53 誤魔化し
小ダンジョンを潰して、ミストーレに帰ってきた。
依頼終了報告のためギルドに向かい、報告を終えて宿へと足を向ける。その途中で食堂に入り、夕食をすませる。
宿に入り、荷物を置いて体をふこうと思っていると、床の掃き掃除をしていた従業員に声をかけられた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
「伝言が届いていますよ」
「伝言? 誰からですか」
ちょっとまってくださいと言って従業員は宿帳を置いてあるカウンターに向かう。
メモ用紙を持って戻ってくる。
「町長から呼ばれているようです」
「町長から? なんでだろう」
「理由は書いていませんね。なにかやらかしました?」
「悪いことはしていないぞ。町長に関わりがありそうなことといったら兵と一緒に働いたくらいじゃないかな」
でも十日以上前のことなんだよな。なにか用事があるなら小ダンジョンに向かう前に呼び出しそうなものだけど。
「伝言ありがとう。明日にでも行ってみるとするよ」
従業員に礼を言い、部屋に戻る。
荷物を置いて、桶に水を汲んで部屋に戻って体をふいてく。
暑い中歩いて汗かいたし、さっぱりする。シャワーでいいから浴びたらもっとさっぱりするんだろうな。
ぐっすり寝て朝になり、町長の話のあとダンジョンに向かうつもりで武具を身に付けて宿を出る。
町長の屋敷の前まで来て、門番に声をかける。
「おはようございます。呼ばれたということで来たんですが、確認をお願います」
「名前を教えてくれ」
「デッサ」
門番は少し考え込むと、口を開く。
「前に誘拐事件解決に協力した冒険者で間違いないか?」
「ええ、そうです」
少し待つように言われて、門番の一人が屋敷の中に小走りで向かっていた。そう時間をかけず使用人と一緒に戻ってくる。
その使用人についてくるように言われて、敷地内に入る。
建物に入り、武器と荷物を別の使用人に預けてから少しばかり歩いて、使用人は足を止める。
「お客様をお連れしました」
「通せ」
「中へどうぞ」
使用人が扉を開けて、その中に入る。
部屋に入ると、背後から静かに扉を閉める音がした。
椅子に座っている町長がこちらを見てくる。もう一人いる男は机に視線を向けたまま仕事を続けている。
「やあ、おはよう」
「おはようございます」
「留守にしていたみたいだけど、どこかに行っていたのかい」
「小ダンジョンの依頼を受けて、南の方に」
「なるほど。それなら留守でも仕方ない」
「納得していただいたところで本題なのですが、どうして俺は呼び出されたんでしょうか」
「誘拐事件解決の礼がまだだったろう? そのためだよ。救助してすぐに礼をしなかったのは、誘拐事件の調査とザラノックの件が落ち着いてからと思ったからなんだ」
「ということはあの森の問題は解決したんですね」
「うむ。四日ほど前に解決したそうだ。ニルドーフ様じきじきに報告に来てくださった。予想したとおりにライアノックがいたそうだよ」
いたのかー。誰も気付かなかったらどんどんザラノックが増えていたんだな。
「事件解決の礼だが、金銭で問題ないかね。なにか頼みがあるなら、そっちを聞くが」
「お金で大丈夫です」
「ではお金ということで。一ヶ月分の生活費くらいでいいかな」
「はい、それで問題ありません」
宿賃を先払いすれば、武具のためにお金を使えて助かる。金属製の籠手かグリーブをそろそろ買おうか。
「しかし本当に頼み事はないのかい?」
「今のところ町長に頼まないといけないような困りごとはないですね」
「そうか。お金を持ってこさせるから、そこのソファに座って待っててくれ」
町長は仕事をしていた部下に声をかけて、お金を取りに行かせる。
俺から見た町の様子なんかを聞かれて答えていると、扉が開いた。
部下が戻ってきたのかと思ったら、ニルとオルドさんがいた。サロートさんは別行動かな。
「やあ、デッサ」
「どうもニル、様?」
町長が敬っている相手だし、様付けの方がいいのかなと疑問符がついてしまった。
「これまでどおりでいいよ。君といた間は冒険者として過ごしていたし、今後もそれでいこうかなと思う」
いいのだろうかとオルドさんに視線を向けると、頷きが返ってきた。
いいらしいんで、以前のままにしとこう。
「おはよう、ニル。町長の家に泊まっていたんだ?」
「この町に滞在する間、世話になっているよ」
喋りながらニルたちはソファに座り、町長も一人掛けのソファに座る。
