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終 美味しい肉を目指さなくてよくなった話

 伝えるべきことは伝えて解散を告げる。

 ファードさんは魔王の魔晶の塊を拾い上げ、リュックに入れる。


「俺は先に帰ってます。死黒竜が送ってくれるので時間はかかりません。ファードさんも皆さんも道中気を付けてください。せっかく生き残ったのに、魔物や従魔に襲われて死ぬなんてことになったら悔いしか残りませんからね」

「そうだな。十分に警戒して帰るとするよ」


 魔晶の塊とかを入れる袋をもらって、巨石群に向かうファードさんたちを見送る。

 拠点に帰る前に、まだ巨石群にいる味方にすべて終わったと伝えるんだそうだ。そのあとは拠点に帰って、まだ暴れる魔物や従魔の掃討戦をしてから各々の故郷に帰ることになるだろうと話していた。

 掃討戦ではアンクレインやレオダークとも戦うことになるんだろう。それらの相手まで俺がやらずともいいはずだ。ほかの人に頑張ってもらう。

 そういや魔王との戦いだと一切姿を見せなかったけど、どこでなにをしていたんだろうな? さすがに魔王が倒れた直後とか敵討ちに出てきそうなものだけど不気味なまでに静かだ。

 リューミアイオールならなにか知っているかなと思ったけど、力を拒絶されていたわけだし把握できてなさそうだと思い直す。

 あれらの奇襲を警戒しつつ見える場所に落ちているものは全て拾って、壊れたバズスアムルのそばに立つ。

 ちぎられた腕の回収は諦めた。ちぎられたあとも何度も紫の炎にさらされて原型を留めてなかった。放置していれば壊れた剣とともに砂に埋もれていくだろう。


「リューミアイオール、バス森林まで送ってほしい」

(わかった。お疲れ、そしてありがとう)

「ありがとう?」


 なんで礼を言うんだろう。


(バズストの敵討ちをしたようなものだからな)

「あー、そうなるのか」


 自分の敵討ちをしたってのはおかしな感じだわ。

 バズスアムルごとバス森林の鍛練場に転移する。

 バズスアムルをそこに置いたまま、村に入るとすぐに人々が集まってきて結果を聞いてくる。

 魔王を倒したと宣言すると歓声が上がった。

 彼らにもみくちゃにされているところに、グリンガさんがやってくる。


「これこれ嬉しいのはわかるが、疲れているのだからいいかげん解放してあげなさい」


 グリンガさんの言葉に村人たちはもみくちゃにするのをやめてくれて、感謝の言葉を言いながら去っていく。

 賑やかな村の中を二人で歩いて、グリンガさんの家に向かう。

 火傷治療の薬を出してもらい、体を洗ったあと薬を塗ってリビングに戻る。

 だされたお茶を飲んで一息つくと、グリンガさんは労わりの言葉のあとに魔王との戦いについて聞いてくる。

 砂漠に行った直後から魔王戦後のファードさんとの会話まで包み隠さず話す。


「魔王も強化されていて、バズスアムルが壊れましたか。激しい戦いだったのですな」


 あれが壊れるのですなと驚いている。

 実際に目にしたらまた驚くかもしれない。

 

「バズスアムルなしだと確実に負けていましたね。それに試作型のマナジルクイトも助かりました」

「役立って本当によかったです。しかし最後の最後で動きを止めたのはなぜでしょうね」


 俺もなぜだろうと返すとリューミアイオールがおそらくと前置きして話す。


(魔王はお前をバズストそのものだと思っていたのだろう。だから今回も命を賭して戦いに望んだと思っていた。バズストの魂の欠片を持っていたのなら、そういった思いをわがことのように理解できたはずだ。しかしお前は逃げると口に出した。バズストならば口に出さないであろうその言葉は、魔王の意表をつくのに十分なものだったのだろうさ)


