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217 剣を依頼 前

「二人ともいつまでも怪我したまま話さない! ほらハイポーション」


 ミナが俺たちにハイポーションを渡してくる。

 グルウさんも濡らした布を持ってきて、渡してきた。

 ハイポーションを飲んで、布で血や土汚れを落としていく。

 一通りふいて、水を飲んでいるとミナが話しかけてくる。


「最初に会ったときは弱かったのに、今は手の届かないところに行ったわね。助けたときはここまで強くなるなんて想像もしてなかった」

「時間をかけたら、ミナも同じくらい強くなれるよ」

 

 才能はファードさんのお墨付きだし、本人も努力を惜しんでいない。ファードさんっていう指導者もいるから強くなるのは確実だ。

 

「どれくらい時間をかけたらいいんだか」

「俺みたいに事情がなければ、急がなくていいと思うけどね」

「俺もどうやったら早く強くなれるのか聞きたい」

「兄さん?」


 ミナは軽い感じで言っていたけど、グルウさんは真剣な声音だ。


「俺はミナよりも才がない。だから強くなるのも時間がかかる。しかし今は魔物が暴れたりしていて、俺が強くなるには時間が足りないかもしれない」

「グルウよ。気持ちはわからないでもないが、焦ると碌なことはないぞ。しっかりと基礎を積み重ね、経験を血肉としていくことがなによりだぞ」


 グルウさんの表情には納得しかねるというものが浮かんでいる。


「俺は無茶をしただけ。安全に強くなる方法なんてファードさんの言うように時間をかけるしかない」

「無茶をしたということはわかるし、基礎が大事ともわかるが、デッサはいろいろとすっ飛ばしているだろう。その中で俺が使える手段もあったりしないのか?」

「……ないね。真似できないものもあったし、頂点会のやり方が一番だと思う。例えば遊黄竜の力を借りてこいって言っても無理だとわかるでしょう?」

「遊黄竜は無理だな」

「怪しい手段もやめておいた方いいですよ。フェムっていう少年のことを覚えていますか?」


 フェム関連だと頂点会にも力を借りたし、覚えているだろうと思いつつ確認する。

 グルウさんは頷く。


「ああ、名家の次男だろう」

「あの子が行方不明になって、少し前に発見されましたが、家族に迷惑がかかるようないろいろと大変なことになっています。そうなった原因に強くなるための道具を使ってみないかと誘われたことがあったのも覚えていると思います。安易な方法を使ったから、そんな結末になりました。安易な方法を頼ればあなたも同じ道をたどるかもしれません。正道を進んだ方が誰にとっても喜ばしいことですよ」


 フェム関連で詳しいことが知りたいなら二人だけで話しますと言うと、グルウさんは首を横に振る。


「そこまでしてくれなくていい。爺さんの言うことを聞いて、基礎を積み上げていくさ。年下たちが自分よりもどんどん強くなっていくから、焦りが生まれた。その焦りが元で家族に迷惑はかけたくないからな」

「それがいいです」


 本人が言うように少し焦っただけなんだろう。家族に迷惑をかけてまでどんな手段を使っても強くなるという感じじゃないし、もしそういった手段をとろうとしてもファードさんや仲間が止めてくれるはずだ。

 フェムとグルウさんの違いは、一人で決断せずにちゃんと悩みを口に出して相談することかな。

 グルウさんとの話が終わったということで、ファードさんが何の用事で頂点会に来たのか聞いてくる。


「我慢できなくなって模擬戦に誘ったが、なにか用事があって来たんだろう?」

「剣の職人を紹介してもらえないかと思って訪問しました。今使っているこれは、職人さんから八十階くらいで買い直した方がいいと言われているんです。その助言に従って新しい剣を手に入れるつもりなんですが、腕の良い職人に伝手はないのでここならと思いまして」

「それを打った職人は無理なのか?」

「はい、これ以上のものは難しいと言われています」

「わかった。うちと関わりのある職人を紹介しよう」

「ありがとうございます」


 ギルドに戻って紹介状を書いてくれるということで一緒に戻る。

 見物していた人たちも一緒に戻る。俺たちの模擬戦について話しているのが聞こえてきた。

 すごいもの見たという感想や動きがところどころ捉えきれなかったという会話も聞こえくる。


(第三者から見たらそんな感じだったんだなぁ)


 強くなったのは自覚あるけど、第三者視点から語られるとまた別の実感が得られる。

 頂点会の事務室に入り、そこでファードさんがさらさらと紹介状を書き上げていった。

 

「紹介する職人はズンゼッタという女だ。誰の依頼も受けるわけじゃないから断られる可能性もある。その場合はほかの職人を紹介してもらえるぞ」

「人を選んでいるんですか」

「金は十分に持っているから、自分のやりたい仕事のみをやっているんだ」


 生活に困ってないなら、私情を優先できるわな。


「あと腕の良い職人だと隠しているから冒険者たちに言いふらさないように」


 仕事に集中できなくなるので、人が多く押しかけてくるのを避けているそうだ。以前は別の町にいたけど人が押しかけてくるようになってしまいミストーレに引っ越してきたということらしい。

 ズンゼッタの住所を教えてもらい、頂点会から出る。

 ズンゼッタの家は、ルガーダさんたちが管理している区画に近いところにあった。


(最近顔見せていなかったし、あとで行ってみようかな)


