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240 はじまり 後

 町長の家も兼ねた役所に到着し、町長のいる部屋まで案内される。


「町長、王都からの兵たちを案内してきました!」


 町の兵が執務室を扉を開けて、暗い表情の町長に声をかける。

 三十代の女の町長は、一瞬だけぽかんとした表情を浮かべて、すぐに表情を引き締める。


「中へ入ってもらってちょうだい」

「はい」


 斥候たちは執務室に入り、町長に一礼する。


「お初にお目にかかります。王都から派遣されてきた中隊の斥候として動いています。こちら隊長からの手紙です」


 差し出された手紙を受け取り、町長はすぐに中身を確認する。

 内容は王都から派遣されてきたこと、派遣されてきた戦力数、モンスターが町を囲んでからの情報を知りたいということ、内外で協力してモンスターを倒したいということが書かれていた。

 頷いてから手紙を机に置いて、斥候たちにソファを勧める。


「手紙にはモンスターたちが町を囲んでからの情報と、内外で協力してモンスターを倒したいということが書かれていた。まずはモンスターが出現してからの話をしようと思う」


 斥候たちが頷いたのを見て町長は続ける。

 

「この町の周辺にはモンスターはほとんどいなかった。草原に小さく弱いモンスターが隠れている程度で、モンスターの被害はそれらが畑を荒らすくらいでした。あのモンスターが出現したのは十日ほど前。見張りの証言では、南西の方角から来たらしい」

「そちらにはモンスターのいる山とか森とかあったのですか?」

「ええ、森がある。ですが今町を囲んでいるくらいの量はいなかったはず」

「そうですか、続けてください」

「はい。町を囲んだモンスターたちは最初こそ攻めてきていたのですが、三日もすれば散発的な攻撃のみという行動に変わった。おかげで今もこうして町に大きな被害なく耐えることができている」


 これが現状だと町長は締めくくる。


「囲むだけだったということですかね?」

「結果的にはそうなります」

「よそに行く様子は見せました?」

「いえ現れてからずっと町を囲んだままで、倒す以外に数が減ることはありません。モンスターが求めるようななにかがここにあるとか聞いたことありませんし、どうしてそのような行動をとっているのか謎」

「モンスターを留めている魔物がいるかもしれませんね。兵たちはそういった一際目立つ存在を見ませんでしたか?」

「どうでしょう。魔物に関して報告は入っていませんが、見た者はいるかもしれない」


 町長は町の兵に顔を向けて、心当たりはあるか尋ねる。


「特別目立ったものはいなかったように思われます」

「魔物に無関係であんな動きをしているとは考えられないんですが」


 彼らにはわからないが、ここのモンスターの群れはアンクレインたちの命令に従った従魔が統率している。

 その従魔の話がまだ騎士団幹部までしか伝わっていないため、町長たちにはモンスターたちの動きが謎だったのだ。

 

「とりあえず理由はあとにして、倒すことのみに集中しよう」


 町長がそう言うと、皆頷いた。

 戦いを始めるタイミングを話し合って、斥候たちは隊長のところに戻ることにする。

 帰りは斥候たちが出るところから少し離れた外壁の上から、この町の兵が弓でモンスターたちの気を引いて誘導した。そのおかげで斥候たちはモンスターに絡まれず、無事戻ることができた。

 斥候たちが町で話し合っている間に、中隊は陣地設営をしていて、テントがいくつも並んでいる。

 斥候たちは同僚に隊長の居場所を聞いて、そちらに向かう。

 

