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50 頂点会 後

 朝になって、武具を身に着けて宿を出る。一晩たったら魔力活性の先について思いついたことがあったから、聞いてみよう。

 頂点会には以前行ったことがあるから、迷わずに着くことができた。鍛錬場では何人かの冒険者が体を動かしている。その中にファードさんたちはいない。


「とりあえず玄関に行ってみようか」


 敷地内に足を踏み入れて、玄関に向かう。

 小さな鐘があるので、それを鳴らすと少しして扉が開く。

 二十歳過ぎの男が出てくる。


「おはようございます。どのようなご用件でしょうか」

「ファードさんと会う約束をしている者です」

「お名前をお願いします」


 名乗ると、話を聞いていたようで中に通してくれる。

 そのまま応接室に通され、すぐにファードさんたちがやってきて、目の前のソファに座る。


「おはよう」

「おはようございます」

「さっそく外にと行きたいが、その前に君のことについて聞こうか。ダンジョンの何階で戦っているのか、どのように戦ってきたのか、今なにができるのか。そういったことを聞かせてくれないか」

「わかりました」


 村からミストーレに来るまでのことや、ダンジョンに入っている事情を話してくれというなら誤魔化したけど、戦闘面だけに限定するならなにも問題ない。


「ソロでダンジョンに入っていて、昨日も話したように十八階で足場の悪さに慣れる練習をしています。そろそろ十九階を通り抜けて、二十階に行こうと思っています。武器は片手剣です。護符と魔力活性を使って戦っていますね。できるだけ複数とは戦わないようにモンスターを選んでいます。ほかに聞きたいことはありますか?」


 話しながら十六階を超えたことで、目標だった4レベルは達成していると再確認する。

 次はいつまでにいくつまでのレベルを達成するべきかわからないけど、このままの速度で強くなっていく必要はありそうだ。


「ソロで、武器以外は革製。ということは多めに見たとして冒険者になって半年くらいか」

「いえ二ヶ月くらいですね」

「ほう」


 意外だといった感じでファードさんは表情を動かして、グルウさんとミナが目を丸くしている。


「ずいぶんと早いな」


 大ギルドのメンバーでも驚くような速度だったんだなぁ。


「護符とかを惜しみなくつぎこんで頑張りましたから。それに最初からある程度お金を持っていて、依頼も受けていなくて、ダンジョンに行ってばかりでしたからね」

「それでも早いペースだな。魔力活性習得も早い。才能があるのか」

「どうなんでしょうね。俺はないと思っていますけど」


 才能があるなら、足場の悪さをなんとかするコツを掴めると思うんだよなー。

 才能じゃなくて死にたくなくて頑張った結果だと思う。


「あとで動きをみれば才能の有無はわかるか。楽しみだ」

「期待外れだと思いますけどね」

「ずいぶん自己評価が低いな? その進行速度は誇っていいものだぞ」


 グルウさんが不思議そうに聞いてくる。

 

「なんと言っていいのか。自分が想像する才のある人というのと自分が重ならないんですよね。何度かピンチに陥ってそのたびに助けられてもいますし、才能があるならピンチは自力でなんとかできたんじゃないかと思うわけで」

「助けられたということの一つに私と出会ったときのことがあるなら、あれは才能があってもどうしようもなかったと思うわ。今のあなたでもアーマータイガーには立ち向かえない。まして今のあなたよりも弱かったあのときあなたならなおさら。才能があっても何倍も力の差がある相手はどうしようもない」

「ミナに助けられたときは何階に挑んでいたんだね?」

「ええとたしか……七階か八階だったはず」

「その階のモンスターを相手に互角だったのなら、アーマータイガーは無理だな。どんな天才でも実力だけではなく運も引き寄せてある程度のダメージを与えるだけで精一杯、倒すことは不可能だろう。身の丈に合っていない武器を使うのなら可能性があるかもしれないが、それは実力よりも武器のおかげだ」

