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32 ボーイミーツリトルガール 3

「パナソクスについては本人が戻ってきてからだ。話を変えよう。聞いてみたいのだが、この子が友を得るにはどうしたらいいと思う?」


 ルガーダさんに聞かれて少し考えてみるけど、いいアイデアはでないなぁ。


「そうですね……とりあえずもうここら辺で友達を作るのは無理だろうなと思いますね」

「わしらのミスだな」

「なので場所を変えるしかないんじゃないですかね。この家の影響が及ばない区画やこの家について知らない人たちのいるところまで行って、そこで遊んでいる子供たちに混ぜてもらう。この程度のアイデアしかでないですね」

「そんな感じだろうな。ちなみにそういった場所に心当たりはあるかね」


 思いついたのは小さい子たちが遊んでいるところを見たことのあるタナトスの家だけど、普通の人だと近寄りがたいらしいしクリーエも無理だろう。


「ないですね。俺はこの町に来てまだ一ヶ月なんで、そういった心当たりはちょっと」

「そうか。こっちで探してみるとするよ」

「加われるグループが見つかったときも警護ってするんですかね」

「するつもりだが、近くではさすがにやらんよ。子供たちを威圧することになるだろうしな。離れたところで周辺の警備をするように指示を出すつもりだ」


 ルガーダさんはなにか思いついたと表情が少し変わる。


「そのときの警備として雇われないかね? 今回の礼も兼ねて報酬は上乗せするし、ギルドを通して正式な依頼として扱ってもらえるようにもする」

「ダンジョンに行く時間が減るので、せっかくのお誘いですが断わらせていただきます」

「強くなるためにダンジョンに入っているそうだが、実績を積むことも必要ではないかと思うが」

「実績ですか?」


 ゲームのやり込みでもらえるトロフィーのことではないよな。


「依頼について知らないのかね?」

「さすがに依頼そのものはわかります。しかし実績という部分は聞いてない気がしますね」


 聞いていないというより、優先すべきことがあるから詳しく聞かなかったというのが正しい。

 ルガーダさんの言う実績はゲームにはなかったものだ。依頼自体はあったが、レア素材を得ることができたり、多めのお金を入手するためのものだった。依頼を多くこなしてもそれをもとにしてより条件の良い依頼を受けられるといったことはなかった。


「わかっているように依頼というのは、なにかしら困っている者がギルドにその困りごとを解決してもらうために報酬を準備して頼むことだ」

「ええ、そこはわかります」

「そしてその依頼を解決すると、冒険者たちはそんなことをやったという記録が残る。その記録は冒険者を引退するときに使われる。どこかの商店に用心棒として雇われるとき、町の兵として雇われるとき、貴族の私兵として雇われるとき。そういったときにこれまでどんなことをやってきたのか雇う側は知りたいと望む。失敗が多かったり、護衛に向いていなかったりする冒険者を雇いたいとは思わないものだ。ほかには冒険者が問題を起こしたときにも参考資料として用いられるな」