「隊長、帰りました」

「ご苦労だった」


 話し合ってきたことを聞いた隊長は斥候たちに休むように指示を出す。

 斥候たちが離れていき、隊長は部下に動くタイミングを通知するように指示を出した。

 一日で準備と休憩を終えて、中隊の兵たちと町の戦力が同じタイミングで動く。

 外と内からはさみうちでモンスターをすりつぶしていき、人間の勝利で終わった。

 町長の勝利宣言に町の住民たちは歓声を上げて、戦った者たちを称える。

 怪我人の治療や死者の弔いや壊れた家屋や外壁の修理と並行して、魔晶の欠片の回収も行われて従魔が残した魔晶の六角柱が発見された。

 それを見て隊長は従魔の話を思い出した。

 今回の戦いでモンスターの中に強いものがいたか、治療を受けている兵たちに聞いて回るため病院として利用されている宿に向かう。

 ベッドで寝ていた騎士や兵が隊長を見て、体を起こそうとする。それを隊長は止めて従魔について聞く。


「強いモンスターですか? たしかにいました。魔力循環を用いても苦戦したやつが一体。二足歩行するでっぷりとした蛙みたいな見た目でした」


 そう答えるのは以前デッサと魔力循環を用いて模擬戦をした騎士だ。あれからも鍛錬に励みなんとか二往復が可能になっていた。

 二往復の魔力循環とほかの兵たちの協力を得て、ギリギリの勝利を得たのだ。


「二往復を使えてギリギリだったのか」

「はい。正直あの場にいたモンスターたちと比べものにならないくらいの強さでした。あれが魔物と言われても信じられます」

「従魔という存在がいるらしい。魔物とは違うが、モンスターよりも強い存在だそうだ。それだったのだろう」

「従魔という名称は初めて聞きました」

「大陸南部で一度のみ出現したそうだからな。まだまだ知られていない存在だ。そのときは魔物に率いられて何体も現れたと聞く」


 騎士たちは顔を顰めた。ここに従魔が何体もいた場合を考えて、その結果も連想したのだ。


「一体だけであれだけ苦戦したというのに。現れたというそこは壊滅したのでしょうね」

「どうなったかはわからんが、ろくなことにはなっていないだろう。疲れているところをすまなかった、ゆっくりと休んでくれ」


 聞きたいことを聞けて隊長は労わりの声をかけて宿を出る。

 王都へと報告に戻る騎兵に魔晶の六角柱を持たせて、従魔がいたことを王都に知らせるように頼む。


 北部と南部の討伐終了報告を受けたビラダムの手元には二つの魔晶の六角柱がある。

 執務室にはニルドーフもいる。


「これがデッサから聞いたという魔晶の六角柱なのだろう」

「これがあるということは従魔がいたということですか。南よりも北の方が被害が大きかったと聞いていますが」

「南は魔力循環が二往復使える騎士がいたようだ。以前ミストーレで学んだものらしい」


 名前を聞いてニルドーフはあの騎士かと思い出す。


「魔力循環一往復と魔力充填のみだと厳しい戦いを強いられたようだが、それすらない場合は住民を逃がす方向で動いたのだろうな」

「ない場合は考えたくありませんね」


 騎士と兵の被害が現状以上のものだったのだろうと考えて、そうならずにすんでよかったと安堵する。

 魔力循環発祥の国で、それが広がっていて使い手の多いここセルフッド国ですら被害をだしている。

 魔力循環が広まるのが遅かった他国では、二人が想像するような被害が出たところもあった。


「従魔という強いモンスターがいることをちゃんと知らせておいた方がいいですね。ほかにハイポーションの生産量増加を教会に打診しておきたい」

「生産増加はすでに始めているようだ。神託があったときから、準備を始めていたみたいだな」

「助かる話です」

「だが従魔被害が大きくなれば、欲するところは増えていく。大量に手に入ることはないだろう。教会が値を吊り上げるようなことはないだろうが、手に入れた商人や冒険者が高値で転売する可能性はある。ハイポーションと偽って売る者も出てくるかもしれない。そういった者は厳しく罰することにする」

「それがいいでしょう。少し高いくらいは見逃してもいいかもしれませんが二倍三倍と高値をつけるような者は痛い目に合ってもらわないといつまでもあこぎな商売を続けそうです。そのせいで助かる命が減るなんてことなれば、目を当てられません」


 教会も個数制限といった対応をするかもしれないが、人を雇って大量に買う者も出てくるだろう。

 教会では対応できないところを国で補佐しようと決めて、各地に配る草案を作るようにビラダムは文官に命じる。


「従魔はあの二体だけであればよいのだが」

「そう願いたいですが、まだまだ出てくる可能性の方が高いでしょう」

「今回のようにモンスターを引きつれてか。どこに出てくるかわかれば、頂点会といった強者を送り込めるのだが」

「予想はできますが、候補が多いですからね。それにミストーレを空けて、その隙にダンジョンにまた細工されてモンスターが出てきたら被害が大きくなります」

「これまでいろいろな発想をしてきたデッサが正確な出現場所を当てられないだろうか」

「予知といった方向での発想ではないので無理でしょう。もしできたら、魔物と通じていると言われかねませんよ」


 ニルドーフは心の中で、バズストを継いだ者としてそれはないだろうと否定する。


「各地に警告を発するくらいしかできないか。後手に回り続けて、手遅れになりそうな予感がする。モンスターの動きが活発化したことで国内の不安は高まるだろうしな」


 その予感は当たっていたのだろう。後日、再び出現した従魔によって穀物地帯が被害を受けたという連絡が入ってきた。

 食料も狙い撃ちにしてきたことで、物資面でも不安が出てきた。そこ一ヶ所だけに収穫を頼っているわけではないため、今すぐ足りなくなるわけではない。だがほかの穀物地帯を狙ってくる可能性もでてきた。どうしても不安は生じてしまう。