「アーマータイガーについては納得しましたけど、ほかにもありますからね」


 跳ね鳥に囲まれたときは、才能がある人は上手く切り抜けたと思うし。


「自信過剰になるのは駄目だが、自信がなさすぎるのも問題だ。自分を委縮させて、動きや判断に制限をかけることになる。自分を信じてあげなさい。強くなりたいのなら自分の可能性を信じることだ。才の有無は関係なく、君は十分すごいのだよ」

「そう言ってもらえるのは嬉しいんですけど、すぐには認識を変えることはできません」

「少しずつ認めていけばいいさ。認めさせるための第一歩として動きをみてみようか。自分が思っているよりはいいものを持っているかもしれない」


 言いながらファードさんは立ち上がる。グルウさんとミナも立ち上がり、俺も一緒に立つ。

 歩きながら朝に思いついた魔力活性の先について話してみる。


「昨日魔力活性の先について話したじゃないですか」

「ああ、話したな。俺はあのあと考えたがなにも思いつかなかった」

「朝になってふと思ったんですが、魔力を増幅させる道具ってあるんでしょうか?」

「魔法使いが使う道具にそういったものはあるな。増幅といっても倍とかにはしないが。それがどう魔力活性に繋がるんだ」

「活性化した魔力を増幅させる道具に流して、増えた魔力をまた体に戻すとどうなるんですかね」


 道具によって増えた魔力も魔力活性と同じ使い方ができるなら、強化具合が上昇するんじゃないかな。

 さらに体内に戻した魔力を活性化させて、道具に流してまた増幅って感じで、循環させると強烈な一撃が放てないか? なんて思ったんだ。

 俺の思いつきを聞いたファードさんは呆気にとられた表情でこちらを見てくる。


「……俺は自力でどうにかしようと考えた。だから道具の使用は頭に浮かびもしなかった。やはり並の発想力ではないな」

「俺は自力でどうにかするにはまだまだ弱いですからね。道具に頼ることは当たり前なんですよ。それに実現できるかどうかもわからないただの思い付きですし」

「これまで誰もその思いつきすらできなかったのだよ。増幅する道具に流した魔力を、また体に戻すという話は聞いたことがない。だが実現できるなら魔力活性の先と言えるものだ」

「実現可能ですかね?」

「魔力の受け流しと同じく、できるかどうかはわからない。だが挑戦してみる価値はあるだろ。いやはややることが多くて楽しいのう」


 実現できたときのことを思い浮かべたのか、好戦的な笑みを浮かべるファードさん。

 鍛錬場に出ると、そこにいた人たちから視線が集まる。それに対してファードさんは手を振る。すると視線が散った。気にするなと合図を送ったんだろうか。


「まずは俺と手合わせしようか」

「すぐに負けますが?」


 一発でのされるところが簡単に想像できる。


「手加減はするし、最初は反撃もしない。動きを見たいのだから倒すような真似はせんよ」


 そりゃそうか。一発で倒したら動きを見れないだろうしな。

 わかりましたと答えて、剣を抜く。

 いつも使っている剣を抜いたけど特になにも言ってこない。実力差があるし、回避なんて楽にできるんだろう。

 

