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45 誘拐事件 2

「ちょっといいですか」


 周囲を見ながら歩いていた兵二人に声をかける。


「うん? なんだい」

「子供の誘拐事件について少し情報を手に入れたので一緒に来てもらえませんか」

「君も調査に関わっているのか」

「本格的にというわけじゃないんですけどね」

「そうか。まずはどういった情報か聞かせてほしい」

「誘拐された子供に魔法を使われている可能性があるというのは聞いていますか」

「今朝聞いたばかりだ。君も知っていたんだな」

「昨夜、そんな感じの子供を見つけたのは俺なので」


 兵たちは驚きの表情を浮かべた。


「あー、冒険者が見つけたとか言っていたな。君だったのか」


 頷いて続ける。


「それでですね。もしかすると同じように魔法をかけられたかもしれない子供がいるようで、その子の家に一緒に行ってみませんかということなんです。その子から最近変わったことがないか聞いて、その変わったことが魔法に関連していないか知れるかもと思っていまして」

「それは確認しておきたいな」


 兵たちは一緒に行ってくれることになり、その子の住所を伝える。ついでにガルビオから話を聞いたという情報元についても伝えておいた。

 おおよその位置を把握した兵たちの案内で少年の家に向かう。

 周囲の家と同じような一軒家に到着し、兵が玄関をノックする。でてきたのは三十歳手前の女だ。おそらく母親だろう。


「あの、なにか御用でしょうか?」


 兵が尋ねてきたということで少しだけ不安そうだ。

 それを兵たちも察して、安心させるように微笑む。


「安心してほしい。ここの住人がなにか悪さをしたとかそういった話ではない。最近子供が誘拐されていて、それに関した話を聞きにきたんだ」

「はあ」

「こちらに少年がいるそうだが、年齢と髪の色を聞いてもよろしいかな」

「黒髪で八歳です」


 誘拐されている子たちの特徴に該当するな。


「ここ最近様子がおかしいと聞いているが」

「はい、なにかボーっとすることが多く。これまではそんなことなかったんですけど。医者に診せてみても病気ではないと言っていました」


 医者は病気じゃないと診断したのか。魔法の線が濃くなったな。


「誘拐された子たちは、魔法をかけられているかもしれないという話がでていてね。ボーっとしながら歩いている少年を最近保護したのですよ。その子も医者に診せたところ病気ではないという結果が出ている」

