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228 バス森林 7

 見ていた防具を返すと、見学は終わりかと職員に聞かれる。


「はい、ありがとうございました。ああ、そうだ。聞きたいことがあったんです」

「なんでしょうか」

「武器の一覧を見て疑問に思ったんですが、魔力砲を小型化したものがあってもおかしくないのに載ってなかったんですよね。開発されていないんですか?」

「開発はされていましたが、今はもう研究されていない分野ですね。マナジルクイトを使った魔法と威力はそこまで変わらないうえに、それを使うと手が塞がって別の武器や道具が扱いにくく不便という理由で使われなくなりました」

「そうでしたか」


 マナジルクイトっていう便利なものがあるから、銃の必要性がなくなったのか。

 森の外なら必要とする人はいるかもしれないけど、技術の流出に繋がるから世に出ることなくこのまま埋もれていくかもしれない。

 役所から出て、隣の資料庫に入る。

 いくつもの本棚が並び、奥には階段や机も見える。


「こんにちは」


 人の気配がする本棚の方へと入口から声をかけると、初老の男がすぐに出てきた。


「はい、こんにちは」

「見たい本を紹介してもらえると聞いたんですが」

「ええ、なにが読みたいのですか」

「魔法道具に関した説明がほしくて、そこらへんの知識が書かれたものを」

「はいはい、こちらへどうぞ」


 司書らしき男についていき、ここの本棚だと教えてもらえた。

 七つの段がある本棚だ。


「下から上へ行くほどに年代が新しくなります」

「役所でもらえるものを知ろうと思ったら、上の方を見たらいいですかね?」

「そうですね。下の方はもう作られていない道具について書かれた本ばかりです」

「ここの本って貸し出しとかできるんですか?」

「大丈夫です。一人一冊だけですね。借りたいものがあれば私たち司書に教えてから持ち出してください。それと本には保護の魔法をかけていますが、大切に扱ってください」


 わかったと返すと、男は離れていった。

 本の背表紙にタイトルが書いていないので、一つ手に取って表紙を見る。さすがにそこには書かれていた。

 その本はとある道具の作り方に関したもので、俺が求めたものではないため元に戻し、別の本を手に取る。

 いくつか本を抜いては戻しと繰り返して、求めるものを見つけたので机に向かう。

 二人ほど先客がいて、真面目な表情で本を読んでいた。

 空いている席に座って、本を開く。

 まずはプレートに関して調べようと内容を流し見ていき、プレートという文字を見つけることができた。


(ええと……やっぱりプレートは護符から発展したものなのか)


 護符との違いは効果を発揮するために壊す必要はなく、一度魔力を込めるとずっと魔力が保管される。込めた魔力がなくならないだけでも便利だわ。ほかには自身の魔力ではなく魔晶の欠片の力をプレートに移し替えることが可能。注意点としては魔力を込めすぎると自壊する。自壊の前兆は熱を発するため、熱を感じたら魔力込めを止めること。


(プレートの質で込められる魔力量が違ったりする? そこらへんは書いてないのかな)


 読み進めていっても言及されていないので質は統一化されているんだろう。

 もらうときがきたら、そのときに聞けばいいと思い、最初から読み進める。

 印象に残ったのは、ゲームに出てくるアイテムボックスのようなものだ。大量に物を入れて保管したものの時間を止めるということはないけど、小さくして重さも減らし保存期間も長くなる。

 

(宿にあったら便利だけど、どこで手に入れたのか絶対聞かれるから持ち帰るのは無理だな。持ち帰るといえばバズスアムルの扱いはどうなるんだろう。持ち帰ったら目立つし、縮小化でもできるんだろうか)


 普段はフィギュアみたいに棚にでも飾ることになるんだろうかね。

 あとでグリンガさんに聞いてみよう。

 アイテムボックスのほかには、モンスターの素材化ができる道具もあった。


(狩猟団と同じことが道具でできるのか。これもほしいわ)


