233 バス森林襲撃 後
さらに時間は進む。時刻は昼を過ぎて、二時くらいか。
戦いの相手は魔物ではなく、なにかばかりだった。戦闘数は五十回ほどで、魔物側の戦力を半減させるくらいは倒したらしい。
いつまでもなにかではわかりづらいので、仮称として魔物に従うなにかという意味で「従魔」と名付けられた。
観察の指示が出されたことで、いくつかの情報が入ってくる。
一つは、魔物とは違って知性が感じられないこと。従魔は喋らず戦うだけだ。
二つ目は戦闘に固執する。ダンジョン内のモンスターのようにピンチでも逃げることがほとんどない。
三つ目は人型がいない。魔物は人型か人に近い造形になることが多い。しかし従魔には人型はいなかった。
これらの情報からグリンガさんたちは従魔を、モンスターの突然変異に近いものと想定する。
魔物たちが戦力を求めて、モンスターに力を与え、指示に従うように細工したのが従魔なのではないかということだった。
相手はこのまま従魔ばかりだろうかと思っていたら、カンカンカンと警報が鳴る。
本部に緊張がはしる。
「これは?」
険しい表情のパーヘッドさんに話しかける。
「テーストブルズが壊されたことを知らせる音です」
「なんらかの事故で警報が鳴った可能性はありますかね」
「ほぼないとみていいかと」
「一応バズスアムルを着て地上に行っておこうと思いますけど、どう思います?」
緊急事態にすぐ動けるようにと提案してみる。
「村長に聞いてみましょう。もしかするといてほしいと考えているかもしれません」
グリンガさんに声をかけて移動を提案してみる。
少しだけ悩んだグリンガさんは頷いた。
パーヘッドさんとバズスアムルの置いてあるところに移動し、バズスアムルの中に入る。
地上への操作をパーヘッドさんが行い、地下から地上に出た。
「デッサ殿、なぜ地上に?」
研究者の一人が不思議そうに声をかけてくる。
緊急事態に備えて外に出たと返すと、納得したように頷いた。
「テーストブルズが壊されたそうですけど、怪我はどうなんでしょう。あとなにがあったのかわかってますか?」
「重傷だそうですが、ちゃんと治療できるくらいの怪我ですんだようです。なにがあったかですが従魔ではなく魔物が出てきました。それも並みの魔物ではなく上澄み。伝承通りならばレオダークでしょう」
「レオダークとはまた大物が。なんでここに来たのかとかペラペラ話してくれたりしてませんか」
「話さなかったようですね」
そっか。話してくれたらありがたかったけど、そこまで迂闊じゃないか。
「ただ従魔に関しては精鋭を連れてきたらしいです。そんなことを言っていたみたいですね」
精鋭ってことは、普通の従魔は魔力循環二往復で倒せそうだな。
それでも十分強いけど、まだなんとかなる範囲だ。
今後従魔は魔王軍としてあちこちに出てくるかもしれないし、魔力循環や魔力充填を習得した人には頑張ってもらおう。
「精鋭をここに投入したということは、ここの抵抗が激しいとレオダークが考えたからですかね」
「おそらくそうですかね。毎回追い返していたわけですから、今回本気で潰すつもりだったのかもしれないですね」
「百以上の魔物に近い戦力を森に放り込んだんだから、軽い気持ちじゃないのはたしかですか」
仕事に戻ると言って研究者は離れていき、俺はしばらく森の方を見ながら動くかもしれないときを待つ。
三十分ほど経過すると、森が騒がしくなる。
そしてメガホンのようなものを持った村人が「多数の従魔接近」と繰り返す。
この場にいたテーストブルズたちが一斉に臨戦態勢に移り、次々と森に入っていく。
「俺の手伝いは必要?」
近くにいた研究者に声をかけると、まだ待機だと返ってくる。
従魔ならテーストブルズで問題ないということで、魔物がこの騒ぎに乗じて襲いかかってきたとき動いてほしいということだった。
それに頷きを返して、木々の向こうに見える戦闘を眺める。
魔物の動きはすぐに感じ取れた。もとより隠すつもりもなかったのだろう。木々が倒れる音がしたと思うと、鍛錬場に姿を見せた。
「レオダークか」
ゲームで見たままのレオダークがそこにいた。着ているものは少し違っているけど、顔つきや体格なんかは一緒だ。
