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247 砂漠 2

 戦う気を見せた俺に、カミキリムシの魔物が前足を俺へと向けて笑う。


「逃げずにやる気だぜ!」

「こんな場所で逃げても無駄だとわかっているんだろうさ。せめてもの抵抗だろうよ」

「その気概に免じてさっさと殺してやるか」


 それなりの速度で俺へと向かって降下してくる。大きな顎で嚙みちぎろうというのだろう。

 油断してくれているようで、こちらとしては助かる。空にいると攻撃が届かなくて困るのだ。

 一直線に飛んできたところをひらりと避けて、その背の羽を斬り落とす。


「なんだと!?」


 カミキリムシの魔物は態勢を大きくくずして、地面に落ちて盛大に砂煙を上げて転がっていった。

 その砂煙へと俺は突っ込んでいき、姿を隠しながらカミキリムシの魔物へと追撃を試みる。

 

「くそっ。飛びにくくなったじゃねえか! これは足音か!?」


 文句が聞こえてくる方向へと進むと、俺の接近に気付いたらしい。


「調子に乗るな!」


 砂煙の向こうにうっすらと見えるカミキリムシの魔物が突進してくる。

 それをジャンプして回避し、着地してすぐにカミキリムシの魔物を追う。

 カミキリムシの魔物は攻撃が空振ったとわかると、ブレーキをかけながら急旋回して俺へと頭部を向ける。

 再び突進してくる前に、俺が先に攻撃をしかける。狙いはメイン武器であろう顎だ。

 

「があっ!?」


 短い悲鳴のあとに軽い落下音が聞こえてくる。

 左の顎が砂に落ちた音だ。

 相手が衝撃を受けている間に頭部も斬ってしまおうと思っていると、羽音が上部から聞こえてくる。

 背後に跳ねて下がるとカマキリの魔物が鎌を振り下ろしてきた。


(さっさと一体を倒しておきたかったんだけど)


 カマキリの魔物は攻撃が空振ったとわかると、さらに追撃のためこちらへと飛んでくる。

 片方の鎌を剣で払いのけると、もう片方の鎌が迫ってくる。それも払いのけ、その場に留まってカミキリムシの魔物の警戒をしつつ攻撃を対処していく。

 

(ぶつかった感じ、鎌はそこまで頑丈じゃないな。斬れるかも)


 狙ってみようと攻撃を防ぎながら機会を待つ。

 機会かどうかはわからないけど、変化は起きた。

 カミキリムシの魔物が突進してきたのだ。


「よくも俺の顎を!」


 頭に血が上っているみたいで、仲間のことも目に入っていないみたいだ。

 残った顎で貫こうとでもしようとしたのか、勢いよく突進してくる。

 

「ちっ俺もいるだろうが!」

 

 そう言ってカマキリの魔物は下がり、俺も下がる。その俺の方へと進路を変えてくる。

 よほど顎を斬ったのが頭にきたらしく、俺しか見えてないようだ。

 ちらりとカマキリの魔物を見ると、仲間が落ち着くのを待とうとしているのか動く様子はない。

 あれが動く前にカミキリムシの魔物を倒してしまおう。

 突進してくるあれを迎え撃つためその場に足をとめて、深呼吸して体に力を込める。


「死にさらせ!」

「そっちがな!」


 天地一閃を使い、剣と顎がぶつかる。

 剣で顎を斬り、そのまま頭部も斬る。


「お、俺が人間に」


 信じられないという様子でカミキリムシの魔物は消えていく。

 倒したと小さく安堵の息を吐いたタイミングで、カマキリの魔物が襲いかかってくる。

 

「避けたか」

「さすがにもう一体いるとわかっているのに気を抜くことはしないさ」

「アンクレイン様が殺害を命じるだけはあるか。命令を遂行するため、ここで死ね」


 なんで殺そうとしてくるのかねー。

 アンクレインとは接点はないんだけど……魔王が命じてそれをアンクレインが伝えたことで、アンクレインの命令と思っているんだろうか。

 そんなことを考えつつ先ほどと同じように剣で鎌を払いのけていく。

 あまり時間をかけると強化が解けるから、そろそろ撃退するか倒してしまいたいところだ。

 願いが天に通じたというわけでもないだろうけど、鎌からビシッと音が聞こえてきた。ひびが入ったらしい。

 カマキリの魔物の意識が鎌に向けられる。


(今がチャンス)


