしれないから注意が必要だ。
インプの耐久度そのものは低かった。手が届きにくいところに陣取られるのが厄介で、筋力強化の護符なしでも三度ほど攻撃を当てればそれで死んだ。
この階では魔法使いや弓といった飛び道具の使い手が活躍しそうだ。
俺にとっては戦いづらいところなんで、用件を終えてさっさと駆け抜けた。
二十階はブレードバニーという兎のモンスターがいるらしい。
見た目は額に刃状の角を持った豚とか猪サイズの兎。攻撃は角を用いた突進。回転しながらの体当たりをしてくることもある。ゲームと同じ行動みたいだ。
豚サイズの突進とか、受けると大ダメージは必至なんで挙動をしっかり見ての回避が大事になるだろう。
ブレードバニーの情報を確認したあと、転送屋に二十階へと送ってもらう。
いつも通り一体でいる個体を探してうろついて、見つけたブレードバニーに攻撃をしかける。
挙動を確認したあと筋力強化の護符と魔力活性を使って全力で戦う。本格的に攻撃を始めて三分ほどで倒すことができた。
「インプに比べると戦いやすいな」
インプより頑丈だけど、きちんと攻撃の届くところにいてくれるだけでもありがたいし、攻撃の間合いが噛み合うのも助かる。
今後苦手なモンスターがでてくるとしたらどんなものだろうか。
スモークといった実体のないモンスターが厄介そうだ。攻撃してもスカスカしてて、手応えがないのは攻撃が効いているのかさっぱりだろうし。あとはガードタートルみたいに固い奴も苦労するなー。
護符で対応するしかないのかなと思いつつ一体でいるブレードバニーを探して、戦っていく。護符と魔力活性なしでも戦ってみて、倒せることが確認できた。
今日のところは動きの観察がてら一対一を繰り返していくことにして、そろそろ夕方前だろうと感じて引き上げる。
翌日は一体か二体でいるブレードバニーを探して戦っていく。
一対二でも時間はかかるけれども問題はなかった。攻撃の前兆をしっかりと見るということを徹底したからか、攻撃を受けることなく戦うことができた。
これが一対三になると、処理能力が追い付かずに避け損ねる攻撃がでてくると思う。
ファードさんに教わって対処力が上がったのはいいけど、見るべきところ気に掛けるところが増えて、一戦に使う集中力が増えたのも事実なんだよな。今後戦闘経験を重ねていけば慣れてくるといいんだけど。
そんなことを思いつつブレードバニーを探していると、T字路にさしかかる。
左右の確認をすると左の通路の先に三人の冒険者がいて、屈んでいる。なにをしているのかと思う前に、彼らの背後にブレードバニーがいるのを見て、思わず声をかける。
「後ろ!」
言ってからもしかすると気づいていて、ブレードバニーの油断を誘っていたのかと思う。
もしそうだとしたら謝ろうと思っていると、彼らは俺の方を見てブレードバニーの接近に気付いたようで、慌てて武器を構えた。
男一人に女二人の十八歳くらいの三人組は、ナイフを使う男と女の前衛、魔法を使うらしい後衛という構成だ。
最初こそ慌ただしく戦っていたけど、すぐに安定した戦いぶりになって、ブレードバニーを倒す。後衛はなにもしてなかったし、余裕のある戦いだから適正の階はもっと上なのかもしれない。
戦闘が終わってなにも問題ないみたいだし離れようか、なんて思っていたら男が近づいてきて声をかけてくる。
「声かけ感謝である! 助かったぞ」
「どういたしまして。もしかしたら油断を誘っているかもと思ったけど、違ったんですね」
「少しばかり周囲への警戒を怠っててな」
両手を肩くらいまで上げてまいったまいったと首を振る。
「危ないですねー」
「ははは、返す言葉もない」
「それじゃ俺は行きます」
「ああ、本当にありがとう」