本当になんでまだ生きているんだろうか。
「デッサ殿、行ってくれ」
「わかりました」
こちらへと歩を進めているレオダークに、俺は突撃する。
何度も動かしたので高速移動にも慣れて、レオダークを通り過ぎるようなへまはしなかった。
「ほかのものと違うな。なにか特別なものか」
移動の速さに驚く様子がなく落ち着いたものだ。返答がわりに剣を振る。
警戒していたのか避けようとしたが、俺の振った剣の方が速かった。
胴を斜めに切り裂いて、レオダークを吹っ飛ばす。
対魔王用の代物なので、格下のレオダークを吹っ飛ばせるのは当たり前かもしれないが、それでもあっさりすぎないかと疑問を抱く。
レオダークは木にぶつかって止まり、特に痛みを感じていないように切り裂かれた部分に触れる。
「あの鎧よりもさらに上か。偵察を終えたと判断して帰らずに正解だな。これを知ることができただけでもここに来た価値はあったというものだ。魔王様にも届きうるものを放置などすれば、また人間にしてやられる可能性があった」
(偵察と言ったな、こいつ)
情報が入ってこないここの脅威度を知るために戦力を送り込んだ?
生かして帰すとここの情報が魔王軍に伝わるだろうし、ここで倒しておいた方がいいよな。
俺が攻撃をしかけると同時に、レオダークは毛皮服の下からなにかを取り出し、口に持っていく。
それは笛のようで、すぐに甲高い音が響いて、そのあとの一定のリズムが続く。
俺の振った剣は笛を持っている腕を斬り飛ばす。
痛みなど感じない様子で、俺へと蹴りを放ってくる。その蹴りは攻撃ではなく、遠くへと押しやるもので戦う意思が感じられないものだ。
その蹴りを踏ん張って耐えて、剣を振る。今度は首狙いだ。さすがにそれならば気にするだろうと思ったのだが、避ける仕草を見せず斬り飛ばすことに成功した。
「さすがにあっさりすぎるだろう」
「それも中に誰かいたのだな」
転がった首が喋る。喋りづらそうではあるが苦しんでる様子はない。
「まだ死んでなかったのか。その状態が長生きしている秘密の一端なのか」
魔晶の塊へと変化していない時点で、死んでいないと気付くべきだったな。
この質問には返答はなく、だったらと別のことを問いかける。
「どうしてここを襲った」
偵察以外にも目的があるのだろうか。
「これまで詳細不明だった場所だ。どのような技術を持っているのか、我らに届きうるのか探るのは当然だろう」
「これには答えるんだな」
長生きする秘密は話せないのか、偵察の方はもう口に出したから隠す必要がないのか。
さらになにか聞いてみようとすると、頭上から気配を感じる。
鳥のモンスターもしくは従魔が高速でこちらへと急降下してきていた。
剣を構えると、羽ばたいて落下コースを変える。急な体勢の変化に負担が大きそうだったが、気にしない様子で俺を避けるように動き、地面に倒れているレオダークの胴体を掴んだ。胴体を少し引きずってから空へと飛びあがろうとしている。
「首じゃなくて胴体? ということはあっちが本体か!?」
飛び去ろうとしている鳥の従魔を追う。
今ならジャンプして余裕で届くはず。
「待て!」
助走をつけて飛び跳ねて手を伸ばす。
もう少しで手が届くといったとき、逆に足を誰かに捕まれた。
「誰が!?」
視線を下に向けると従魔が何体も眼下にいて、そのうちの一体がバズスアムルの足を掴んでいた。
そのせいで数センチだけ距離が足らず、レオダークの胴体を掴み損ねた。
「だったら!」
咄嗟に剣を投げつける。これで鳥の従魔を落とせればと思ったけど、回転しながら飛んだ剣はレオダークの胴を傷つけて落下していった。
メインショットも撃ってみたけど、これは完全に外してしまう。
去っていくレオダークを見ながら、足を掴んだ従魔をクッションにして地面に落下する。そして群がってきた従魔を殴り飛ばす。
バズスアムルにとって従魔は雑魚でしかなく、パンチやキックであっさりと倒すことができた。
魔晶の六角柱を残して消えていった従魔と違って、レオダークの頭部と手はその場に残っていた。テーストブルズが警戒するように武器で軽く突いて反応を探ってみているけど、なんの反応もない。