 魂の欠片をもっていることがデバフになっちゃった感じかな。

 魂の欠片のおかげで俺の気配を捉えることができたけど、最後の最後でマイナスになったのはバズストの魔王をどうにかしたいっていう執念、なんてな。

 魔王についてはそれで終わりにして、回収してきた魔晶の塊などを渡す。


「壊れたバズスアムルの修理などに役立ててください」

「わかりました。修理してまた出番があるようなことにならないといいのですが」

「いつか遠い未来に魔王が誕生して出番があるかもですね」

「そういった出番ならまだ納得はいきますね」


 それ以外だと、やけになったアンクレインたちとの戦いで出番があるかもしれない

 しばらくは大ダンジョンに通って、魔晶の欠片を集めつつ体の維持をしとこうかな。維持や勘を鈍らせないってだけなら、これまでみたいに無茶しないで日帰りばかりでも十分だろう。

 そうやって過ごしていれば、ジョミス用の魔動鎧も完成するだろ。

 一通り話してグリンガさんに帰ることを伝えると、ゆっくり休んでくださいと言われてミストーレの外に転移する。

 魔王が死んだことなど伝わっていないので、ミストーレは出発したときと雰囲気は同じだ。

 そんな中、一人気楽に歩くのは場違いなのかもしれない。でも今だけは町の雰囲気に合わせる気もない。

 