 息を吸い込み、地面を踏み込み、足から腰へ肩へ腕へと力を伝えて剣を振る。

 結果、ひびの入った方の鎌を斬り飛ばすことに成功する。

 

「ぐっ」


 うめき声を上げたカマキリの魔物に、今度はこちらが攻勢をしかける。そう思っていたら、カマキリの魔物が即座に空を飛んで去っていく。


「判断早いなー。向こうにアンクレインの本拠地があるってことでいいんだろうか」


 魔晶の塊を回収しながら、魔物が去っていた方角を見る。

 太陽が沈む方角から考えて、どの方角に去ったかしっかりと覚えておく。

 これといった目立つものはないけど、もっと先に進めばなにか見えるかもしれん。

 

「これから暗くなるし、朝になってから向かおうか」


 三つの岩が集まっているところに戻り、風よけができそうな岩のそばに座り、食事の準備を始める。

 水溶きの小麦粉を薄く焼いて、次にスープを作り、ささっと食事を終わらせた。

 食器や鍋は砂で汚れを落としていたのをテレビで見たことがあり、その真似をして少しの水で砂も落とす。

 食事と片付けが終わって、火も消してその場に寝転がる。

 日は落ちて周囲は暗く、星が空に瞬いている。

 やることないからそのまま寝てしまおうと、寝転がったまま警戒用の魔法道具などを設置して寝る。

 モンスターや魔物に襲われることなく、朝を迎えた。魔物と戦ったことでモンスターたちの警戒がかなり上がって近づくことすら嫌だったんだろう。

 朝食をすませてカマキリの魔物が逃げた方角へと進む。

 その後一日経過し、再度魔物が襲ってきた。今度は三体で、手数に苦戦はしたものの連携の隙をついて倒すことができた。連携に慣れていないことに加えて、実力はそこまで高くはなかった。カミキリムシの魔物たちにも言えたことだけど、魔物の中でも下の方だった。さすがにシャンガラで戦った封印されていた魔物よりは上だけど、遊黄竜の背にいた魔物やカルシーンよりは確実に下だった。

 その魔物がやってきた方角は、カマキリの魔物が逃げた方角と一致したから、おそらくは向かっている方角に巨石群があると思われる。

 それらを撃退し一度バス森林に帰ることにした。

 

 ◇


「去ったか。アンクレインに伝えろ、バズストは砂漠から去ったと」


 魔王はそばに侍る魔物に命じる。

 それに魔物は「御意」と返して、玉座の間を出ていく。

 そう時間をかけずにアンクレインが姿を見せた。


「我が主、バズストが去ったということですが」

「ああ、少し前に砂漠から遠くへと気配が移った」

「そうですか……なぜ去ったのでしょうか」

「さてな」


 しばし考えをまとめたアンクレインは再度口を開く。


「我が主はバズストの気配を捉えることができる。では向こうも同じことができるのでしょうか」

「わからん、だができないとは言いきれんな。ただしできたとして精度は高くはない。砂漠に出現したときの動きはこちらではなく別の方向へ向かっていた。砂漠のどこかにいるという漠然とした感覚なのだろう」

「ということは探したが空振りに終わり、疲労もあって去った可能性がありますか。そうだとするなら確実にまた来るでしょうね」

「向こうの狙いはこちら。確実に来るだろう」


 どうにか罠をはれないかと考えるアンクレインに、魔王が問いかける。


「部下を使って観察したのだろう? どう見た」

「以前と同じように人間の限界などとうに超えています。しかし以前よりは弱くなっているようにも思えます」


 魔物を倒していく強さは以前と同じだが、戦いの上手さは以前ほどではないように思えた。

 仲間がおらず一人だけということもあるだろうが、以前よりも戦闘に時間がかかっている。以前は差し向けている魔物くらいならばあっさりと倒した覚えがある。

 

