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42 小ダンジョン二度目 5

 多くのザラノックに遭遇したらさっさと逃げると返すとニルは頷く。


「それがいい。あとよかったら護符を何枚か買い取れないか? ライアノックと遭遇したときに使いたい」

「かまわないけど、これ質は低いよ」


 効力も低く、持続時間は十秒のみと説明しておく。

 ニルはそれでもいいというので買ったときの値段で四枚買い取ってもらう。


「ほかに護符はもってきたりするのか?」

「あとは筋力増加と氷で遠距離攻撃するもの。どちらも質は低い」

「そういった道具をどんどん使っていくタイプなんだな」

「一人でやっているから、取れる手段は多い方がいいと思っている」

「仲間を必要としないのになにか理由はあるのかい」

「こんなふうに道具を買うタイプだし、お金を貯めたい人たちとは合わないだろうなと思って。ほかにも理由はあったりして、一人でやっているよ」

「そっか。できれば仲間はいた方がいいと思うけど、ダンジョンにどんなふうに挑むかは個人の自由だしね」


 なにかしらの事情があると察してくれたようで、あまり深くは突っ込まないでくれる。

 

「しかし十五階で魔力活性か、習得が早いな」


 感心したようにオルドさんが言う。


「ほかの冒険者にも言われたよ。でもダンジョンに入る前から知っていて練習していたからで、特別早いというわけじゃないですよ」

「早い時期から習得しようとしてできない者もいるから、そこは誇っていいと思うぞ」


 そうなんだな。さくっと習得できたことは自慢できると覚えておこう。


「魔力活性はどのように使っているのか見せてもらってもいいか」

「いいけど、特別な使い方とかあるの?」

「そこの知識はないのだな」


 まずは使って見せてくれと言われて、強くなる死にたくないという思いを高めて発動させる。

 オルドさんとニルはなるほどと頷いた。


「全体を強化するという基本的な使い方だね」

「そうですね。習熟度もそこまで進んでいない様子」

「俺はこの使い方しか知りませんからね」


 ゲームだと魔力活性は技に繋がるものだったけど、どのように技に繋がるかの詳しい説明はされなかった。だから基本しかできないんだ。


「今はそのまま基本を繰り返していけばいいよ。そうしていたら自然と得意なことがわかってくる」

「具体的に言うなら、全体を強化していても腕力や脚力といった筋力、視力といった察知関連、体の頑丈さという防御。そういったものがほかの部分より若干強化されていることに気付くだろう。それが君の得意なことだ。それがわかれば、意識的に魔力を集めることでより強化される」


 ありがたい情報だ。その得意なことを突き詰めていけば技に繋がっていくということか。

 

「今のところはそういった強化の差はわからないけど、今後の方針になった。ありがとう」

「こっちもザラノックとかの情報は助かったし、お互い様だよ。ちなみに魔力活性の練習は特別なものはない、繰り返し使っていくこと。魔力に余裕があるならどんどん使っていくといいよ」

