214 友人たちの反応 前
融合してから一晩経過し、多少は落ち着いた感じがある。
昨日はバズストのとかデッサのとか弥一のとか、ワンクッション置いたものの考え方や感じ方だったけど、今はその隔たりが薄くなった気がする。
もっと日数が経過すれば、完全に一人のものとして感じるようになるんだろうか?
違和感というかズレというか、そんなものを無くすため、今日は戦いへの接し方自体を鍛えることにしてダンジョンに入る。
七十階に移動し、これまでとの違いがすぐにわかる。
戦場ということでバズストの経験が活性化したのか、ダンジョンへと向ける意識がこれまでよりも敏感になっている。
これまでよりもモンスターの気配感知ができるかもしれないけど、敏感すぎて気疲れするかもしれない。
(経験と肉体のズレの調整が終わるまでは七十階と七十一階でうろちょろしてようか)
さっさと先に進もうと思っていたけど、予定を変更し七十階で赤銅ムカデを相手することにした。
感覚の示すままに歩くと、モンスターの気配がどんどん近くなり、すぐに赤胴ムカデを発見することができた。
魔力活性や魔力循環なしで近づく。それらなしでも十分に戦える力はある。
これまでの経験を踏まえて赤銅ムカデに挑む。
自然体と言うんだろうか、余計な力みなしで落ち着いて赤銅ムカデと相対して、そのまま凪いだ精神状態で赤銅ムカデを斬り捨てた。
この一戦でわかったことがある。
(バズストの経験が動きを修正してくれた)
ファードさんたちに教わったりしたけど我流だった戦い方が、バズストの経験によって洗練された。
これまでと同じように動こうとしたら、そうではないと自然に構えが修正されたのだ。
同一人物だからか、戦い方も似ていたようで助言がピタリと合わさった。
力の入れ具合、抜き具合、モンスターの動きに合わせた動き、呼吸でさえも変化した。それらを合わせて振るった剣は、昨日よりも鋭くモンスターを切り裂いた。
これまで力任せに振っていた剣に柔らかさが混ざっていた。不足していた技術が補われたといってもいい。
それに加えて、戦闘中も周囲に気を配ることが容易になった。
「強くなったのは事実だけど、やっぱり慣れてないからか気疲れもするな」
体力の消耗具合はこれまで以下、精神的な疲れはこれまで以上。
今は無理をすべきときじゃないと判断し、七十階と七十一階で慣れるという予定を変えずに戦うことにした。
一日戦いを重ねていけば肉体的なズレはほぼ治まっていった。
バズストの経験が現状の肉体に合わせるように微調整できたのだろう。
このまま戦っていればそう遠からず、バズストの経験を生かせる動きが可能になるはずだ。
バズストが使っていた技も使えるようになると思う。
その一方で感覚的なものはまだまだだ。これまであまり鍛えてこなかった方面のものなので、微調整がすんでも過敏といった状態だった。
本来は成長限界までくればその過程で当たり前に育つ感知能力なんだろう。レベル上げをメインにしたから、足りていないものがいくつもある。つくづく歪な成長をしてきたのだとわかるね。
「戦いの方は問題ないし、この感知能力をどうにかした方がいいな。シーミンを誘うかな。一緒にダンジョンに来たがってたし」
感知だけならどの階でやっても変わらない。シーミンの行けるところで練習してもいいのだから、たまには向こうに付き合おう。
今日はこれくらいで引き上げることにして、タナトスの家に寄り道する。
「いらっしゃい、なにかあった?」
シーミンの母親にも変化を見抜かれる。ルーヘンたちも疑問に思ったようだし、付き合いがあれば見抜けるほど変化は大きかったということなんだなぁ。
「心境に変化があったもので」
「なにがあったのかわからないけど、かなりの変化だったんでしょうね」
シーミンは部屋にいるということで、入るとディフェリアもいた。シーミンはベッドに腰掛けていて、そのシーミンにべったりと抱き着いていた。
俺から顔を隠すように、シーミンの胴に顔をくっつける。犬耳がペタンと伏せられている。
限界突破とかバズストの経験を得たことで変わった雰囲気に怯えたのかもしれないな。
二人に挨拶して勧められた椅子に座る。
「それでなにがあったの。ずいぶんと強くもなってるし。魔物やモンスターを倒して得られる強さじゃないわよね」
勘の良さとか戦う者としての経験から、技術面や経験が強化されたことを見抜いたらしい。さすがだな。
「ハスファにも言ったけど、説明できないことが関わってくるんで言えないんだ。一つ心配事が減って、一つ心配事が増えた。今後も鍛え続ける。ミストーレを長期間留守にすることがあるかも。ハスファに話したのはこんなところ」
「ハスファの心配は今後も続くのね」
「詫びておいたよ。そのときにまたピクニックに行こうかって話したんだ」
「いいわね」
楽しみだと笑みを浮かべた。
「メインスもついてくるかもしれないって言ってたから、シーミンもディフェリアを連れてくるといいんじゃないかって話にもなった」
「ディフェリアも楽しめるといいんだけどね」
「シーミンが横にいれば不満はなさそうだけどね」
その通りかもしれないとシーミンは苦笑を浮かべ、ディフェリアを撫でる。
「それとは別に誘うことがある。こっちは断ってもいいよ」
「なにかしら」
「感知能力の鍛練をしたいんだよ。ちょっとそっちが過敏になってて落ち着かせたい」
感知能力が落ち着いたら、技の再現もやりたいな。
「その鍛錬はどこでもできるし、たまには一緒にダンジョンに行かないかって誘い」
