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252 魔王戦 1

 人間側の切り札が駄目だったか。

 リューミアイオールからここ最近の砂漠での動きが細かく伝えられて、魔物側が魔術を防いだことも聞いた。

 封印には完全に対策をしているようで、今回の騒動を終わらせるには魔王たちを倒すしかないようだ。


(魔物たちが大きく動いたぞ)


 早朝にリューミアイオールの声が聞こえてきて起きる。


「今がチャンスかな?」

(本当に行くのか?)

「いつまでも魔王に狙われるとか嫌だからね。それに無理だと思ったらさっさと引き上げるつもりではある。命懸けで倒す気はないな」


 バズスアムルを使って勝てないならどうしようもないよ。


「しばらく逃亡の旅をして、その間にグリンガさんたちが新しいバズスアムルを作ってくれることを祈ろう」

(命を懸けないというのが嘘でなければいいが。ジョミスと一緒に旅をするという約束は守れよ)

「破るつもりはない。約束を守れずに死んだら、魂を回収されてどんなことをされるか」


 冗談めかして軽い口調で言う。


(そうだな、死んでしまったら魂をジョミスのように剣にでも込めてやろうか)


 対するリューミアイオールの声音には本気が感じられた。

 

「そうなったら退屈な時間が多そうだから、死なない方向で全力をださないと」

(そうしてくれ。ではのちほどバス森林に送る)


 シーミンやハスファたちに挨拶していこうかなと思ったけど、別れの挨拶みたいだしやめておこう。

 ちょっとしたおでかけ気分で行った方が、気負わずに戦えるかもしれん。

 そんなことを考えつつ武具を着込んで、朝食の準備をしているセッターにパンとスープを朝食として出してもらう。食べながら急ぎの用事で出るとルーヘンたちに伝えて、ルポゼを出て、路地裏からバス森林に飛ばしてもらう。

 ルーヘンにはしばらく帰らなかったら中身を見ろと言って手紙を渡してある。死ぬ気はないんだけど、もしそうなった場合の指示を書いたのだ。

 小走りで村に向かうと閉じられた外壁が見えてきた。

 外壁の見張りにおはようと声をかける。


「デッサ? こんな早くにどうしたんだ」

「巨石群で大きな動きがあったんだ。それでバズスアムルを動かしたい」

「いよいよ魔王と戦うということか」


 そうだと肯定すると感動したような表情になった。


「中に入るよ。外壁を飛び越えるけどいいよね」

「ああ、問題ない」

 

 村に入り、グリンガさんの家を目指す。

 朝早いため人の姿はほとんど見えないけど、各家から炊煙は上がっているので起きている人はそれなりにいるみたいだ。

 グリンガさんたちも起きていて、バズスアムルを使いたいことを伝えるとすぐに準備するということになる。

 一緒に地下研究所に向かい、そこで寝泊まりしていた研究員に声をかけて準備を整える。

 魔王に挑むということで気合いの入った表情の研究員たちがバズスアムルの周囲に集まって最終確認を進めている間に、グリンガさんから俺も説明を受ける。


「ダンジョン物資のやりとりのついでに手紙でやりとりしていてわかっているとは思いますが、改めて伝えておきます。いつ魔王との戦いになるのはわからなかったので、本格的な改造はできませんでしたが、それでもやれる範囲で改良を続けました」

「ええ、聞いています」


 俺としてはパワーアップではなくバージョンアップしているという認識だ。


「外見上でわかる違いは、頭部の魔力砲です。一発のみですが威力の高い魔力砲を放つことができます」


 魔晶の塊を使用した魔力砲だ。肩のメインショットよりも強力なものを搭載したのだ。

 ほかには関節部の強化と鎧全体へ魔力の通りをよくして、装甲に耐魔力の塗装を行っているとグリンガさんは言う。

 もとの色と同じ色の塗装らしく、メタリックブルーから変わっていない。


「レオダークと戦ったときよりも性能は上になっています。劇的にとは言いませんが、より動きやすく力強くなって、稼働時間も伸びていることでしょう。それと剣の方も新たに頑丈なものを作りました」

「バズスアムルは砂漠の砂に足をとられることはないんですよね?」

「ええ、土の地面と同じように踏みしめることができます。あとこれをどうぞ」


 差し出されたのはマナジルクイトだ。


「新しい鍵ですか?」

「いえ、魔力循環五往復分が使える試作品です。五分から十分継続して壊れる代物です。魔王に負けて、バズスアムルが壊れた場合の逃走用に使ってください。魔力循環五往復で強化された肉体なら、壊れたバズスアムルを内部から壊して脱出できるでしょう」


 またリューミアイオールの力を拒絶してくるだろうし、自力で逃走できるようになる力は本当に助かる。


「助かります」


 以前もらったものは右腕につけていて、今もらったものは左腕につける。

 話しているうちに最終確認が終わり、綺麗に磨かれたバズスアムルに入る。

 軽く動いてみても以前との違いはわからない。砂漠で確かめてみよう。

 新しい剣を掴んで、いつでも出発できる。


「ご武運を祈っています」


 グリンガさんに続くように研究員たちも口々に声援を送ってくる。


「いい知らせができるように頑張ってきますよ」


 そう答えてリューミアイオールに心の中で話しかける。


(動きをたしかめたいから、巨石群から離れたところに転移してもらえる?)