「魔法、ですか」

「ええ。そのため現在町長の家にいる魔法使いに診てもらっているところなのです。よろしければお子さんも一度その魔法使いに診てもらわないかな?」

「その、お金はいかほど」

「安心してくれ、診察料はかからない。誘拐に繋がる情報を得られるかもしれないし、そこらは無料になる」


 ほっとした母親はいつ行けばいいのか聞く。


「すぐにでもと言いたいところだが、大丈夫かな」

「わかりました。すぐに用意します」


 そう言って母親は玄関を閉める。


「ここの子に魔法がかけられているのか知りたいけど、俺がついていっても大丈夫ですかね」

「どうだろうか。上に聞いてみないことにはわからんな。まったくの無関係というわけでもないし、断られることはないかもしれないが、俺たちだけで判断は難しい」

「町長の家まで一緒に行こう、そこで聞いてみて却下されたらすまないが諦めてくれ」

「わかりました」


 駄目だと言われたら仕方ない。積極的に事件解決に動いているわけでもないし諦めよう。

 準備を整えた母親と祖母に連れられて、少年が一緒に家から出てくる。

 少し不安そうなその少年を安心させるためか、兵たちが穏やかに話しかける。

 昨夜の少年と違って、話しかけられれば反応は返ってくる。

 少しは緊張が解れた様子を見て、俺たちは町長の家に向かう。

 子供のペースに合わせて歩き、町長の家に到着する。

 兵の一人と少年たちが屋敷に入っていき、俺ともう一人の兵は門のそばで待機だ。

 そのまま十分と少し待っていると、兵が戻ってきて入っていいと許可をくれた。

 兵たちと一緒に屋内に入る。そのまま客室の一つへと向かう。

 部屋に入ると、そこには昨日見た少年が拘束されてベッドに寝かされていて、そのそばには両親らしき人たちの姿がある。

 今日やってきた少年はベッドに腰掛けて、四十歳くらいの女性に手を握られて診てもらっている。

 ほかには文官らしき人も部屋の中にいる。


「この子にも魔法がかけられていますね。もう少し時間をかけて調べたら同じ魔法なのかわかると思います」

「解呪は可能かな?」


 文官らしき人が聞く。


「できますね。少々準備は必要ですが」

「この子らにかけられた魔法はどのようなものだと考える? どうやってかけられたかわかるか?」

「催眠ですね。それは間違いありません。効果は催眠をかけた者のもとへ、もしくはなにか目印になるものを目指すというものでしょう。どのようにかけられたのかはさっぱりです」

「そうか。おそらくは同じ人物がかけた同じ催眠と思うが」

「私もかなりの確率でそうだろうと思います」

「引き続き調査を頼む。だがその前にその子と話をさせてほしい」


 わかりましたと答えた女性は立ち上がり、下がって場所を空ける。

 そこに文官らしき人が移動し、床に片膝をついて少年と視線を合わせた。にこやかに表情を変化させて話しかける。


「やあ、こんにちは。お話を聞きたいんだがいいかな」


 少年はこくりと頷いた。


「私はフラウニス。君の名前はなんと言うのかな」

「ジョルツです」

「ジョルツ君か、よろしく。君は少し前からボーっとすることがあるらしいんだが、君自身にその自覚はあるかな? 気づいたら時間が過ぎていたとかそういったことはあっただろうか」

「何度もあったよ」

「そうか、そのときに誰かに呼ばれているとかそんな感じはしていたかな」


 ジョルツ君はその質問には首を振って否定した。


「よくわからないけど、呼ばれてたような気はしてないよ」

「なるほど。じゃあボーッとするようになる前になにか変わったこととかあったかな。初めて会う人に話しかけられたとか、初めて見るものがあったとか。いつもと違うことはなにかあったかな」


 ジョルツ君は考え込み、それを皆が静かに待つ。

 ジョルツ君はたぶんと前置きして続ける。


「人形劇を見たと思う。あのあとからボーっとしだした」

「どういった内容だったのか、誰がやっていたのか覚えているかな」


 内容は冒険者が村人に頼まれて強いモンスターを倒すというありふれたものだ。

 だけども劇に出てきたキャラやモンスターの名前がここらでは聞かないものだった。

 フラウニスさんたちも俺も聞いたことないから、他国のものなのかもしれない。

 操り人形二つと木彫りの人形を使って、一人で声をあてて演じていたそうだ。

 劇はおじさんと呼べる年齢の男がやっていたらしい。この子の年齢でおじさんというとどれくらいになるんだろう。二十歳後半にはもうおじさんかもしれない。あとでフラウニスさんに言っておこう。俺たちが思う年齢とずれがあるかもって。


「人形劇か、それ自体はどこでもありそうだな。内容から考えると他国の者がやっていたのか?」


 そういや何日か前に広場でちらっと人形劇を見たような気がする。

 誰がやっていたんだったか……思い出せん。


「ありがとう。お礼にお菓子をあげよう。少し待っててくれ」


 フラウニスさんは俺と兵とジョルツ君の祖母を呼んで部屋の外に出る。なにか話しておくことがあるんだろう。

 部屋を出る前に振り返ると、ジョルツ君は魔法の調査を再開されていて、ベッドにおとなしく座っていた。

 廊下に出て、客間の扉が閉められる。


「どうして呼び出されたのでしょうか」

「詫びねばならぬことがあるからです」


 詫び? なんだろうな。ジョルツ君の祖母もわからないといった表情だ。


「解呪はまだできないということです」

「ど、どうしてでしょう。必要な道具が高価とかそういった理由でしょうか」

「そうではなく、最終手段として囮に使うからです」

「囮!?」

「ええ、あの部屋にいる子たちは放置すれば誘拐犯のもとへと向かいます。犯人のいるところに案内してくれるということです。今後犯人に関する情報が見つからなければ、彼らだけが誘拐された子供たちを助け出す鍵となりうるのです」


