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3 初めてのダンジョン 1

 山を下りて、平野に出る。

 生贄を汚れたまま出すわけにはいかないということで、新しい服や靴などを与えられていた。しかし下山したことで、土汚れなどがついてしまっている。

 そんな汚れを叩いて落としつつ山を振り返る。

 リューミアイオールの縄張りだからか、モンスターも危険な獣も山にはいなかった。

 襲われることがなく、木の実なんかも取れて、安全な下山だったと思う。

 でも山から離れたらモンスターや獣は普通に出てくるだろうから、できるだけ戦わずにすませたいところだ。

 ところでゲームではモンスターの縄張りは決まっていたけど、今はどうなんだろう。ゲームの時代から時間が流れていることもあって、生息域がかわっていてもおかしくない。

 ゲームではいなかったモンスターとかもいるんだろうか。出てきたら弱点がわからなくて困る。ただでさえ一般人で弱いってのに、弱点すらつけないとなると苦戦する未来しか思い描けない。そういったモンスターからは逃げるしかないな。現状ほとんどのモンスターから逃げるしかないんだけどな! 持っているナイフは武器として使うには心許ないし。

 ひとまず道を見つけて、それにそって歩いて、どこでもいいから村を目指す。そこで食べ物とか水筒とかが手に入ればいいんだけど。

 山で手に入れた木の実が何日分もあるわけじゃないし、しかもそのうち腐る。

 そんなことを考えつつ、モンスターとかにも警戒して歩き続けて、火の魔属道具で試しにライターくらいの火を灯してみたりしながら、夕方まであと二時間くらいかってところで村を見つけることができた。

 

「あまり大きくはないか?」


 自分がいた村よりも家の数が少ないように見える。

 うちの村はリューミアイオールという特大の存在が近くにいたものの、そのおかげで山と同じくモンスターとかはいなかったから安全で人が増えやすかった。ただ交易の道からは外れているから、外部から人がたくさんくるわけでもなかった。

 今見える村は人が集まるなにかがなく、大きな道からも外れているのだろう。

 店はなさそうだし、欲しいものが手に入らないかもしれない。

 使っていない水筒でも買い取れたらいいんだけど。

 

「買取ができなくても、空き家とかで泊まれたらな」


 村に近づくと、見張りらしき村人に止められる。木を削っただけの粗末といっていい槍を向けてきて、警戒した視線を向けられる。余所者に厳しい村だったか。追い払われないだけまだましか?