さらばだと手を振る男と別れて右の通路へと進む。一度振り返ると三人はなにかを話し合うようにその場に立ち止まっていた。なにか小箱のようなものを持っているようにも見えた。
その後、帰る時間までブレードバニーを倒して回り転送区画に戻る。
翌日は休暇日で、いつものようにマッサージを受けて、ガルビオと雑談してゴーアヘッドに向かう。
ガルビオはダンジョンで取れる水などを買って少しずつ基礎化粧品の研究を進めているらしい。成果がでるのはまだまだ先だと話していた。
ギルドに入って、見知った顔がいるかと屋内を見回す。
「あ、フリーダムの二人がいるな」
今は誰かと話していて、その人たちが離れたら挨拶くらいはしようか。
依頼書を眺めて文字の復習でもしておこうと眺めていく。
「ええと古く、なった、小屋の破壊と、ゴミの処理を、お願いします。こんな感じかな」
文字を学び始めた頃に比べたら格段に読めるようになったな。
学習の成果に頷いて、ほかのものも見ていこうと位置をずれる。
隣にあるのは、仲間募集の依頼? 依頼で出すってことはずっと一緒にいてほしいとかじゃなくて、一時的に加わってほしいとかかな。条件はここらの地理に詳しくて、口が堅い。なにが目的で募集しているのか、よくわからん。なんか秘密にしたいことでもある?
どんな依頼なのかと首を傾げていると、肩を叩かれた。
「やあ、昨日の冒険者であるな」
振り返ると昨日通路でしゃがんでいた男がいた。
「ああ、昨日の。おはよう」
「うん、おはよう。その依頼に興味あるのかね?」
「いんや文字の読み書きの練習として眺めていただけだ」
「そうであったか。俺たちの出した依頼をじっと見ていたのでな、受けるのかと思ったわ」
「これを出したのはあんたらか。読める範囲だとなにをしてほしいのかさっぱりだったよ」
そう言うと男は乾いた笑いとともに指で頬をかく。
「詳しいことは書けなくてな。そのせいでギルドの人にも募集を受ける奴はいないだろうって言われてしまったよ」
まいったと片手を額に当てて言う。
昨日もだけどジェスチャーを多用する人だなぁ。
「勘繰って怪しいことをさせられるって思う人もいるだろうしね」
「別に怪しいことをさせるつもりはないのだがな。ただし話を広められると困るのではあるが」
「そうは言ってもやっぱりなにさせられるかわからないのは怖いな」
「まっとうな依頼で、成功すれば高額報酬も払えるはずだよ」
まっとうで成功すれば高額……人に知られたくなくて、ここらに地理に詳しいとなると……思いついたのは山師だ。
「鉱脈でも探してる?」
「当たりではないが、大外れでもない気がするな。どうだ、君も我らとビッグにならないかね」
「山師が大外れじゃないのか。まあ、なんにせよ俺には無理な依頼ですね。ここらの地理に詳しくないし」
「残念である。知り合いに地理に詳しい人かここらの古くから住んでいる人はいないかね?」
そうだな……ルガーダさんは代々顔役の家とか言ってたし、ずっとこの町に住んでいるはず。タナトスの一族もダンジョンで活動するから、住居は移してないだろう。教会も古くからここにある組織だけど、仕事で忙しいだろうし除外かな。
タナトスの一族は敬遠するだろうし、紹介するならルガーダさんだろうけど。連れていくだけ連れていっていなければ諦めてもらおうか。
「心当たりはあるけど、留守にしているかもしれないんで、その場合は諦めてくれるか」
「うむ。感謝するぞ」
仲間を呼んでくると言って男は離れていき、昨日も見た女二人と戻ってくる。
ギルドを出て歩きながら、俺が名乗ると三人も名乗り返してくる。
「あたしはレイリッドよ」
レイリッドは胸辺りまでの金色のくせ毛で、つり目の強気を感じさせる顔つきだ。ノースリーブシャツに短パンの上に革製の防具を身に着け、ほかに派手好きなのかネックレスや指輪やバングルをいくつも身に着けている。