「いきます」


 声をかけてから斬りかかると、剣の腹に手を添えられて受け流された。剣に触れられたという感触がほとんどなかった。

 素手で真剣に立ち向かえる度胸と見切りの技術、これだけでも実力差を思い知らされる。

 嫉妬なんてなく、素直にすごいと思える。


「どんどん攻撃してきていいぞ」

「はいっ」


 遠慮なんて必要ないとわかったから、どんどん行くぞ。

 好き勝手武器を振っていく。そのすべてを受け流される。つるつる滑る物体に斬りかかっている感じだった。

 突きなら滑ることはないかと思って実行してみると、指先で受け止められた。


「痛くないんですか?」

「実力差に加えて、魔力活性を行っているから痛みはない。そっちも魔力活性も使っていいぞ」

「使ってもこれまで同じ結果になると思うんですけど」

「そうだな。だが見るところはそこじゃなく、魔力活性の練度などだから結果を気にすることはない」

「そういうことなら」


 魔力活性を使って、できるだけ維持するつもりで自分の魔力に意識を向けながら剣を振る。

 魔力活性の維持を考えているせいもあって、さらに攻撃は単調になる。

 維持したまま動けるのは一分ほどだった。

 魔力活性が維持できなくなり動きが鈍ると剣を掴まれた。


「攻撃はここまでだ。次は回避と防御を見たいが、少し休憩を入れるか?」

「お願いします」


 休憩しながらここまででの評価はどんなものか聞く。


「まあ平凡だな」

「でしょうね」

「我流だろう? いくつか直した方いいところがあった。そこを意識していけば劇的にとまではいかないが、与えるダメージ量が増えるぞ」

「おー、それは嬉しい話です。やっぱり我流はまずいんですね」

「我流がすべて悪いということもないんだけどな。流派を学んだ者と違ってどういった戦い方をするのか判断つきにくい。それが要因で勝てることもある」

「それって対人戦の話ですよね」

「そうだな」

「対人戦はやらないんで惹かれる話ではないですね」

「デッサ君が興味なくとも、盗賊に襲われたり相手の都合でやることもあるからな。少しは対人を意識しておいて損はないぞ」


 ベルンが決闘を挑んできたときみたいにか。あれを思い出すと、少しは意識しておこうかという気持ちにもなるなぁ。

 人相手にどうすればいいのか聞いて休憩時間を過ごして、防御と回避の実践に移る。

 俺はさっきと同じように攻撃もしていいということで、早速剣を振ろうとしたら先に拳が迫ってきていた。手加減してくれているようで遅いパンチだ。

 パンチを避けると、避けた先にやはり遅い蹴りが迫っていた。それは避けられずに太腿を軽く蹴られる。

 次から次にファードさんは遅い攻撃を繰り出してくる。こっちから攻撃する暇なんてなく、避けたり受けたりして十分ほど模擬戦を行う。

 何度攻撃を避け損ねたのか数えるのも馬鹿らしいくらい拳や蹴りを受けた。

 避けようと思ったところにすでに拳や蹴りを放たれていることが何度もあって、俺の動きを完全に把握されていたのはさすがにわかる。

 

「ありがとうございました。俺の動きは読みやすかったですか?」

「ああ、無意識だろうが避けようと思っているところを見たり、体がそちらに向けられたり、回避などの前兆が目立っていたな。ほかに思ったことは、デッサ君はこれまで攻撃を見て避けてきた。それでなにも問題がなかったのだろう」

「見て避けるものじゃないんですか?」

「間違いではないんだ。見るべき部分が限定されている。もっと大きな視点をもつことが大事だ」


 観の目というやつだっけ。漫画で見たことがある。


「さっきの君は俺の拳や蹴りに集中して、肩や腰や視線といった部位への注意はおざなりだった。拳や蹴りで誘導してやれば、それにつられて動いていた。だから本命の攻撃の前兆には気づかず、攻撃を回避できずにいた。この先ダンジョンを進むと、そこらへの注意も必要になってくる」

「技術を用いるモンスターが出てくるんですか?」

「技術を本格的に用いるモンスターはいないな。本能的に動作に技術を組み込むモンスターはいるが。問題になるのはそこではなく、身体能力が俺たち人間よりも上で、動きを見てからだと回避が間に合わなくなる。だから前兆を見る必要がでてくるんだ」


 アーマータイガーとかそうだったな。あのときの俺だと動きが捉えきれなかった。

 レベル20が壁で、鍛えられる身体能力には上限があるから、強いモンスターと戦うには技術を磨くことが必須なんだろう。


「世の中には自分の才能だけで戦っている人はいるんでしょうか? 技術習得を頑張らずに、勘の良さと経験とかで戦っている人たち」

「いるだろう。ただし多くはないはずだ。本当に一握りの存在だけがそんなふうに戦っていける」


 断定しないということは、ファードさんは会ったことがなさそうだ。

 

