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253 魔王戦 2

「バズストーーーーーッ!」


 魔物たちをすべて倒すと、岩の頂上から大声とともに赤い鎧が突っ込んでくる。強烈な敵意がバズスアムルの装甲を叩いているかのように小さく震える。

 敵意の中に執着心も感じられたのは気のせいだろうか?

 見た目はまるで違うけど魔王だ。

 かなりの速度で飛んできて、拳を振りかざし殴りかかってきた。


「ふんっ!」


 迫る拳へと剣を叩きつける。

 それらがぶつかった衝撃で砂が巻き上がり周囲へと散っていく。剣を通して振動がバズスアムルの内部にまで響く。

 砂煙で視界が悪くなるものの、魔王の気配は目立つので見逃すことはない。

 すぐさま砂煙の向こうから紫の炎が迫ってきて、背後に飛んでそれを避ける。


「鎧の隙間から噴き出ていた炎だろうな」


 当たれば通常の炎とは違ったことになりそうだ。できるだけ回避することにしよう。

 そう考えたら、大きく放出された炎が波のように迫ってくる。


「なんの!」


 ジャンプして回避すると、そこを狙って紫の炎が投げつけられた。

 そう来るのは俺も予想している。


「サブショット、撃てっ」


 いくつもの魔力弾と紫の炎がぶつかって相殺していく。

 紫の炎を全部消すことはできなかったけど、欠片のようになった炎は俺に届く前に風に流されていった。

 地面に着地してすぐに魔王へと接近する。そのときに見えたけど、紫の炎が消えずに燃え続けている。放出された全てがそうじゃないけど、半分近くは今も砂の上で燃えていることから、燃えるものがなくても長時間燃焼するという炎なのだろう。

 

(鎧全体にあびたら、熱が内部にこもりそうだ)


 やはり回避優先にしようと思っていたら、魔王はその炎を手足に宿す。

 放出するだけじゃなかったかー。魔王の武術レベルが低いことを祈ろう。

 近づいて剣を振るう。それを魔王は避けて、反撃として蹴りを放ってくる。少し下がって避けると、蹴った足を主軸にして回し蹴りへと繋いできた。紫の炎が尾となって蹴りの軌道を描くのは綺麗だ。できることなら見物だけしていたかった。それができたらどんなに嬉しいことか。

 炎を警戒して接近戦が続く。

 戦っているうちに気付いたけど、魔王の動きにバズストの戦い方と似た部分がある。

 もしかするとバズスト本人との戦いで学んだのか、それとも魔王の持つ魂の欠片に戦いの記憶があったのか。

 どちらにせよ、互いに互いの出かたがわかるということで戦いにくい。しかもバズストの戦い方以外にも、別の誰かの戦い方が混ざっている。たぶんだけどレオダークのものじゃないかと思う。バズストの動きに別のものが混ざるので、タイミングをずらされるときがあるのが厄介だった。

 そのほかにも魔王は接近戦をやりつつ、魔法も行使してきた。ダメージ目当てではなく、こちらの阻害に使っている。炎や土や吹雪を目くらましにして、強風でこちらの体勢を崩そうとしてくる。


(バズスアムルがなかったらあっという間に負けてたな)


 もとは魔法使いタイプなんだろう。魔法の使うタイミングも威力も申し分なく、厄介だ。

 紫の炎はなんとか避けたけど、魔法の方は直撃が何度もあって、魔物たちの魔法のようには簡単に弾くことはできなかった。

 

(今はまだこちらの防御を抜かれてはこないけど、過信は駄目だな)


 こちらが攻撃を受けてばかりじゃない。しっかりと反撃して剣やメインショットを直撃させている。

 互いの攻撃で砂は巻き上がり、炎があちこちで燃え、大きく深い穴もできている。ここが土や砂利の地面だったらもっと荒れた様子になっていたはずだ。

 まあそれはいいとして、斬った感触と切断面がおかしい。光沢から金属鎧と思っていたんだけど、硬い肉を斬ったような感じだ。あれが本当に肉なら、傷は再生しているんだろう。


(生体鎧ってやつか)


 漫画とかでしか見たことのないものが目の前にある。

 

(生身を斬った感触がしないし、魔王もダメージは入ってないんだろうなぁ。でも弱点もなんとなく予想がつく。再生にエネルギーを使うだろうし、永遠と再生するわけじゃないだろう。斬り続ければ鎧としての機能を失う)