本体から離れたから頭部は無反応なんだろう。
研究者たちは直接触れないように注意しつつ、金属の箱へとレオダークの頭部と手を入れる。
「それはどうするんですか?」
「解析ですね。魔物の体の一部は体から離れて時間が経過すると消えるのですが、これは消えていないということから、異常なことだとわかります。レオダークたちの秘密を解き明かせるかもしれません。それに従魔たちがこれを潰そうとしていました。残すと都合が悪いのかもしれません。そう思わせるための罠かもしれませんけどね」
金属の箱はどこかへと運ばれていく。
金属の箱を見送り、その場で待機していると撤収してくれと連絡が届いた。
その指示に従い、地下に戻る。そこには研究者たちが待っていて、俺がバズスアムルから離れるとすぐに点検を始める。
俺は本部に行けばいいようだ。
「おかえりなさい」
グリンガさんにただいま帰りましたと返す。
「従魔はどうなりました?」
「遭遇した従魔はすべて倒しているようです。レオダーク以外に魔物がいたようですが、それも倒せたみたいですね。デッサ殿はレオダークと戦ったということですが、なにかわかったことや疑問に感じたことはありますか」
「バズスアムルを使っていたからというのもあるけど、予想より弱かった気がしますね。あとは戦う気が感じられなかった」
「戦意がなかったと?」
「確実に殺意は感じられず、攻撃らしい攻撃もされていません。ほかには痛みを感じているのかわからない感じがしましたね。さすがに腕や頭部を斬り落とされて、あの平然とした反応はおかしい。でも胴だけは避けようとしたし、従魔によって回収されたので、レオダークにとって大事なのは胴なんだと思います。昔の記録だとそんな反応をしたと残ってないと思うんですが、この村ではどうなんでしょう」
ゲームだと胴体が弱点という設定はなかった。だから魔王が倒れてから現在にまでにできた弱点かもしれない。
「そういった情報はありませんね。魔王が封じられてから表舞台には出ていませんし、この村は閉じていて外部情報が入りにくかったもので。アンクレインについてなら少しはわかるんですけど」
「どうしてなんでしょ」
「シャルモスという国が滅びたとき、交流のあったここへと少しばかり人が流れてきたんです。アンクレインが暗躍していたといった話を彼らから聞いたという記録が残されています」
「あそこと交流があったんですか」
「シャルモスもバズストの言葉を守って技術などを発展させていましたからね。互いに交流して更なる発展に役立てようとしていました。本格的な交流を始める前にシャルモスが滅びたんですけど。魔物がここを狙っていたのも、シャルモスを滅ぼしたときに情報を得たからかもしれません」
「なるほど。シャルモスというと残党が暴れていますが、ここの技術があそこに流出していたりしませんか」
それはないとグリンガさんは首を振る。
「アンクレインが暴れたと聞いてから、あれの息のかかった者が入り込んで暴れることを警戒して、シャルモスの人たちには見張りをつけたようですね。やってきた人たちは外に連絡する様子はなく、皆ここで骨を埋めたようです。それと技術が流出すれば、なんとなくわかると思います」
「そうなのですか?」
「シャルモスの技術とうちの技術は方向性が違うんですよ。うちの技術は体の外、シャルモスは体の内という感じです。うちの技術が流出して世に起こる変化は、魔法道具の発展でしょう。たまに村人を外にやってますが、いっきに魔法道具が発展したという情報は手に入っていません」
説明されるとなんとなくわかる。
マナジルクイトやテーストブルズは、道具として使い手を補佐するものだ。シャルモスの残党はディフェリアの獣化やフェムの強化を思い出したらわかるように、体に直接作用したり変化している。
それから考えると魔力循環はシャルモス寄りの技術だな。
「お手数ですが、今度は戦闘について詳しくお願いしていいでしょうか。バズスアムルの戦闘記録を残しておきたいので」
頷いて再度レオダークとの戦いとバズスアムルの使用感について話していく。グリンガさんは俺の言葉をしっかりと書類に書き残していく。