 八十階のモンスターの素材を職人に持ち込めば、かなりの強化が見込めそうだ。でもこれも出所を聞かれると困る。

 カンパニアのミラスさんに儲けを折半って言えば、上手く出所を隠してくれないかな……無理だろうなー。

 もしくはここに持ち込むか。俺の事情を知っているこっちの方が安全だろうし、相談してみるのもあり。

 

(そういや、これだけいろいろとあるなら気配を隠すようなものもないかな。タナトスのまとう雰囲気を誤魔化せる道具があったら、あの人たちももう少し過ごしやすくなるだろうし)


 本を隅から隅まで読んでいくうちに、鐘が室内に鳴り響く。


「そろそろ閉館です」


 離れたところから司書の声が聞こえてくる。

 今読んでいる本を借りて帰ることにして、司書にそのことを告げる。

 貸出一覧の書類に俺の名前と本のタイトルを書いて、資料庫を出る。

 あちこちから夕食の香りが漂ってきた。


「ただいま帰りました」

「おかえりなさい」


 グリンガさんと奥さんに出迎えられ、風呂が沸いているので入ってくれと促される。二人はすでに入ったみたいだった。

 借りている部屋に戻ると、タオルと服が置かれていた。

 ありがたく借りることにして、それらを持ってリビングに向かい、風呂の場所を聞く。

 日本で使っていたような浴室があり、体を洗ってから湯船につかる。

 

「いいお湯でした」

「こちらへどうぞ。すぐに夕食の準備ができますよ」


 グリンガさんに手招きされて、椅子に座る。

 午後からどのように過ごしていたのか聞かれて、それに答えているうちに夕食の準備が整う。

 家庭料理を美味しくいただき、食後にゆったりしながら聞こうと思っていたことを聞く。


「バズスアムルについてなんですが」

「はい、あれになにか問題でもありますか?」

「今のところそういったことはありませんよ。あれの調整が終わったら俺が持ち帰ることになるんでしょうか。どういった扱いになるのか疑問を抱きまして」

「調整が終わったら、倉庫に保管ですね。使うときになったらリューミアイオールに転移で運んでもらい、使い終わったらこちらへ戻す手筈になっています」

「そうだったんですね。本を読んでいたら物を小さくする道具とかあったんで、それで持ち運んだりするのかと」

「それもやろうと思えばできるのでしょう。しかしメンテナンスを考えるとこちらに置いていた方が都合がいいのです」

「あー、メンテナンスか」


 ただの鎧と違って、いろいろと魔法仕掛けだし細やかなメンテナンスは必要なんだろうな。

 でないと劣化の影響で動きが鈍くなったりするんだろう。長持ちさせる気はなくても、品質の維持はしないと魔王との戦いが不利になる。

 

「疑問は晴れましたか」

「はい。ほかにも聞きたいことがあるんですが大丈夫ですか」

「ええ、大丈夫ですよ」

「では気配を隠したり、誤魔化せる道具があるのか聞きたいんです。友達にタナトスの一族がいまして、あの人たちがもう少し過ごしやすくなれないかなと」

「タナトスとはまた珍しい付き合いがあるものですね。たしか魔術が死に関したもので、死に接することも多いため、まとう雰囲気が嫌なものを感じさせるのでしたか。おそらく我らの使う魔法でどうにかなるかと。我らも変装するときに草人だとばれないように気配を誤魔化す魔法を使っています。我らに適合するように調整された魔法なので、完全に誤魔化せるかどうかわかりませんが効果がまったくでないということもないはずです」

「教えてもらうことはできますか」

「出所を誤魔化してくれるのならば」

「どこか滅びた村や遺跡で手記を見つけたとか言えば大丈夫でしょうか」


 思いついたことを聞くと、グリンガさんは難しい顔になる。


「滅びた村に心当たりはありますか? 詳しい場所を聞かれて答えられないと怪しまれるかと。それに滅びた村を調べて、研究者がいなかったことを突き止められる可能性もあります。心配のしすぎかもしれませんが、念を入れて我らの技術のことは隠しておきたいのですよ」


