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47 誘拐事件 4

「おかえりなさい。団長、どうでした?」

 

 団員に尋ねられて自警団の団長は首を振りつつ答える。


「俺たちが探したところは外れだったが、町の兵が探したところは当たりだった。だが犯人も子供も姿はなかった」

「逃げられたということでしょうか」


 そうだとしたらミナが追いかけていっていそうなんだけど。ここにいるということはなにかしらの情報が得られたのかもしれない。


「町にはいないが、近隣にいるかもしれない」

「どうしてそんなことがわかるんです?」

「犯人は綺麗に片付けて出ていったわけではなく、ほとんどの荷物を置いていっていた。その中には財布もあった」


 この町から引き払うつもりなら荷物も全部持っていくはずだよな。残しているってことは何か用事があって子供たちを連れ出した?


「現在兵たちがあそこに残っていたものを調べ、どこに連れていったのか探っている途中だ」

「目的はわかったんですか? 誰かに売るためだったり、なんらかの目的があったり」

「よくわからないが、資料を見ていた兵たちの一人が『月の魂重ねたまかさね』とか言っていた」

「なんですそれ?」

「兵もよくわからないから、町長のところにいる魔法使いに聞くそうだ」


 月の魂重ねってたしかゲームのイベントで出てきたはず。


「……禁止された魔法じゃなかったか?」


 思わず呟いてしまい、皆の注目が集まった。


「知っているのか? 教えてくれ」

「禁止された魔法ってどういうこと? 弟は危ない目にあっているの!?」


 団長を遮ってミナが間近に迫って聞いてくる。


「話しづらいから少し離れて」


 ミナを両手で押し戻し、詳しいことは知らないと前置きして話し出す。


「満月の夜に行われる魔法の儀式だと聞いた。魔術と呼べるものなんだろう。死者蘇生を目指した儀式だったはず。八人の生贄を準備して、その生贄を八方向に配置。中央に死者を置いて、満月が天辺にきたとき儀式を発動、生贄の魂を死者に集めて重ねる。そうすることで死者がまた動き出す」


 ゲームでは儀式が発動して死人がまた動き出した。でも動いただけだ。儀式を行った者の言うことを聞かず、暴れるだけだった。人の形をしたモンスターと呼べるものだった。八人分の魂で強化されていたのか、ただの人間だったはずの死者は強かった。


「満月って今日じゃないか?」


 緊迫した顔の団長が周囲に確認するように聞くと頷きが返ってくる。

 

「もう少しで夕方だし、時間がないぞ」


 途端に皆が焦った表情を浮かべる。

 町長のところに行って、急いで儀式が行われているところを探すぞと全員で町長の家に向かうことになる。

 身体能力の優れているミナとその兄が先行する形になったが、押し通ろうとして門番に止められていた。

 気持ちが先走っているせいでミナが通せとしか言っていないため、門番としてはそんな興奮状態の人間を通せないんだろう。


「すまない。誘拐の件で急いで知らせないといけないことがあるんだ。通してほしい」


 団長がミナを押しのけて門番に話しかける。


「ああ、そういった事情か。わかったが、ひとまずこの場で深呼吸して落ち着いてくれ」


 全員が深呼吸して表面上は落ち着いたのを見て、門番の一人が俺たちを先導する。

 対策室となっている部屋に案内されて、そこに入る。


「ミストーレ町会の団長じゃないか、まだこっちに進展はないぞ?」


 兵の一人がそう言ってくる。


「こっちはまずいことがわかった」

「まずいこと?」

「犯人がやろうとしている儀式で、誘拐された子供たちが死ぬ可能性が高いそうだ」


 どういうことだろうかと兵たちは不思議そうな表情だ。

 その兵たちに団長が儀式について話す。


「それが事実なら大変なことだが、本当にそんな魔術があるのか?」

「ないならないで問題ない。だけども本当だったら急がないと手遅れになる。今夜儀式が行われるのだから」


 納得した様子の兵たちは表情を引き締めた。


「と言っても、どこで儀式が行われるのかさっぱりなんだ。そっちでなにかわかっていないだろうか」

「残っていたメモで町の外に行っていたとわかっている。おそらく儀式を行うための場所探しなんだろう。もう少しだけ時間をくれ、場所を突き止めてみせる。場所が判明したらすぐ出発だ。それまでに準備を整えておいてくれ」