「ギデスから聞いたけど、ガダムから帰ってきてすぐに誘拐事件に関わったんだって?」
「町に戻ってきてすぐに、たまたま魔法をかけられた子供と遭遇して、それがきっかけで関わることになったんだ」
「モンスター発生に誘拐と忙しいね」
「そうですね。俺はもっと落ち着いてダンジョンに潜っていたい」
鍛錬に集中させてほしいよ、ほんとに。
「話を聞いたが月の魂重ねというものも知っていたそうだね。ライアノックについても知っていたようだし、色々と一般人では知らないことを知っているみたいだ。どこで知ったんだい?」
「偶然ですかねー」
「ライアノックなら偶然かもしれないけど、月の魂重ねという儀式は偶然では知れない気がするよ。あれは広まるようなものではないからね」
まあ誤魔化されないよね。
どうしたもんか。ゲーム知識ですってのは無理だろうし。本当のことを話すと信じてもらないめんどくささよ。
いっそのこと信じてもらえないような嘘を吐こうか。調べてもなんのヒントも出てこないような嘘を。そして勢いで誤魔化してしまおう。
漫画とかゲームとかにちょうどいい設定はなかったかな。
「ずいぶん悩んでいるようだけど、話せないようことかい」
「……話せないことですね。一子相伝で受け継いできたものですから、そう簡単に明かすわけにはいきません。月の魂重ねは焦って思わず漏らしたことです」
口調を丁寧なものに変えて、演技を意識する。
「思った以上に深い事情があるみたいだね」
それっぽく言ったら信じてもらえた? このまま引いてくれると助かる。
「俺の立場上、あのような儀式について知っている者を放置はできないのだが」
「冒険者として接すると言っていませんでしたか」
「そうなんだよね。自分で言ったことをこちらの都合で撤回しては信用されなくなってしまう。けれども放置もというのもな」
「ニルの中では俺は危険人物という認識なのですか?」
「今のところはそうではないね。ライアノックや誘拐の解決に動いていたし、騒動を起こす側ではなく収める側だと考えている」
「俺自身、その方向性でいますよ。それだけでは駄目なのですか」
「それを信じたいが、悩ましい」
「では少しだけ俺について話しましょうか。知ってのとおり俺は知識を持っています。ライアノックのようなモンスター知識、月の魂重ねのような儀式の知識。ほかにもいろいろと知っています。それらの知識の中には広めてしまうと被害が生じるものもあります」
嘘かどうか見極めようとしているのだろう。ニルたちはじっと俺を見てくる。
嘘を見抜かれてもどうしようもないし、このままいこう。嘘を吐こうと決めたのだから止めると逆に不自然なはず。
「これら知識は過去に起きた事件をもとにしたもの。二度とは起こしてはならぬと封じられ、けれども時の流れの中で消え去ってしまわぬように集められ受け継ぐことが決められたもの。いずれ同じことが起きたとき、被害が小さくなるようにと願われて始められたこと。国のためではなく、この世界に生きる者たちのため、我らは知識を保つ。それが平穏に繋がる助けになることを祈る。口を閉ざせ、ただ集めよ、そして必要なときにのみ明かせ。それが我ら秘の一族。というのが先代から聞いたことですね」
この世界と似たゲームとは別のゲームに出てきた放浪賢者から引用だ。
「……聞いたことないな」
「でしょうね。身分の高い人には近づかないようにしてきたそうですから。そういった人に知られてしまっては悪用されかねない知識もある。ニルが言ったように俺たちは騒ぎを起こす者ではなく、収める者なのだから悪用される可能性は減らすにかぎる」
「国と協力した方が君らの目的を遂げられると思うが、過去には暴走した王侯貴族もたしかにいる。それを知っていれば距離をとるというのもわかる」
「ちなみにいろいろ言いましたが、実のところ俺は正統後継者じゃなかったりします」
「そうなのか?」
「俺は予備なんですよね。受け継いだ知識も抜けがありますし、後継者の証である手記も受け取っていません」
なんでもかんでも知っているわけじゃないんで、こう言って予防線を張っておこう。
「話が本当だとしたらもっと知識を持った者がどこかにいるのか」
どこにもいない誰かを探してくれれば、俺から目がそれるなー。
「話を聞いていると秘の一族は知識の拡散は避けたい考えなのだろう? それなのにどうして君に教えたのだろうか」
オルドさんが聞いてくる。
予備ということ以外に意味を求められても、すぐに思いつかないな。