「何者だ?」

「旅人です。北の方にあるダンジョン都市を目指してます。今日はここで一泊できたらと思っているのですが。できれば食べ物なども買いたいですね」


 できますかと丁寧に聞く。警戒されているんだし、下手に出た方がいいだろう。


「金はあるんだろうな?」

「ええ」


 頷いて、巾着から大銀貨を取り出す。

 これで使えないとか言われたら諦めるしかないな。


「ふん、あるならいい。暴れるなよ」


 どうやら使えるらしい。少し安心だ。


「ここって店とかあります?」

「ない」

「では一晩泊まれるような空き家は?」

「ないが、小屋くらいはある。金を払えばそこを借りられるだろうさ」


 ありがとうございますと礼を言い、村長の家の場所を聞いてそこを目指す。

 顔を合わせた村長も警戒した様子で俺を見てくる。


「一泊したいと?」

「ええ、小屋なら借りられると聞いています。お願いできないでしょうか」

「……」


 村のことを思ってか、すぐに答えず沈黙が続く。


「まあ、いいだろう。食事付きで大銀貨一枚だ」


 たぶんぼったくってるな。

 値切ってやっぱりやめたって言われるのは困るし、素直を出しておこう。

 どうせ拾ったものだしな。

 巾着から大きな銀貨を取り出して、村長に渡す。

 素直に払ったからか、村長が少しだけ驚いたような顔をした。値切られると思ったんだろうか。


「うちの右隣にある小屋を使え。食事はあとで持っていく」

「ついでに余っている水筒があれば売ってもらいたいのですが」

「ないな」

「そうですか」


 ないなら諦めよう。村長の家を出る。

 借りられることになった小屋は六畳もない小さなものだ。壊れた桶などが置かれた以外は目立ったものはなく、隙間もあちこちに見える。

 春もそろそろ終わろうかという時期で昼は温かいけど、夜はまだ冷える。大きなぼろ布に包まって、できるだけ風の当たらないところで寝ないとな。

 ぼろ布で壁の低いところにある穴をふさいでいると、飯だと外から聞こえてくる。


「食器はうちの玄関横に置いておけ」


 村長はそう言って、さっさと去っていく。

 渡された木製のトレイには硬そうなパンと湯気を上げるスープの入った器が載っている。


「冷めないうちに食っちまおう」


 パンをちぎって、スープに浸しつつ食べていく。味が薄いかなと思ったが、実家の味も似たようなものだった。

 味覚が前世のものに引っ張られているかもしれない。

 育ち盛りにはものたりなかったが、木の実があるのでそれも食べて、使った食器を返すため小屋から出る。

 玄関横に置いて、ついでに水を飲むため井戸のある方へと移動する。

 村の二つの入口には松明があり、そこに見張りが立っている。冒険者ではなく、村人のように見える。

 故郷の村では見張りはいなかったけど、あれはドラゴンのお膝元でやんちゃをするモンスターや盗賊がいないからで、普通は見張りが立っているものなのかな。

 あまりうろついても怪しまれるだけだろうから、さっさと小屋に戻る。

 やることないし、さっさと寝てしまおう。いろいろありすぎて疲れたし。

 まさか前世を思い出して、ドラゴンに食べられそうになるとか意外すぎる。今生も前世も早死にする運命なんだろうか。そんな運命なんてくそくらえだ。

 

 穴をふさいだおかげで隙間風で眠れないということはなかった。

 しかし寒さではなく、突然の腹の痛みで目が覚める。


「な、なんだ!?」

「さっさと起きろ!」


 朝になっているのだろう入口から入ってくる逆光で見えにくいが、村長が目の前にいる。腹を蹴られたのか。

 小屋の外には村人が何人か見える。なんだか怖い顔をしているが、なんでだ?

 意味がわからないまま立ち上がる。


「なんで蹴ってきた?」

「ふん、罪人に遠慮など必要などない」


 罪人? なんのことだ?

 この村で犯罪になるようなことはなにもやっていないぞ。金を払って泊まった。金を払っていないのは井戸の水くらいだろう。井戸を荒らせば怒るだろうが、普通に飲んだだけだ。

 まさか生贄だとばれたのか?


「まだ自分がなにをしたのかわかっていないという顔だな」

「当然だ。俺はなにをした覚えもない」


 村長が馬鹿にしたような顔つきになった。


「ならば教えてやろう。お前がしでかしたことを。お前は小ダンジョンを発生させたのだ」

「……なんだって?」


 聞き間違いであってほしいんだが、俺が小ダンジョンを作ったとか言った? そんなことできねえよ?

 というか人間がダンジョンを発生させることなんて不可能だろう。ゲーム知識でも、今生の知識でもそんなことは聞いたことがない。


「ダンジョンを発生させたと言ったのだ」

「いや、そんなこと無理だろう!」

「私も聞いたことはないが、事実村の近くにダンジョンができている。この村の人間は清く正しく生きてきた。そんな我らの村の近くにダンジョンができるはずがない。できるだけの理由があるはずだ。そしてここ最近あった、いつもと違うことといえばお前がやってきたことだけだ」

「言っていること無茶苦茶だ! 俺が来る前からここにダンジョンができていたってことじゃないか」


 村長はふんっと鼻で嗤う。


「おおかた、村の近くに潜んで準備を整えたってところだろう。俺たちが田舎ものだといって、なにもわからないと思うなよ。お前たち、こいつを運び出せ」

「「「おう!」」」


 外にいた男衆が小屋に入ってきて、俺を掴んで外に引っ張り出す。

 くっそ! どうにか逃げ出したいけど、数人がかりだとどうにもならねえっ。

 それでもどうにかできないかともがくが、どうにもならない。


「どこに連れていく気だ!」

「お前が作ったダンジョンだ。お前が処理するのが筋だろう」

「最初から筋が通ってねえよ!」

「なんとでも言え。お前にさせることがかわることはない」


 小ダンジョンに連れていかれて、放り込まれるのが確定か。

 いつかは行かないといけない場所だとは思っていたけど、こんな形で行くとか想像してもいなかった。

 というか今放り込まれたら、なにもできずに死ぬ。武器になるだろうナイフは荷物と一緒だ。今度から宿泊するときは武器とかお金を持っておくか、すぐに手に取れる場所に置いておこう。またこんな目にあわないのが最善なんだけどな。

