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34 再戦

 亀を狩って必要なお金が貯まり、強さも上がって、ダンジョン挑戦二ヶ月目を迎えることになる。

 この一ヶ月で十六階まで行けば、目的のレベル4に到達したと考えていいはずだ。

 宿賃一ヶ月を先払いし、武具も新しくしてある。

 数日前に武具は揃えていて、それらを身に着けての動きを確かめてもいる。身体能力が上がったおかげで重いと感じることはなかった。

 鉄の剣は青銅の剣と同じように、切れ味よりも丈夫さを重視した。いい加減斬るといったことを意識して剣を使った方がいいんだろうか。

 革鎧は正直そこまで質は高くはない。でも特製服のままで戦うよりは安心感がある。

 まだまだ半人前だけど、これだけ武具を揃えたらさすがにひよっこは卒業したと思われる。

 昼食とポーションを購入して、この二週間の成果を確かめるため今日は十一階に挑戦だ。

 転送屋に十階に運んでもらって、今日は皆と一緒に十一階を目指す。

 十一階にいるモンスターはテイルモンキーという尾が長い猿だ。長く丈夫な尾を振り回し、攻撃してくる。多くの同類と行動すると自由に尾を振り回せないためか、最大でも三体のみで行動しているそうだ。

 ゲームでは尾が同類とぶつかるといったことはなかったので、普通に三体以上の集団とも遭遇していたのを覚えている。

 ガードタートルほどの大きな弱点はない。魔法にやや弱いという感じだろう。ほかには武器である尾を斬り落とせば脅威度は下がるかな。

 情報の再確認をしているうちに十一階に到達する。

 一緒にいた冒険者たちは思い思いに散っていき、俺も十二階への坂を探しながら移動することにする。

 いつでも戦えるように鉄の片手剣を抜いて十五分ほど歩くと、前方に二体の黄色の猿が見えた。

 

(まずは一体がよかったんだけど、どうするかな)


 あの二体と戦うかどうか考えていると、向こうもこちらも気付いたようで走ってくる。

 気付かれたのならば仕方ないと、戦闘を開始する。

 結果はあっさりとしたものだった。


「意外なくらいあっさりと勝てたな」


 どちらも一撃で倒すことができた。さすがは鉄の剣ということなんだろうか。護符も魔力活性もなしに、こうもあっさり倒せるのは良い意味での予想外だ。

 テイルモンキーの動き自体もしっかりと見ることができたから、身体能力の成長もしっかりとできているんだろう。

 

「これなら十二階に行けるかもな。今日は十二階への坂を探して、明日行ってみるか」


 順調な滑り出しに気分良くダンジョンを移動していく。

 その後に出てきたテイルモンキーもばっさばっさと倒すことができた。

 ガードタートルと違ってほかの冒険者も倒しているので、一時間で十体討伐というわけにはいかなかったが、それなりの数を倒すことができている。

 こうした爽快感は今後あるかどうかわからないので、今のうちに堪能しておくことにしたい。ガードタートルも一撃だったけど、あちらは作業感の方が多い。

 そして昼食後一時間ほどで十二階への坂を見つけることができた。

 

「十二階はオオムカデが出てくるんだったか」


 時間はまだあるし一体だけなら戦ってみるのもありと思うけど、どうしようか。

 十階に戻って、お金稼ぎをするのもいい。


(坂道周辺で探してみて、一体だけでいるやつがいたら戦ってみよう)


 下りる前にオオムカデの情報を思い出す。

 硬い甲殻に包まれて斬撃と刺突に強い。ハンマーといった叩く攻撃ならば攻撃は通るが、火の魔法が弱点なので素直に魔法を使う方が倒しやすい。火の属性を付与する護符を買うのもありだろう。

