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220 試し斬りと鍛錬


 剣を注文して、十五日ほど経過する。

 どんどん先に進むのは剣ができてからにすることにして、一階だけ先に進み、八十三階にいるデーモン相手に突きの練度を上げていた。ついでに漫画に出てきた突き関連の技もお遊びとしてやってみたりもしていた。

 町は去年のように祭りの準備で賑わい、浮ついた雰囲気が町を包んでいる。

 孤児院でも教会で使うドライフラワー作りが進められているとハスファが言っていた。

 それを聞いて、ああそんなこともあったなと思い出す。

 去年俺も神像にドライフラワーを捧げた。それを言われるまで忘れていた。濃い一年だったから普通のイベントは頭の隅に追いやられていたらしい。

 メインスも教会の仕事で忙しくなったみたいだ。

 お偉いさんの相手が決まったようで、集まりだした貴族たちへの挨拶であちこちに顔を出しているようだった。

 ニルも同じように貴族たちの挨拶を受けるため、鍛錬を一時中断して町長の屋敷に移っている。

 もう少しで大会の予選も始まるだろう。

 それに参加するのかとシーミンやハスファたちには聞かれたけど、今年も不参加だ。それだけ強いのにもったいないと言われたけど、ダンジョンでの鍛錬の方が大事だと返す。シーミンとハスファには鍛錬馬鹿だと呆れられ、メインスには努力を継続できる姿が素敵と言われた。

 褒められるのは嬉しいけど、惚れているから良く見えるだけなんだろうなぁ。ほれた欲目というやつだな。

 そんなこんなで完成しているであろう剣を受け取りにいく。


「おはようございまーす」


 声をかけながら玄関をノックするとズンゼッタさんが出てきた。


「おはよう。完成しているわよ」


 中に通されて、リビング待つ。

 すぐに一振りの剣を持ってズンゼッタさんが戻ってきた。

 飾り気のない革の鞘に入った剣で、これまで使っていたサイズとほとんど変わらない。

 持ってみると、柄が手の形に近い凹みをしていて、持った感触がしっくりくる。


「材料の関係で重さはこれまで以上になっているけど、大丈夫よね?」


 作ってもらう前にも確認されていて、実際に持ってみても問題ない。

 軽く振ってみても、バランスのおかしさを感じることはなかった。むしろ振りやすさはこれまで以上だと思う。


「はい。あの剣を作ってもらったときよりも強くなっているので、重さは気になりません」

「注文通り鋭さと頑丈さのバランス型。刃の材質は帝鉄、柄の材質はコーシックの木。鞘に注文はなかったから特別なものではない。微調整の必要もなしで、完成と判断していいわね?」

「はい。ありがとうございました」


 柄に使われた木がどういったものかわからないけど、一流の職人が使う材料なのだから悪いものじゃないだろう。


「わかっていると思うけど、毎日の手入れは必要だし、たまには私のところにも持ってくる必要がある」

「せっかく作ってもらったものを駄目にしたくないので、ちゃんと持ってきますよ。これの手入れって、ある程度の腕を持っている職人でもできないんですかね? ミストーレを離れているときに見てもらう必要があったりすると思うんですが」

「熟練の職人なら可能よ。駆け出しだと簡単な手入れ以外はさせない方がいいわね。切れ味と耐久性を落とすことになりかねないし」

「わかりました。あ、ちなみに今後成長して柄の調整が必要になったらやってもらえるんですか」


 さすがにこの剣をこれまでの速度で買い替えるということはないだろうし、体の成長に関した話も聞いておかないと。


「ええ、やるわよ。少しでも違和感を覚えたら持ってくるといいわ」

「そのときはお願いします」


 ズンゼッタさんのところから出て、マッサージを受けに行く。

 そのあとはダンジョンに泊まり込むための買い物をして、シーミンに会いに行く。

 これまでと違う剣を持っていることにシーミンはすぐ気付く。帝鉄製の剣で、一流の職人に作ってもらったことを話すと、目を丸くしていた。

 帝鉄製の武具は初めて見るそうだ。

 シーミンたちの鎌は品質の低い鉄、普通の鉄、良質の鉄、モンスター素材と鉄の合金といった感じで替えていくらしい。

 シーミンも買い替え時期に来ていて、良質なモンスター素材の鎌を発注している最中だそうだ。

 その鎌が最終的な武器になるみたいだ。それ以上の品質のモンスター素材は狩猟団も入手がかなり困難ということで、流通数が少なくタナトスの家では手に入れられないということだった。

 大ダンジョンで言うと、五十階くらいまでの強さのモンスターがタナトスに手に入るモンスター素材らしい。

 六十階以上のモンスターは、ゲームと違って大ダンジョンの外ではそんじょそこらにいないので、ダンジョンの外で探すのも大変みたいだ。ゲームだとシナリオを進めていくほどに出現するモンスターの強さも上がっていく。現実でそれだと人が住めない土地が多くて大変だっただろう。