 はずと最後に付け加える。

 魔王が自前の魔力や体力で再生していると考えるのは楽観的だろう。再生用のエネルギーを搭載しているはずで、どれくらい溜め込んでいるのか不安だ。


(こっちもずっと動き続けられるわけじゃない。ダメージを覚悟して積極的に攻撃を当てて行かないと時間切れになりそうだ)


 こちらがダメージを受けすぎても駄目だから、ゲームだったらクソゲー判定されるかな。攻撃を受けるってことは紫の炎が鎧に付着するってことでもあるんだよな。永続ダメージが入るのはきつい。

 でもここで尻込みしていては押し切られる。

 バズスアムルの頑丈さを信じて、パンチを左腕で受ける。炎が左腕の装甲で燃え続ける。


「!?」


 これまで避けていたものを受けたことに驚いた雰囲気が発せられる。

 それは大きな隙だ。こっちもお返しさせてもらう。

 

「天地一閃!」

「がっ!?」


 バズスアムルでの初めての技が魔王に炸裂する。

 さすがに技はこれまでと同じように鎧のみのダメージとはならなかった。

 胴体をばっさりと斜めに切り裂いた硬い肉の向こうに、違った感触があった。

 そして魔王がわずかに怯む様子を見せた。


(ダメージが入った! 炎を受けたかいがあったというもんだな)


 戦闘に影響のある怪我だといいけど、そこまでは望みすぎだな。

 この調子でガンガン攻めていきたいけど、向こうもダメージ覚悟で攻めるのは理解しただろうし、奇襲はもう無理だろう。上手く戦っていきたいね。

 左腕の装甲からわずかに熱を感じつつ、剣を振っていく。

 いくどか剣と魔王の攻撃がぶつかる。おかげで剣も一部が燃えている状態だ。


「被害は増えたけどラッキーなこともあったな」


 左腕をちらりと見ると、炎がほとんど消えていた。

 バズスアムルの防御力であれば、魔王の炎にも抵抗できて延々と燃え続けるわけじゃないようだ。

 これなら攻撃を受けてのカウンターがやりやすいと思っていると、その気の緩みというか余裕を感じた雰囲気を察したのか、魔王が腕を振る。

 なんの意味があるのかと思っていたら、剣が勝手に動く。魔王が腕を振った方向にだ。


「うお!?」


 突然のことで剣が飛んでいかないように踏ん張ってしまう。

 それが大きな隙になると思ったときには遅かった。

 魔王が接近してきて、炎をまとった手刀で突きを放ってくる。

 なんとか体を捻り、かわそうとしたけど完全に回避するのは不可能で、バズスアムルの左腕が貫かれた。

 紫の炎は永続ダメージだけじゃなく、炎を介して動かせるといったこともできるんだろう。

 ここまで隠し通したのは様子見かこちらの隙で確実なダメージを与えるためか。


「そんなことを考えている暇なんてないな!」


 魔王はバズスアムルの腕を貫いたまま、もう片方の手に紫の炎を大量に集めている。

 球状になった炎の中心が紫色ではなく黒くなっていた。

 絶対大ダメージの技だ、あれ。

 

「くらったらまずいっ」


 一発限りの魔力砲はここが使い所だ。これだけ近ければ外すことはない!