「ただいまー」

「お帰りなさい。早かったですね」


 ホールを掃除していたルーヘンとレスタに出迎えられる。

 まだ昼を少し過ぎたくらいだ。急ぎで出たときはいつ帰るか言ってなかったし、早いと思うのも無理ないのかもしれない。


「ルーヘン、出るときに渡した手紙ってどこにある?」

「事務所に置いてますよ」

「あれもういらないから捨てておいて」

「わかりました。どんな内容だったんですか?」

「用事が長引いてしばらく帰れない可能性もあったから、そうなったときの指示だよ」


 さすがに遺書だと正直に話すと驚くことになるだろうな。

 そうですかとルーヘンは納得したように頷く。


「オーナー、どこか雰囲気がこれまでと違って軽い感じがしますけど、いいことでもありました?」


 レスタが不思議そうに聞いてくる。


「わかる? 厄介な用事が全部終わって解放感があるんだ。今後も長期の留守はあるだろうけど、無茶をするようなことにはならないだろうね」

「それはよかったです。オーナーが無茶をしすぎて倒れたりしたら、ここも大変になると心配していましたから」

「倒れるようなことにはもうならないかな。あとはまじめに経営をやっていけば安定するはず」

「そうですか? クッパラオが荒れていますし、まだまだ不安はあると思いますが」

「あっちも安定する兆候があるみたいだ。出先で聞いた」

「本当ですか? よかったです」


 レスタはほっとした笑みを浮かべた。


「兆候ってだけで確定したわけじゃなんで言いふらさないようにね。嘘吐きだと言われるかもしれない」


 わかりましたと二人は頷いた。

 自室に戻り、魔晶の塊とかを金庫に入れて、武具を外してベッドに寝転ぶ。

 武具はどれも戦いの影響で、修理が必要な状態だった。あとで修理に出そうと思いながら目を閉じる。

 気持ちよく眠れそうで、その気分のまま睡魔に身をゆだねる。

 どれくらい寝ていたのか、体を揺らされて起こされる。

 目を開けると、メインスが覗き込んでいた。


「おはよ。気持ちよさそうに寝ていたわね。いつから寝ていたの?」

「昼くらいだけど」


 そう答えつつ体を起こす。部屋にはシーミンとハスファもいた。

 三人一緒というのは珍しい。


「珍しいですね、昼寝ってあまりしなかったじゃないですか。それに雰囲気がとても軽くなってます。なにか心境に変化がありましたね」

「レスタに見抜かれくらいだからハスファはすぐにわかるわな。厄介事が終わったんだよ。あとはもう気楽な隠居暮らしをしても許される」


 メインスの表情が真面目なものになった。

 そのメインスがなにか言う前に、ハスファが続ける。


「もう無茶をしないということですか?」

「する必要がないからしないね」


 そう答えるとハスファは目を丸くした。


「無茶をしないと断言したのは初めてですね」


 一応確認したいと言ってハスファはシーミンを見る。


「デッサさんが本当のことを言っていると思います?」

「言っていると思う。嘘をついている感じはしない。あと緊張感のなさも感じ取れる。リラックスしている」

「勘の鋭いシーミンも認めるなら、本当のことなのでしょうね。安心しました」


 心底ほっとしたようにハスファは笑みを浮かべた。

 次に真面目な表情のままのメインスが口を開いた。


「デッサ、厄介事って神託に関連してる?」

「してるよ」


 気が緩んでいるせいか、ハスファとシーミンがいても隠そうと思いつかず肯定した。

 まあいいか、ここで話したことは秘密にしてもらおう。


「魔王は倒れた。俺の役割は終わった。あとは人間たちが後始末するだけ」


 三人ともきょとんとしている。俺の言葉がいまいち飲み込めないようだった。

 メインスは戸惑いに表情を変化させて聞いてくる。


「えっと魔王が倒れた? どうしてそう言い切れるの?」

「午前中にクッパラオに行ってきて、そこで戦ってきたんだ」

「え、かなり距離があるのに無理でしょ」

「リューミアイオールって言ってもわからないか。死黒竜が転移で運んでくれたんだよ。そしてバス森林の草人たちが作ってくれた武具も使って戦ったんだ」


 メインスは目をぱちぱちと瞬かせて、ゆっくりと顔を動かしてシーミンを見る。


「本当のこと言ってる?」


 問われたシーミンはなんとも微妙な表情だ。


「……今日ほど私自身の勘を信じられない日はない。私の勘だと嘘はない、本当のことなんだと思う。でも魔王を倒したって話を受け入れがたい私がいる」


 自信なさげにシーミンが言う。

 ハスファは安堵の笑みを引っ込めて、絶句している。


「え、ちょっと待って、いや本当に、予想外の話がでてきた。えええ?」


 戸惑いを口調にまで出しながらメインスは待ってと繰り返す。


「向こうでファードさんと会っていて、魔王との戦闘も見られているから、帰ってきたときに話を聞けば本当のことだってわかるよ。あと俺が倒したってことは秘密にするから誰にも話さないようにね」