「もう一つ。これは言っていいのか悩むところだが、覚えておくといざというときに役立つものでもある。過剰活性というものだ」


 なんとなくどういったものか予想できるな。

 魔力を多く注ぎ込んで通常の魔力活性より大きな効果を得るんだろう。そのかわり負担も大きい。

 続けられたオルドさんの説明を聞いて、予想が間違っていないとわかる。

 ただし安全に使おうと肉体が勝手に制御してくるので、そこをいっきに押し通す必要があるという説明を聞けたのはためになった。


「過剰活性の負担はすぐにでてくる。過剰活性の効果が切れたら、体中が痛み、動きが制限される。そのまま気絶することもある。だから使いどころを誤ると死ぬことに繋がる」

「おすすめは戦闘から離脱するときに使う感じかな。いつもより足が速くなって逃げやすくなる」

「逃げやすくなるのは嬉しい」


 跳ね鳥に囲まれたときとか過剰活性があれば無理矢理包囲を突破できたのかもしれない。


「あれですね、過剰活性で気絶しないように抑え気味に制御して、瞬間的に距離を詰めたり、一撃必殺の攻撃として使っている人もいそうだ」

「すぐに応用を思いつくのはすごいね。そういった使い方をしている人も探せばいるはずだ」


 ゲームとか漫画でありがちな代物だしね。

 俺はそういった使い方はしようとは思わないけどさ。仲間がいないのに後先考えない過剰活性を使ったらピンチを招くだけだ。


「応用を思いついても俺は逃走するときに使うだけですね」

「それがいい」


 明日に備えて早めに休もうということになり、それぞれの部屋に向かう。

 時間をかければザラノックが増えていくから、今から狩りに行くかなと思ったけど、サロートと無理をしないと約束したので朝になって森に行くそうだ。

 そうして朝になり、村長から朝食と昼食をもらって、出発の準備を整える。

 家から出ると見かける住民たちは不安そうな表情でいて、落ち着かない様子だった。

 そういった人たちにニルは声をかけて、ちゃんと援軍が来るからと安心させていた。

 ああいうのは慰撫というのかな。どこか慣れた感じだった。ニルたちは何度かこんなことを経験しているんだろう。

 俺に同じことはできないから先に村を出ることにする。もっともザラノックの数が少ないと予測される森の東側に向かう。

 森を外から見ると昨日と同じようにザラノックの姿は見えなかった。


「踏み込みすぎないように注意。しっかし小ダンジョン踏破がなんでこんなことになったんだろうな。運勢バグったせいか?」


 コア破壊は無理そうだと言いつつ、森に入る。ザラノックの数を減らして村人の安全を確保したいという思いに押された形だが、そのついでにザラノックを倒して経験値を得たい。たくさんは必要ないけど。

 森の外が見えなくなる位置まで行かないように注意して進み、周囲を見る。

 オルドさんたちは頭上から襲われたときもあったというので、地上だけではなく上も警戒する。

 今のところは異常はないと思う。これ以上奥に進むのは怖いし、ここらをうろちょろしていこう。

 三十分ほどなににも遭遇せず、ここらにはいないのかと思っていたら、枝の揺れる音が聞こえてきた。

 風が急に強くなったわけじゃないから、なにかが動かしている可能性が高い。

 頭上を見ると、枝葉の向こうに鳥なんかじゃない影が見えた。


「来たか!?」


 頭上を見たままポケットから護符を取り出す。

 いつ下りてきても対応できるように集中していたら、背後からも物音が聞こえてきた。

 嫌な予感がしてすぐにその場から離れる。

 

「囮!?」


 俺のいた場所にザラノックが飛びかかってきていた。

 これまで戦ってきたモンスターは連携なんてしてこなかったから、そんな行動は頭から消えていた。

 ワイルドドッグが拙い連携をしてきたような気がするけど、ジャーキーで気をそらして戦ったからしっかりと連携してきた覚えはない。

 奇襲が失敗に終わり、頭上にいたザラノックも降りてくる。


「どんな動きをするのかはオルドさんから聞いているけど、実際に確かめてみないと」


 さらにザラノックが隠れている可能性もあるし、目の前の二体だけに集中しすぎると危ないか。

 ザラノックの動きを確かめることと周囲の物音に注意して戦い始める。

 ザラノックは強かった。強すぎるというほどじゃなかったけど。一対一なら問題なく戦えただろう。でも二対一だと苦労した。弱点をつけるとはいえ普通に格上だからな。

 護符を使わずに戦った場合は負けていた。ザラノックに弱点があって、その弱点をつける護符を持っているという幸運のおかげで勝てたようなものだ。

 

「あいたたた。三対一だと確実に負けるからそのときはさっさと逃げよう」


 噛みつきは受けたらやばいと思って避けたけど、鉤爪は何度も受けてしまって、特製服は破けてしまっている。流れた血で特製服が汚れている。

 ハスファが見たら不安しか与えない状況だな。

 怪我をしたのはザラノックの強さ以外に足場の問題があった。ダンジョン内は今のところほとんど平らな場所ばかりで、石がころがっていり、若干へこんでいるくらいだ。対してここは木の葉が落ちていたり、木の根がでっぱっていたり、石が埋まっていたりと不慣れな状況で動きが制限されてしまった。滑ったり躓いたりして隙をさらし攻撃を受けた場面もあったのだ。

 足場の悪さは想定外だった、次は気を付けないとなどと思いつつ、傷口にポーションを少しずつかけていくと怪我は治る。


「自然と次って考えたな。これも思考が誘導されているのか?」


 わからないな。まあ、ポーションも護符も魔力もまだ余裕があるから続行してもいいとは思うけどさ。

 できれば一体だけでいるザラノックと戦いたいと思いつつ、森の入口が見える位置をうろつき続ける。


 ◇


 村人の慰撫を切り上げて、ニルとオルドも森へと足を踏み入れる。

 周囲の警戒をしつつニルは森の東側にいるであろうデッサについて心配する。


「先に行ったデッサは無事だろうか」

「運が悪いか、無茶をしなければ大怪我はしないでしょう」

「オルドは彼をどう見た」


 質問の意図を図り、なにを求められているか考える。

 それを見たニルは怪しく思ったわけではないから深く考えなくていいと伝える。オルドから見た人物像を知りたかっただけなのだ。


「私にわかる方面から言うとなると、強さでしょうか。本人が言っていたようにまだまだ大ダンジョンの浅いところで戦える程度でしょう。実力を隠していた様子もないです。センスなどは戦っているところを見てみないことにはわかりませんね」