 手軽に食えるものを買ってきたり、すぐに動けるように体調を整えておくように言ってくる。

 それに頷いて俺たちは一度屋敷を出る。団長だけは残って町長と話し合うそうだ。

 そうして屋台で買い物をすませて屋敷に戻る。

 対策室のテーブルに買ってきたものを置くと、兵たちはメモなどを調べながら手に取って食べていく。俺たちも調査結果が出るのを待ちながら同じように食べる。

 団長が戻ってきて、俺を呼ぶ。


「なんです?」

「儀式について詳しいことを知りたいと町長とここに所属する魔法使いが言っているんだ。一緒に来てくれ」

「いいですけど、話したこと以外はわかりませんよ?」

「それでも一応来てくれ」


 団長と一緒に対策室を出て、町長の執務室に入る。

 執務室にはジョルツ君を調べていた魔法使いと五十歳くらいの男と四十歳くらいの男がいた。

 五十歳くらいの男のそばに侍るように四十歳の男が立っている。

 部屋の中央に立つ三人は、俺を見て少し驚いた表情を浮かべた。


「彼が月の魂重ねについて知っていた冒険者かね?」

「はい、その通りです」

「想像より若いな。初めまして、私がこの町の町長のギデスだ」

「初めまして冒険者のデッサです」

「デッサ?」

「なにか?」


 俺の名前を聞いて反応したけど、町長にそんな反応をされる覚えはない。


「三度ほど聞いた名前だったのでな。そうか君がデッサか」

「町長の耳に届くようなことをしましたっけ?」

「ニルドーフ様の手紙とルガーダとタナトスの一件だ」

「ニルドーフというのはニルの本名ですかね。ルガーダさんに関しては納得いきます。でもタナトスに関しては心当たりがありませんが」

 

 町長が様付けするんだからニルは地位が高い人らしいな。


「あの方は自身について語らなかったのだな。すまないが、今のは忘れてくれ。私から伝えていいのかわからん」

「はあ」

「タナトスの件については話せる。以前ダンジョンの調査で役人がタナトスの家に行っただろう? そのときに君に助けられたと部下が話したんだ」

「あー、あのときの」


 たしかに町長の使いとしてあの場にいたもんな。町長に報告するのは当然か。


「町長、儀式について話したいのですが」


 魔法使いが言う。それに町長はすまんと謝った。


「時間がなかったのだな。儀式について知っていることを話してくれ」

「わかりました」


 団長たちに話したことと同じことを話す。


「俺が知っているのはこれくらいです」

「儀式の止め方は知っているのかしら」

「わかりません。俺が知っているのは儀式が発動して、死体が動いたことくらいです。魔術を使っている人を止めたり、生贄を発動前に確保すれば止められるのではないかと推測するくらいですね」

「儀式を行う場所に関して特別な条件はあったりする? たとえば高いところだったり、水場に近かったり」

「ちょっと待ってくださいね」


 ゲームだとどういったところでやっていたかな。

 ええと、特別高いところではなかったし、川とか池が近くになかった。町近くの森の中だったかな。


「森の中でやっていたはずです。森の中の開けたところ。絶対そこじゃないといけないとは言い切れません」

「単純に人目を避けた可能性もあるわね」

「ああ、そういえば」

「なにか思い出した?」

「生贄に関してなんですが、俺の知っているものだと同じ特徴の人を連れ去ったということはなかったはず。性別と年齢をそろえたくらいで、髪の色までそろえてはなかったはず」


 生贄にされたゲームキャラたちは髪の色や目の色が違っていたような気がする。


「あなたが知っている魔術に手を加えた可能性がある。以前の魔術だと失敗したらしいし、蘇生の成功確率を高めるため、共通点を増やしたのかもしれないわね。ほかに違いはあるかしら」


 わからないと首を振る。


「そう。逆に絶対変えられない部分を考えてみましょう」

「満月、人数、儀式が必要。これくらいでしょうか」

「満月は雲に隠れていても大丈夫? 儀式の規模は?」


 たしかゲームだと雲が出ていたらしく、たまに暗くなったりしていたはず。

 ただし月が空に上がっているだけじゃ駄目だったかな。時間を待っていた描写があった。月明かりを必要とするという条件があったんじゃないかな。


「満月の日、空に月が昇っていれば大丈夫なはず。ただし月が真上にくる以外に月明かりを必要とする条件があるのかもしれません。生贄の数を変えては駄目でしょう。儀式は当然やる必要があります。規模は一軒家が立つくらいの広さの土地を必要としていたかな」


