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231 二度目の祭り

 大会開始までいつものようにダンジョンで戦い、素材を集めて倉庫箱に詰める。

 ダンジョンは先には進まず、七十階から八十五階までの素材を集めるため奔走していた。八十五階だけで素材を集めると偏りがひどいだろうと思い、いろいろな素材を集めるため十五階分を行き来していた。

 倉庫箱はたまに消えてまた金庫の上に戻ってくる。

 それを見て、会いにいかずとも手紙も一緒に入れればいいと気づいて、タナトスの人たちがお礼をしたいと言っていると書いて送る。

 その返事には『気にしなくてもいいが、可能ならばタナトスのネクロマンシーの魔術とその使用記録があれば知りたい』と書かれていた。

 その手紙をタナトスに持っていくと、それで恩返しになるのならと言って張り切って資料をまとめ始めていた。

 秘密にしなくていいのか気になって聞いてみると、誰にでも教えるわけではないが、あの魔法を教えてくれた相手が望むなら喜んで教えるということだった。

 劇的に生活が変わったわけではないけれども、最初に与える印象が変わるだけでも人当たりが柔らかくなったのを感じているらしい。

 手紙のやりとりができるということで、バス森林の草人たちからも近況報告がくるようになった。

 送られてくる素材のおかげでテーストブルズを強化できそうだということだった。時間をかければ次世代機の開発もできるそうだ。

 だが魔王との戦いには次世代機は間に合いそうにない。次世代機の情報が集まれば、バズスアムルにそれを応用してより長持ちさせることが可能だったと残念そうに書かれていた。

 せめて現状のテーストブルズの強化でデータを集めて、バズスアムルの強化に応用しようという話になっているそうだ。


 素材集めをしていると祭りが始まった。

 護衛のため祭り前日から町長の屋敷に泊まり、ニルと一緒に会場入りすることになっていた。

 朝が来て武具を着込み、フルフェイスの兜も着用し、ニルとオルドさんと一緒に馬車に乗り込む。

 ディアノさんは先に会場入りしている。予選から頑張っていたらしく、本選に出場できたみたいだった。

 本選出場者には頂点会の面々やロッデスの名前もあった。

 デーレンさんたちの名前はなかった。予選にもなかったそうで、今年は参加していないのだろう。フェム探しを優先したみたいだ。

 

「予選の時点でおかしな人はいたのかな。さすがに魔物はバレるような行動をしないだろうけど、シャルモスの奴らみたいにトラブルを起こしていた人間はいたのか知っている?」


 今回俺は特にトラブルに巻き込まれることはなかったから、噂以上のことは知らないんだ。

 ニルとオルドさんは首を横に振る。


「これといって目立ったトラブルはなかったようだよ。ちょっとした詐欺や置き引き、冒険者同士の諍いくらいだそうだ」

「町の兵たちも前回の件で見回りなんかを強化していたようだ。兵以外にも裏の顔役たちにも怪しい者がいないか探すように協力を頼んだらしい」


 ルガーダさんたちも協力したのか。

 祭りの準備期間にケイスドとは一度会ったけど、そんな話はでなかったな。普通に屋台料理の相談をしただけだ。

 たぶん守秘義務とかで話せなかったんだろう。


「今回は何事もなければいいね」

「心底例年通りで終わることを期待するよ。父上も砂漠の方に集中したいだろうし」

「砂漠というとアンクレインがいるという?」

「そこだ。そこを探るための準備が整って、そろそろ砂嵐に突入した頃じゃないかな。斥候たちが砂嵐を突破して巨石群の様子を探って、本隊が突入って予定だそうだ」


 順調だな。そのままアンクレインを倒してくれるといいんだけど。作戦立案とかアンクレインがやってそうだから、そこが潰れてくれると魔王軍の動きは鈍くなると思う。

 祭りの間に、教会で討伐祈願しとこうか。


「話はかわるけど、ディアノさんはどこまでいけるかな」

「優勝は無理だな。準々決勝までいければ大金星だろうね」

「そうですな。良い意味でまだまだ伸び盛り、悪い意味では鍛錬不足。あとは今の世代全員に言えることですが、ファードとロッデスがいることが不運ですな。確実にそのどちらかが優勝をかっさらっていきます」