「バズストになんらかの不都合が生じているかもしれません」


 魔王がバズストに執着するあまり、魂の残滓が影響し偶然バズストの姿を模して暴れた。その結果、人間から迫害を受けたのなら好都合と考える。

 そんな上手い話はないだろうと、それを前提にして動くことはない。その油断が敗北につながるかもしれないのだから。


「また来るでしょうか」

「来るだろう」


 自身の命を狙っているから必ず来ると魔王は考えている。デッサをバズストと考えているからこその考えだ。

 その考えが正しいと、魔王たちはデッサの行動で確信を抱く。デッサがそう時間をかけずに再び砂漠にやってきたのだ。

 その連絡を受けたアンクレインは魔王に尋ねる。自身の手でバズストを排除したいのか、それともほかの者が排除に動いてもいいのか。

 魔王は答える。自分の手でやれるのならやるが、ほかの者に負けるようならそこまでだと。

 その返答を聞いてアンクレインは、次はもっと多く魔物を差し向けることに決めた。


 ◇


 バス森林に戻り、グリンガさんのところに向かう。


「おかえりなさい。どうでした」

「魔王は復活していますね。魔物がそうはっきりと言っていました」

「やはり、すでに復活していましたか。なぜ魔王自身が動きを見せないのかわかりましたか?」

「わかりませんでしたね。ただ俺が砂漠に行くとアンクレインが魔物を差し向けてきたから、俺の動きに気付いてはいるようです」

「そうですか」


 本当に魔王はなにを考えているんだろうとグリンガさんは首を傾げた。


「ここで半日くらい休んだら、また行きたいと思います」

「また?」

「ええ、いくつか理由がありまして。魔物を倒すことで強くなれて、相手の戦力を少しは減らせる。魔晶の塊も入手できる。魔王軍を刺激してもう少し動きを観察したいですし。というわけで今回は魔晶の塊は四つ手に入れてきたので、三つ渡します。弾丸に加工するなり、なにかの材料にするなりしてください」


 お金が必要になったときのため一つは俺が持っておく。


「いいんですか?」

「どうぞどうぞ。俺が死蔵するより魔王や魔物の討伐に役立つと思うので」

「では遠慮なく」

「ちなみに弾丸以外に使い道は考えているんですか」

「提案が出ていたのはマナジルクイトの改良ですね。それが改良できれば、魔動鎧の強化に繋がるので。といっても量産は不可能でしょうし、特別製を完成させて、それを参考に現状のマナジルクイトに流用できそうな技術を模索していくという形になりますか」

「特別製だと強化率はどれくらいになるんでしょ」

「まだまだ基礎もできていないので詳しいことはいえませんが、今の二倍とかにはならないでしょうね。二倍とかはブレイクスルーが必要になると思います。ブレイクスルーが可能だとしても、マナジルクイトの出力に耐えうる鎧の設計などもあります。今できることは改修して性能を少しずつ上げることくらいです」

 