 グリンガさんの話を聞いて、心に引っかかるものがある。

 なにが引っかかった? 滅びた村は違う。魔法の研究者も違う。となると隠しておきたいということ。

 あ、俺も似たようなことをやっていたからか。


「俺も隠し事をしていて、それの理由に秘の一族という設定を使っているんですよ」


 どういった設定なのか話して、王族にもその設定で説明をしていると伝える。


「大昔から有事に備えるために技術や知識などを集めていた一族ですか。それから聞いたということにすればうちの存在を出すことなく誤魔化せそうですね。タナトス以外に教えないように言い含めておくとさらに安全ですかね」

「念を入れて、秘の一族からヒントを得て自己開発したと誤魔化すように言っておきますね」

「それがいいですね。本人たちも必要としている魔法でしょうから、開発したと言えば周囲も信じてもらえるでしょうし」


 帰るまでに、研究員たちにわかりやすい魔法の説明書を書いてくれるように頼んでくれることになった。

 礼を言ってから、最後にモンスターの素材化について相談する。


「良い素材を持ち込めば、より良いものができる可能性が上がるでしょう? それは俺にとってもプラスになると思うんですが、どうでしょう」

「助かる話ですが、リューミアイオールの協力も必要になりますね。素材を縮小化することはできますが、ミストーレからこっちに運ぶのは人力だと時間がかかりすぎて傷む素材がでてくるでしょうし」

「頼んでやってくれるでしょうか」

「頻繁には無理じゃないでしょうか。たまにやってもらえたら運が良いかと。都合よく使うなと断られる可能性もありますし、期待しすぎないでいましょう」

「そうしますか」


 この会話を聞いていたのか『たまにならいい』と聞こえてきた。


「たまにならいいみたいです。声が聞こえてきました」

「それは朗報。たまにということは、ある程度溜め込むことになりますね。保存と置き場所を考えると、倉庫箱を使った方がいいですね」


 本に載っていたアイテムボックに似た道具のことだ。

 部屋に置いたそれに素材を入れて、転移でルポゼとここを行き来させることになるようだ。


「ダンジョンから持ち出すときも縮小化できると助かるんですけど」

「必要なのは素材化の魔法と縮小化の魔法。あとは保存の魔法もですね。それらのプレートを用意しましょう」

「三つなら俺が受け取ったマナジルクイトに入りませんか」

「戦闘用ではないものを入れるのはもったいないです。そちらには戦闘に役立つ魔法を入れる方がよいかと」


 技術を生み出した人たちのお勧めに従うことにして、プレートを準備してもらうことにする。

 マナジルクイトに入れる魔法でなにかお勧めがあるか聞いたりしているうちに時間が流れていき、就寝時間がきた。

 翌日からバズスアムルの調整と研究者との会話、村の人たちとの交流といったことをして過ごしていく。

 バズストの記憶を継いでいるということが村に広まったようで、初日とは人々の視線が変化した。

 バズスト本人ではないということもちゃんと伝わったようで、過度の期待を向けられることはなかったけど、それでも期待感というのは感じられた。

 こちらからはバズストだと宣伝することはなく、普通に交流して日々を過ごす。

 森の外がどんなところか話したり、大ダンジョンの話をしたり、ギターが借りられたのでそれを弾いたりしていた。

 そのまま平穏に過ごし、なにかアクシデントもなく六日目にミストーレへと帰る。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] タナトスの一族の気配を少しでもどうにか出来るんだとしたらデッサなら聞きますよねえ 効果が発揮されるといいなあ
[一言] 定期的に会う口実になるから『物資の運搬も偶になら良いよ』ってなるよね
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