 魔法陣はなかったはずだけど、人間八人がかなり余裕をもって寝かせていたから、それくらいの広さはあったと思う。


「月が真上にくるという部分は、儀式の完成がその時間? それとも開始?」

「開始だったかと」

「となると儀式を開始してしまうと止められないかもしれないから、月が真上に来る前に決着をつけたいわね」


 今の時期だとあとどれくらいで真上にくるのかと魔法使いは考えて、儀式開始にまで残る時間を算出した。


「町長、遠くで儀式を行う場合は徒歩だと間に合わないでしょう。馬車の準備をお願いします」

「うむ。いつでも出せるように指示を出す。ちなみに私たちの意表をついて町中で儀式を行おうとしていたりはしないだろうか」

「地下とかでやれなさそうな儀式ですし、万が一にも邪魔させないように目立つようなことは避けると思われます。町の外でやっている可能性が高いでしょう」


 頷いた町長はそばに控えていた部下に指示を出す。その部下は急ぎ足で部屋から出ていった。

 

「二人とも話を聞けて助かった。出発までゆっくりしていてくれ」


 俺たちにそう言うと町長は机に戻り、書類に目を通してく。

 俺は団長に誘われて部屋から出て、対策室に戻る。

 犯人が向かった先はここだろうと目星がついたのは日が沈んだ直後だ。

 さっそく出発することになり、町の外に準備されていた馬車に駆け足で移動する。

 馬車は六台待機していて、向かう先は三つだ。北と南東と西の小さな森。どこもミストーレから徒歩二時間といった距離にある。

 俺はミナたちと一緒に馬車に乗る。一台の馬車に八人が入り、御者台に二人座る。

 御者の兵たちがそれぞれの行き先を再確認して、馬車が動き出す。

 馬車の中ではミナがそわそわとしていて、兄に落ち着くように注意されていた。

 ミナほどではないが、兵たちも落ち着かない雰囲気だ。東の空に満月が見えていて時間が迫っていると常に示してくるのだ。

 俺も気にならないわけじゃないけど、彼らほどじゃないから一番落ち着いているかもしれない。

 

「森が見えてきた」


 御者をしている兵から声がかけられる。

 瞬間、全員の雰囲気が引き締まった。

 森のそばに馬車が止まり、皆が急いで降りる。

 兵が一人、馬車の守りに残って、ほかは森に入る。犯人にばれないように明かりはつけずに歩く。

 枝葉に遮られて、月明かりは地面にほとんど届かないため暗い。

 何度かこけそうになりつつミナたちについていく。兵たちもつまづくことがあり、平気そうに歩くのはミナたちだけだ。

 そうして少しばかり進むと、明かりらしきものが見えた。

 駆けだしそうになるミナを兄が腕を掴んで止める。


「奇襲をかけるべきだ。俺たちに気付くと儀式を早める可能性もある」

 

 魔法使いが儀式に手を加えたかもしれないと言っていたし、そういったことをしてこないとは言えないよな。

 そもそも犯人じゃない可能性もあるし、確認は必要だ。

 全員で足音を忍ばせてゆっくりと近づく。

 木々の向こうの様子がはっきりわかる距離まで来て見えたものは、魔法の明かりに照らされた子供たちだ。ロープで縛られ、口には猿轡。憔悴しているようで、動かずにいる。

 犯人の姿もある。中央に寝かされた子供のそばに男がいて、男から少し離れた北側にもう一人。さらに人間と同じ大きさの人形が何体も儀式を囲むように立っている。魔法で操っているのか、人形はたまに動きを見せる。

 

(思った以上に規模が大きいな)


 犯人は一人だと思っていた。人形兵も準備して守りを固めているのは考えていなかった。ああして守りを固めているということは邪魔が入るのは想定済みなんだろうか。

 

「もう突っ込むわよ」

「それでいいか?」


 ミナを抑えつつ兄が兵たちに確認する。弟を確認して、ミナだけではなく兄もまた抑えがきかなくなったらしい。表情に落ち着きがなくなっている。

 

「少しだけ待ってほしい、同じところから突っ込むより、四方から突入した方が向こうの対応も遅れるだろう。あと突っ込んでどう動くのか話しておきたい。犯人を倒すのか、子供たち確保を優先するのか」


 人形兵がいなければ犯人を殴って終わりだったんだよな。

 俺がそんなことを思って儀式を見ている間に、話し合いはささっと終わる。

 犯人を倒すことを優先ということになる。儀式を始めさせないためだ。

 ミナと兄が人形兵を越えて犯人に向かい、兵たちと俺は人形兵の相手だ。

 何分後に戦闘を開始するのか時間を決めて、数を数えながら俺は四人の兵と一緒に北側にこそこそと移動する。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 取っ掛かりさえあればゲーム知識が活きてきますねえ! しかし、モンスター知識に魔術知識と市井の者が知りようがない知識の披露は後が怖いなあ
[一言] 禁術・復活の呪法だったか 蘇生の魔法や奇跡が許されてない世界でこういうのをやると ほぼ碌な事にならないんですよね…… デッサの知ってるゲームのようにモンスターになるか キチガイ殺人鬼みたいに…
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