「なんででしょうね。予備ということ以上になにかしらの意味があったのか、それはすでに先代が死んでいるので聞けません。学ぶことに一生懸命でそこらへんは聞きませんでしたからね」
「うーん、いまいち本当かどうかわからない。知識を持っているのは本当なんだよな。話が嘘なら知識はどこから得たのかという疑問が残るし」
ニルが腕を組んで悩む様子を見せる。
嘘っぱちなんだけど、知識は本物だから判断に困るんだろうね。俺も今困っているからおそろいだ。嬉しくないお揃いもあったもんだよ。
「一人でダンジョンに挑んでいるのは、仲間に知識を漏らさないため?」
「それもあります」
「それも、と来たか。違う理由は?」
「個人的なことなんで話す気はないです」
「そのせいで怪しまれても?」
「なにか企んでいるわけではないので、怪しまれてもおかしな行動をとらなければ大丈夫じゃないですかね。もしかして念のため殺されるんですか?」
日本とは違う法律だし『怪しいから死罪』が成立する? 嘘を吐くのは早まったか。
「さすがに怪しいだけじゃ殺しはしないよ。君の行動は人助けになっているしね」
よかった。身分の高い人だそうだし「俺の言うことが聞けないのか、だったら死刑だ」とか無礼討に近い反応がでてくる可能性もあったんだよな。
その場のノリでいい加減なことを言うのはやめておこう。今回はもう遅いから修正しないけどな。
いやまあゲーム知識ですなんて、本当のことを言った方が無礼討されかねないんだけど。
この事態を避けるためには月の魂重ねについて黙っておいた方がよかったんだろうなぁ。でもそれだとなにも悪くない子供が死んじゃうんだよなぁ。
「その知識を公開する気はあるかい」
「ないですね。さすがに先代を裏切るようなことはできません。本当に広めちゃダメだろうというものもありますからね」
「そんなに危険なものを教わったのか」
「大昔に魔物が使った魔法とかも教わりましたよ。教わったのは使い方ではなく止め方ですが」
今思い出しているのはゲームに出てきた、複数の人間を生きたまま一塊の肉塊にする魔法だ。
その肉塊が人間に対する盾として使われたイベントがあった。赤みを帯びた壁の内部にゆっくりと動く腕や足があり、あちこちを見る目玉もあり、助けを求めるように動く口もあった。攻撃すると意味をなさない悲鳴と血が出て、もとに戻す方法がなくて結局殺してやることしかできなかったというね。
実物じゃ見たくないものの上位に入るけど、この世界でも使われたんだろうか。
「対処法があるなら、むしろ広めた方がいいような気がするんだが」
「そういったものがあると知れば、好奇心でやろうとする人がでてくるでしょう? たとえ罪人に対してであってもあれを使うのはちょっと。それに敵対者に見せしめとして使われるようになると、広めた側としては最悪の気分ですよ」
「その表情を見たら気分の悪い魔法なんだとはわかるが、どのようなものなんだ?」
「広めたくないんですが」
「聞いたことは誰にも話さないと四神に誓おう。ギデス、すまないが防音のしっかりとした部屋を貸してほしい」
「わかりました」
本当に聞く気なんだなぁ。
町長が立ち上がり、執務室から出るのについていく。
防音がしっかりとした部屋はすぐ近くにあった。その部屋は窓もなく、殺風景でしんっとした部屋だ。
「ここをお使いください」
「ありがとう」
頷いた町長は部屋から出ていき、残ったのは俺とニルとオルドさんだ。
「本当に聞く気なんですね」
「ああ、君の話を信じるかどうかの判断材料になると思って」
信じなくていいからほっといてほしい。
「では語ります。魔物が使った魔法は人間を変化させるもの」
ゲームで見聞きしたものを話して、魔法発動を止めるには魔物を倒すのではなく材料となる人間の住む村や町を囲むように置かれた魔法陣のいくつかの要を潰す必要があると締めくくる。
「そんなものが実際に使われたのか」
「はい」
頷きつつ内心で、使われなかったかもしれないと思う。
ニルやオルドさんが知らないということは、歴史書に残された出来事ではないのだろう。使われなかったか、阻止できたか、もしくは記録が隠されたか。
「いつ頃の話なんだい、それは」
「調べるのですか?」
「ああ。もちろん君から聞いたとは言わないし、なにを調べているのか周囲に悟られないように注意する」
「英雄の時代ですね」
「かなり昔のことだな。しかしそれならこの場でわかるかもしれない」
「え?」
もしかして英雄が活躍した時代に関する歴史の本を持ち歩いてんの?