 噛む力が強いが、虫のムカデと違って毒は持っていないらしい。

 十二階に下りて、三十分ほどうろついてみる。坂道近くは冒険者たちが頻繁に狩っているのか遭遇することはなく、十階に戻ってお金をかせぐことにした。

 今日のダンジョン探索を終えて、ギルドには行かず、いつも護符を買っているカニシン堂に向かう。


「いらっしゃいって、あんたか。しばらく顔を見せなかったから怪我でもしたのかと思っていたぞ」

「どうもー。しばらく護符を使わずに戦っていたんだよ」


 何度も通って護符をたくさん買っていれば顔を覚えられるもので、少しは気安い挨拶が向けられる。

 俺のいないところで「護符さん」とかあだ名をつけられているかもしれないな。


「今日も筋力の護符かい?」

「その前に魔晶の欠片を買い取ってくれ」

「あいよ」


 テイルモンキーとガードタートルから得た魔晶の欠片をカウンターに置く。

 店員は計測器に魔晶の欠片を置いて、お金をこっちに渡してくる。


「それで今日も護符なんだけど、火属性を付与するものが欲しい。とりあえず一番安いものはどれくらい持続して、値段はいくらなのか教えてくれ」

「値段は安い筋力のやつと変わらない大銅貨三枚。属性付与の効果は三段階あるんだ。弱、並、強。一番安いのは当然効果は弱。持続は十秒だ」

「在庫はいくらある?」

「二十枚あったかどうかだったはず」

「それ全部頼む。今後続けて買うかどうかわからないから、取り寄せを頼むことはないよ」

「今挑戦している階のみで使うってところか」

「そうだ。俺にとってあまりいい階じゃなければ引き返して戦うかもしれないし、たくさん使うかわからないんだ」


 筋力強化の護符はどこでも使えるけど、火属性はいつ必要になるかわからないから、たくさんはいらない。二十枚でとりあえずは十分だろう。


「すぐに準備する」


 店員はすぐに戻ってきて、二十枚の護符をカウンターに置く。

 小銀貨六枚を店員に渡して、護符を受け取る。


「使い方は護符をくしゃっと丸めて武器と一緒に握ってくれ。効果が切れれば護符も粉々になる」

「ちょっと疑問に思ったんだが、これって弓を使うときも意味あるのか?」

「弓を使うときは鏃に護符を突き刺して使うんだ」


 そういった違いがあるんだな。

 買い物を終えて、店を出る。

 翌日ダンジョンに入り、テイルモンキーで火属性の付与を試してみる。

 炎が刃を覆うイメージだったけど、実際は朱色の弱い光が刃を包むといったものだった。

 テイルモンキーを斬りつけても燃えるということはなく、体毛が焦げたように見えた。


「焦げたってことはあの光は熱を持っていた?」


 属性付与した刃を枯れ枝に押し付けたら燃えるのかもしれない。

 護符の確認を終えて、十二階に下りる。

 オオムカデが想像以上の強さの場合、いつでも引き返せるようにと坂から離れすぎないようにオオムカデを探す。

 そして二十分ほど探して、こちらに移動してきていた一体のオオムカデと遭遇した。

 大きさは一メートルを少し超えるくらい。艶のある赤茶の甲殻を持ち、虫のムカデをそのまま大きくした見た目だ。

 

「大きすぎるせいか気持ち悪さはないな。カッコいいとは思わないけど」


 そんな感想を口に出している間に、人間よりも速く移動し襲いかかってくる。


「おっと」


 速いけど対応できないほどじゃない。噛みつこうとしてくるオオムカデから大きく下がって距離をとり、左手で護符を取り出す。

 少しの間、動きの観察をしていき、護符を使わずに軽く攻撃もしてみた。

 甲殻は鉄のように弾く硬さということもなく、木を殴ったような硬いが凹ませることは可能という感触だった。

 