 なにを言っても俺を放り込むだろうから、中に入って助かる方法を考えるしかない。

 これから向かうのは小ダンジョンだよな? 村長がそう言っていた。

 小ダンジョンはどういったものだったか……ゲームだとサブクエストにからんでくるものだった。

 深さは三階から五階のものばかり。ゲームの進行度によって出てくる魔物の強さが変わっていたけど、これはゲームの都合だろう。この世界の常識だと、深くなればなるほど魔物の強さも数も増すということになっている。

 踏破するなら往復することは考えなくていい。コアを壊せばダンジョンは消える。中にいた人間もモンスターも放り出されるらしい。

 俺がやれることはモンスターを無視していっきに踏破することだろう。武器すらない今の俺にモンスターを倒せるとは思えない。水と食料もないから長期戦も無理。モンスターを避けて、急いでコアを目指して壊す。

 そのあとは村を離れよう。

 

(これでいいはず……いやそんなにスムーズにいくか?)


 馬鹿げた理由で俺を放り込もうとしている奴らだ。踏破してもいろいろと難癖付けてくるかもしれない。

 踏破したあとも無事でいられるように考えないと。

 というか昨日はドラゴンに遭って、今日は馬鹿みたいな村でアクシデントとかやめてくれないか!?

 ああーーーもうっ。どうすればいい? 村を無事に離れるには……。

 

(……神頼みしてみるか)


 上手くいくかわからない。でも俺にとれる手段は少なくて、少しでも無事でいられる可能性を上げるためならやれることはやるべきだ。


「おい」


 担がれたまま呼びかける。


「なんだ?」

「ダンジョンを処理すればいいんだな?」

「やっと認める気になったか」

「聞いたことに答えろ。処理すればいいんだな?」

「ふん、そうだ」

「処理すれば荷物を回収して、さっさと村から離れるからな」

「できるものならな」


 よし、言質をとった。

 モンスターを全滅させろとか言われないってことは、コアを壊してダンジョンを消せばいいと解釈できる。

 あとはたしか……ゲームに出てきた神官はなんて言っていたか。


「世の果てにて見守る神々。我が言の葉聞き届けたまえ。ここに誓いを立てる。破ることなく守り続ける誓い。破りしとき我らの身は苦しみの果てに朽ちる」


 ゲームだと清められた場所で、特殊な香も使って行われた誓いだ。

 四神の誓いという名前だったはず。これを破った悪役の商人が苦しんで死んだイベントがあった。

 死にたくないから必死に思い出したおかげか、鮮明にそのイベントのことを思い出すことができて、祝詞を間違いなく言えたはずだ。


「なにをぶつぶつ言っている」

「どうやって踏破するか考えていた。もう一度確認するが、処理して終わりだな?」

「そうだと言っているだろう。しつこいぞ」

「アムシロバルカロスセジア」


 早口で締めの言葉を告げて、誓いを終える。これだけは聞こえるように言っておいた。


「あむしろ、なんだって?」

「無事を祈る言葉だ」


 俺にとってはな。

 しかし四神の誓いは有名じゃないのか? いや今生の知識の中にも四神の誓いはあった。でも略式として広まっているみたいだな。

 重要な約束をするときには『四神に誓って』と締めくくるらしい。

 一般人の間では、本格的にやらずに形だけやるのが普通なんだろう。

 俺がやったのも本格的とは言えないから、正式な効果を得られるかわからない。

 しかも俺が約束を破っても効果を発揮するんだけど、もとよりダンジョン踏破を失敗すれば死ぬか殺されるし、俺に不利はない。

 あとは黙って運ばれるのみだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 竜の叙事詩からの始まりか〜 悪くないけど、説明房にならなければ良いなぁ〜
[一言] 誓いを破って村長以下の無法者が全滅する姿が目に浮かぶのは思い過ごしに違いない。
[一言] 処理しろって癖に荷物は渡さないんかい 丁度いい生贄くらいにしか思ってなさそうですねー
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