「依頼というのは、ただ仕事をこなして報酬をもらうだけだと思ってました」


 それだけならダンジョンでモンスターを倒した方がいいのにと疑問に思ったこともあった。実績のために必要なものだったんだな。

 たしかに護衛がほしかったりしたら、ダンジョンでモンスターばかりと戦っている人より、護衛依頼を多くこなして経験豊富な人の方が嬉しいもんな。


「まあ若いうちはそんなものだろうさ。最初から引退を考えて動く冒険者なんぞかなり少ないと思う」

「駆け出しのときはほかにやることや考えることが多いですしね。そういったことを考えるのは親が元冒険者で現役と引退の話を聞いた人くらいなものかな」


 最初から冒険者は通過点と考えている奴らが、目的に向いた依頼をたくさん受けまくるのかもしれない。


「そういったわけで実績を積む機会になると思うのだが」

「必要性はわかりましたけど」


 首を横に振る。生き残ることが最優先の俺に実績は二の次だ。


「なにかしらの事情があるのか」

「はい、強くなることのみに集中したいのですよ」

「わかった。無理に誘うことはしない」


 ありがたい話というのはわかるんだけどねー。

 お礼に関した話はしたし、そろそろ帰ろうかな。

 別れの挨拶をして立ち上がる。玄関先まで送っていこうとルガーダさんとクリーエも立ち上がった。

 玄関まで移動して開くと、ちょうど屋内に入ってこようとしていた男がいた。


「パナソクス」

「ルガーダ様。ただいま帰りまし、た?」


 パナソクスと呼ばれた男の視線がクリーエに固定されて止まる。

 そして再度ルガーダさんに向けられ、硬い表情を見てだっと身を翻す。


「すまん、追ってくれ!」


 ルガーダさんに肩を叩かれて、俺はその言葉に従う形で走る。

 背後からはルガーダさんが、ほかの人に追いかけるように指示を出す声が聞こえてきた。

 パナソクスは敷地内から出て、道を歩いている人を押しのけて走る。

 特別鍛えてはいないようで徐々に差が縮まっていく。全速力なので息切れもしているらしく速度も落ちる。

 すぐに追いつかれるとわかっているパナソクスは路地裏に入って、俺を撒こうとする。

 それで逃げる時間は稼げたが、体力が回復するわけでもなく、足をもつれさせて転んでしまう。

 パナソクスが立ち上がる前に背中を押さえて捕まえることに成功した。


「放せ!」

「そういうわけにはいかん。子供をダンジョンに放り込むような奴を放置したくない」


 じたばたともがくパナソクスを押さえ込んでいると、すぐに走ってくる音が聞こえてきた。


「あそこにいた!」「捕まっている!」「逃がさねえぞ!」


 そういった声とともに近づいてきた男たちが押さえ込むことに協力してくれて、全員で拘束し屋敷に戻る。

 その間もパナソクスは逃げようとしていた。その様子は後ろ暗いことがある証拠のように思えた。

 屋敷に入ると、俺は手を放してもいいということで離れる。男たちはパナソクスと屋敷の奥に進んでいく。


「捕まえてくれてありがとう」


 近づいてきたルガーダさんに礼を言われる。クリーエはそばにいない。自分の部屋に帰されたんだろう。


「無事捕まえることができてよかったです」

「うむ。あの様子だと親切心だけでクリーエに接していたわけではなさそうだ」

「そうですね。少なくとも自分がまずいことをやった自覚はありそうでした」

「なにを考えていたのか、これから吐いてもらうことにしよう」

「取り調べで忙しいでしょうし、俺はこのまま帰ります」

「ああ、本当に助かった。この礼はまた後日に」


 また礼についての話になるのか。

 今度はさすがに金貨五百枚とか言われないだろう。


 ◇


 去っていくデッサの背を見送り、ルガーダは玄関を閉める。

 今頃は地下でパナソクスの尋問が始まっていることだろう。その結果はあとで聞くことにして、人を呼ぶ。


「誰ぞ、来てくれ」


 その呼び声に反応にしてすぐに女が姿を見せた。


「お呼びになられましたか」

「うむ。先ほどまでいた客人について調べてもらいたい」

「名前などすでにわかっていることはありますでしょうか」


 ルガーダは現時点でわかっていることを伝えていく。それを女はしっかりと覚えて、早速屋敷から出ていった。

 ルガーダはまだデッサを疑っているわけではない。いや少しだけ疑う心はあるのだが、どこの誰なのか詳細をはっきりさせておきたかったのだ。

 紹介した道場に通ってくれたり、護衛依頼をこなしてくれれば、そこからデッサについて調べることもできたが、断られたので人を動かして調査することになった。

 話し合いで人となりはある程度掴んでいる。

 話し合いの最中は、パナソクスと組んでクリーエが危ういところを助けてこの家に入り込むことを目的としているということも考えた。