 そう告げられた祖母の表情は形容しがたいものだった。

 孫が危ない目にあうことへの不満。しかしすでに攫われた子供たちの助けになる。その親たちの心情。孫の安全を考えると誘拐された子供たちを見捨てることになる。そういったことを考えて良いとも悪いとも言えないのだろう。

 

「不満はあるでしょう。私たちも調査の手を緩めるつもりはありません。ですが解決の手立てが絶対に見つかるとは言えないのです」


 犯人捜しに役立つ便利な魔法や魔術ってないんだろうか? あればフラウニスさんもこんなことは言わないか。

 ジョルツ君の祖母はなんとも言えない表情のまま一礼だけして客室に戻る。

 フラウニスさんも一度だけ溜息を吐くと、兵たちを見る。


「人形劇をやっている者を探せ。まずは確認だけで捕まえず、拠点を突き止めるように」

「了解しました」


 兵たちはすぐに駆け足で去っていく。

 その場に残ったのは俺とフラウニスさんだけだ。


「君は今回のことに関わった冒険者だったね。君も誘拐犯について気にかけてくれると嬉しい」

「わかりました。そのことで少し思ったことがあるので一応伝えておきますね。ジョルツ君がおじさんと言っていましたけど、俺たちが想像する年代とあの年ごろの子が想像する年代にズレがあるかもしれません」