まっず。載ってなかったら嘘だと思われるか? いや本になんでもかんでも載っているわけじゃないし。わからなくてもセーフなはず。
「君の話を聞くにあたって四神に誓ったわけだが、俺が確認する方法も隠しておきたいものだ。君も誰にも話さないと四神に誓ってくれるかい」
「そんな重大なものなら、確認する間は部屋から出てますよ? お偉いさんに近づかないという立ち位置なんだから、秘密を知るのも避けたいです」
「そうか。だったらオルドと一緒に出ていてくれるかな」
オルドさんは部屋に聞き耳をたてないようにという見張りかな。それなら歓迎だ。秘密を知りたくないというのは本心だし、聞かなかったと証言してくれるのは助かる。
俺はオルドさんと部屋を出る。
◇
デッサとオルドが部屋を出て数秒経過して、ニルドーフは腰に帯びていたシャムシールを抜く。それは奥の手として持っていた方のシャムシールだ。
片手で柄を握り、もう片方の手は刃に触れる。
「起きてくれ、ジョミス」
刃に魔力を流し込むと、一瞬稲妻が走ったように刃に線が生じて消えた。
『前回からそう時間がたっていないが、またなにか強敵が出てきたのか?』
シャムシールから声がする。落ち着いた低い声で、七十歳くらいの男の声ではないだろうか。
「モンスター相手じゃない。聞きたいことがあって起こしたんだ」
『珍しい。それでなにを聞きたい?』
「一応確認なんだが、ジョミスは英雄バズストの仲間だったジョミス本人の記憶を持っているんだよな?」
『ああ、そうだ。俺はバズストの予言である魔王復活に備えて、未来の者たちに協力するため魂の欠片を剣に埋め込んだ。ジョミス本人とは言い難いが、記憶に差異はない』
ジョミスが語るように、事実魔王復活に備えて作られた剣だ。しかし長く時間が流れてその役割は忘れられていた。
宝剣と思われていたジョミスは長い時間を宝物庫の中で眠って過ごしていた。
宝物庫から持ち出されたのは偶然だった。旅に出るニルドーフが武器を求めて、王に宝物庫の武器を持ち出す許可をもらい、たまたま自分が使っている同じ種類のジョミスを手に取ったのだ。
初めてジョミスが起動したときは、ニルドーフもジョミスも驚いたものだ。ニルドーフはジョミスの役割を知り、重要なものを持ち出してしまったことに驚いた。ジョミスはバズストの言葉が忘れ去られてしまっていることに驚いた。
ジョミスの役割を知ったニルドーフは王に報告したが、王は最初深刻には考えなかった。
いつか魔王が復活すると言われても、その時期が明確に指定されていないのでは警戒のしようがない。自分の代で復活するとは思えなかったのだ。これまで復活しなかったのだから、まだあとのことなのだろうと考えた。
それでも一応は予兆などあるかもしれないと思い、旅に出るニルドーフに各地で情報収集を行うように命じた。
命じられたニルドーフはジョミスを手に取ったのはなにかの縁だと考え、武者修行の旅の目的に魔物の動向調査を付け加えた。
「今日、英雄が生きた時代に使われたらしい魔法について話を聞いたんだ。それが本当に存在したのか確認したい」
『あの時代の魔法? かまわないが、俺は剣士として生きた。魔法に関しては詳しくないぞ』
「聞きたいのは人間が使った魔法じゃない。魔物が使った魔法なんだ」
『魔物が、か』
ジョミスの声に苦いものが混ざる。あまり良い思い出がないのだろう。
『どういった魔法だ?』
「人間を変化させるものらしい」
デッサから聞いたものを説明していく。
「本当にこれはあったのか?」
『……あった。俺たちは運良く魔法の発動を阻止できたが、阻止できなかったところもあったようでな。助ける方法を探したが見つからずに殺すしかなかったという後味の悪い結末になった』
「本当だったのか」
『今の時代まで語り継がれているとは思わなかった。あんなもの記録にも残したくないものだ。変化させられた人間は生きてはいたのだろうが、それだけだ。他人と混ぜられ自我を残していたのかも怪しい』