「ミナの才能は高いみたいですけど、才能だけでやっていけないんです?」

「私は勘の良さっていう予知じみたことができる才じゃなくて、イメージによる技術習得や相手の動きを予測する方向性。鍛錬なしでやっていける自信はないわね」


 才能って一言で言っても、いろいろとあるのは当たり前か。

 雑談に近い話はここまでにして、指導に移っていく。

 教えてもらったのは動作の前兆として見る部位、より効率的な体の動かし方。この二つだ。

 魔力活性についてはニルと同じような助言だった。まだまだ細かな助言を言う段階ではないそうだ。

 夕方前まで指導してもらい、礼を言って頂点会から出る。

 またくるといいと見送られた。頻繁に来ることはないだろうけど、魔力の受け流しや魔力活性の先がどうなるのか気になるし、たまには来てみよう。

 明日から小ダンジョンに行くまでの間、指導してもらったことを熟すためファイトモンキーを相手に戦うことにする。


 ◇


 デッサを見送ったファードは鍛錬を続けるミナとグルウを置いて屋内に入る。

 そのまま長の執務室に入り、書類仕事を肩代わりしてくれている事務員たちに声をかける。


「今日の書類はどれくらいある?」

「こちらになります」


 事務のトップが今日処理した書類をファードに渡して内容を説明していく。

 語られる内容に不満そうな表情をせずにファードは頷いていく。

 

「雇用要請に対応できるメンバーは今のところいない。それ以外はサインをしよう」

「了解しました。先方には断りの連絡をしておきます」


 ファードが自身の机で書類にサインをしていく。

 その作業がさっさと終わり、処理済みの木箱に書類を入れる。


「ファードさん、今日一日指導していた子が次に入ってくるメンバーなのですか?」


 事務員の一人が聞く。窓から鍛錬場を見ることができて、指導している様子を見たのだろう。


「いや違う。彼は孫を救ってくれたのでな。その礼として指導をしていたんだ」

「あの子はミナさんとグルウさんが助けたのでは?」

「あの二人に重要な情報をくれて、一緒に救出に行ってくれたのだよ」


 情報があったからこそ儀式が始まる前に間に合ったとファードは説明し、事務員たちはそうなんだなと頷く。


「そのお礼に指導ですか、このギルドに入りたいとか言ってこなかったんですか?」

「言わなかったし、その素振りも見せなかったよ」

「入りたいという人は多いのに、珍しい子ですね」

「なにかしらの目標があるようだし、それを達成するためには入らない方がいいのだろう」

「才能はあったんですか?」

「発想力はいいものがあった。才だけでみれば平凡なものだろう。やる気があるおかげで順調にやっていけている。やる気が続く限りは厳しい状況でも進み続けるだろうね」


 やる気が断ち切れたとき、そのときがデッサの岐路だろうとファードは思う。

 目標を達成して緊張感がなくなるなら、それは良いことだろう。それまでとは違った新たな人生を送ればいい。

 しかし大きな困難が立ちふさがって、無理だと立ち止まったとき、再び進めるのか諦めてしまうのか。諦めてしまうともう二度と進めなくなるかもしれない。そんな危うさも感じ取れた。


(死にかけても折れることはなかったようだから、並大抵の困難はどうにかするだろう。だから俺が感じた危うさは勘違いかもしれない。死以上の困難などそうはないからな。やる気が続くかぎりは、どこまでも行けそうだから先が楽しみな子でもある)


 ファード自身、才能頼りではなく努力でこれまでやってきた。やる気が継続した結果をよくわかっているのだ。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 「それって対人戦の話ですよね」「そうだな」「対人戦はやらないんで惹かれる話ではないですね」「デッサ君が興味なくとも、盗賊に襲われたり相手の都合でやることもあるからな。少しは対人を意識しておい…
[一言] 転生の際に特別な能力を与えられたわけでもなく流された状況にゲーム知識を使ってどうにか精一杯あらがってるって感じですからねー 今世の肉体も普通の村人のものですし自信持てませんよねえ
[一言] なろう系主人公自己評価低い問題。 デッサ君の場合は妥当なところかな? 死にたくないので頑張ってるけど 勇者や英雄の代わりに復活する魔王を倒して! とか言われたら流石にうんざりするかも
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