「じゃあ弱点をつくとどうなるかな」


 オオムカデの動きを予測して近づき、護符を左手で丸めて、右手に移す。

 刃にほのかな光が宿り、その剣で薙ぐ。

 オオムカデの側面から当たった刃は食い込み、抵抗で進みづらくなるが、そのまま力任せに振り抜くと切断することができた。

 胴の三分の二を失ったオオムカデはその場でじたばたとしていて、俺に襲いかかる余裕はない。

 放置しても消えそうだったが、とどめとして頭部を斬りつけるとすぐに姿が消えていった。


「護符を使えば致命傷を与えられるな。テイルモンキーは大銅貨四枚分の魔晶の欠片だったし、オオムカデはそれ以上。護符を使っても赤字じゃない。ここで十分戦っていける」


 よしと頷き、魔晶の欠片を拾って、十三階への坂を探すため移動を始める。

 オオムカデは魔蜘蛛と同じく壁や天井を移動できるモンスターで、あちこちに警戒する必要があった。

 天井からいきなり落ちてこられるなんてことは嫌だから、しっかりと注意しつつ進む。

 昼食を食べて二時間くらいで十三階への坂を見つけることができた。

 そのときにはこの階で経験値を稼ぐのはやめておこうかと思っていた。常に周囲の警戒をするのが大変だったのだ。

 魔蜘蛛のときはシーミンがいたので、気を抜いても大丈夫だったけど、今は一人なので気が休まるときがない。

 明日はさっさと十三階に行って、オオアリクイと戦ってみることにする。それでまだ早いと思ったら、テイルモンキーをメインにして鍛えて、オオムカデは警戒の練習として使うことにする。

 そして翌日は早足で十階から十三階まで移動する。


「いよいよオオアリクイだ」


 わずかに緊張で体が強張る。強敵というイメージがあるせいだ。

 武具を更新して、身体能力も上がっているから、以前のようにまったく敵わないということはないはず。でも実際に戦ったことがあるから、そのときの感覚にどうしても引きずられる。

 昨日の夜は一度戦ったことを思い出してシミュレーションを重ねた。回避は問題なかったが、攻撃が効くのか明確なイメージができずシミュレーションでも倒せなかった。

 そういった結果が不安を掻き立てるのだろう。


「強敵だからといって、いつまでも躊躇っていても仕方ない。絶対挑まないといけないんだから、行くぞっ」


 気合を入れるため頬を叩いて気合を入れて、十三階へと足を踏み入れる。

 オオアリクイは地面のみを移動するタイプなので、天井に気を向けず通路の前後のみに気をつけて歩く。

 そうして十分を少し過ぎたくらいで、一体でいるオオアリクイを発見した。


「周りにほかのやつはいないな?」


 見つけたオオアリクイの先にいないかと目を凝らしてみたがいない。

 

「よし、戦おう」


 いつでも使えるように筋力強化の護符を左手に持って、オオアリクイに接近する。

 まっすぐ伸びてくる舌を避けて、剣が届く範囲まで近づく。


「くらえ!」


 オオアリクイの顔めがけて剣を振り下ろす。相変わらず技術のない我流の攻撃だが、ザンッというたしかな手応えが剣を通して感じられる。


「どうだ!?」


 オオアリクイを見ると、のけぞり痛がる仕草を見せる。

 明確なダメージが入ったのだと理解できた瞬間だ。途端に不安が晴れる。やれるぞと喜びが湧く。

 

「ダメージがしっかりと入るのならあとは簡単だ!」


 シミュレーション通りに回避を行い、攻撃を当てて、護符も魔力活性もなく三分ほどで倒すことができた。

 消えていくオオアリクイを見て、思わずガッツポーズをとる。

 約三週間前に苦戦したモンスターをあっさりと倒すことができて、達成感があった。


「努力は実る。これを忘れないようにしよう」


 少しの間、達成感に浸ってから次のオオアリクイを探すことにする。

 次も一体のみのオオアリクイを発見し、護符と魔力活性の同時使用で攻撃する。その結果、一度の攻撃で倒すことができた。

 これなら十四階のモンスターにも十分なダメージが入りそうだと期待がもてる。


「気分的には今すぐ進みたいけど、十四階の情報がまったくないし無謀だよな」


 今日のところはオオアリクイを倒してまわって帰ろう。

 この決定に安堵するのはギルドで情報を得たときだ。

 魔晶の欠片を売ったときに、十四階についての情報を受付に聞いた。


「十四階ですか? オオアリクイと魔蛾がでてきますね」

「魔蛾ってあの厄介なやつですか」

「ええ、その認識であっていると思いますよ」


 顔から血の気が引く。あのまま調子に乗って進まずによかったと心の底からほっとした。

 魔蛾はそれ自体は弱い。跳ね鳥より若干下といったくらいで、今の俺なら一撃だ。魔蛾の厄介なところは強さではなく、飛び回って撒き散らす鱗粉だ。体を痺れさせる効果があり、弱体化させられた状態でオオアリクイとの戦闘が行われることになる。