 どこかの道場に通っている様子もないと付け加えた。

 道場に通っているなら、そこの門下生と一緒にダンジョンに挑んでいるはずと思ったのだ。歩き方などに技術的なものが染み込んでもいないことも理由だ。

 

「平民出身の十五歳くらいであれなら、まあ上々の類かな」

「ですね。本人が今後もしっかりと努力を続けていくなら実力はつくでしょう。評価できる点もあります。魔力活性を現時点で使えること、準備を怠らないこと」

「知識があるのもね」


 ニルはザラノックとライアノックについて演劇で見たもの以上のことは知らなかった。

 デッサがいなければ援軍を求めようとは思わず、モンスターの大群を三人で対処することになっていたかもしれない。


「知識といえば気になることがある」

「なんでしょう?」

「デッサは伝聞という形をとっていたが、断言しているような気がしてね」

「言われてみれば自身の発言を疑った様子がなかったですね。知識に自信があったからでしょうか」

「自信があるのはいいんだ。どこでその知識を得たのだろう。誰かが話していたのを聞いたというだけにしては持つ情報が多かった。もちろん偶然ザラノックについて知っていたというだけかもしれないが」

「噂で聞いたわけではないとすると、学者が近くにいるか実際に戦った者が近くにいるかですかね」

「実際に戦った者はいないだろう。ミストーレのダンジョンにはでない。近年、このような災害となりうるモンスターが出現したと聞いたこともない。王族である俺が名前だけ知るモンスターを、市井の学者でありながら詳細を知る。それだけの知識があるならどこかのお抱えになっていてもおかしくないな。そのお抱えとデッサの繋がりは」


 深読みしそうになったニルをオルドは止める。モンスターがいる森の中で警戒を怠らせないためだ。

 

「誰かに仕えることが肌に合わないという者はどこにでもいますから。そういった者と話す機会ならあってもおかしくないかと。劇になっているくらいですし、興味を持ち詳細を調べていてもおかしくはないのでは?」

「まあ、そうか。いかんな宮廷での腹の探り合いが癖になっているのか」

「そういうものが苦手と常日頃言っておられるのですから、宮廷から離れたときは考えないようにしてはいかがでしょう」


 そもそも政争から離れるため、国内見回りと称して城から離れているのだ。


「それがいいと思っているんだが」


 二人は会話を止める。なにかの移動音を察知したのだ。


「一体だけとみるが」

「おそらくはそうでしょうね」

「だったら俺が戦ってみよう。問題ないだろう?」


 オルドはほんの少しだけ考えて頷く。ニルの実力は大ダンジョンで三十階以上に挑めるものだ。二十階辺りに出てくるザラノックに苦労することはないと判断する。

 シャムシールを一本だけ抜いたニルは音のする方向へと踏み出す。

 木々の向こうにザラノックの姿が見えた。

 ザラノックへと駆け出すニルを追うようにオルドは歩き、周辺の警戒をする。

 ニルとザラノックの戦いはさほど時間をかけずに終わる。

 デッサのその場しのぎのような剣の振り方ではなく、しっかりと指導を受けた綺麗な挙動だ。

 自身めがけて振られた鉤爪を剣で斬り飛ばし、一撃を見舞う。

 その一撃でザラノックが倒されることはないが、ふらふらになっていてたいした反撃もできなかった。


「こんなところか。一人前の冒険者ならば情報を得ていればそう苦労はしないか」

「ええ、問題はやはり数ですな」

「どれくらいいるのか。今日の調査でわかればいいが」


 魔晶の欠片を拾い、二人はさらに奥へと進む。

 デッサの遭遇率は一体や二体とぼちぼちといったものだったが、二人の遭遇率は小ダンジョンに近づくにつれてどんどん増えていった。

 小ダンジョンを見つけた頃には、二人は一度に七体のザラノックとの戦闘を行うことになっており、その周辺にもまだまだザラノックがいる状態だった。

 ライアノックの姿も気配もないことを確認し、二人は小ダンジョンから離れる。


「少ないとは言えない数がいたな」

「大雑把に百近い数がいたのではないかと思いますよ」

「その数は二人だけでは無理だろう」


 小ダンジョン内にもまだザラノックがいると簡単に想像できる。

 ダンジョン近くのザラノックを相手して、ダンジョン内のザラノックと戦い、ライアノックと戦うのはさすがに体力的に厳しかった。

 

「これでも手遅れというわけではないはずだ」

「早期発見の方だと思いますね」


 森からザラノックがあふれ出るということはないのだから、まだまだ初期段階だと二人は考える。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 全部が全部ゲーム通りの情報ではないにしてもお抱えになれるほどの知識かあ 覚えてる限りを書き起こしたら歴史に名が残りそうですねえ
[一言] デッサの知識が前世のゲームからとは予想できまいw
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