「行く」
即答される。
「いつ行く? いつでもいいわよ」
「俺もそっちの予定に合わせられる」
「だったら明日」
「どれだけ楽しみなんだ。俺は問題ないけど、仕事とかいいの?」
「もともと鍛錬の日だから大丈夫」
明日の朝にタナトスの家に来るということで決定する。
「あと感知を抑えるコツも教えられるかもしれない」
「ほんと?」
「私も勘が働きすぎて、疲れたときがあったから。そのときどうやって落ち着かせたのか話せると思う」
「そりゃありがたい、頼りになる友人だ」
「そうでしょそうでしょ」
上機嫌になったシーミンとピクニックの予定も含めて雑談し、ルポゼに戻る。
待っていたハスファにピクニックのことを伝える。
診察を終えたハスファを見送るため玄関まで移動すると、ダンジョンから帰ってきたニルたちとタイミングが重なった。
俺を見たニルたちは目を見開き、動きを止める。
そのニルたちを不思議そうに見るハスファを玄関先まで見送り、屋内に戻るとすぐにニルが話しかけてくる。
「なにがあったんだい。少し前に見たときと全然違うじゃないか」
どうしよう。バズストの情報を得たと話していいんだろうか。ジョミスという懐かしい仲間の関係者ではあるんだけど。
でも魔王が狙ってくるだろうってことは、伝えておいた方がニルも動きやすいかもしれないし。
「どうして黙ったままなんだ?」
オルドさんが聞いてくる。
「俺の部屋に行きましょう。ジョミスにも関わることなので、ディアノさんは遠慮してもらった方がいいんでしょうか?」
ジョミスは秘密にしていそうなので、ニルに尋ねる。
ニルは腰のジョミスに手を置いて、なにか伝わってきたらしくまた驚いた表情をしたあとに頷く。
「そうだね。ディアノ、すまないが国宝に関わることだから先に部屋に戻っていてくれないか」
「わかりました」
少し気になった様子だけど、ディアノさんは頷いて部屋に戻っていく。
俺の部屋へと、二人を連れて向かう。
扉を閉めて、椅子に座ってすぐにニルはジョミスをテーブルに置く。
「ジョミス、起きているんだろう?」
『懐かしい気配に眠ってはいられなかった。バズストのものだ。だが君がどうして?』
ジョミスの言葉にニルとオルドさんが不思議そうにこちらを見てくる。
「すぐにわかるものなんですね」
『うむ。長い年月が経過しても、大切な仲間のことは忘れるはずがない』
「バズストも同じ思いのようでした」
『バズストの思いを代弁する君はなんなのか、説明してほしい』
「リューミアイオール関連でバズストの記憶を継いだ」
端的な俺の返答を聞いてニルたちは目を見開いていた。
『……確認させてもらいたい』
どうぞと返すとジョミスは当時の仲間が知る、日常的な話をふってくる。
それに返せるものは返していく。
『こちらの知っていることと一致するのだが、答えられないものもあったのはなぜだ』
「記憶に欠落している部分があるんです。全部を継いだわけではないんですよ」
『なるほどな』
黙って俺たちのやり取りを聞いていたニルが口を開く。
「ジョミス、デッサは本当に記憶を継いだと思っていいのか?」
『うむ。ほぼ断定していいだろう。この会話だけならば、日記などが残っていてそれを見たと言えるが、気配も備わっている。似ているのではなく、そのものだ。記憶と気配、その二つがあるのなら継いだと考えた方が自然と思える』
気配もそのものってことはないと思う。でも元が同じだから、融合したことでかぎりなく似たものになったんだろう。
「英雄の再来?」
『さてな。そこはわからんよ。ニルドーフ、お前がそう思いたいのは魔王復活が迫っていて希望がほしいからではないか』
ニルは一瞬呼吸を止めて、瞬きした。
痛いところを突かれた、それに近い反応なのかな。
「……かもしれない」
『わし個人としてはバズストには静かに過ごしてもらいたい。一度命を賭けて魔王を封印したのだ。二度も魔王に関わることはないだろう。デッサはバズスト本人ではないが、そう思うのだよ』
「最初はあなたを含めて近しい人たちは、命を賭けた封印を反対したらしいですね」
俺の言葉に頷くような気配があった。
『ああ、反対した。バズストだけにおしつけるようなそんな行為はどうしても賛成できなかった。しかし彼の粘り強い説得に頷いてしまった。すべてが終わり、魔王が封印されて喜ぶ者は多かった。わしらも平和を歓迎する気持ちはあったが、心の底から喜んでいたかというとな。その後バズストの命を賭けた行為を無駄にしないため魔王復活に備えたが、現代を見るとわしらの願いや思いは消えてなくなってしまったのではないかと思ってしまうこともある』
ニルはなにか言おうとして止まる。
ジョミスはそれに気づいたようだ。
『ニル。お前や王が動いていることはちゃんと理解している。わしのことも捨て置かず、宝物庫に入れて、見つけてくれた。魔王が復活しても宝物庫の中でなにも知らずに眠ったままという事態はさけられた。感謝しているさ』
「見つけたのは偶然なんだけどね」
『偶然であってもだ。もしかすると偶然ではなく神の導きかもしれないな。神が神託で備えろと知らせてくれたのだろう? その備えの一つとしてわしを起こした』
「そうなんだろうか」
『神の御業は人知の及ばぬもの。知らず知らずのうちに導かれていたとしても不思議ではない』
なんとなくこういったときのジョミスは嘘をついているなとわかる。
傷つけたり陥れるための嘘ではないようだし、指摘せず流しておこう。
感想ありがとうございます