 ゲームだと一度鱗粉に触れると移動速度が減少し、そのまま三回触れると動けなくなる。動けない間に殴られてダメージを負うというのは何度もあった。


「情報収集を怠る冒険者が十四階で大きな被害を受けるのはよく聞く話です」

「でしょうねぇ」


 十四階まで特に状態異常を引き起こすモンスターがいないため、初めて十四階に挑む冒険者の中にはポーションくらいしか持ち込むことをせず、痺れてオオアリクイに嬲り殺されることが少なくないのだそうだ。


「十四階に行くのでしたら、痺れに強くなる薬を購入してくださいね。きちんとした店で買わないと効果が弱いものをつかまされてひどいことになりますからね」


 購入を強く勧めてくる受付に俺は深く頷いた。当然だ。好き好んで死にに行く気はない。

 十四階は通り抜けられそうなので、十五階についても聞いておく。

 出てくるモンスターはラジマンティスというカマキリを大きくしたもので、オオアリクイより攻撃力が高く、防御力は低いということだった。

 ゲームでもそんな感じのデータだったはずだ。ハンマーといった打撃武器で頭部を狙うと、一撃で倒せることがある。それ以外に弱点は特にない。氷の攻撃にやや弱いといった感じなので、苦戦するようなら氷の護符を買っておくのもいいかもしれない。

 鎌での攻撃は革の鎧や特製服を切り裂いてくるらしいので、動きをよく見て回避するのがいいだろう。一度戦って回避も難しそうなら、十三階でオオアリクイ相手に鍛錬だ。


 翌日、薬をきちんと飲んで十四階に挑む。

 十四階の天井のあちこちに魔蛾が飛んでいて、ほぼ下りてくることなく鱗粉を撒き散らしていた。

 それ以外は十三階と変わらないため、通り抜けて十五階への坂を探す。

 薬があるとはいえ鱗粉を吸い過ぎると体に悪いそうなので、坂を見つけるとさっさと下ってしまう。

 十五階には転送できるところがあるので、ラジマンティスが強くても逃げながら転送屋を待てばいい。

 転送の石柱の近くで、服についた鱗粉を叩いて落として、一体でいるラジマンティスを探すため歩き出す。

 二体か三体でいることが多く、一体ではいないのかなと思いつつ探していると、一体でいるラジマンティスを見つけることができた。

 ほかのラジマンティスに乱入されないように周囲を警戒してから、戦いを始める。

 ゲームでもギルドで聞いた話でも、鎌以外の攻撃はないから腕の動きに注意すればよかった。でも攻撃の手数が多いから回避を重視していると、こっちが攻撃する機会がなかなか訪れなかった。

 上手く鎌を弾くことができると、がら空きになった防御に攻撃を叩き込めてスムーズに倒せるようになるんだろう。

 受けや受け流しの練習になるかもしれないということで、十六階にはすぐにはいかず、ここで防御技術を磨くことにする。

 避けることはできるが、剣で受けるとなると鎌を受け損ねて、鎧にどんどんひっかき傷が入っていく。今は浅い傷だが、積み重なれば大きな傷になって防具として意味をなさなくなるだろう。この傷は必要経費と思うことにした。どうせ五階進んだから武具更新を考えなければならないので、ここで使い潰すのもありだろう。

 買ってからまだ日が短いが、ガードタートルを二日集中して狩ればさらに良い鎧が買えそうなのだ。

 もったいないと思うより、この先生きのびるための糧となったと思うことにしよう。

 そういったわけで次の休みまでラジマンティスと特訓を続けていった。

感想ありがとうございます

更新が二日に一回になります

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― 新着の感想 ―
[一言] 一人で居る時に麻痺するというのは死を意味しますからね 情報収集と対策は大事! ガードタートル狩りで上がったステータスと新装備で順調に進めてますね ラジマンティスで戦闘経験も積んで攻防ともに隙…
[一言] 剣が通じにくい敵が居るとメイスやハンマーとかが欲しくなるな。
[一言] おー、苦戦してたオオアリクイにあっさりリベンジ達成とは ガードタートル修行でかなり強さを高められてたんですねえ
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