話を終えてこのあとの話になる。この騒動に乗じ魔物たちが森に隠れ潜んでいるかもしれない。それがなにかしらトラブルを起こすかもしれず、まだ帰らず滞在してほしいと頼まれ、それに頷く。
またグリンガさんの家に滞在することになり、地上に戻る。
地下シェルターに避難していた村人たちが出てきており、グリンガさんの家にも奥さんが戻っていた。
事情を説明すると以前使っていた部屋に案内される。
襲撃のせいで村は落ち着かない様子だったけど、再び避難するようなことはなく時間が流れていく。
グリンガさんは本部から帰ってこられず、帰ってきたのは翌日の昼だ。休憩は短い仮眠だけですませたようでやや疲れた様子だった。
「昨日はお疲れ様でした」
「いやそれはこっちのセリフです。俺は休ませてもらいましたから、さほど疲れていませんよ。あのあとはどうなったんですか?」
「警戒態勢のまま、森の捜索をやっていました」
レオダークが去ったあともテーストブルズたちは交代で一日中森の中の捜索を続けて、森に残っていた従魔たちを倒していったようだ。
二体だけだが魔物も潜んでいたようで討伐報告が入ってきたらしい。
「今も森の捜索は続けていますが、討伐報告はほとんど入ってこなくなったので、警戒態勢は一段階下げました。そのためこうして家に帰ってくることができました」
「魔物も潜んでいたということは、落ち着いたころを見計らって再度襲撃するつもりだったんですかね」
「そうかもしれませんし、そのまま潜んでこちらの戦力を正確に測るつもりだという意見もありました」
「従魔に関しては一方的に叩き潰していたわけですから、正確な戦力を測るというのもありそうですね」
レオダークの反応から魔動鎧については把握していなかったとわかるし、情報収集のために残した可能性も納得できる話だ。
「警戒はどれくらい続くのでしょうか」
「従魔との戦闘がなくなったら警戒は解かれるでしょう。そのあと念入りに森を調査することになっています。なにか魔法が仕掛けられていたら大変ですからね」
「今のところはなにか発見されていたりします?」
「特に見つかっていませんね。洞窟内部とかまで探していませんから、そこになにかあるかもしれません。その調査と並行して、レオダークが残した頭と腕の調査も行っていきます。現状わかっていることもありますが聞きますか?」
「詳細は必要ないので、簡単に教えてもらっていいでしょうか」
頷いたグリンガさんの発した言葉が予想外で聞き間違いかと思う。
「もう一度言ってもらっていいですか」
「その反応は当然のものでしょう。ですが間違いないようです。あの頭部と腕は人間のものでした。といっても人間そのものではなくなにかしらの改造がされていました」
「聞き間違いじゃなかったんですね」
人間ってどういうことだろう。
ゲームだとレオダークは魔物と紹介されていて、体のパーツが人間なんていう紹介はされていなかった。
人間と魔物の子供というわけでもない。純粋な魔物だったはずだ。
「レオダークの影武者だった? 本物じゃなかったから弱かった?」
「バズスアムルだと弱く感じたかもしれませんが、テーストブルズだと不意を突かれたとはいえ破壊されましたから弱くはなかったはずですよ」
「……あれが本物だとすると、その人間という部分が長生きしている秘密に繋がるんでしょうかね」
「それは今後の解析でわかるかもしれません」
なにかわかるといいんだけどね。弱点も判明するかもしれないし。
「昨日のことで話すのはこれくらいですね。警戒のためデッサ殿には待機してもらったわけですが、今日の夕方まで大きなトラブルがなければ帰還してもらってかまいませんよ」
「わかりました。夕方までバズスアムルのそばにいた方がいいですかね?」
「いえ、村の中であれば自由にしていただいて問題ありません」
「でしたら資料庫に行って本を読んでいましょう。あちこちぶらつくより一ヶ所にいる方がいいでしょうし」
頷いたグリンガさんは一休みしようと立ち上がり、忘れていたとまた椅子に座る。
「バズスアムルですが、近々改修されるかもしれません」
「なにか問題でもでました?」