「ヘッドカノン! 撃て!」


 バズスアムルの額から一メートル近い魔力弾が放たれて、魔王に当たる。

 間近で放ったのでこっちにも影響は出ている。

 魔王はその場で耐えようで踏ん張っているが、すぐに吹っ飛ばされていく。

 土産とでもいうのか、バズスアムルの左肘から下を持っていった。

 吹っ飛ばされた魔王は巨石群にぶつかったらしく、盛大な音が聞こえてきた。

 砂煙の向こうがどうなっているのかわからないから追撃は難しいので、距離をとってバズスアムルの状態を確認していく。


「体全体にヘッドカノンの影響がでてんな」


 全体が焦げた感じだ。今は動きに影響は出ていないけど、このあとも問題なく動けるのかはわからん。

 特にひどいのは当然左腕。肘辺りが今も燃えている。


「さらに壊すけど被害が広がるよりはまし」


 左腕を上げて、右手で持った剣で左肘の上部を斬り落とす。

 それで紫の炎も壊れた部分と一緒に地面に落ちた。


「サブショット」


 左肩の確認のためサブショットを動かすと、問題なく作動した。

 ほかの部分の確認もしていると、砂煙の向こうから紫の炎の塊がいくつも飛んでくる。

 それらを避けていると砂煙も風に流されていき、魔王の姿が見える。

 その魔王の背後にある岩壁には大きなひびが入っていて、盛大に濃い紫の炎が燃えている。放とうとした大技があそこで誤爆したらしい。

 魔王自身にどこか怪我をした様子はない。


「砂煙の中で再生したとかならいいんだけどね」


 まだやれるし頑張るか。

 燃える剣を手に魔王へと突っ込む。

 魔王も魔法を放ちながら、突っ込んでくる。

 魔王の魔法をメインショットで貫いて、剣を振る。魔王はそれを回避して、紫の炎を放ってくる。サブショットで紫の炎を迎撃する。

 互いの攻撃を回避して、たまに互いにダメージを与えて戦闘が続く。

 受けたダメージはこちらの方が大きいと思う。

 紫の炎を介してこっちの動きを阻害してくるせいで、隙ができやすいためだ。


「どうにかしてまた大きなダメージを与えたいもんだけど」


 悪いニュースばかりではないのだ。生体鎧の再生速度が明らかに落ちていた。ちゃんとダメージが蓄積している証拠だろう。

 戦いながらどうにかできないかと考えて、もう使えないヘッドカノンをフェイントに使えないかと思いつく。

 この戦いでバズスアムルが一番のダメージを出せたのはヘッドカノンだ。

 使おうとしたら警戒くらいはしてくれる、はず。

 また炎を介して操り動きを邪魔されてこちらに隙ができたら、そのときにフェイントを試そう。

 そうと決まれば、チャンスを待つ。

 二分ほど経過して、魔王が炎を介して邪魔をしてくる。

 

「チャンスがきたな」


 魔王へと顔を向けて体に力を込めつつヘッドカノンと声に出す。弾丸はないが、ヘッドカノンの発射口が開く音がする。

 それを見た魔王の動きが変わる。発射口の射線上から回避したのだ。

 さすがにあの一撃は魔王も痛い思いをしたらしい。


「隙あり! チャージトラスト!」


 魔王へと勢いよく接近してバズストの技を放つ。

 同時に魔王もすぐに体勢を整えて、紫の炎を集中したパンチを放ってきた。

 どうやら完全にはフェイントにひっかかることはなかったようだ。

 バズストの記憶や戦った経験から、チャージトラストを放つ際の前動作を見抜いたのかもしれない。

 剣先と拳がぶつかる。


「おおおおおっ!」

「オオオオオッ!」


 魔王の拳にさらに紫の炎が集中する。

 それを邪魔するためサブショットを放つ。角度的にメインショットは当たらない。

 至近距離だからかサブショットでも一瞬魔王の力を弱めることに成功した。


「おしきれーっ!」


 さらに力を込めると剣からビシッという音がした。

 剣先がこなごなになっている。

 今ぶつかりあっている衝撃とこれまで剣に蓄積したダメージがここにきて発露した。

 引くかと一瞬だけ脳裏に浮かぶ。だけどすぐにこのまま押すことに決めた。

 剣を使い潰すつもりで、さらに力を込める。剣から聞こえる破砕音はさらに大きくなる。だが同時に魔王のパンチが徐々に下がっていく。

 バズスアムルの両足に力を込めて前に出る。

 そして力のぶつけあいに勝利して魔王の拳を弾き、折れた剣を魔王の胴体へと突き刺し、そのまま岩壁へと叩きつける。


「ガアアアアッ!?」


 魔王は岩壁に縫い付けられるような形になる。

 さらに至近距離からメインショットを叩き込もうとすると、魔王の体全体から紫の炎が放たれて、剣を手放し下がらざるを得なくなる。

 距離をとってから体全体を燃やす魔王へとメインショットを叩き込む。

 炎の中にいる魔王にダメージが入っているのか、よくわからない。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 互いに強化鎧を纏っての大激闘!! わずかにバズスアルムが押している!! このまま押し切れるか!?
[一言] バズスアムルが開発されてなかったらと思うとゾッとしますね かなり過剰な武装かと思いましたがどうにかこうにかギリギリやれてる感じで油断は一切できない相手ですわ
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