「私自身信じられていないのに、ほかの人が信じてくれるわけないでしょ!?」


 思わず悲鳴じみた反論をしてくる。

 魔物と戦ったとか伝えたときのハスファとかシーミンみたいな表情になっているな。

 なにもかも終わったあとだから、そんな様子を笑って見ていられる。


「さらっととんでもないことを言わないでください!」

「ここまでの話に本当に嘘がない。嘘がないのに信じれないことってあるのね」

「いや、本当にとんでもない話よ!?」


 ドン引きしたようにも見える三人は、聞いたことを本当か確かめるように話し合う。

 俺は椅子に座ってそんな三人をのんびりとした面持ちでつつ、今後の予定を思い浮かべていく。

 その予定に命を賭けるような出来事がないことが、本当に嬉しい。

 リューミアイオールとの邂逅に始まり、必死にやってきたことが報われた。

 あとの予定は旅行だったり、メインスの告白にどう答えるか考えることだったりと、普通の人生だ。

 幸福が確約された思いでいると、メインスがビシッと指差してきた。


「ニヤニヤしていないでもっと詳しい話をしてちょうだい」

「ニヤニヤはひどいな。爽やかとか朗らかとか言ってほしい。これからの落ち着いた生活を楽しみにしていただけなのに」


 詳しい話を求めてくる三人に応えて話しているうちに、夕飯を食べないのかと従業員が声をかけてきた。

 そこで話は中断し、せっかくだからと四人で夕食を取ることになった。


 四人で食卓を囲むことは今後も繰り返される。たまに魔法で気配をおさえたリューミアイオールが加わることもある。

 その頃には魔物たちの騒動は落ち着いていて、クッパラオに集まっていた人々は故郷に帰っていた。大陸は復興に向けて協力している状態だ。

 アンクレインたちが支配していた町も国が異常を察知して、立て直しが行われた。

 同時進行で、巨石群の探索も行われることになった。魔物の生き残りを探して倒すためという名目だったけど、アンクレインの遺した技術入手も目的だったみたいだ。

 技術を取り入れ国力を増すためなんだろう。それが将来、新たな問題となった。

 従魔の技術を応用しようとして失敗し、強いモンスターが各地に現れるようになったのだ。一般人は新種のモンスターと考えていたが、従魔研究のミスで研究所から逃げ出した。その一件に俺とリューミアイオールとジョミスの三人で旅をしていたときに関わるのだ。

 

 世の中が落ち着いて、シーミンたちタナトスは雰囲気を誤魔化す魔法ともともとの人間性のおかげで少しずつ人々に受け入れられる。

 死体を扱う仕事ということで毛嫌いする人もいるけれど、以前と比べたらかなり少ない。

 ハスファたちのいる教会も再建が終わり、以前のように人々が訪れる。

 魔物たちが暴れていたときの不安相談は減って、日常的な相談の人が増えて教会の人たちも安堵しているそうだ。

 メインスは本山に帰らずに、本格的にミストーレの教会で責任者として働くことにしたようだ。

 トップは天主長たちで、彼らの補佐として働いている。

 すぐに仕事から離れる可能性があるからその位置だと言っていた。

 本山に呼び戻されるのではなく、俺と結婚して子育てに集中するかもということらしい。

 その話を聞いて、驚いたのはシーミンとハスファだ。告白した話を知らなかったので、いきなりな話に思えたそうだ。

 それが切っ掛けになったのか、二人とも俺を意識しだしたように思える。

 三人を放置して、リューミアイオールたちと旅に出ることもあるので、もっとこっちを気にしてと直接言われることもあったりする。


 日常ドラマを送る日々にシャルモスの残党といった者たちの動きは影もなく、バス森林の人たちも表に引っ張りだされることがない。

 バズスアムルを探す動きはあったみたいだけど、バス森林にまで届くことはなかった。

 ニルはこれまでの情報から、バス森林がバズスアムルの製作者じゃないかと連想して直接聞いてきた。

 それに対して答えたときに、リューミアイオールからも秘密にするように念を押されたことで誰かに話す気はなくなったようだった。

 ニルから聞いたことだけど、俺の周囲に各国の諜報員が来ていたらしい。それをこの国の諜報員が撃退したそうだ。

 たぶんファードさんと一緒にいた人の誰かが話したのだろう。害があればファードさんにあのときいた人たちについて話を聞きにいったけど、ニルたちのおかげでなにごともなかったんで一度は流すことにした。

 そんな平穏の世の中を俺は急かされることなく、生きていくことになる。

 急ぎ駆け抜けた時間とはうってかわって、日々を楽しむ。冒険者として、ルポゼのオーナーとして、ただの旅人として。

 もう美味しい肉になるなんて考えなくていいのだ。

感想ありがとうございます

これにて終わりです、一年以上お付き合いいただきありがとうございました

書き始めたときはもうちょっと短くするつもりだったんですが、思ったより長くなりました


次は神様からチートをもらって、異世界に転生(憑依?)する話

見た目可愛い妖精を相棒に旅をしたり冒険をしたり事件に巻き込まれています

ある程度書き溜めてますが、もう少し書き溜めたらカクヨムに投稿予定

七月の頭には投稿していると思うので、そちらもよろしくお願いいたします

書き直す可能性もあるので投稿日は予定

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読み切りました!「縁をもらって東へ西へ」を片手以上に何周も読むくらいファンなのですが、今回も面白くて一気読みしました! 縁と同じく色々な点がすきです!主人公と現地の人との距離感、独自の世界…
[一言] 完結おめでとうございます やっぱり赤雪先生の作品は面白いですね これからも楽しみにしています
[一言] ありがとうございました。その後をSSとかで様子を垣間見られたらなーとか思っています。楽しい贈り物でした。
感想一覧
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