(わかった。巨石群の北部に送る。何度も言うが死ぬまで戦うなよ)


 最後に付け加えられたものに、わかったと返すと明け方の砂漠に周囲の景色が変わる。

 東の空は明るく、すぐにでも太陽が姿を見せるだろう。

 その太陽の位置からおおよその方角を割り出して、南へと移動を始める。

 

「移動は問題ないな。確認したように砂に足を取られることがない」


 力強く踏み込んで高くジャンプすると砂漠のはるか向こうまで見える。

 同時に太陽もわずかに顔を出し、東を照らし始める。西はまだ暗めで、砂漠の明暗のある風景は見応えがあった。

 そんな風景の中、南方に小さく切り立った岩山のようなものが見えた。

 

「おそらくあれが巨石群」


 地面に着地して、走りながら剣の使用感を確かめる。

 生身で使う剣とはバランスなどが異なるけど、扱いづらいというわけでもない。

 何度も振ってズレを修正しているうちに、巨石群に近づいていく。


「いるな」


 巨石群が視認できて、とある気配が感じられた。それは巨石群に近づくほどに強くなっていった。

 バズストの記憶が主張する。それは魔王のものだと。

 こういった気配を魔王も俺に対して感じていたんだろう。

 そしてその気配が動いた。巨石群の頂上から俺はここにいるぞとでも言うかのように強い視線を感じる。さらに巨石群の麓にいくつもの気配がある。それらが俺へと接近してきている。砂煙の中に魔物などの姿があった。


「魔物をぶつけて高見の見物のつもりか? それでどうにかなると思ったらバズスアムルを舐めているぞ!」


 力強く地面を蹴って、魔物と従魔とモンスターの群れに突っ込む。

 そんな俺へといくつもの魔法が飛んでくる。

 炎が氷が風が岩が雷が、それらがぶつかり装甲に弾かれる。魔王の攻撃を想定した装甲に、いまさら魔物の攻撃などかすり傷にもならなかった。

 押し寄せる魔法を突破して、目の前にいる魔物を斬り捨てる。

 真っ二つになった魔物はその身を消して、魔晶の塊へと変わった。

 それを気にせず、次の獲物へと剣を振る。無双するゲームのごとく次々と敵を斬り殺していく。レベルは上がらないけど、バズスアムルに慣れていっているので無駄ではない。

 そんな俺に魔王の視線がずっと注がれる。

 いつ動いてもいいように、俺も魔王に警戒を抱いたまま敵を倒し続ける。


 ◇


「申し訳ありません。すぐにでも戦いたいでしょうが、もう少しの辛抱を」


 巨石群の頂上でバズスアムルを見ている魔王に対して、アンクレインが頭を下げる。

 魔王は様子見のため動かないのではなかった。バズストの気配が接近しているのを察して戦いに出ようとしていたところ、アンクレインにもう少しだけ辛抱してくれと頼み込まれていたのだ。


「いつになる?」


 魔王が端的に問う。


「レオダークが戻ってくればすぐにでも。連絡は入れたので、そう時間はかからず戻ってくるはずです」


 アンクレインはレオダークを一蹴したという話を聞いてバズスアムルを甘く見ていない。

 このまま魔王がぶつかれば危ういことになるだろうと判断したのだ。

 そして現在魔物たちを薙ぎ払っている姿を見て、その判断は大きく外れたものではなかったと確信した。


(あのようなものを作っていたとは。無理をしてでもバス森林を潰しておくべきだったか。だがこちらとて魔王様の強化方法は考えてある。だからレオダーク、早く戻ってこい)


 強化のためにはレオダークと自分が必要で、どちらかだけでは意味がないのだ。

 レオダークは人間の拠点に魔物たちを向かわせるため指揮官として同行している。

 もっと少ない量の従魔やモンスターならば少数の魔物でも制御できるが、動かした量の従魔たちはレオダークでなければ素直に人間の拠点へと向かわず、いくらか拠点をそれていってしまうのだ。

 動かした大群はすでに拠点に到着している頃合いで、あとはもうレオダークがおらずとも魔物たちは暴れ続けるだろう。

 だからレオダークが戻ってくることは可能だ。


(問題としては下に用意した群れでは数がたりないということ。そろそろ全滅してこっちにくる。早く戻ってこないとまた己のいない場所で主に危機が迫るわよ)