 しかしお礼に示した金額への反応、パナソクスを捕まえてくれと頼んで躊躇いを見せなかったことから、一般的な感性の持ち主と判断した。

 強くなることに執心しすぎとは思ったが、デッサが抱えている事情のために必要なことなのだろうと理解を示している。

 現時点では危険性はない人物というのがデッサへの評価だ。


「そういった人物への借りならば、そうそう面倒なことにはならんだろう」


 呟いたルガーダはクリーエの様子を見るため部屋に向かう。モンスターに追われた恐怖がぶり返しているかもしれないと思ったのだ。

 その夜、自室でルガーダはパナソクスについてまとめられた書類に目を通す。パナソクスは暴力も伴う尋問に耐え切れなかったようで、なにを考えていたのか全部自白している。

 その報告書を見て、ルガーダは溜息を吐く。そこに書かれていたことは想定していたが、現実に起きてしまうとやはり溜息の一つも吐きたくなる。

 今回の件に関して対処を考えて、翌日から動くことになる。

 その結果、数日後に別の区画を担当している裏の顔役に大きな貸しという決着を迎えることになった。

 よその顔役との話し合いを終えて、ルガーダは自室で深く椅子に腰かける。話し合いに同行していた顔役補佐も一緒にいる。


「粗方終わったな」

「はい。パナソクスを確保できたから、早期決着がついたのだと思います。やりとりしていた手紙などが証拠として提出できたのも大きかったです。それを部屋に忘れていたから取りに戻ってきたというのは間抜けな話ですね」

「あっちが犯人と示す証拠だから放置できなかったのはわかるが、こちらとしては運が良かった」

「しかしうちが隙を見せたのは確かですが、それでもちょっかいをかけてくるとは」

「うちほどじゃないが、向こうもトップの交代が早かった。若い分、野心を押さえきれなかったということなのだろうさ」


 向こうもルガーダのように以前の顔役は存命だ。

 しかし先代や古参の助言を煩わしいと感じて遠ざけ、自身に都合の良い人間だけで周囲を固めた。その結果、己の野心に突き動かされて支配地を増やそうと動いてしまったのだろう。


「もしかしたらルガーダ様たちが昔やったことに憧れたか対抗心をもったのかもしれませんな。私も初めて聞いたときは胸が弾み憧れたものです」

「わしらにとってあれは怠慢の結果、苦い思い出なのだがな。今のお前にはこの意味がわかるだろう?」


 こくりと顔役補佐は頷いた。


「あの顔役はどうなるのでしょう」

「交代だろうな。その後は監視されながら失敗分だけ働かされるか、隔離でもされるか」


 殺されることはないだろうとルガーダは思う。新たに交代した顔役が死んでしまったとき、直系の血を繋ぐため生かされる。

 生きられるだけで幸せな生活は無理だろう。


「まあ、向こうについてはいいだろう。しばらくは大人しくやっていくはずだ。今回の件で残っているのは、クリーエが安全に遊べる場所を探すこととデッサへの礼だな」

「遊ぶ場所はいくつか候補を絞っています。数日もすれば報告できるかと」

「頼んだ。デッサに関しては純粋に礼をすればいいから気楽なものだな」


 デッサに関した調査報告書を解決までの合間合間に読んでいたのだ。


「ええ、どこかの組織と繋がっていたといったことはなく、普通の冒険者でした。交友関係を見ると、普通とはいえない気もしますが」

「シスターはポーションを買いに教会に行く必要があるから、そのときに知り合ったのだろうとわかる。だがタナトスの一族はな。きっかけがあっても親しくしようとは思わないだろうに」

「あそこが持つ伝手は美味しいのですが、そのためにあそこと交流を持つのは躊躇われます」

「デッサはそういった下心なく交流しているようだからな」

「なにが彼の琴線に触れたのでしょうね」

「わからんな」


 デッサを通じてタナトスの一族と交流しようかと二人は思ったが、すぐにその案を却下した。

 恩人のデッサを利用するのは気がすすまなかったし、間にワンクッション置いたとしてもタナトスの一族と上手くやっていける気がしなかったのだ。


「礼に関しては食事をしながら話し合うとしよう。客人をもてなすレストランの予約を頼む」

「承知いたしました」


 顔役補佐は仕事をするためルガーダの部屋から出ていった。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] ゲームだったらイベント進行からの裏の顔役と縁ができてそっちのシナリオ進行可能にってとこですかね モンスター狩り続けてるだけなのに縁が向こうからどんどんつながってきますねー
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