「少なくとも俺は歴史について学んだとき教師から教わることはなかったよ」
『記録には残していても教えるようなものではないからな。それらを語り継いでいるというやつは何者なんだ?』
「秘の一族と言っていた」
デッサが語った役割をジョミスに伝える。
『聞いたことないな』
「俺もだ」
『お前たちが知らないのというのも不思議な話だ。彼らは王族貴族を避けるというが、今回のように少しは表に出てくることもありえるだろう。それなのにまったく噂になっていない。よほど上手く隠れ続けたのか、本当はそんなもの存在しないのか』
「そこらへんの判断ができるかと思って、ジョミスに魔法について聞いたんだ。ジョミスが知らなければ嘘の可能性があると思ったが、知っていたとなると本当の可能性も出てきた」
『俺はあの時代のことについて知っているが、それ以前や以降のことについては詳しくない。そんな俺に言えることは、俺が生きていた時代ではその一族について見聞きしたことはない』
「結局、わからないということか」
『怪しいと思うなら見張りをつけるくらいしかできないだろうな。さすがになにか危ないことやっていないのに捕まえるというのはやりすぎだろう』
「悪さをしないなら放置でいいとは思う。それに蓄えた知識を必要とすることがあるかもしれない。そのときにこちらの理不尽な行為のせいで敵対されていると情報を得られず手遅れになりかねない。ギデスに頼んで、それとなく様子を見てもらうことにしようか」
対応が決まったということでジョミスは再び眠りにつく。
ニルドーフはジョミスを鞘に納めて、扉を開ける。
◇
「秘の一族とかとまったく関係ない話なんだが、誰かから指導を受けたか?」
扉の前から離れるとオルドさんが聞いてくる。時間を潰すための雑談かな。
「わかるんですか?」
「少しだけ立ち振る舞いが違っているからな」
「誘拐の事件があったことは聞いてますよね? その被害者の一人に頂点会の関係者がいたんですよ。救助を手伝ったお礼ってことでおかしな部分とかの指摘をしてくれたから、少し動きが変わったんだと思います。でも普段の行動に現れるものなんですね、驚きです」
「重心や姿勢とかに変化がでるからな」
「強くなるとそういった細かな変化にも気付けるようになるんですか」
「俺は指導することがあるからそういったことに注意が向くだけで、強くなってもわからない奴はいるぞ」
「ニルにも教えているんです?」
「ニル様には模擬戦の相手をするくらいだな。俺を指導してくれた人がニル様の指導をしていた」
こんなことを話していると扉が開いて、ニルが出てくる。
遠距離通信とかの魔法でも使ってたのかな。そんなのがあるのかどうか知らないけどさ。
「確認できた。英雄のいた時代にその魔法は存在したそうだ」
この世界でも使われたのか。英雄もあれを見たんだろうか。現実で見せられると精神的なダメージが大きかったんだろうな。
「秘の一族は実在する可能性が高いということでしょうか」
オルドの確認に、ニルは頷く。
「いると断言はできないが、デッサの言う魔法は本当にあった。だとすると嘘を言っている可能性は減ったね」
「話は終わったということで俺は帰る。これからダンジョンに行く予定なんで」
いい加減演技はやめていいだろう。
「わかった。気を付けて」
玄関に向かおうと数歩歩いて足を止める。そういやお礼のお金をもらってないと気づいたのだ。
引き返してくる俺をニルとオルドさんが不思議そうに見る。
「なにが言い忘れたことでもあるのかい?」
「いや、誘拐事件解決のお金を町長からもらってないと思い出したんだ」
二人も町長に話があるようで一緒に執務室に向かう。
報酬をもらってさっさと退室し、武器を返してもらって屋敷を出る。
感想ありがとうございます