 あの屈辱と後悔をまた味わうつもりかと、アンクレインはレオダークに心の中で投げかける。


 バズスアムルの戦闘を見ているのは魔王たちだけではなかった。

 巨石群に侵入して手分けして探すことにしたファードも見ていたのだ。

 ここに来るまでに戦闘が何度もあり、今は岩と岩の間に隠れて周囲を観察しつつ疲労回復をしているところだった。


「なんだあれは」


 一緒にいる斧使いの冒険者が呆気にとられたようにバズスアムルを見ている。

 自分たちが苦労する相手を一撃でもって斬り殺していく大鎧が現実のものとは思えなかった。


「どこかの国があれを開発したという話を聞いたことはあるか?」


 誰かの問いに、皆は首を横に振った。

 あのようなものがあれば魔王討伐の主力として大きく宣伝し、世界に自国の力を見せつけるだろう。

 あの鎧があれば世界一の軍事国家として覇を唱えることも可能ではと思わせるものがある。


「ファード殿、熱心に見ているがなにか気になることでもあるかね?」


 一時も目を離さずにじっと見ているファードに仲間が聞く。


「いやなにか正体を掴めるヒントでもないかと思っていたが」

「目立つものだが、どこのものといったヒントはないからな。普通のサイズなら作成者の癖や様式なども確認できようが、あそこまで大きなものだと見たことがないから癖など探しようがない」


 そうだなと返しつつファードは内心を隠し通す。


(たしかに見た目は初めて見るものだが、動きが見慣れたデッサのものだ)


 何度も指導して戦ったファードにはわかるのだ。ロッデスがここにいれば同じことを考えただろう。

 なぜあのような大きな鎧をまとって戦っているのか、その理由はさっぱりだ。国が秘密裏に開発したものを託されたなどと推測している。

 もしここにニルドーフがいれば、秘の一族が魔王討伐のために用意したものかと考えただろう。

 

「まあ、あれがなんであれわしらには関係ない。むしろ注目を集めてくれているから魔法陣を探しやすい。今のうちに探そう。魔物の数が減った今なら少しは目立った行動をしてもみつからないはずだ」


 ファードの提案に頷きが返ってくる。

 見つからないように静かにその場を離れることにする。

 一度だけファードは振り返る。


(なにが目的かはわからんが助かった。こちらも死ぬ気はないからそっちも死ぬなよ)


 デッサから目を離して仲間についていこうとしたファードの頭上を影が高速で移動していった。

 なんだと見上げてみても、すでに影の主はおらず晴天が見えるのみだった。


 魔王たちの眼下では魔物たちがほぼ全滅していた。

 それを見てアンクレインは間に合わなかったかと、どうにか時間を稼ぐため自分が前に出ようと腰を浮かしかける。

 そこにレオダークが到着した。片膝をついて魔王に頭を下げる。


「お待たせしました。レオダーク、御前に到着いたしました」

「挨拶はいい。すぐにでも動くぞ」

「了解いたしました」


 立ち上がったレオダークはアンクレインを見て頷く。

 アンクレインはレオダークに近づいて、その腹に手を突き刺した。

 仲間割れではない。その行動をレオダークは当然のものとして受け入れた。

 アンクレインはレオダークの体内にある、脈動するものを掴む。


「いくわよ」「ああ」


 声をかけてアンクレインは今日この日のために作り上げた魔術を使用する。

 魔術が発動するとまずはレオダークの体が形を失い、ピンク色な肉の円柱のようになる。アンクレインは腕を突っ込んだままだ。そして次にアンクレインがその肉の柱に歩を進める。

 同化するようにアンクレインは肉の柱に吸い込まれていく。

 アンクレインが完全に吸い込まれると、肉の柱は再び形を変えていく。

 すぐに肉の柱は、肉でできたデッサン人形へと変わる。


『どうぞ、我が主』


 アンクレインとレオダークの声が、魔王を誘う。

 魔王が肉のデッサン人形の前に立つと、魔王を包むように肉が動く。

 数秒で肉が魔王を完全に包み、部分部分で鋭角的な形を作っていく。

 すべての変化が終わると、そこには赤い全身鎧が仁王立ちしていた。

 アンクレインとレオダークがなにをなしたのか? 今度こそそばで魔王を守り、力となるため、魔物としての自分を捨て、人間を材料として利用し、生きた道具として己を改造したのだ。

 アンクレインとレオダークの外見は素材でしかなく、意識が宿ったコアが中にあったのだった。

 ジョミスと近い状態で、道具として存在するのでちゃんとメンテナンスさえしていれば寿命など関係なかった。

 この鎧はファルマジスがいればさらに強固なものとなるはずだったが、結局魔王が復活しても姿を見せることはなかったので、死んだとものと判断しアンクレインとレオダークのみを素材とした生体鎧になった。


『お待たせしました。ご自由に暴れてください。我らどこまでも主に付き従う所存でございます』

「お前たちの忠義たしかに受け取った」


 魔王はやっと戦えると全身に力を入れる。すると鎧の隙間から紫の炎が噴出した。

 それを気にせず頂上からバズスアムルを睨み、一歩踏み出して地上へと勢いよく飛んでいく。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔王も決戦装備を用意していたとはなあ ファルマジスと偶然遭遇、討伐していたのがここに来て大きく勝敗を左右しそうですねえ!
[一言] ついに最終決戦!! なんと魔物側も強化鎧を用意していたとは! このリハクの目を持ってしても(節穴 激戦必至!!!
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