「なんというか苛烈さはありませんが、じわじわと削られていく不気味さがありますね。昔の記録を読むと、一つの国で魔物たちが暴れて、そこからさらに他国へといった感じだったのですが」

「前回そのやり方で失敗したからな。別のやり方を始めたか。このやり方のため魔物たちはどれだけ準備に時間をかけたのだろうな」

「シャルモスを滅ぼしたこと、そういったものも現状のための動きだとしたら、かなり昔から暗躍したのでしょうね。対して我らはバズストの備えよという言葉を次第に忘れ、平和をむさぼっていた」

「英雄は死しても我らのことを考えてくれたのだな。今になってそれを思い知るとは」


 ビラダムは今後対応を話し合うため、宰相や騎士団長といった主だった面々を集める。

 従魔以外にも王都の入口で起きた暴走についても改めて話し合われる。

 騎兵たちの調査で人がほぼいなくなっていた町が二つ発見された。死体があちこちにあり、生き残っていた者も怒りを抱いていた。

 その生き残りを確保して、医者や魔法使いが調べてみたところ薬と魔法の両方が原因だと推測された。

 どんな薬と魔法が使われているのかまでは判明していないので、生き残りの完治は無理だった。どうにか寛解には持っていって事情を聞いたが、原因に繋がる情報は得られなかった。

 その後町全体に効果を及ぼすにはと医者たちが考えて、誰もが当たり前に口にするものに薬が含まれている可能性が高いと推測する。それはなんだと話し合われて水だろうと、井戸水などの調査が行われた。

 結果、町の飲料水の大元に特定の効能を発揮する植物が大量に生えているのが発見された。その植物が水に溶け込ませたものと魔法が反応して感情が暴走することも判明する。

 今は植物を調べて、解毒薬を作れないか急いで調べているところだ。

 従魔と人間の暴走について知らされていた彼らは、実際に従魔による被害が生じたこと、明らかに人の手が入った暴走の原因に今後の情勢が荒れることを嫌でも予感させられた。

 

 人の暴走が大陸各地で起きたように、従魔の騒動もセルフッド国以外のあちこちで起きていた。

 各国は対応に追われて、ひと段落ついたかと思うとまた従魔がモンスターを率いて町を囲むといったことが起きていた。

 相変わらずモンスターは町を囲むことがメインで、滅ぼすということはしなかった。大きな被害は生じないが、モンスターに囲まれていい気分はしない。

 その噂は国中に広まって、次はうちの町ではないかと不安を抱く者が多く、雰囲気がどんどん悪くなっていった。

 雰囲気の悪いまま時間は流れて、初夏までもう少しという頃に、巨石群のあるクッパラオ国が魔物に大々的な侵攻を受ける。

 その情報を入手した各国はただちに救援を送ろうとしたがスムーズにいかなかった。民から反対の声が出て、思うように戦力も物資も集まらなかったのだ。

 国内が不安定な状態で他国へと戦力や物資を出すのはいかがなものかという意見があちこちから出た。

 各国の王や官僚も国内が不安定ということは重々承知していた。しかしクッパラオ国内で被害がすんでいると見捨ててしまえば、各国が協力するタイミングを失ってしまう可能性があると考えた。

 一度見捨てしまえば、また同じことをやると疑うのは当然だろう。クッパラオの次に狙われた国が耐えている間に、自国の戦力を高めるという流れになってしまうと、結局は各個撃破されることになってしまいそうだった。

 協力してことにあたるという姿勢を見せるため、被害をクッパラオ国のみで押しとどめるため、各国の王は戦力を出すことを強行した。

 結果、自ら戦いに志願するのではなく、強制された事実に士気が上がらない者も出てきた。


 従魔の出現、人間の暴走、バズストが魔物側についたという噂、不安的な国内、食料への被害。様々な要因が治安を不安定にさせていく。

 そのため人間たちは魔物へと一致団結ということが、いまいちできないでいた。

 人間を一致団結させないというアンクレインたちの狙いにまんまと乗ってしまったと意識することはなかった。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 『バズストを継いだ者』を前面に押し出して連合軍を組織すれば士気は上げれるだろうけど、それをやるとリューミアイオールに滅ぼされちゃうからね……
[一言] アンクレイン「人類は愚かなモノです……特にお前(画面こちら側にいる読者を指さして)」
[一言] 念入りに準備をして人間みたいに搦手まで使いこなすのは嬉しくないですが魔物サイドの意識の改革を感じちゃいますねえ
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