 今日は武具に関した話を中心にして、ルポゼに帰る。

 翌日、ロゾットさんたちに泊まり込むことを伝えてからダンジョンに向かう。

 七十階から八十四階を目指して進む。

 早速遭遇した赤銅ムカデで試し斬りだ。剣を抜いて、まずは強化無しで赤銅ムカデを斬る。

 気持ちいいくらいにスパッと斬ることができた。レベル差と技術のおかげでもあるので、このまま強化なしでどこまでいけるか試しながら進むことにした。

 その結果、八十階まで強化なしで次々と斬り捨てることができた。

 さすがにレベル差がほぼなくなる七十九階の黒サソリと八十階のアーマーライナーは一撃ではなかったけど、強化無しで戦えたというのはかわらない。

 余裕のある八十階で野営することにして、十分な睡眠をとってから先に進む。

 八十三階まで警戒して進み、そこにいるデーモンをこれまでより短い時間で倒し、武器性能の上昇をしっかりと確かめた。

 八十四階に進むと、遠くからゴンゴンと音が聞こえてくる。この階にいるモンスターが移動している音だろう。

 ここにはストレンジエッグというモンスターがいる。

 見た目は白い卵で、大きさは自転車のタイヤくらいだ。転がったり跳ねて移動するので、ゴンゴンという音が聞こえてきていたのだ。

 普通はそのまま砕いて倒すことになるけど、たまに割れて中身が出現することになる。ゲームだとそれまで出会ったモンスターが出現する。こっちだと八十九階までのモンスターが出てくるそうだ。大抵は弱いモンスターらしいけど、ごく稀に八十九階のローグウルフとかが出てくるので油断はできないみたいだ。

 強くなるにはローグウルフが出てくれると助かる。魔力循環を使えば倒せるだろうから。でも弱いものが出てくると、得られる経験値が減って徒労になる。だから卵のうちに倒すのが安定だろう。

 そんなことを思いつつ歩いていると、前方にでかい卵を見つけた。

 

「最初は魔力循環を使って、戦ってみようかな」


 一往復だけできるように準備しておいて、気付かれる位置まで歩く。

 距離が十メートルを切ると、ストレンジエッグが動く。

 それを見て魔力循環を使い、突きの構えをとる。剣先に魔力を集中する。

 こちらへと転がってくるストレンジエッグへとこちらも突進する。バズストの突きは、突進の勢いも利用する技だった。

 

「チャージトラストッ」


 転がった勢いで体当たりしてくるストレンジエッグへと、剣を突き出す。

 剣先が殻にぶつかり、一瞬止まる。そのまま押し負けないように力を入れると殻を突き破る。そして反対側へと抜けた。

 すぐに殻全体にひびが広がって、砕け散った。

 残ったのは魔晶の欠片だけだ。


「魔力循環を使っても一瞬止まるのか。当たり前だけど、こんな深いところにいるんだから硬いよな。ゲームでも防御力の数値は高かったし」


 いい加減に剣を振ると、刃に悪影響が出そうだった。

 あれだな。まだまだ技の練り込みが甘いということも要因なんだろう。記憶にあるチャージトラストは下っ端の魔物なら一撃で倒している。バズストが放つこの技なら、ストレンジエッグもあっさり倒したはず。今後も精進が必要ということか。

 次は伸縮棒で殴ってみようかと武器を交換する。かなり格が落ちる武器だから、戦闘が長引くことを覚悟してストレンジエッグを探す。

 見つけたストレンジエッグへと魔力循環なしで襲いかかる。

 ガンッと力いっぱい叩くと、反動が伸縮棒を通じて感じられる。

 殻には小さな傷がついたくらいで、ヒビにまではいたっていない。階に見合った打撃武器ならひびが入ったかもしれないな。

 地面を転がっての素早い体当たりをかわして、何度か叩いているとひびが入り広がっていった。

 俺が割ったのではなく、中身が出てこようとしている前兆だろう。小さなひびが入るくらいのダメージは与えたけど、割れるくらいのダメージは与えていないはず。

 なにが出てきてもいいように剣に持ち替える。

 殻が砕けて白い煙が現れて、それが晴れるとロキスが姿を見せた。


「なんだお前か」


 三十階手前に出てくるモンスターで、蹴るとそれで倒せた。


「殴っていると確実に中身が出てくるか」


 どう戦っていこうか、それとも駆け抜けるかとその場に留まり考える。

 次の階にはグリーンビーストが出ると聞いている。

 植物で構成された四足獣で、大きさはボックスカーよりも大きいくらいだろうか。防御力はそちらの方が低い。剣で戦うならグリーンビーストの方が戦いやすいだろう。


「積極的に戦うのは止めといて、八十五階を目指そうか。襲いかかってきたストレンジエッグはある程度伸縮棒で叩いて、脆くなったところを剣で突くとかそんな感じでいいだろ」


 方針を決めて八十五階への坂道を探す。

 坂道を見つけるまでに三回戦闘が起こり、二回ラインを間違えて中身を出してしまった。出てきたのは七十八階のアンガーバイソンと十九階のインプだった。

 八十五階に下りて、グリーンビーストを探し、五分ほどで見つかった。

 枝と根が絡み合い体を作っていて、背には葉でできた翼がある。体のところどころに花が咲いていた。ゲームではあの花がドロップする。魔力回復ができる薬の材料だった。ルポゼで使っている魔力回復を促す香と違い、即座に回復する薬だ。お店でその薬の名を聞いた覚えがないため、この世界だと貴重品なんだろう。

 まずは魔力循環を使って斬ってみようと準備をして、戦いを挑む。

 ゲームと同じなら毒のブレスも吐くため、体調を崩すことは覚悟しておいた方がいい。黒竜真珠があるからと油断はしないでおこう。

 斬ってみた感触は、やはりストレンジエッグよりも脆い。

 といっても弱いわけじゃないので慢心は駄目だ。

 毒のブレスやほかの個体の参戦にも注意して戦っていく。

 倒した感想としてはストレンジエッグよりも戦いやすいというものだった。なんの問題もなく刃が通るのはありがたい。

 この階で、もちこんだ食料がなくなるまで戦うことにして、野営に適した場所を探しつつグリーンビーストと戦っていく。

 三日間くらい戦い続けて、一食分の食料だけになって八十階へと戻る。そこで劣化転移板を使って、七十階に戻って、転送屋に送ってもらう。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 今の強さに相応しい剣を得て鍛錬が捗りますね この剣でどこまで階層を進めることが出来るかなー
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