 そんなことを思いつつ、玄関をノックする。

 はーいという返事が聞こえて、玄関が開く。草人の見た目20歳半ばの女だ。


「どちらさまでしょうか」

「頂点会のファードさんから紹介してもらいました。ズンゼッタさんに会えますか」

「私がズンゼッタですよ」


 ほっそりとした体の人だから職人のイメージが湧かず、同居人かと思った。


「失礼しました」


 中へどうぞと屋内に入れてもらい、リビングで椅子に座る


「ファードからの紹介ということは仕事かしら」

「はい。剣を打ってもらいたいんです」

「雰囲気やファードから紹介してもらえたということで強いとはわかるけど、私がやらないといけないの?」

「これまで剣を打ってもらった職人さんには、今使っている以上の剣を欲するなら、腕のいい人に作ってもらった方がいいと言われまして」

「とりあえず剣を見せてくれる?」


 どうぞと鞘ごと剣を渡す。

 ズンゼッタさんは細腕に見えるけど、剣を軽々と受け取り抜く。

 穏やかそうな目つきが鋭くなる。職人の目つきという感じだ。


「なるほど」


 短時間眺めて、鞘に納める。


「ずいぶんと乱暴に使ってきたのね」

「技術が足りなかったもので。今は以前よりましだと思います」


 剣を丁寧に扱っていないから不機嫌になるかなと思ったけど、そんなことはなく表情に変化はない。


「八十階辺りまで使えるものだろうけど、物足りないの?」

「はい。もっと先に進むつもりなので」

「踏破でもするつもり?」

「コアを壊すつもりはありませんけど、最奥までは行きたいですね」

「そこまで行けた人は、かなり少ないというのはわかっているのよね」

「はい。モンスターの強さや転移での短縮ができないから大変ってのはわかります」


 踏破したバズストの記憶だと、ゲームと同じように戦いを極力避けて最奥へと進んでいた。

 今の俺と違って七十五階に転移できて進むことができたけど、九十五階以降はバズストも仲間も疲労はピークで、物資も足りなくなっており、挑戦を後悔しながら進むことになったみたいだ。でも九十階以降から引き返すのも難しく、先に進むしかなかったようだ。

 百階ではダンジョン内での死を覚悟して、一か八かでコアめがけて一直線に走り、体当たりするはめになっていた。

 ちなみにダンジョンが踏破されたことで外に放り出されたモンスターたちに襲われないように、踏破した喜びを感じる暇なく息を殺して隠れてやりすごすはめにもなったみたいだ。


「俺が思っている以上に大変なんでしょう。だからこうして挑戦するとは言っていますが、後悔することもあると思います」


 本音を語ると、ズンゼッタさんはうんうんと頷く。


「気楽に考えていないようでなによりよ。これまで何度も踏破を口にしてきた人はいた。そういった人を何回も見送ってきたわ。死んだ人もいた、ぼろぼろになって帰ってきた人もいた。帰ってきて冒険者を引退したり、再挑戦と言って帰ってこなかった人もいた」


 何人も冒険者と接してきたようで懐かしそうだ。


「踏破は憧れなんですかね」

「冒険者の一つの夢ではありそうね。あなたは違うみたいだけど」

「俺は強くなるために奥に行きたいというだけですし」

「なんのために強くなりたいのかしら」

「答えてもいいんですけど、剣を打つのに必要な質問なんですか?」

「ファードから聞いているでしょ、私は客を選ぶと。その一つと思いなさいな」

「生きるためですねー。大きな厄介事が待ち受けているので、それに対応できるくらいには強くなりたいんですよ。魔物とも何度も戦うことになりそうですし」

「魔物と何度もとは大げさな」

「これまで戦ってきた魔物は四体ですよ。大げさとも言い切れないでしょ?」


 ズンゼッタさんはきょとんとした顔になった。


「嘘をついている雰囲気ではないわね」

「なんの因果か、何度も遭遇するはめになったんですよ」

「今後もその縁が続くと?」

「続きそうですね」

「根拠はあるの?」

「説明しても信じてもらえないし、その説明を本当だと示すものがないです。いやなくはないけど難しい」


 ジョミスをここに連れてきてバズストの記憶を継いだから厄介ごとに巻き込まれそうだと説明してもらえば、納得してもらえそうだ。


「ここまでで打ってもらえるかどうか決まってますか?」


 悩ましそうな表情だ。


「そうねー……興味深くはあるんだけど、もう一押しかな。あなた夢はあるかしら」

「夢? 今の望みは生き残ることですかね」

「まあ今後も魔物と遭遇するというのなら、その望みになるかー。だったらその後は? 魔物がどうにかなってその後はどうしたい」

「その後ですか……ちょっとまってくださいね」


 目の前のことを解決するのに一生懸命だったし、その後と言われても想像できねえな。

 なんとか想像してみて、それを口に出す。


「……平穏をむさぼりたい、かな。これまで追われるように鍛え続けてきたんで、落ち着いた日々を過ごしたことがほとんどない。だから惰眠をむさぼり、武具を放置してダンジョンに行かずに暮らしたい」


 実際は別の夢を持つかもしれないけど、今はこんな感じ。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔王に関する修羅場が終わったら、また、別の修羅場が始まるから……
[一言] 必要だったとはいえ本当に生き急いでここまで来ましたからねー 生き残れたら余生は宿屋オーナーでのんびりしていいくらいですわ
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