「部品の消耗以外で問題はでていませんね。デッサ殿からモンスター素材が送られてきたじゃないですか。あれを使いテーストブルズの損耗部品の改良が進んでいまして、なかなか良い結果が出ているようです。その結果をバズスアムルに適用して劇的に強化されるわけではありませんが、耐久性が上がって今よりも長持ちするようになりそうです」
「送ったものが役立っているならよかったです。送る量を増やした方がいいですかね」
「しなくて大丈夫ですよ。送られてくる今の量で充分だと報告が入ってきています」
それじゃこれまでと同じ量を送るとしよう。
グリンガさんは寝室に向かい、俺は資料庫に向かう。
村は平和なまま夕方まで時間が流れ、俺はミストーレへと帰る。
町に入り、祭りの賑わいを見て、トラブルはなかったようだと安心する。
町長の屋敷に入り、使用人にニルが帰ってきているか尋ねる。なにか用事をすませているようでまだらしいと返答があった。
与えられた部屋で武具を外してのんびりとしていると、夕食が運ばれてくる。
そのときに再度ニルについて聞くと、帰ってきたばかりだと教えてもらえた。
夕食をすませて、ニルたちも落ち着いたであろう頃合いを見計らって部屋を訪ねる。
扉を開けたニルは少し驚いた表情を見せた。
「帰ってきていたんだね」
「夕方頃にね」
中に入れてもらい、なにが起きたのか話すことになる。
バス森林に草人以外の種族がいることはニルは知らないだろうし、そこは隠して草人たちと一緒に森で戦かったと話す。マナジルクイトと魔動鎧の存在も隠し、魔力循環で戦ったと誤魔化す。バス森林の草人も魔力循環を開発していたことは伝えておこう。魔力活性のみで魔物や従魔と戦ったというより説得力が増すだろうしね。魔力循環を開発したのも嘘じゃないし。
「魔力循環を彼らも開発していたのか。昔から魔王に備えていたのだな。最近開発されたこちらよりも進んだ技術だろうし、その力があれば魔物を追い払うことも可能と言われれば納得できる。それにしてもレオダークらしき魔物と従魔と呼ばれる魔物が出現か。従魔の性能を自らの目で確認するために動いていた、と」
「おそらくね。レオダークは情報を漏らすことはなかったんで、状況からの推測になる。ついでに昔から隠されていたものを暴くつもりだったのかもしれない」
「なぜ襲撃したのかは気になるけど、今は従魔について詳しく」
「知性はなかったけど、魔物と同じくらいの強さはあった。でも魔物の上位ほどじゃなかったね。あと森に現れたのは精鋭だったようだから、ほかの従魔はもう一段階か二段階弱いかも」
「並みの魔物と同じというだけでも脅威だが、魔力循環や魔力充填があればなんとかなりそうだというのは朗報だ」
「その二つが使えるならなんとかなりそうだけど、使えない冒険者だと危ないね」
「もっと魔力循環とかを広める必要があるか? いやでも慎重にやらないと犯罪者にも伝わって色々と大変なことになる」
もどかしいとニルは髪をかく。
魔物対策に広めたいけど、悪人の悪用を考えると慎重にやらざるを得ない。
人間を守るために必要なことだが、人間が邪魔をしてくるというジレンマ。
「いつまでも秘密にできないから、いっそのこと広める?」
「そうしたいけど、いい加減なことをすると絶対あとで困るし、父上も許してくれないだろう。地道にやっていくしかない」
ニルは小さく溜息を吐いた。
「ここまでの話から推測すると、魔力循環という力を持った者たちの調査がてら、従魔という新たな戦力をぶつけたという感じなのかな」
そんな感じだろうねと頷いておく。
レオダークが言うには調査らしいけど、本当のことを言っている保証もない。
「それ以外にもなにかあったと考えた方がいいと思う」
「推測だからな。ほかにもなにかあってもおかしくない」
ちゃんと疑っているみたいだし、わざわざ言わなくてよかったか。
「俺の話は終わりだよ。ここではなにかあった?」
「特にはなかったね。ミストーレの外でなにか起きたという話も聞かない」
「大会では引き続き警備をやった方がいいかな」
「お願いするよ」
結局祭りでなにか起きることはなく、ミストーレでは平和な時間が過ぎた。
しかし平和なミストーレとは違い、魔物たちはバス森林以外でも動きを見せていた。
感想ありがとうございます