「私はケーシーです」
ケーシーは薄い茶色のボブカット。くりっとした目の童顔だ。長袖シャツ、ロングスカート、フード付きのマントといったいでたちだ。こちらはこれといった装飾はない。
「我はジケイル。ゴールドトレジャーのリーダーである!」
自身の胸に手を当てたジケイルは灰色の髪をセンター分けにしている。臙脂のシャツに革製の黒ズボンを着こなしている、と思う。演技じみた態度のせいで断言できない。
「どういったことを目的にしたパーティなんです?」
「宝探しである」
「宝探し……ああ、それで口の堅い人を募集していたのか。情報を誰かにばらされると宝を横取りされるから」
俺がそう言うとジケイルは「ぁ」と呟いて、しまったと言わんばかりに表情を変える。
「すすすすまんが、聞かなかったことにしてくれたまえ」
「いいけど、動揺しすぎだろ。今回の件については聞かないけど、これまで見つけた物については聞いてもいいんですか?」
「ふふふ、構わん。我らの華麗なる活動を聞いて驚くがいい」
「自信満々に言うってことはそれなりの数を見つけているんだ」
「大当たりってものはないんだけどね。成果はそこそこ?」
レイリッドさんが言う。大当たりしていたらもっと羽振りよさそうな恰好になってそうだもんな。
「主にみつけるのは昔モンスターに襲われた行商人の荷物とかですからね」
ケーシーさんも続けて言う。
「そういった遺品って回収されるんじゃ?」
「襲われた場所が崖そばだったりすると落ちて回収が難しいということがあるみたい。そのまま放置されたものを発見したことが何度か」
「なるほど。でもそれは宝探しではない気がしますね」
宝探しは誰かが隠したものを発見といった感じだなー。
「洞窟に隠されたものとか埋められたものを見つけたりはしたことあります?」
「あるぞ! とある大木の下に埋められた宝をな! 歴史は浅いものではあったが、煌めく品だった」
「宝石とかじゃなくて、埋めた人たちの思い出の品だったけどね」
オチをつけるようにレイリッドさんが言った。
この世界にもタイムカプセルがあったかー。
煌めくというのは、埋めた人たちの楽しい思い出が感じられたとかそんな感じなんだろうな。
「一番稼げた宝探しはどんなものだったんでしょう?」
「湖に沈むという宝を探したときであるな。宝について書かれた手帳を手に入れ、該当する湖を探し出し、金貨銀貨を発見したのだよ」
「おー、それは本当に宝探しだ」
「実は、それは地元の悪さしている組織が隠していたお金でそれを巡って厄介事に巻き込まれました」
逃げるのが大変でしたとケーシーさんは溜息を吐いた。
お宝だけど浪漫とは程遠いなぁ。
「でも苦労した分だけあって儲けは良かったわ。おかげで美味しいものを飲み食いできて、しばらく楽しく遊んで過ごせた」
レイリッドさんは笑顔だ。そのときの生活が本当に楽しかったのだろう。
「じゃあ湖に沈むっていう宝はどうなったんです?」
「我らには手に入れられるものではなかった。素晴らしきものであったのは事実だが、大きすぎる宝であったよ」
どんなものだったんですかとレイリッドさんたちに聞いてみる。
苦笑しながらレイリッドさんが教えてくれる。
「景色だったのよ。湖に沈むように見える太陽、その景色が見応えのあるものでね。素晴らしいものだと手帳に残していたというわけ」
「景色はたしかに個人の手に入らないものですね。ちなみに綺麗でした?」
「ええ、とても。あの感動を絵に残せる画家がいたら絶対大成するでしょうね。いい値段もつきそうだし、どこかに駆け出しで腕のいい画家いないかしら」
買い叩く気満々だな。
そんなことを話しつつ歩いて、ルガーダさんたちの家に近くまでくる。
感想ありがとうございます