「大会でといった大舞台で優勝したいのなら、別の大きな大会に参加しないと駄目かな」


 その方が確実だろうとオルドさんは頷く。

 そんなことを話しているうちに会場に到着し、貴賓客用の通路を通り貴賓席に移動する。

 ニルが到着すると、先に来ていた者たちが挨拶のため集まってくる。

 俺とオルドさんはニルの背後で、護衛として控える。

 挨拶が終わって、ニルが椅子に座る。会場も満席になり、舞台そばに参加する者たちが集まっている。

 そして開始を知らせる銅鑼が鳴り響く。


「始まるぞ」


 ニルが言い、会場に司会の声が響いた。

 ニルの紹介と舞台の参加者たちの紹介が行われて、大会スケジュールが伝えられていく。

 それらが終わると、早速第一試合開始のために参加者の名前が呼びあげられていった。参加者の名前が呼ばれるたびに歓声が上がる。

 去年と同じく最初は四試合同時に行われるようだ。八人が舞台に上がって、それぞれの相手と向かい合う。

 見知った顔は頂点会のメンバーとロッデスの仲間くらいだった。

 司会が開始宣言すると、すぐに戦いが始まる。

 去年の時点では高レベルと感じたかもしれない戦いは、今の俺だと粗を見つけられる戦いばかりだ。出場者のレベルが低いのではなく、それだけ強くなれたということだろう。主にバズストの記憶のおかげだろうけど。

 第一試合が終わって、オルドさんに小声で話しかけられる。


「今のところ、おかしな動きをしている者とか見つけられたか?」

「いえ、特には。あの八人は普通の参加者だと思いますよ」

「そうか。では客席の方に異常な気配はあるかね」

「さすがにこれだけ人が多いと正確なものはわかりませんが、目立っておかしいと思える気配はないですね」


 こんな大勢の中に気配を消して紛れ込まれると、俺の感覚じゃ探しきれないから絶対とは言えないと付け加えておく。

 オルドさんも同じなようで、わからなくても仕方ないなと言って引き続き警戒を頼むと言って口を閉じた。

 試合は順調に進んでいく。魔力循環を使う人も多い。

 今年は戦士タイプの本選出場者が多かった。魔力循環が公開されたから魔法使いタイプが押された形になったんだろう。魔力充填が公開されれば魔法使いも盛り返すと思う。

 今日は何事も起きることなく試合が終わった。

 ファードさんやロッデスはもちろん、ディアノさんも勝ち進んでいた。

 帰りの馬車の中で、怪しいなにかは発見できたか話し合う。

 異常なしという結論が出て、このあとの予定について伝える。


「でかける?」

「うん。ルポゼと教会に行ってくるつもり。宿の方は今日一日異常がなかったかの確認。教会の方は花を捧げてこようと思って。そのあとはフリーマーケットでも覗いて屋敷に戻ろうかって思っているよ。それでいい?」