 魔王との戦いまでには開発できそうにないね。


「マナジルクイトの話題が出てふと思ったんですけど、理論的には最高品質のマナジルクイトで魔力循環五往復分の強化ができると以前言ってましたよね」

「言いましたね。使い捨てにするとも言った覚えがあります」

「魔晶の塊を使って使い捨て用のマナジルクイトを作れません?」

「できますね」

「ではそれをバズスアムルに組み込んで、一度のみ最大強化できるといった奥の手として準備できませんかね」


 グリンガさんは考え込む。難しいといった顔だ。


「時間をかければ可能でしょう。ですが短時間でやれと言われると難しいかと」


 バズスアムルの改造に必要な時間を確保できるかわからないということだった。

 砂漠放浪時に魔王と衝突してしまうと、改造しているときにバズスアムルが使えないといったことになりかねない。


「そうですか。では使い捨て用のマナジルクイトだけでもお願いしていいでしょうか。万が一の際に使って危機を逃れるための保険にしたい」

「わかりました」


 ほかにも広範囲に影響を与える魔法の開発など話を聞いて、部屋に荷物をおかせてもらって家を出る。

 俺が使っているマナジルクイトの整備をグリンガさんに勧められたのだ。

 地下研究所に行き、マナジルクイトを預ける。明日までに整備を終わらせてくれるということだった。

 研究所から出て散歩しているとゼーフェを見かけた。友達と一緒みたいで楽しそうに笑っている。

 邪魔しちゃ悪いから声をかけずに離れようとすると、俺に気付いたようで顔を向けてきた。

 軽く手を振って挨拶してからその場を離れる。

 本でも読みに行こうかと資料庫へと足を向ける。その途中で、今度はフリクトさんを見かけた。男の人と幸せそうに腕を組んでいた。恋人かなと思ったけど、顔立ちに似ているところがあって、兄か弟かもしれない。

 思わずじっと見ていると、その視線に気づいたようでフリクトさんたちが近づいてくる。


「こんにちは」

「はい、こんにちは」

 

 少し話して、恋人であり従兄なのだとわかる。

 レオダークたちが攻めてきたとき、レオダークにやられたテーストブルズを使っていた人でもあったようで、大怪我して大変だったそうだ。


「レオダークにテーストブルズを壊すだけの強さがあったんですね」


 バズスアムルだと雑魚扱いだったから意外だ。

 そんな考えを見抜いたフリクトさんが説明してくれる。


「バズスアムルとテーストブルズの性能差自体かなりあるし、それに加えてこの人が使っていたテーストブルズは古いものだったから。それでも普通の鎧よりは頑丈だから、運の悪さもあったと思うわ。たまたま脆い部分に攻撃が当たったとかね」

「運が悪いのはどうしようもない。後遺症とか大丈夫ですか? いやここの薬があるならなんとかなりますね」


 以前大怪我したときもらった薬があれば、生きてさえいればなんとかなるだろう。


「そうだね。薬のおかげでこうして歩けるようになったよ。君はもっと大変な相手と戦うことになるかもしれないんだろう? 俺のように大怪我しないようにね」

「俺も怪我したくないですね。もう何度もハイポーションが必要な怪我はしてますし。今度は無事で終わりたいものです」


 散歩を続けるという二人と別れて、資料庫に向かう。

 本を読み終わり、グリンガさんたちの家でしっかりと休んで、砂漠へと転移してもらう。同じところではなく別のところに転移してもらった。

 またさすらうように歩いて魔物を釣りだす。

 二日歩いて、やってきた魔物と戦い、バス森林に戻る。今回は確実に俺を殺す気だったのか、六体の魔物が送り込まれた。それだけいれば余裕で倒せるだろうと油断があったおかげと一度に六体は戦いづらいということで二体ずつ襲いかかってきたおかげでなんとか勝つことができた。

 この戦闘で鎧はぼろぼろになったけど、もらった高性能なつなぎのおかげでダメージを抑えることができて、この戦闘を乗り切ることができた。

 これだけ魔物と戦えばがっつり経験値も入ってきて、感覚的にレベル24手前に到達した。上限を超えたからか、魔物一体を倒せばすぐにレベルアップというわけにもいかなくなった。

 上限である25までは魔物を十体以上倒せばいいかな?

 地力が上がれば、バズスアムルの性能も上がるから、可能なら合計十体まで釣ることができるといいななんて考えながら、再度砂漠に転移してもらう。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] さすがのアンクレインも魔物をレベル上げと素材狩りに使われているとは予想できないんだろうなぁ(苦笑
[一言] 大ダンジョンの代わりをしてくれるなんて親切な奴らだな?
[一言] そこまで強くもない魔物を差し向けてくれるとデッサ自身の強化と敵の戦力減になって都合がいいですねー アンクレインもデッサに注意を割く必要が出てきますし結構邪魔になってそうだなあ
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