「ああ、我々が思うよりも犯人が若い可能性もあるのか。なるほど、助かった」

「あとはここで知った情報を知人に伝えても問題ありませんか?」

「どういった知人だ?」

「自警団の手伝いをして誘拐犯を探している冒険者と裏の顔役の関係者です」

「自警団はまだわかるが、顔役?」

「ルガーダさんといえばわかりますかね。あの人は顔役ではないみたいですが、クリーエちゃんというよりわかりやすいでしょう?」

「今回の件についてはたしか彼らと情報共有していたな。自警団と冒険者から話を聞いて、誘拐犯について探していると言っていたが、情報を伝えたのが君なのか」

「俺は情報を求めていた自警団とルガーダさんを繋げたという感じですね」

「そうなのか。自警団と顔役に伝えるなら、拠点探しを重視してほしいと言っておいてくれ」

「わかりました」

「ちなみに現時点で誘拐犯の狙いなどについてなにかわかっていることはあるかね」


 さっぱりだと首を振る。お金を求めたという話は聞かないから、身代金目的ではなさそうだということくらいだ。


「幼児目的の変態の仕業かなんて思いましたけど、それも確証がありませんね」

「まあ性的嗜好が要因で犯行に及ぶ者もいるのは事実だな」


 フラウニスさんとの話を終えて屋敷から出る。

 ここからだとセンドルさんのいる宿が近いし、そっちに行ってみよう。センドルさんたちに情報を渡せば、自警団に伝わるだろ。

 センドルさんたちが使っているであろう宿に来て、パニシブルという名前を確認し屋内に入る。見かけた従業員にセンドルさんたちを呼んでもらえないか聞く。

 少しだけ時間が経過して、レミアさんとプラーラさんが玄関までやってきた。


「客はあなただったのね」

「なにか用事かしらー」

「ちょっと人のいるところだと話しにくい内容なので」


 それだったら部屋に行きましょうと二人に先導されて、二人が使っている部屋に入る。


「二人は子供が誘拐されていることは知ってる?」

「センドルたちから聞いているわよ」

「今も彼らは自警団に協力して犯人捜しを続けているみたいねー。そういえば裏の顔役と伝手があると聞いたけどー」


 クリーエ関連のごたごたを細かく伝えず、困っていたところを助けたことで伝手を得たと簡単に話す。

 話せないことがあるのだろうと二人は納得してくれたようで細かく聞いてくることはない。


「顔役との繋がりはそんな感じ。それで誘拐犯なんだけど、情報を手に入れたからセンドルさんたちに伝えておいてほしい」

「わかったわ。必ず伝えとく」


 さっき知ったことを二人に伝え、拠点探しを重視していることも忘れずに言っておく。


「催眠ですかー。人形劇をしながら催眠をかけたのかー、人形などが魔法道具なのかー」

「人形劇をやりながら魔法を使うのって難しくない?」

「そうですねー。だったら魔法道具ということになりますが、催眠をかけられる魔法道具なんて危険なものだし、そう簡単に手に入るものではありませんー」

「簡単に手に入ったら困りものよね」


 そんなアイテムがお手軽入手とか、犯罪者にとってありがたいことだろう。兵にとっては頭痛の種だろうけど。


「そんな入手が難しいものを使って誘拐となると、なんだか大事件を予感したりしちゃいますねー」

「プラーラは個人が突発的にやったとは思っていないのね」

「個人でやった可能性もありますが、難しいと思いますねー。もちろん偶然そんな道具を手に入れて魔が差した可能性もありますけどー」


 ただの誘拐ではなく裏があると思うのか。

 まあ俺と誘拐された子たちには関係のない話だろう。誘拐事件が終わりさえすればいいのだから。今回の件に繋がるかもしれない大事件は国のトップとかが考えることだ。


「そういったことは捕まえた犯人からわかるかもしれないね」


 俺がそう言うと二人は頷いた。

 

「伝言は終えたし帰るとしますか」

「あら、もう少しいいじゃない。最近はどうしていたの? センドルから小ダンジョンに行ったと聞いているけど」

「ああ、あれは失敗しました」


 二人は目を丸くする。


「失敗ですかー? 実力的には問題ないでしょうし、また村人がおかしな行動したとかー」


 ザラノックがたくさんいたこと、ライアノックがいる可能性があることを話す。


「また珍しいことに遭遇したわね。小ダンジョンが餌場になることもあるのか」

「現在はザラノックというモンスター討伐が進められている頃でしょうかー。緊急を要するなら手伝った方がよいかもー?」

「町長とギルドに知らせておいたから、それらが対応に動くと思う」

「そうですかー。でしたらその二つの動きを待ちましょー」


 俺の近況はザラノック関連と誘拐関連くらいだ。話せることなくなったからセンドルさんたちの近況を聞く。

 四人は特に目立ったことはなかったそうだ。

 三十階から三十五階をうろついて、少しずつお金と経験値を貯めているようだ。

 センドルさんとカイトーイさんが自警団の手伝いをしている間は、レミアさんとプラーラさんで依頼をこなして実績を積んでいるらしい。

 どんな依頼をやっているのか聞くと、家とその敷地内に関連したものだった。レミアさんは身軽さを生かして屋根や塀にあがって修理をして、プラーラさんは風の魔法で剪定する。

 報酬はそこまでではないが重労働でもないため、作業をしても戦闘での疲れが取れて実績も積めるので、わりがいい依頼と思えると言っていた。

 雑談も終えて、宿から出る。あとはルガーダさんにも情報を伝えて、昼ご飯を食べよう。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 笛吹男ならぬ人形劇男? 黒髪の子供を呼び寄せて、何を目的としているものやら はっ、まさか転生者探し!?
[一言] 昨日の少年とは催眠の深度が違うのかきっかけ次第で同じ状態になるのか 犯人かその関係者の情報が聞けただけでも進展しましたねえ
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