「いいよ。楽しんでくるといい」


 そういうわけで屋敷に貸し与えられた自室に武具を置いて、剣と財布のみで町に出る。

 最初は教会に行き、去年と同じく花を神像に捧げる。決めてあったとおり、無事に祭りが終わることとアンクレイン討伐を祈願して教会から出る。

 ハスファたちに話を聞けたらよかったけど、忙しいだろうということでやめておいた。

 次にフリーマーケットに行ってみたけど店じまいしていて、歩き回っても意味がなさそうなので予定を変更してルガーダさんに会いに行ってみることにした。

 彼らがなにかしら異常を発見していたらニルに伝えようと思ったのだ。

 ルガーダさんとは問題なく会えて、町から異常探しの手伝いを依頼されたことを知っていると伝えて、なにか見つかったか聞く。

 ルガーダさんは首を横に振った。普通のトラブルしか起きておらず、そのトラブルも厳重な警備のため去年よりも少ないそうだ。

 俺から見た町の様子を聞かれ、普通の祭りの光景と答えると頷きが返ってくる。

 ルガーダさんの経験上、今回は人間が大きなトラブルを起こそうと暗躍していることはなしということだそうだ。

 そんなルガーダさんと違って、魔王復活が迫っているという情報を知っている俺としては、この静けさはなにかが起こる予兆にも思えてしまっている。

 ルガーダさんに別れを告げて、ルポゼに向かう。

 ロゾットさんたちはいつも通りで、忙しい日々にも慣れたということだった。町の噂なんかも聞いてみて、これといった目立った騒ぎはないとわかる。

 祭りは平和に進行している情報を得て、町長の屋敷に戻る。

 ニルに報告しないでいいかなと思ったけど一応やっておこうと思い、部屋を訪ねる。

 浮かない顔のニルが出迎えてくれた。


「どうしたのさ。別れたときはそんな顔をしてなかったろうに」

「父上から嫌な報告を受けてね」


 なにがあったんだろ。親族の訃報とか、いやそれなら帰り支度をしてそうだけど。


「砂漠で調査を進めて、人が集まっているという話をしたよね」

「聞いたね」

「砂嵐の周囲に三つ拠点を作って三方向から調べていたんだけど、その拠点が襲われて壊滅したそうだ」

「壊滅とはまた」

「さらにね、その拠点が壊滅したとき生き残った人がいて、その人によるとバズストが魔物と共に行動していたという証言もある」

「痛っ」

「どうしたんだい」


 話を聞いていたリューミアイオールの「ありえぬ」という強い思考が頭に叩きつけられた。


「リューミアイオールの否定の意志が頭の中に響いたんだ」

「そうか。俺たちも信じたくはない。それにバズストの遺体を利用しているにしても数百年も保存維持できるものなんだろうか」

(そもそも封印時に肉体も失われていて、肉体が存在していること自体がおかしい)

「今の声は死黒竜?」


 ニルが目を丸くしている。


「ニルにも聞こえたんだ」

「そうらしい。肉体が失われたと言っていたよな」

「俺もそう聞こえた。あの当時を生きていたリューミアイオールが言うんだから間違いじゃないはず。その証言をした人はどうしてバズストだってわかったんだ」

「バズストの像や絵はたくさんあるからね。生きていれば一度はそれらを目にすることはあるよ」


 俺はなかったわ。デッサも村で話を聞いたことはあったけど、絵を見たことはなかったようだ。

 田舎だと見たことないって人は多そうだけど、町なら一度は目にするんだろう。


「魔物がそっくりな偽物を準備するのも可能?」

「可能なのか? どうやれば準備できるのかわからん。そっくりな人間を探し出したんだろうか。そもそも目的はなんなのだろう」

「バズストを利用して魔物が得すること……」


 俺にはさっぱりだけど、ニルはなにか思いついたような顔になった。


「動揺を誘い人間の戦意をくじく、かな」

「英雄が魔物側についていることって、そこまで動揺すること? そもそもバズストは死んでいるって皆わかっているはずだけど」

「わかっていても少なからず動揺はすると思うよ。あまり大きな効果を期待せず、そういった少しの動揺を目的にした。つまり嫌がらせ目的でバズストに似たものを用意したのかもしれない」


 その可能性が高いものかもな。正解はアンクレインたちに聞かないとわからないだろう。


「嫌がらせは、魔王が復活したあとの活動をやりやすいようにってことが目的なのかな」


 ニルが頷いた。

 

「人間に主を封じられるという痛い目にあわされたんだ。二度目はないと考えて、アンクレインたちが暗躍していてもおかしくない」

「人間たちが対策を忘れて平和を享受している間、魔物は二度目の活動のために努力を重ねていたんだな。各国は今後砂漠に関してどうすると思う?」

「放置はできない。あそこに巨石群はあるだろうし、再度攻め込む準備はするはず」

「それまでアンクレインが大人しくしてくれればいいけど」

「大人しくはしてくれないだろうね。でもどう動くかわからない。だから巨石群を攻めるくらいしかやれることがなさそうだ」

「攻めるときは戦力が必要だよね。それも強い人が。俺も呼ばれることになる?」

「戦力としてとても魅力的なのは事実だ。でも君を動かすと魔王が反応して復活が早まりそうなんだよ。声をかけることはないだろうね」


 アンクレインと戦っているときに魔王が参戦してくるのはたしかに避けたいわな。

 安心したと言ったらあれかもしれないけど、魔王以外の厄介事に関わらずにすむのは助かる。


「この知らせが来た時点で、拠点が壊滅してからそこそこ時間が流れているようだ。対応もすでに始まっていて、声がかかっていないということは父上も君は魔王にだけ集中してほしいと考えているんだと思うよ」


 話したいことや聞きたいことを終えて、ニルの部屋から出る。

 アンクレインは動いた。レオダークはどこでどうしているのか

 その答えを知ることはないかもと思っていたら、翌日に知ることができた。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] タナトスのネクロマンシーってどんな物でしたっけ?都会で亡くなった遺体を故郷まで動かす…霊幻道士、幽幻道士みたいな? キョンシーが道中、食事をするのに爆笑!大陸の文化なのでしょうね。
[一言] 平穏無事に祭りを終えられると思ったら偽バズスト?の話がきましたか 封印の際に巻き込まれた肉体でも使ったのかと思ったら失われていたんですねえ
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